「(_______ロボだこれ)」
どっからどう見ても安樂の祖国で盛んな機械ヒーローの活躍する創作物に出てきそうなメカメカしい何かの登場に、思わず脳内でそんなことを思う安樂。
ただし状況は逼迫的だ。目の前には敵か味方かも分からない謎のロボット。武器を持ち全身が鋼鉄で出来ているこのロボットは、間違いなく戦闘用だろう。これで介護用だと言うなら製作者のセンスを疑うところである。
『_______おい、小童。こちらを向かずに聞け』
さぁどうしようか、と思考をめぐらせようとしたところで、突如として脳内にライダーの声が響いてきた。
耳元で囁かれた訳では無い、脳裏に直接向けたような声。
いきなりなんだと思いつつも、指示に従いロボットに目を向けたままその声に意識を向けた。
『これは
なるほど、確かにライダーには特別な繋がりのようなものを感じていた。それは錯覚でもなんでもなく、契約した証のようなものなのだろう。声に出さずに会話とは便利なものだ。
だがしかし、返事をしようにもどうやればいいのか分からない。頭の中で『聞こえてる?』だの『これでどう?』だの思い浮かべてみるが、どうにも伝わった様子はない。
結論、安樂には念話を受信出来ても発信は出来ないらしい。
そっとロボットに向けていない方の手を動かし、ライダーの腿の辺りに交差する二線を指で描く。バツ印、私には無理でしたという回答だ。
『なるほど。ならば一方的にこちらから提案するぞ。戦うなら一度、逃げるなら二度、対話を試みるなら三度。今のように俺の腿を指で叩いて選べ』
安樂の魔術師としての素養の無さ_______ひいて言えば繋がっている
彼の予想は的中し、安樂は念話による返答は不可能。故に原始的だが、叩く回数での意思表示を試みることにしたようだ。
「(_______さて、どうしようか)」
ライダー側からの提示を受け、目の前の謎ロボットへの対処を考える。
可能性は大雑把に3通り。友好的だった場合、中立の場合、敵対的だった場合と分けていいだろう。
友好的だった場合、攻撃するのは
中立の立場、敵か味方か曖昧な場合でも攻撃するのは避けたい。こちらから仕掛けたのが原因で敵を増やす事になりかねない。
どんな相手なのか分からない以上逃げるのも有りだが、その判断も相手を知らなければ下せない。これも対話するのが吉。
敵対的だった場合は、少々面倒だ。対話してもいいが、仲間が居ないとも限らない。というか姿を見せている時点でこちらを倒せる自信があると思って良いはず。
となれば戦うのは以ての外、ワンチャンに賭けて逃げるのが利口だろう。ライダーがどれだけの速さで馬を駆れるのか聞いておけばよかった、と今更に思う安樂であった。
「(友好的なら対話。中立でも対話。敵対的だったら逃げ_______じゃあ対話かな)」
ライダーの実力は、あのバーサーカーなる狂人を吹っ飛ばしたのでお墨付きだ。今も油断無く警戒している彼なら、対話中に襲われても対処出来るだろう。
となれば逃げるのは可能、友好もしくは中立であることを願って対話すべきだ。
思考を纏め、先程と同じようにライダーの腿に指を置き、三度叩く。
僅かに視線をこちらに向け、ニッ、と口角を上げた。どうやらお気に召す回答だったらしい。
「了解だ、小童_______そこな
ライダーの威圧交じりの問いに、雷鳴の如く空気が震える。見掛けだけの警告ではなく、返答如何によっては本当に戟を叩きつけるつもりだろう。
ちなみに突然の怒声を間近で受けた安樂は若干目を回していた。
『_______先ずは不躾な接触を謝罪しよう。我は【第七の
「然り。我は
物々しい緑色の機械から発せられる、蒸気音交じりの声音。予想外の紳士的な口調と低く落ち着いた男性の声に、安樂は少々驚いた。
あのバーサーカーも口調は妙に丁寧だったが、このロボットからこれだけ理性的な返答が来るとは思っていなかった。
『キャスターのサーヴァントは表に出ず秘密裏に謀略を巡らす、道理である。しかしこの機体は我がスキルにより製造された
「あぁそうかい。それは失敬、術士らしい用心深さだな。そういう事ならこちらも安心して交渉出来るというものだ」
『ほう_______』
何やら一人別のことを考えている安樂とはうってかわり、ライダーの言葉に機械のキャスターは興味深そうに分身越しに呟きを漏らした。
普通に考えれば本人でなく、分身越しに交渉をするというのはあまり好印象では無い。警戒していると宣言するようなものだ。
それを受けたにも関わらず、逆に安心すると言ってのけたライダー。どういう事かと安樂が彼に目を向けると、ライダーは小さく笑って肩を竦めた。
「無警戒で何の対策もせずに接触してくる輩は一見争いを望まない平和主義の様に見える_______が、その実殆どの場合策を巡らせ、獲物を網に掛けようとする
『成程、目に見える警戒を見せた故に、我は罠でなく交渉を主としているという推察か。本体を隠し接触する事がある種信用に連関するとは_______貴殿を一介の武人であろうと思ったのを謝罪しよう、ライダーよ』
「世辞は要らん。さっさと本題に入れ」
『了解した』
機械のキャスターは、中華甲冑のライダーの風貌を見て己の強さを主として考える武人であろうと推察していた。
しかし、どうにも彼はただ腕が立つ訳では無い様だ。冷静に返答しながら構える大戟に僅かのブレも見せぬライダーを観察しながら、油断ならない相手だと認識を一段階引き上げた。
『接触の理由は至極単純、貴殿らが我らと同じく【第七の
キャスター側からの提案は、所謂協力依頼…………いや、もっと強固なもの。同盟への加入と考えていいだろう。
提案を聞いたライダーと安樂は、ほぼ同時に顔を顰めた。思った以上に判断に困るものだった故だ。
「貴様らと俺達が同じ陣営だと?」
『理由は一つ。そこなマスターの令呪の色である』
「令呪の色が赤であるから赤の陣営だと言いたいのか?赤子でも出せる結論だが」
ライダーの言葉は最もだ。
安樂は知らないが、令呪の基本色は赤である。サーヴァントであるライダーは、聖杯から与えられた知識でそれを知っていた。
つまり、仮に機械のキャスターやあの長棒のルーラーの言ったように陣営分けが成されているとして。
令呪が赤色だからという理由で同陣営だとは今のライダーには判別出来ないのである。
『不信は最も。それを覆す対価として、我らが持ちうる情報を最大限開示、共有することを約束する。なんなら幾つかはここで開示しても構わない』
「ほう?それなら早速教えて貰おうか。第七の
『二騎。我がキャスター、もう一人の御仁が
ライダーの眉が僅かにピクリと動いた。
サーヴァントの数、という情報は聖杯戦争において重大な情報だ。
ただでさえ英霊として名を刻んだもの達、その中でも三騎士に選ばれる存在ともなれば単騎であろうと万軍に匹敵する戦力となる。どれだけ使い魔を揃えようと、単純な実力ならばサーヴァントに勝てる道理はほとんど無いのだ。
故に聖杯戦争においてはマスターの協力者などよりも、他陣営と手を組んでいないかどうかが重要。
戦いは数が多い方が有利、それは子供でもわかる自明の理。
特に対サーヴァント戦は一人一人の戦力が大きい分、一の差が重くのしかかってくる。
「(即答したか_______この問いを予測して事前に用意していた答えなのか、或いは本当に答えて問題ない情報だと言うことか…………材料が少な過ぎるな)」
その為、間髪入れずにサーヴァントは二体だと答えた機械のキャスターの心理がイマイチ読めなかった。こちらを本当に引き込みたいのか、それとも死地へと誘い込もうと画策しているのか。
さてどうしたものか、とライダーが思ったその時だった。
「ねぇ、ロボットのキャスター。私からもいい?」
「おい、小童」
「大丈夫」
ライダーとキャスターのやり取りを聞いたまま口を挟まなかった安樂が、軽く手を挙げながら質問の許可を取ろうとした。
聖杯戦争に関する知識がほとんど無い安樂。しかも彼女は魔術師でも何でもないただの一般人だ、魔術回路もたかが知れている。
その上相手はキャスター、総じて魔術に長けたもの達が殆どを占めるクラスだ。対話を媒介にした魔術を使える可能性だってある。
そうなれば危機は安樂に及ぶ。
対魔力のスキルを持つ故に自分が対応しようとしたライダーが止めようとするが、安樂は小さく首を振って続ける意志を覗かせる。
となれば止めるのも無粋なもの。小さくため息をつきながら、ライダーは肩を竦めて続けるように所作で促した。
「ありがと、ライダー。それでロボットのキャスター、いい?」
『勿論。ライダーに答え、貴殿に答えぬのは道理に合わぬであろう、ライダーの
小首を傾げる安樂に、何も問題は無いと首肯する機械のキャスター。
やっぱりロボットらしからぬほど礼儀正しいなーこの人、なんて思いながら、安樂は二の句を口にした。
「今私たちの目の前にいるキャスターは本人じゃないんだよね?」
『然り。この身は我がスキルによって製造された
「なるほど。キャスター、一つお願いがあるんだけど」
『内容に左右されるが善処しよう。何だろうか、ライダーのマスターよ』
ライダーからの問で答えた通り、機械のキャスターはここから離れた場所から目の前の機体を通して安楽達に話しかけている。
それを今一度確認した後、安樂は不意にお願い、と口にした。
キャスター側も拒否する訳でもなく、内容を確認する為に次の言葉を促す。
安樂はつり目気味の瞳を細めながら、こう提案した。
「
『______________』
「私個人は貴方たちに合流していいと思ってる。私が決めればライダーも着いてきてくれる。こちらから何かしようって訳じゃなくて、ただ確認したいことがあるだけ」
キャスターの
ライダーが視線を安樂の方へと向ける。
ピクリとも表情を動かさず、真っ直ぐにキャスターを見ている。
彼女が今何を考えているのか、それはライダーにも察することが出来なかった。
暫く答えを返さず静止していたキャスター。しかし不意に、彼の
『_______聞こえ、ますか?』
キャスター越しに聞こえてきたのは、電子に乗せた女性の_______否。少女の様な可憐な声。
ライダーは驚くと同時に、キャスターとそのマスターが安樂の要求を飲んだ事を察する。
つまりこの声の主は、キャスターの契約者。つまり、『第七の
「うん。聞こえてます。お願い聞いてくれてありがとう、キャスターのマスターさん」
『いえ。私も貴方と話したいって、先生に無理言ったんです。改めて、私は【第七の
本人を見ていなくても分かる、明るげて爛漫な声音。声から感情が滲み出るってホントにそうなんだな、なんて思いながら、安樂はキャスターのマスターと言葉を交わす。
『それで、私に確認したいことがあるって事ですが………何でしょうか?この状況や聖杯戦争のズレについては、正直に言うと私達も探り探りなので満足な回答は出来ないかもしれませんけど…………』
「ううん、状況とかじゃなくて………ホントに確認したいことが一個あるの」
『確認………はい、何でしょう!』
打てば響くように返ってくる答えに思わず頬を緩ませながら、安樂はにっこりと笑ってこう言った。
「私ここに来るまでに一人殺してきたんだけど」
『_______ッ!』
息を飲む音が聞こえた。なんとも素直な女の子だな、と安樂は一人思う。
『おい小童、何を考えている』
咄嗟にライダーからの念話が安樂の脳裏に響く。しかし彼女は返答出来ない。その為、敢えて彼の方を向かぬまま、表情を変えず対話を続行した。
「正直、聖杯戦争には偶然巻き込まれて何が起こったのかって状態でね。そこで明かりを見つけたから近寄ってみたら、女の子が居たの。周囲にいた人も消えてたし………丁度いいやと思って、普段出来ない試し打ちを、ね?」
キャスターのマスターからの返答はこない。しかし僅かにキャスターの機体の右手、ノコギリのような剣を持つ手に力が入ったのをライダーは見逃さなかった。
「キャスター、ここから西の方向、T字路みたいになってるところの脇にある大きめの家屋で、扉が粉砕されてる所って見える?そのすぐそこに
『落ちてる………って………』
「うん、落ちてるよ。それで何だけど、これから先見つける一般人は
まるでかつて人であったものをそこら辺の物のように言う安樂に、キャスターのマスターから絶句が零れ落ちる。
それを敢えて肯定しながら落ちてる、と繰り返しつつ、安樂は確認を口にした。
とどのつまり、私は一般人を殺すけど別にいいよね?という安樂からの質問。
表情を崩さず、笑みを浮かべたままさも当然のように尋ねてきた安樂。キャスターの機体からは、答えは返ってこない。
「どう?私達、
『_______そうですね_______』
全身から蒸気を吹き出しながら、キャスターの機体は鋭利なノコギリのように波打つ剣を真っ直ぐに安樂に向けて構える。
それが指し示す答え。それは酷く単純なもの。
『絶対に_______仲良く出来ないって思いましたッ!!』
明確なまでの拒絶。それが答えだった。
「はーい降参しまーす」
『人を物みたいに_______って、えぇっ!?』
あっけらかんと両手をあげてそう言った安樂の耳に、キャスターのマスターのずっこけたような声が響いた。
「いやー良い子でよかったよかった。あ、私が殺したとかマルっと嘘だから真に受けないでね?」
『え、嘘?…………嘘ですかぁーっ!?なんでこの状況でそんな事を!?』
「えー、だって思ったより純粋そうな可愛い声だったし…………つい?」
『みゃァァァァァっ!?酷いです!人でなしです!人でなしでは無かったけどロクデナシです!!怒りますよ!!』
「あ、怒るで済ませてくれるんだ。やっさし〜」
『そういう事じゃ_______』
ケラケラと笑いながら今までのやり取り全てを否定した安樂に虚を突かれた少女だったが、すぐさま怒ってます!というのが伝わってくる声音で安樂を避難する。
しかしどうにも可愛らしいその声では恐ろしさも何も無く、何処か優しさが抜けきらないのも相まって安樂に揚げ足を取られるというコントじみた対話をする羽目に。
その途中で不意にブツンっと何かが途切れる電子音と共に少女の声が途絶えると、呆れた様な声音でキャスターの声が響いてきた。
『………我が契約者で遊ばないで頂きたい』
「うん、ゴメンねキャスター。取り敢えず合流する事にしたから、良ければ案内してくれないかな」
『了解した。この機体の後を追随するといい』
どうやらキャスターが自身のマスターとの通信を強制的に止めたらしい。
安樂がわざとらしく行っていると見抜いているらしいキャスターは、現れた道の方向へと身体を返すと、暗闇の先へと先導して歩いていった。
その後ろを、ライダーと安樂が跨る黒鹿毛の馬がカッポカッポと足音を鳴らしながらついて行く。
「………どういうつもりだ、お主は」
そんな最中、小さくライダーからため息混じりの言葉が投げ掛けられる。
身体をひねり、見下ろすライダーの顔を見上げながら安樂はいつもの表情で答えを口にする。
「アレを受け入れるような陣営はヤバいから即逃げ。逆に受け入れなかったらまず間違いなく良い人だから、謝ればこっちを害するまではしないかなって」
「答えに詰まった末に許可されていたらどうしたつもりだ」
「判断難しいからライダーに任せてた。個人的には悩んでるから交渉の余地ありだし、多分着いてったと思うけど」
特に何か思うでもなくそう口にした安樂に、ライダーは今一度ため息をつき、手に持った大戟を器用に回すと柄の部分でコヅンっと安樂の頭を小突いた。
「痛い」
「勝手にあんな事するからだバカタレめ。仮に即答で受け入れられてた時に俺が逃げる算段を立てていなかったらどうするつもりだったんだ」
「?大丈夫でしょ?」
小さく笑いながら、安樂はさも当然のように口にした。
「私が思いつくような事だよ?
「………この阿呆は………あまりこういうことをするな、寿命が縮んでも知らんぞ」
「大丈夫、控えるよ。私は
そう言って安樂は前を向き、ライダーの馬の首元を撫で始める。
ヒヒンッと気持ちよさそうな愛馬の声を聞きながら、ライダーは大戟を持ち直した。
「(_______躊躇いも無く嘘を口にし、見ていないようで周りを見ていて、自分にも他人にも生死に無頓着…………か)」
このような状況下だ。ライダーだって虚言を口にすることが悪いと咎める教師の様な小言を言うつもりは無い。
しかし魔術も何も知らない、ただここで聖杯戦争に巻き込まれた一般人にしてはあまりにも肝が座り過ぎている。
必要とあれば当然のように嘘を口にし、不思議と細かな所に目を向け、そして死んだ少女を躊躇いなく交渉の材料に使った。
「(この歪み方…………俺かと思っていたが、どうにも
天を仰ぐ。星一つ瞬かない暗闇の空を見上げながら、ライダーは面倒くさそうにため息をついた。
「存外骨が折れそうだ………恨むぞ、友よ」
この場にいないかつての友人にそんな愚痴を飛ばしながら、ライダーは歪な