「ここは……? 」
「カケルっ! 」
目を覚ますと、金髪の美女が覆いかぶさるようにして抱き着いてきた。
「うおっ!? 」
「目を覚ましたのね。よかった……! 」
「て、天狐か!? 」
俺が美女の正体に気付くと、抱き着いていた天狐が顔を起こして目が合った。その金色の瞳は涙で潤んでいた。
「カケルが急に倒れるから心配したんですからっ! それに、眠っててもずっと苦しそうな顔でうなされて心配だったのよ」
「あ、いや、えっと……すまん……」
どうやら俺は意識を失って倒れたみたいだ。
目が覚めるまで俺はずっとうなされていたらしい。
「気分はどう? ふらついたり、吐き気があったり、息苦しいとかはないの? 」
「ないない。今はもうなんともないよ」
正しくは気を失う前のことを思い出そうとしなければ、だけど、正直に言ってしまうと余計に心配をかけてしまいそうなので、黙っておく。
顔をもみこむ触診だけでなく、胸に耳を当てて、心拍数まで計る天狐の様子に苦笑を浮かべる。
それほどまでに天狐に心配をかけたということなのだろう。
他のみんなも心配して代わる代わる俺の様子を見にきてくれていたそうだが、ひっきりなしにくるものだから騒がしくて天狐が叩きだしてしまったという。
「ところで天狐、ここはどこなんだ? 」
「ここは集落にあった家の一室よ。みんなと話しあってここに決めたの。他にもカケルの指示も、班を分けてきちんとしているわよ」
「自分の指示……? ああ、そうか。ありがとう天狐」
自分の指示といわれて、何のことかと思ったが、すぐに意識を失う直前に天狐に頼んでいたことを思い出す。天狐は、その頼みをしっかりと実行してくれているみたいだ。
改めて周囲を見渡してみれば、天狐が明り代わりに金色の火の玉【狐火】を浮かせているのを除けば、部屋は全て木でできていて家具は寝ていたベッドと天狐が座っている椅子が一つしかなかった。
どこか外国の昔の家や物置小屋を彷彿させる部屋だ。
ここに住んでいた人たちも恐らくあの中にいたんだろうな……
思わず、脳裏に焼き付いたあの光景を思い出してしまったが、一度寝て気持ちに整理がついたからか前のように取り乱すことはなかった。
これが夢で、起きたら自宅のベッドだったらと考えなかったと言えば、嘘になる。
しかし、こうして目覚めてあの光景を思い返すと、現実なんだと認めるしかない。
モントモの世界でも、自分が元いた世界でもない異世界に来たのだと思わずにはいられない。
ただ、異世界に来て早々に残酷な現実を思い知らせされて気分は最悪だった。少し俺は異世界に来たことを楽観視しすぎてたかもしれない。
「カケル……まだ具合が悪いの? 」
「いや、もう大丈夫だ」
そんな気持ちが顔に出てしまったのか天狐に心配された。
心配しすぎだと言いたいけれど、気を失って倒れたばかりの俺が言えるわけがなかった。
心配してくる天狐をどうにか落ち着かせて、俺が倒れた後のことを聞いた。
「わたしが知っているのはこのくらいよ。今日のことは外で聞いた方が早いわ」
「そうか。ありがとう天狐」
聞き出した後に天狐からその内容が昨日の夜までの話だと言われたので、新しい報告があるかもしれない。
まさか、昼までずっと寝ているとは思わなかった。
まぁそれだけ疲れてたんだろ。心労の心当たりはたくさんありすぎる。
とりあえず心配かけたみんなを安心させるためにも俺は、天狐と共に部屋を出ることにした。
俺が寝ていた部屋は2階だった。
作りがよくないのかギシギシと音を立てる階段を天狐と降りた。
何故か一階の階段のすぐ横には、黒い鎧の置物が置いてあった。
なんで、こんな素朴な家に禍々しい鎧が?
と頭の片隅に湧いた疑問は、その鎧がヘルムの隙間から白い眼光を光らせてひとりでに動いたことで消えた。
「うおっ!?
ヘルムの隙間から白い眼光を光らせる禍々しい黒鎧に飛び上がらんばかりに驚いたが、よく見るとそれは仲間の一人である黒士だった。動き出した鎧の隙間から漏れる青白い燐光は、黒士が鎧にとりついた霊体のモンスターである証だ。
「黒士は何でこんなとこに立っていたんだ? お前も面会に来てくれていたのか? 」
早くなった動悸に胸を押さえながら黒士に問うと、左右に首を振られた。
「村長を守るため」
口数少なく答えてきた言葉の意味がわからず、首を傾げていると、天狐が耳元で囁いてきた。
「黒士は、カケルの見舞いに来るみんなを引き止めてくれていたのよ」
「あぁ、そうなのか。ありがとな黒士」
「無事でよかった」
「心配かけて悪かったな」
言葉少なめに話す黒士。
ゲームでも寡黙な方だったが、異世界に来てもそれは変わらないのか。
折角なので、役目の終わった黒士も誘って一緒に外に出ることになった。
黒士が先導して、外に繋がるドアを開けると、外の賑やかな喧噪が耳を打った。外では、集落の復興作業の真っ最中のようで、みんながそれぞれの作業を行っていた。
ドアの向こう側で忙しそうに行き交う彼らの表情は、明るい。
丘での採集の時でもそうだったが、作業中の彼らは目の前のことに集中できるからか、活き活きとしていた。
よかった。
俺がいない間も、彼らは立ち止まらずに動けている。
そのことに安心と少しばかりの寂寥感を抱く。
しかし、俺が一歩外に出た瞬間、バッと一斉にみんながこっちを見てきた。
みんなの動きが止まり、喧噪が止んだ。
その一糸乱れぬ反応にちょっとびっくりした。
何十という視線を急に向けられ、後退った俺に彼らは迫らんばかりに詰め寄り、思い思いに口火を切ってきた。
「村長、目を覚ましたんですね! 」
「もう具合は大丈夫なのか村長? 」
「あーそんちょう、おきたんだー! 」
「なんだ村長、思ったよりも元気そうじゃねぇか! 」
「あんなことがあってお腹空いてない? 良かったらご飯つくってるよ村長! 」
「あたいのミルク、よかったら飲みなよ村長! 」
心配、嬉しさ、喜び、そういった感情を彼らたちから向けられる。その表情は、ゲームの頃からとは比べ物にならないくらい豊かで、記憶にあるゲームの頃の彼らとは別人のようにさえ思える。
でもそんな彼らは、俺を慕ってくれている。
それは、ゲームの記憶を持っているからだ。
モントモの世界じゃ、プレイヤーと仲間のモンスターの関係は、仲間のモンスターに高機能AIが搭載されていたこともあって、プレイヤーの接し方で多様に変わる。設定によって、好感の方向性を固定したりもできたが、自分はフリーにしていた。
彼らが今こうして俺を慕ってくれてたのは、ゲームで彼らと培った関係ともいえる。
「あ、ああ。みんな、心配かけて悪かった。心配してくれてありがとう」
彼らが笑っていられるように、彼らが不安にならないようにしないとな。
心配してくれる彼らを見て、俺は改めてそう思った。
◆◇◆◇◆◇◆
「はいはーい。こっちの広場に村長はきてねー。そこにみんな集めちゃったから、はやくはやく」
俺が目覚めたという連絡はすぐに仲間たちの間で広まったようで、
ここでも俺が見えるなり、みんなが口々に話し始めたのですごい喧噪となったが、天狐の
「あなたたちがカケルを心配する気持ちはわかるけど、一斉に話しかけてはカケルが答えられないでしょう。まずは、作業の進捗から話してくれるかしら」
天狐の一声で、場が落ち着きを取り戻した。詰め寄ってきていたみんなが距離を取り、俺を囲うように扇状に広がった。そして、俺と仲間の空いたスペースに、ゴブ筋、小鴉、ポチ、頑冶、オリーの5人が進み出てきた。
「カケルの指示のあった作業を5つの班で分担したの。彼らはその班の代表よ」
横の天狐からの補足に俺はなるほど、と頷く。
代表者は、最古参の3人と生産分野において一芸に秀でた能力をもつ2人だった。
「それじゃあ、左のゴブ筋から順に報告してくれるかな」
代表の5人は、お互いを伺って誰から話すという雰囲気だったので、俺から促した。
「わかった。オレから話す」
ゴブ筋の班は、村の警備と村中の遺体を探し、一ヵ所に安置する作業を行ってくれていた。
遺体を弔いたいという俺の頼みを汲んでくれて、遺体は村の外れの空き地に集めているそうだ。
「そうか……丁寧に対応してくれてありがとう。遺体の回収はどのくらい進んでいるんだ? 」
「屋外の村周辺はすべて。屋内はまだ途中だ」
遺体の回収は屋外を優先して行ったそうだ。
やはり、屋外の方が遺体の損傷が激しかったというのと、仲間のモンスターの中でもグロ耐性のないモンスターが俺のように吐いたり、体調を崩すことがあったそうで、先に処理する必要があったみたいだ。
この屋外の作業は班分けの前に耐性のある仲間が総出で行ったそうで、流石モンスターというか、ほとんどの子は耐性があるみたいだ。その作業に子供にしか見えないオリーまで参加していたと聞いた時は、本当に驚いた。
遺体は、集めた結果、百を少し超える程の数になったそうだ。
ゴブ筋は、遺体の死因までもすでに調べてくれていた。
遺体の主な死因は、刺殺か撲殺によるものだった。
また、多くの馬の蹄の跡もあったことから村を襲ったのは、
盗賊か……。
遺体を弄んだ惨状が脳裏にフラッシュバックして、気分が悪くなる。
あんなことをなせるのは、確かに悪意をもつ人間のようなものでないとできない所業だろう。
しかし、この辺にはこの村しか見つからなかったはずだ。
恐らく、未開地と国の境の村とかなんだろうけど、そんな場所にわざわざ盗賊なんてくるのだろうか。
いや、同じ勢力ではなく、未開地に住む蛮族とかそういった類の相手だったかもしれないな。
また、警備に関してだが、件の襲撃者が現れないのはもちろん、この村にダンジョンの最奥だったり、群れのボスやっているようなボス級モンスターが何体もいるせいか、村近辺に野生のモンスターの姿は影も形もなかったそうだ。まぁ、モンスターだって死にたくないだろうし当然だろう。
ゴブ筋の報告が終わった。
ゴブ筋の班は、他の班の作業に適した能力を持たないメンバーで構成されていた。
それを纏め上げて、損壊の激しい遺体を集めるというきつい作業を夜を徹して行ってくれた。
その感謝を口にする。
「ゴブ筋、報告ありがとう。きつい作業を率先して行ってくれてありがとう。他の参加してくれたみんなもありがとう。お疲れ様」
感謝を伝えると、ゴブ筋の厳つい顔の目尻が下がり、顔が綻んだ。後ろに控える恐らく、ゴブ筋の班のメンバーである仲間たちも嬉しそうに笑顔を見せた。
わかりやすい表情の変化に、俺も釣られて笑みが浮かんだ。
細かい表情の変化を見せるようになった彼らは、ゲームの時以上に愛らしく感じた。
重い話で強張っていた心が癒されたところで、次の報告を聞くことにした。
「それじゃあ、次は小鴉の報告を聞かせてくれ」
「はっ、それでは某からご報告致します」
相変わらず畏まった態度をとってくる小鴉は、一歩前に出て片膝をついて報告を始めた。
小鴉の班は、空を飛べて夜目がきく仲間を率いて広範囲の地理調査を行ってくれた。
調査範囲は、小鴉の言で10里四方。天狐の補足による現代のメートル換算で約半径20キロ圏内だそうだ。
どうして数の単位を昔の単位で表現するのだろうか。わからない。
まぁ、それはおいおい矯正するとして、調査の方法としては、先に調査範囲の外縁をぐるりと周り、大まかな地形を把握し、危険なモンスターの有無を確認した後に、少人数に分かれて、モンスターの分布や植物の分布などの地理の調査を行ったそうだ。ただし、情報を書き留める紙やインクの用意がなかったので、口頭でのおおまかな報告となった。
「この周辺は、未開拓の草原が広がっております。西にかけて道の痕跡とかつて集落の跡地と思しき地がありましたが、調査圏内で新たな集落は発見されませんでした。また、北東は広大な森が広がっており、建材となる樹木の他に、多数のモンスターの生息も確認できました。また、薬学に精通した者によると、薬となる素材も豊富とのことです」
「道と森……あと、集落の跡地か」
森の生態が豊かなのは当たりだ。素材集めでは重宝しそうだ。
西側に道があるということは、次の集落があるとすれば、西だろう。逆に、丘側から来ている時に道らしいものは見当たらなかったから、やはり最端の村で正解かな。
「道の痕跡というと、整備はされてなかったのか? 」
「はっ、ポチの班でも確認を行いましたが、整備はされておらず、草地を踏み分けられただけでした。また、その道から新たな草が生え始めておりましたので、頻繁に使われていたわけでもないようです。道には轍の跡もあったので何らかの交流はあったかと思われます。また、集落の跡地と思しき場所は、その道の付近に2ヵ所御座いました。ただ、田畑や集落の痕跡を残すのみで目ぼしいものは御座いませんでした」
集落の跡地っぽい場所は、過去に何らかの理由で放棄されたみたいだ。
20キロ圏内で集落がなくて、道が荒れているということは他の集落との交流は少ないのだろう。
よく考えれば、モンスターのいる世界だ。夜中にライオンとか毒蛇がでるっていう以上に危険な世界だ。そんな世界のモンスターの方が人よりも多いなんていう辺境なら、その危険度は地球の比ではないだろう。
辺境の開拓とかで、集落を東へと伸ばしていたとしたら、中間地点の集落のいくつかが途絶えたことで孤立していた集落だったのではないだろうか。
しかし、それでギリギリでもつい最近まで成り立っていたというのには、少しばかり疑問点が残る。
考えれば考えるほどゲームのインスタントポップする集落のように立地がおかしい集落だった。
いや、まさかこの世界の集落も自然湧きするなんてことはないだろう。と俺は頭を振って、横道にそれる思考を戻した。
「わかった。報告ありがとう小鴉。紙と筆記用具については、なるべく早く用意するようにする。可能なら地図のような形にしてほしい。また、周辺調査と道の痕跡を辿って次の集落の調査も行ってほしい」
「承知致しました」
「さて、次はポチか。報告、できるかな? 」
「ウォン! 」
次はポチの報告だ。
フェンリルのポチは、白い巨狼のまま報告を行おうとしたが、鳴き声の翻訳はできない。
俺が苦笑を浮かべていると、天狐がフォローしてくれた。
「ポチ、申し訳ないけど、カケルへの報告は人の姿で行ってもらえるかしら? 」
「クゥーン……」
ポチはしぶしぶと言った様子で首を前に項垂れるとその体が銀色に光りに包まれた。数秒ほどして光が治まるとそこには、若干不満そうな顔をした白銀の銀髪で青い瞳の子供が立っていた。白が主色で鮮やかな青で縁取られたゲームの北方の民族衣装を身に着け、頭からは犬耳を生やし、お尻からはふさふさとした尻尾を生やしていた。
「これでいーい? 」
「ええ、よくできました」
天狐が褒めると、ポチは二ヘラと笑って尻尾をパタパタと振った。
本来の姿である巨狼の見た目からは想像もつかない幼い容姿。ポチの精神年齢を表しているかのように、ポチの仕草は、子供らしい。
「じゃあ、ポチ、改めて報告をお願いできるかな」
「うん! 」
ポチの報告は、合同で行動することもあった小鴉の補足を交えながら行った。
ポチの班は、嗅覚が優れた仲間を率いて村に残った襲撃者の匂いを元に追跡してくれた。
これは俺の指示にはなかったが、危険の確認のためにも必要な事項と天狐が判断して割り振った作業みたいだ。
盗賊を追跡したポチたちは、ここから更に北に進んだ先で盗賊たちが全滅しているのを確認したそうだ。全滅の原因は、モンスターの襲撃。
軍狼とも呼ばれるグルッフの群体と争い全滅していたそうだ。村人らしき遺体も確認されていて、連れて行かれていたところを巻き込まれて一緒に死んだそうだ。村人の遺体は夜のうちにポチたちが持ち帰り、他の遺体と同じように安置所で安置しているそうだ。
残りの盗賊の死体は、ただでさえグルッフとの戦闘で損傷が激しく、日数が経過していたこともあり腐敗の酷かったため、わざわざ持ち運ぶのを誰もが嫌がり、結局そのまま放置してきたそうだ。
その話を聞いた時にポチ達の心遣いに感謝した。
村人の遺体も盗賊と同様に腐っていただろうに、わざわざ持ち帰ってくれたのだ。
自分も運んだと主張するポチの頭を撫でて労った。
ただ死んでいたグルッフや一部証拠になるものは、証拠や素材として必要だと判断されて、ポチと小鴉の班が手分けして持ち帰ってくれていた。
「これがそうだよ! 」
「……ありがとうポチ」
ポチがそう言って、背後の仲間から渡されたものを俺に差し出してくる。
証拠として持って帰ってきたモノは、血がべったりとこびりついた剣だった。
……何よりの証拠ではあるけどね?
いや、首持ってこられるよりはよっぽど良かったけど。
血は乾いて赤黒い染みとなっていた。
受け取って見たところ、剣はかなり使い込まれているようで刃こぼれ以外にも歪みや亀裂まで生じていて、ガラクタ同然といってもいいほどだった。
とはいえ、資源不足の今では鉄は貴重な資源だ。
このままじゃもう使えないし、炉が使えるようになったら融かしてインゴットに戻そうかな?
そこまで考えて、剣にべっとりとした血が目に止まった。
また、あの光景がフラッシュバックする。
この剣がその惨状を引き起こした原因だと思うと、胃液がこみ上げてくるような不快感を感じた。
インゴットにして仲間の装備や村の建材に使う気にはとてもなれなかった。
剣の持ち手には鷹のような鳥のシンボルが彫り込まれていた。鳥の爪が強調されているようなシンボルだが盗賊のシンボルとかなのだろうか。
ひとまずは、アイテムボックスに入れておこう。
受け取った剣をアイテムボックスにしまうために仮想ウィンドウを操作していると、その手を天狐がそっと握ってきた。思わず操作を止めて、天狐を見ると目が合った。
「カケル、無理しなくてもいいのよ? 」
まるで自分の胸の内を見透かしてきているような目で言われ、俺はドキリと胸が跳ねた。
心配させるようなことがあっただろうか自分を省みて、自分の剣を持つ手が小刻みに震えているのに気付いた。
無意識の仕草。気づいても、その震えは止まらない。
なるほど、未だに自分は立ち直れてないらしい。
と、一歩引いた客観的な自分が自分に判断を下す。
それはそうだろう。と納得する。
自慢ではないが、あんな凄惨な光景を目にしてトラウマにならないわけがない。
異世界転移。自我を持った仲間たち。帰れない自宅。弄ばれ全滅した村である。
俺の心の許容量はとっくの昔に超過している。
今は仲間たちを安心させるために踏ん張ってるに過ぎない。
天狐は優しい。
そんな俺を気遣ってくれている。
「これくらい大丈夫だよ。心配してくれてありがとう天狐」
「本当? 無理しちゃだめよ? あなたはさっき倒れたばかりなのよ」
「大丈夫だって、無理はしてないよ」
天狐を安心させるためにポンポンと頭を撫でた。
「あっ……」
天狐の金色の髪の毛はサラサラとしていて、軽く撫でただけだが手触りがとても良かった。
頭を撫でているとピクンピクンと狐耳が動く。なんともなしに狐耳にも手を伸ばした。
「ひゃ!? カケル!! 」
「あ、ごめんごめん」
「もうっ」
狐耳に触れた時、過敏に反応してたけどもしかして天狐って耳が敏感?
あれ? ゲームの時は、特にそんなことはなかった気がするけど……
あ、余計なことを考えてしまっていた。
ポチが羨ましそうにするので、ポチの頭ももう一度撫でてやった。
「わふぅ」
気を取り直して、次の報告を聞いた。
「じゃあ、次の報告を
「やれやれ。まだやることが山程あるんじゃ、手短に話すぞ」
頑冶の班は、荒らされた村の修繕と道具類の制作をしてくれていた。
壊れたドアや損傷している壁、家具など、襲撃者に荒らされて破損した箇所を一軒一軒手分けして修繕して、住居として再び住めるようにしてくれている。道具は、廃材や村にあった既存の物など、ありあわせのものに手を加えて自作したらしい。
そう言われて、広場を囲う住居を見渡すと、損壊したような跡がなくなっていた。
流石、頑冶だ。職人の代名詞であるドワーフの上位種族だけあって、いい仕事をしてくれている。修繕した部分もほとんど見分けがつかない。
とは言っても、今はまだ俺が見える家ぐらいまでしか修繕は完了していないようだ。外見だけでなく家の内部もかなり荒らされているらしく、資材不足もあってその修理に手間取っているそうだ。
あと、頑冶は一部の仲間(主に職人)から親方と呼ばれてるらしい。
ゲームの時は、モンスターはお互いを名前でしか呼ばなかったが、異世界に飛ばされて自我が芽生えたことで、そういうちょっとしたところが変わっているようだ。
「そうか。頑冶は、親方って呼ばれているのか。よく似合う呼び名だね」
「ふんっ、村長まで何を言うちょる。それよりも早う資材を調達してくれんと何も作れんようなるぞ」
「うん、そうだね。その問題は早く解決させないとね」
頑冶の要求は、火急の問題だ。
今は、今ある住居の修繕だけ行っているけど、それだけで仲間たちを全員収容できるわけではない。
というか、彼らの生態に合わせた好む住居を用意するとなると、住居の種類だけでも両手では足りない種類がいる。
住居だけでなく、生産設備や装備ともなるとより多様な素材が必要となる。
木材や植物の資源が豊富そうな森だけでは集めきれない。鉱物資源もいるのでどこかで採掘も行いたい。
資源の目途は早急につけないとな。もしかしたら、小鴉には新たな集落よりも先にそちらの調査をお願いしなければならないかもしれない。
そして、最後はオリーの班だ。
オリーの班は、薬学と農耕に精通した仲間たちで村近辺での薬草採集と村の耕作地の世話を村人に代わってしてくれていた。
オリーは、世界樹の化身という植物系の精霊種に該当する上位モンスターだ。
戦闘でも主力を張れるくらいの強力な能力とステータスを有しているが、それ以上に生産面で役立つ能力を持っていてゲームの時は、村では大活躍だった。正直言って、オリーを育成していた時期は、探索や戦闘よりも生産に注力していたので、オリーのスキルの伸びは生産面ばかりに偏っている。
調薬のための道具一式を頑冶が用意してくれたので、薬の方も何種類か自作してくれていた。
「はい、そんちょーお薬」
「おーありがとな。オリー助かるぞ。よしよし」
「えへへ~」
解毒薬やMP回復ポーションといった何種類もの薬を受け取る。オリーの小さい手では持ちきれない量だったが、地面から生えた大きな葉っぱに包まれて渡される。受け取ると茎が自切されて、葉っぱの入れ物になる。試しに中の薬を【鑑定】してみたが、効能はゲームの時の記憶と然程変わってなかった。
オリーの能力もちゃんと反映されており、等級に似合わない高い効能のものも紛れていた。
既に確認できていたことだけど、この世界でもモンスターの固有能力やスキルはきちんと反映されているようだ。
「あ、そうだ。オリー、丘で集めた薬草を使って他の薬もつくれるだけつくってくれるか? 」
「うん。がんばる! 」
「いい返事だな。頼んだぞ」
オリーには、追加でアイテムボックスに入れていた薬草を渡した。
自分でするつもりだったけど、回復薬は出来るだけ早くに用意して置きたいので、今回はオリー達に頼むことにした。
「えへへ~」
俺に頼まれて嬉しそうにはにかむオリーは、ゲームの時以上に可愛くなったと思う。
「それじゃあ、これで報告は以上かな。他に何か報告はある? 」
「おう、儂からも報告があるぞ」
これで、報告は終わり──と思ってたんだけど、他に報告がないかと聞いたら
どうやら班で行動せずに個人で動いていた仲間もいたようだ。
まぁ、編成を組んでいたわけでもないし、性格や種族的に単独行動を好む者もいるので、疑問には思わなかった。
さて、龍源だが、自分の腹が減っていたということで小鴉が見つけた森でモンスターを狩ってきたらしい。小鴉の言っていた森に生息するモンスターが多いという報告は、龍源のおかげだったみたいだ。
「まだ現地のモンスターとは戦わないようにって注意してたはずなんだけど」
「お、そうだったか? ワハハハッ、すまんすまん忘れておった」
「……」
まぁ俺の話をコロッと忘れたのは、この際いいとしよう。指示無視は、プレイヤーの実力不足やモンスターの好感度とか性格でゲームでもままあることだった。何より龍源は、ゲームでも仲間にした当初は指示を無視することが多々あったキャラなので、不思議には思わなかった。
流石にここ最近のゲーム中ではなかったけど、自我を持って個性がより強くでるようになったのなら、起きてもおかしくない。
実際、問題なかったようだし、ジト目で見るくらいにしておこう。
「村長、そのような目で見んでくれ。ちょっとばかしつまみ食いしただけだ。ちゃんと手土産も用意したぞ」
「そういう話ではないでしょう……」
龍源の言い訳に、隣の天狐がため息を吐く。小鴉も苦々し気に龍源を見据えていた。
まぁ、今回は叱るまではしないとして、戦った龍源にゲームの時との違いを聞いた所、モンスターの強さはあまり変わってないらしい。
弱いモンスターは弱く。ゲームの時と同じ種族固有の能力の行使も確認したそうだ。
まだ調査が不十分のまま龍源の話を鵜呑みするわけにはいかないけど、その情報で一先ず安心できた。
龍源が倒したモンスターは、今は村の入り口付近に積んでいるそうだ。後でアイテムボックスに収納しておこう。
あ、今更だけど、みんなはここが前の世界、つまりゲームの世界とは、別の世界と言うのは認識出来ているようだった。
それも彼らの感覚からくるもので、具体的にどこが違うかまでは言えないようだけど。
「私からもいいかしら」
次に、報告してきたのはセレナだった。
セレナは、
今回は、その能力を使って村を通っている新たな地下水脈を発見して、その水脈から村の井戸へと綺麗な水を地上に引いてくれた。村にあった井戸は、元々の水脈が枯れ始めてたそうなのでいい仕事をしてくれたと思う。
セレナとしては、最初からそんなつもりはあったわけではなく、ここの水の精霊たちと交流している内にそんな流れになったそうだ。結果オーライという奴である。
他にも
「これでもう全員終わりか? 俺に報告することはもうないか? 」
そろそろみんな出し尽くしたかな。
と思っていたら、それまで姿を見せてなかった扇情的な姿の妖艶な美女が俺の前に進み出てきた。
美女の背中からは、黒い悪魔の羽と尻尾が生えていた。
「
「村長ぉ、起きたのね。とぉ~っても心配したのよ? 」
「心配させてごめんね。妖鈴からも何か報告があるのか? 」
露出の多い服を着たまま体を近づけてくる妖鈴の肢体を注視しないようにしながら俺は尋ねた。
ゲームの時もそうだったが、妖鈴のような
「報告ぅ? あ、そうだったわ。家の地下食料倉庫から衰弱した子供を6人見つけたわ」
あっけらかんとした口調の割に飛び出してきた内容は、爆弾発言だった。
その報告は、他の仲間も初耳だったようで、場がざわついた。
「なんだってっ!? それは本当か妖鈴っ!」
「本当よ。あそこの家から幼い精気が漂ってたからそれを辿ってみたら見つけたの」
妖鈴が指した家は、広場から続く通りに面した家の一軒だった。まだ修繕されていないのが遠目でも確認できた。
「その子供達は今どこに!? 」
「ミカエルに任せたわぁ。どうも村に充満していた瘴気に当てられて衰弱してたみたいなの。今はミカエルが治療しているわ」
言われてみれば、ミカエルは初めからこの場にはいなかった。
「それで場所は? 」
「あそこの家の地下よぉ」
「分かった。よく見つけてくれた妖鈴! 天狐、今すぐ行くぞ! 」
「ええ、わかったわ」
「あ、私もいくわぁ」
襲撃から数日経っていたことや、天狐たちの報告から生存者の存在は諦めていたんだが……
子供達が生き残っていたと聞いて自分の涙腺が緩くなるのを堪えつつ、俺は足早に妖鈴が指さした家へ向かった。
それにしても、かすかな精気を感じ取って見つけるなんて流石
去年、衝動的に手直しして最長の一年後に自動投稿するようにしていたのをすっかり忘れていました。
最近まで手直しとかはしてたのですが、気づいたら最初のが投稿されていたので、ぼちぼち続きも見直しながら投稿していきます。