サクサクと乾いた音を立てて白い砂上を歩く、人肌の温もりを背負い、白いうねりは砂の海、下りは滑るように上りは這いずるように砂漠と砂礫の大地を進む。
下りの時は背負う紅き少女ががっちりと後から腕と足で絡みつき落とされまいとしている。力の込めようで顔は見えないが様子はわかる。
その柔らかな四肢は裏切り続けた自分を包んでいるのだ。罪は許されてはいないだろうが頼られていると思うと安心する自分がいる。
今はそれだけでいい、死ぬまで無視されようが少女が望む事は叶えたいと願ってやまない。背中の重さは罪の重さではなく内側に閉じ篭もる自分を世界につなぎ止める重さ。
今はその重さが嬉しくもある。サラサラと流れる砂の様に形にならない不安よりも決意と想いは確実に少年の脚に力を与える。
砂丘の畝の天辺に立ち行き先を定める。果てしなく霞む水平線まで白い砂のうねりと合間に見える赤い水たまり、人類の痕跡も生物の姿も全く存在しない赤と白の世界が大地に拡がる。
いったい何処に行けば良いのだろうか、しかし少年は不安を振りかぶり考えても仕方ないと歩く、もう一人ではないと心に決めて歩く。
幾つかの砂山を乗り越え見た先に指さす人影、水色の髪、赤い瞳、制服姿の綾波レイが遙か彼方を指さしていた。
蒼茫の大地にぽつねんと少女はいた。
「綾波レイ…」喉が枯れ喘鳴で言葉を紡いだ。
白いもので目の前を塞がれ一瞬で見えなくなる。
気付けばアスカの包帯だらけの右腕であった。
「あっちよ」彼女も同じ彼方を指さしている。
遙か彼方に崩壊したビル群の柱のような物が見える。
再び視線を綾波レイが経っていた場所に戻せば誰も居ない、砂丘の表面は何も痕跡を残しては居なかった。
鼓膜を揺らすのは流砂の音とうなじにかかる少女の吐息の音だけであった。
暫し呆然としながら歩み始める、指し示された場所への不安と先ほどの少女に対する忸怩たる思いが交錯し足が重くなる。
だが、生きるために往かねばならないそれは理解をしても尚、慚愧の念が失せることはない。それは人が背負う胸の内の枷。
枷があるほど人は逃げられない、そこで生活していく。ある者にとって家族であり、ある者は誠実なる生活にある。
守るもの大切な物が増えるほど逃げる意味など無くなり凍鶴の如く風雪に耐え忍ぶ強さを得ていくのだ。
腹の底から胆力が沸き一歩一歩と進む足は重くとも確実に前に進む力が産まれるのだった。
又一つの砂の畝を上がり下る、一つの畝が3~5mある、砂丘のうねりよりは大きくなくとも砂は足を取り安定した場所がない。
遙か遠くの目指す場所からズレていく事に気付かぬままに進んでしまっていた。そして白い畝の頂点に立つと赤いジャケットを着た女性が遙か彼方を指さしていた。
「ミ、ミサトさん!」
側に駆け寄らんと急いで下るが足を取られて背負うアスカごと転げ落ちてしまう、薄く溜まった赤い水にバシャリと二人は頭から飛び込んでしまった。
「うっ!くぅ…」アスカから息の詰まった声がする。
シンジは慌ててアスカの身体を起こすと顔をしかめて痛みに耐えていた。
「アスカ、ごめん…大丈夫?」
「…もういなくなったわよ…ファーストと同じね…」ため息交じりに上を見る。
シンジもつられてみるとミサトであった人影は掻き消えていた。
「ミサトさんは…ミサトさんは最後に…うっうぅ…」膝をかきむしらんばかりに爪を立て嗚咽が漏れる。
「泣くのは後よ、教えてくれたんだから忘れない内にね」
「ん、うん、そうだよね、今は行かなきゃ…僕の背中に乗れる?」鼻にかかった声でアスカをおんぶする。
「んっ」アスカも鼻声で返事をした。
今は目の前の砂山を越えて目的地まで行かねばならない。赤い水を滴らせて旅は続く。
そこは今や最果て、人が暮らしていた断片が塩の柱とならずに残っている墓標であり、贄となった少年の起こしてしまった罪の痕跡でもあった。
門柱のようにビルの柱だった物が左右に立ち、近づくほど大きいものだとわかった。
そこを越えると僅かばかりだが住宅のようなものが見えてきた。
どれも傾いで真っ直ぐな物は無い。
それを見てシンジは膝から崩れ落ちた。
失った物の大きさに慄き震えたのだ。
胸の奥より沸き立つ慟哭が虚空に響いた。
少女はただ小さくなった背中を見つめていた。
碧眼に薄らと涙をにじませながら。
続き書けました。
ここまで読んでくれたあなたに感謝します。
エヴァロスで心が壊れてます。