魔王の村長さん   作:神楽弓楽

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「対面と村娘の悲鳴」

 

 闇に満たされた地下室。

 唯一の出入り口は固く閉ざされた暗闇の中、6人の幼い少年少女が冷たい地面に倒れていた。

 

 

 その中で最も年上であったレナは、朦朧とする意識の中、漠然と自分に近寄るの死の気配を感じていた。

 

(ああ、わたし……死ぬんだな)

 

 衰弱しきったレナの体は、指を動かすことすら億劫で目を開ける気力さえなくなっていた。

 

 

 あの日、村が賊の襲撃にあった日に、

 村を襲ってきた賊から身を隠すために、レナたちは地下室に逃げ込んだ。

 レナの父親と母親は、幼い子供たちを託し、レナ達の制止の声を無視して、地下室の入口を塞いで出ていった。

 

 

 村中の喧噪は、地下室であってもよく聞こえた。

 激しい物音や破砕音や爆発音に紛れて、聞き覚えのある声で悲鳴や絶叫、怒声がした。そして、それを塗りつぶすような悍ましい笑い声が低く唸るように地下室に響いた。

 レナ達は、自分の手すら見えない暗い地下室で身を寄せ合いながら、いつ賊に見つかるかもわからない不安と恐怖に震えた。レナも声を出してはならない、彼らに見つかってはならないという一心で、泣き出しそうになる子の口を覆うことだけに必死だった。

 

 

 そのせいで、その悍ましい襲撃によって生じた瘴気が、地下室にまで浸み込み、自分たちの心身を蝕んでいることに気づけなかった。

 

 

 外の喧噪が静かになる頃には、レナ達は起き上がることすら困難なほどに症状が進行していた。

 

 

 朦朧とする意識、力の入らない四肢、断続する記憶。

 

 

 瘴気の急性中毒症状を発症したレナ達は、地下室から自力の脱出ができなくなった。

 それでもレナは、意識がある時には子供たちの名を何度も呼んだ。返事があれば、呂律の回らない口で声をかけ続けた。

 他の子どもたちもレナの名を呼び、弱音を吐いたり、お互いを励ました。

 

 それでも状況は、好転しなかった。

 

 どれだけ時が経とうが、レナの両親や村の大人たちが入口を開けて地下室に入ってくることも、レナ達の症状が回復することもなかった。

 

 

 幼い子供から順に眠るように意識を失っていった。

 はじめは、一番幼かった乳離れしたばかりのケティが、目を覚まさなくなった。

 レナが、何度ケティの名を呼んでも、声が上がることがなくなった。

 

 次いでローナ、リンダが静かに意識を失った。

 

 朦朧とした意識ながら、お腹空いたと口にし、寂しい、暗いと口にし、怯えていた彼女たちの声は聞こえなくなった。

 

 

 レオンが声をあげなくなり、ずっと強気な態度を取っていたアッシュも「こんなとこで死にたくない」と弱気を溢してから返事がなくなった。

 

 

 

 一人、また一人と時間が経つごとに起きなくなる子が増えていく中、一番年上のレナだけは他の子供よりも瘴気に耐性を持っていたがために5日経った今も辛うじて意識を保っていた。

 

 

 賊に襲われた村が今どうなっているのかは、地下室から出られないレナには分からない。 

 何度も失う意識のせいで時間の感覚はなく、あれから何時間、いや何日経ったかすらわからない。

 

 

 しかし、いつか村の誰かが、両親が、助けてくれると信じて、レナは意識を繋ぎとめていた。

 

 

 だが、それも最早限界が来ていた。

 

 レナは、自分の意識がどんどんと遠のいていくのを感じる。

 眠気とは違う深い闇に引き込まれていく感覚にレナは、次は自分の番か……と悟る。

 

 このまま意識を失えば、自分たちは目覚めぬまま遠からず死ぬのだろうとわかっていても、レナはもう何も感じなかった。

 

 

 ずっと助けを待っていた。

 

 しかし、助けはいつまでも来なかった。

 

 長い間、自宅の地下室で待った。それなのに助けがいつまでも現れないのは、そういうことなのだろうとレナは、理解してしまった。

 

 

 しかし、それももういいのだ。これで両親やみんなの元に行けるのだから。

 

 レナは、自分の意識が深い深い底の見えない闇へと沈んでいくことに恐怖は感じず、その身を委ねた。

 

 

(ごめんなさいお母さん……わたし、約束守れなかったよ……)

 

 

 心の中で母に謝罪しながらレナの意識は、完全に闇に沈んだ。

 

 

 

 

 それから数時間後、地下室に妖艶な声が響いた。

 

「あらぁ? ここかしらぁ」

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 2日後、レナは再び意識を取り戻した(・・・・・)

 

 

「あれ……? 」

 

 目覚めたレナは、ずっと感じていた倦怠感や憂鬱感といった鬱屈したものが綺麗さっぱり体から消えていたことに気づいた。

 

 それに背中から伝わる感覚が冷たく硬い地面ではなく、柔らかく体を包み込む未知(ベッド)の感覚に変わっていた。

 

「……体が軽い」

 

 ゆっくりと起き上がったレナは、体が動くことに驚く。

 

 上半身だけ体を起こしたレナは、体を捻って自分の体を確認する。

 泥や垢で汚れていた体は清潔になっていた。

 服も着心地のいい純白の服に変わっていた。網目が細かく緻密な生地でできた見たこともない服だった。

 髪も心なしかサラサラとしているように感じる。

 

 もし、賊に見つかったというのならこの待遇はありえない。

 

「助かった……? 」

 

 暗く寒い地下室ではなく、日の光が差し込むポカポカと暖かい木造の部屋にいることで、レナは自身が助かったことを実感する。

 

 ここに運んでくれた誰かを探して、周囲を見まわす。

 

 

 しかし、周りには、同じようなベッドが他に5つあるだけで、起きている人はいなかった。

 他のベッドは、いずれも中にいるのを示す膨らみがあり、レナが近くのベッドを覗くと、金髪を広げてすやすやと眠るローナの顔があった。

 

「ローナ……! よかった、無事だったのね」

 

 思わず、驚きの声を上げ、すぐにローナの息があることを確かめて安堵のため息をつく。

 そして、地下室に一緒にいたローナがいることを知ったレナは、他のベッドを周り、一緒にいた子供が全員いることを確認して、涙を流した。

 

「あぁ、よかった。女神様、感謝します」

 

 レナは、普段信仰している女神に感謝の祈りを捧げて、喜びを表す。

 

 

 自分たちは助かったのだ。

 

 自分を含めて子供たちの生存を諦めていただけに、その喜びは大きく、レナは溢れ出す涙を止めることができずに顔を覆い、その場に膝をついて泣いた。

 

 

 

「ぐすっ、よかった。……でも一体、誰が私たちを助けてくれたのかしら」

 

 ひとしきり泣いたレナは、赤くなった目尻を拭いながら、起きてから抱いていた疑問を再度上げた。

 

 この村がたまたま人が通りがかるような場所にないことを、レナは知っている。

 しかし、このようなベッドや衣服が村にないことを、レナは知っている。

 

 自分たちは、誰に助けられて、今どこにいるのか。

 そして、自分たち以外の村のみんなは一体どうなっているのか。

 

 

 自分たちの生存と安心を得て、そんな疑問がレナの中で大きくなった。

 

 大人しくこの部屋で待っていようと思っていたが、自分が起きたことを知らせるべきかもしれない。

 

 そんな考えがレナの中で浮かんだ。

 レナはもう一度部屋の中を見まわし、自分たちが悪い状況ではないことを確かめ、部屋の外に出て人を探すことを決心した。

 

 

 

 

 

 レナは、すぐに部屋のドアに向った。

 しかし、レナがドアノブを掴もうとしてところで、ドアが勝手に開いた。

 

 

「きゃっ」

 

 

 驚いて後退ったレナは、身を強張らせながら入ってきた人物を見上げた。

 

 

 入ってきたのは、頭から角を生やした2メートルを優に超える緑の異形の化物だった。

 

「あ……」

 

 驚きのあまり、レナは口を半開きにして思考を停止した。

 

「ん……? 目覚めたのか」

 

 異形の化物ことゴブ筋は、寝ていたはずのレナが目の前にいることに少々面喰いつつも、流暢な人間の言葉で喋った。

 

 

 

 部屋からレナの悲鳴が上がった。

 




この話は、変わってます。
大きな変更点としては、同じ部屋に全員を押し込んでます。
よって、レナが他の子供たちの生死を気にしてパニックに陥っていることはないです。
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