「…君は?」
「私はアグネスタキオンと言います、この部屋が少し気になったので見学させていただいてます」
「そうか、この理科準備室は名目上化学部の部室だ」
「化学部?」
「あぁ、俺は近代が好きでな」
「はぁ」
「何の関係が?と思ったろ?」
「まあ…」
「近代は戦争の歴史だ、俺の祖父も海軍の人間だった」
「戦争というのは化学が強く関係する、一次は化学、二次は数学、三次は物理だと言われもしているが、結局は化学だったと思っている」
「まあそうですね」
「戦争とは人を殺す場所だ、そんなところで使われる化学が可哀想ではないか?」
「よくわかりませんが、使われるのであれば平和な方がいいと思います」
学校で友人がいないアグネスタキオンは、ふと立ち寄った部屋にいた180くらいの身長を持つ細身の白衣を着た眼鏡の男と話していた
化学というよりも生物の方を探求していたタキオンは、奇妙な目つきをするこの男から今すぐにでも離れたかった
「君は、いやアグネス君は、ウマ娘という存在をどう思う?」
「ウマ娘について?」
「そうだ、人と変わらぬ姿形を持ちながらヒトとは比較にならない性能を持つ種族だ!なんとも素晴らしいと思わないか!?」
「えぇ、私もなぜ同じ形で違う出力が出せるのかと小さい頃から研究はしてきましたが」
「ほう?」
急にテンションを上げた男に少し警戒しつつ、なぜか共感して少し過去を漏らしてしまった
タキオンは奥深くから湧く『なぜウマ娘は人間と変わらぬ体躯で莫大な出力を出せるのか?限界は?』といったものを探求したい欲求を持ち続けていたから、というのもあったのだろう
「しかし君は、自分のその研究に不満を持っているようだな?」
「何故その事を、とでも言いたいような顔をしている」
「!?」
「なんのことだか」
「見れば分かるさ、君は速いんだろう?しかし足がその出力に耐え得ることができない」
「つまり自分の研究を検証出来ないと言うような、いや違うな、君は走りたいんだろう?他のウマ娘を置き去りにするかの如く、君の名前にあるタキオンの名のような超光速の走りを、思いっきりしたいんだろう?」
「まるで俺の実験目標のようではないか!ククク、面白い!さあアグネス!少し実験をしようか!」
「は!?」
「君は俺のモルモットだ」
今知り合ったばかりの人間をモルモット呼ばわりとは、こいつは正気なのだろうか?
そんな事を考えていると、目の前にどう考えても発光している液体の入った試験管を渡してきた
「こんなもの飲めるわけがないだろう!?」
「ふむ、君は飲むさ、それを飲めば3時間は限界を気にせず走れるからね、あぁただそれ以内に終わらせないと、足はお釈迦さ」
「ハッハッハ!いい飲みっぷりだ!」
「なんで足首が光ってるんだ!?」
「副作用のようだね、そんなことより校庭を走ってきたまえよ」
「こちらを見て話したまえ!」
「ハハッ!あぁ!諦めていた私がバカのようだ!全力とはこんなに気持ち良いものだったのか!他のウマ娘のバックアップで限界を見る?!そんなことこれを体験してしまったら絶対に御免被る!!ウマ娘の限界は!速さの限界のその先は!未だ遥か彼方なのだ!私が!私が一番に見たい!」
「そうだろう!ああ!実験は成功さ!アグネス!君は本当に速い!速くて速くて堪らないよ!君はいつか本当に!限界を超えて魅せるウマ娘だ!その時を楽しみにしているよ!」
怪しい薬を飲み、校庭を全速で駆け回っていると興奮から叫んでしまう
その叫びに物静かなはずの男も、堪えきれないといった表情で叫び返す
そうして走り終えるとタキオンは眼鏡の白衣男にこう言った
「なあ!君の名前は!学年は!」
「俺の名前?そんなもの聞く必要はないし、名乗る名前もない」
「しかし、個人的には君とこれきりってのも寂しいからねぇ、学年は教えておこうか。私は三年生さ、もう二週間もすれば卒業してしまうがね」
「いやぁ最後にとても素晴らしいものを見せてもらったよ、やはりトレーナーという道を選んで良かった」
「君はトレーナーになるのか?ふぅン?なら君は私のトレーナーになりたまえ!私をこんなにしたんだ!責任は取ってもらうよ!」
「ふっふっ!ハッハッハ!その表情!君はお淑やかなお嬢様じゃあない!泥臭く全てに縋り!傲慢に全てを掻っ攫う!そっちの方が似合っているよ!」
「それにその目だ!速さに取り憑かれたその狂った目!そいつは素敵だ!最高だ!」
「俺に君のトレーナーになれって?いいだろう、その頃までに君の火が消えていなければね」
「待っているよ、私のトレーナー君?」
綺麗な夕陽を背に、家に帰るとタキオンはこれからのことを深く思案した
一般的な公立中学校の為、速さを求めるのであれば府中のトレセンへ転学しなくてはならない
しかし日本最高のウマ娘の為の学府であり、その門はとても狭い
「こうしちゃいられなくなってしまったねぇ・・・、母上に相談してみるとするか」
「どうしましたか?タキオン」
「!?・・・母上、私はやはりトレセンに行くことにしました」
「ふむ、それはなぜか聞いてもいいかしら?」
「速さを求めたいからです、この脆い足でウマ娘の限界の速さを」
「・・・そう、気を付けてね」
「止めないのですか?」
「今更決めたことに口は出さないわよ」
どこか悲しそうな笑みを浮かべた母はそのまま部屋を出て行った
部屋の片隅にポツンと立っていた白さの目立つ老爺は、穏やかな表情で話を始めた
「お嬢様、一つよろしいですか?」
「ん?ああ」
「奥様はいつお嬢様が行くと仰られてもいい様に、手配なさっていました」
「冷たいと思われたかもしれませんが、お嬢様はとても愛されておりますこと、お忘れなきよう」
「爺や、それを言ってよかったのかい?母上が隠していたんだろう?」
「ご主人様も奥様も、そしてお嬢様も素直ではないのですからいいではありませんか、それに老人の戯言故」
「爺やもありがとう、大変だったろう?」
「とても面白い時間でしたよ?学園でも変わらずお元気で、明日も早いですからね?」
「ああ、おやすみ」
「・・・まさか、本当に枠だけでも残ってるとはね」
三月の末にトレセン学園への転入試験を受けに行ったタキオンだったが、難関の転入筆記試験を九割を超す点数で通過したこと、さらに実技においてかなりの好成績だったことから職員の間では神童と話題になっていた
『名家から超光速の粒子が来た』と
私の最推しタキオンが4作目なの何ででしょうか(知らない)