ジリジリと照りつける日差しの中、俺はぐるぐると足でペダルを回す。
あー……12kmなめてた。遠い。サッカー部現役の時なら5kmを走って30分きってたから、その時のノリで挑戦したから、一時間くらいでなんとかなると思ってけど…よくよく考えるとたかが一時間、されど一時間だよなぁ。三十分ハーフをやったことあるとはいえども、そもそもサッカーって思いのほか休めるんだよな。こういっちゃなんだが。常に注意を払ってるとは言え、常に駆け回ってるようなやつはせいぜい同じチームに居たつっしーとか、そういう桁外れのスタミナを持ってるやつだけだろう。しかも、30分ごとに休憩あるし……。兎にも角にも、チャリンコとは言え、延々とノンストップで12kmはきついものがある。
とりあえず、帽子を逆に被り、首を熱せないようにできるから、その点はいい。
「あつ……」
汗を拭う。汗は放置すると良くない。というか、そろそろ喉が渇いてきた。休憩しよう。
俺は木陰によろよろと近寄り、チャリンコを降りてそっと腰掛けた。
服の襟あたり掴み、パタパタと仰ぎつつ、ちょっと横を見る。
「あ、人形だ」
人形が木にもたれかかってた。サイズとしては携帯電話並みのお手頃サイズ。金髪碧眼の綺麗な人形だ。
俺は手を伸ばし、そいつを拾い上げる。まるで生きてるかのようによくできている。関節をしっかりと内蔵してあるようで、人間と同じように動かせそうだ。まぁ、こう言う時はあれだな。
「よし!服を脱がせてやるぜ!あそこが本物と同じかどうか見てやる!」
すると、視界の端が一瞬きらめいた気がした。そして、いきなり同じような人形に囲まれていた。違うのは全員身の丈程サイズのサーベルを持っていて、俺に向けてると言うことだ。
冗談じゃない。あれは殺傷武器だ。
「……チェックメイトよ」
静かな女の声がした。だが、人形が邪魔で声のした方が見えない。誰だろう。金髪しか見えない。あれ?あの金髪も人形じゃねえか!
「覚悟しなさい変質者、今後あなたがお風呂を覗けないように目から抉り出すわ」
「ちょいちょいちょい!俺はただ単に」
「神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えながら命乞いする覚悟はあるかしら?」
「人の話を聞け!」
「わかったわ。言い訳くらい聞いてあげる。イエローチームは対象の右!ブルーチームは対象の左!レッドチームはその場待機で鉛玉を対象の眉間に叩き込む準備をしといて!」
そう女の声がすると人形の壁が自動ドアのようにスライドして開き、やっと女性の姿が見えた。
その女性は金髪のショートカットの女で、錠前がついた本を持っていた。整った顔立ちは何処か無機質で、何処か人形のようだった。
俺は何と無く一つの小説を思い出していた。
「……我は問う。汝は人なりや?」
「否。我は天。堕ちた天なり」
あ、こいつノリいい。こんなわかりづらいネタをよくわかったなとも思うが……実はこいつめっちゃいいやつかもしれん。
「で、自分がなんでこんなことになってるか理解してるかしら?焚書官?」
「俺は焚書官じゃないぜ」
「そうね。低俗な変態ね」
「その扱いも酷い!」
「だまらっしゃい」
女が左手の中指をまっすぐうえにたてて、動かした。首のあたりに金属特有のひんやりとした感覚がする。いつの間にか人形が一体俺の肩にのり、俺の首にサーベルを当ててた。
「人様の人形を拾い上げて二言目に服を脱がせるとか言う奴は変態よ」
「ついカッとなってやった。反省はしている」
「本当に反省してる?」
「後悔はしていない」
「ちょっと身体に教え込まなきゃダメなようね……」
と言うと、女は右手の薬指と小指を動かした。
そして、俺はきられてしまった。
何をって?頭頂部の髪を。妙に頭頂部だけ風が心地いい。多分今俺河童みたいになってる。
「……おいこら!女ぁ!」
「私にはアリス・マーガトロイドというちゃんとした名前があるわ」
邪魔だったらしくいつの間にか取られてた帽子を俺に投げて渡しながら、ため息交じりにアリスを名乗った少女は言う。少女は言う。
「全く……今回はこれだけで許してあげる。でも、さっきのセリフが冗談じゃなくセクシャルハラスメントになるケースがあるのよ?あなた外来人だから知らないんだろうけどね。というか、女性のあそことかあんまり言わないこと。いくらなんでも下劣過ぎよ」
「……はいはい」
アリスは両手をグーにすると、全ての人形がアリスのスカートに潜り込んで収納された。
「で、あなたは?ここで何してたのかしら?」
「え?ああ、俺の名前は木亥広星、普通風味の男子高校生だ。ちーっとこーりんどーとかいうところに行こうとな。ちっと休憩してた。お前は?」
「え?まぁ、ちょっと人形劇の台本のネタ探しね。白馬に乗った王子様でも居たら面白い話ができたんだろうけど……居たのが調子に乗った変態じゃあねぇ」
「もうやめて!俺のライフはゼロよ!」
これ以上この話をすると本格的に心臓を骨折しそうなので話をそらすことにする。
「そーいや、人形ってこれ、みんなお前が作ったのか?」
「そうよ。一つ一つ、私が丹精込めて作ってるのよ。同じものなんて一つもないわ。芸術は傀儡よ」
「喝!芸術は爆発だ」
「爆弾岩はさっさとメガンテしてなさい」
「ひどぅい!?あ、そうだ」
俺は一呼吸して、しっかりとアリスを見据えて、営業スマイルをつくる。
「最近、疲れて生活の中に癒しが欲しいって思ってないか?」
「な、何よいきなり?」
「そんなあなたに!温泉なんてどうでしょう!地霊殿の提供で、地下に地霊温泉郷がついに来週Open!ゆっくりしていってね!」
俺が宣伝をすると、アリスはしばらくぽかんとした後、残念な人を見る目をした。
「呆れた……あなた、地底の妖怪?外来人みたいな格好してトチ狂って友達でも作りにきたの?」
「外来人なんだけどな、あそこに縁があって」
「はぁ……なら何か外来人と証明できるものでもあるのかしら?」
「む……」
と言われて硬直する。学生証も忘れちゃったし……実際、外から来たと言われたら何を見せるべきだ?
「そうでなくても、あんまり地上で地底の名を出さないことね。地上と地底は関わるべきじゃないの。二度と」
「……」
俺が口をつむいでいると、アリスは俺に背を向けた。
「地底は忘れて、普通の外来人としていなさい」
何処かへ歩くアリスを見つつ、俺は呟いた。
「……力があるだけでそこまで言うかよ……伸ばした手を振り払うのかよ……ただでさえ弱者も大勢の中にいたら虐められるのに……結局どこも」
俺はこみ上げて来た激情を、叫びにより発散する。
「力でしか人を!見れないのかよぉ!気づいてくれよ!中身は同じような心を持つ存在だって!そんな見放されたら弱者なんだよぉ!どんなに力があっても!強くなれないんだよぉ!」
アリスの姿はもう見えなかった。
ただ、風が草を揺れ動かす音だけが聞こえた。
長く日陰に居た俺の身に日の光はさっきよりも暑く、少し痛くさえ感じた。
このパロディは何人に通じただろうか……個人的には大好きなんだけどなぁ