ウマ娘怪文書の資材置き場   作:飛行士

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(連投は初めてなので)初投稿です


超光速は何処まで行くか 下

(この学園やっぱおかしいだろ色々と)

 

 男は考える

 いろんな人間が感じるであろう違和感の正体を

 

(いやまあ最初からなんかおかしいんだけども)

 

 何故、入学式や始業式の翌日にトレーナーの入社式を行う? 

 何故、皇帝のトレーナーなどという人間がこんなパンピーに話しかける? 

 何故なぜナゼ……

 

「考えても仕方ないか」

「おっと、そこの君! 早く退きたまえ!」

「は?」

 

 意識が急に遠ざかる

 完全に暗転する間際、茶色の髪が見えた気がした

 

 

(……っ! 頭が痛い……)

 

 その痛みで意識が明瞭になっていく

 視覚をまともに機能させられるようになった眼は、いくつかのベッドと医薬品の情報を脳に届けてくる

 即ち……

 

「……保健室?」

「やあやあ、目が覚めたかい? 体格差の関係で、床に直座りにしてしまって済まないねぇ、そこに椅子があるから座りたまえよ」

「ここまで運んできたのは君か?」

「非論理的な問いだね、私以外ありえるかい?」

「なんで気絶したんだっけかな……」

「それは私が衝突したからだ、すまないね」

「あ、タキオンさん! 観念してくださいッ! 教室の隅から黒煙を発生させた罰! ここで捕まえますッ!」

 

 聞き覚えのある名前を叫びながら、開け放たれたドアの向こうにいたのは、とても元気そうで目に桜模様の入った少女と、長い黒髪の物静かな少女の二人だった

 

「やあ、バクシンオー君とカフェじゃあないか!」

「さあ! もう騙されませんよ! 一緒に職員室まで行きましょう!」

「ふむ……駄目だったか」

「なんで教室で黒煙が発生するんだ……」

「おやモル……新人トレーナー君、愚問だね! そんなもの実験に決まっているじゃないか!」

「タキオンさん……まだそんなことやってるんですか……」

「カフェはもしや協力しに────―」

「違います、先生が呼んでいたので、伝えに来ただけです」

「ほう?」

「次の選抜レースについて……話があるそう……です」

「ふむ……」

「不始末もあるんです……早く…………行ってください、ほら……すぐに……」

「この模範的学級委員長がいれば大丈夫ですッ! 職員室まで共にバクシンしましょう!」

「わかったわかった……そう睨むなよ! 新人トレーナー君! 次会ったときはモルモットになってもらうとしよう」

 

 そういうとタキオンとバクシンオーとやらは、職員室の方へ消えていった

 

「嵐のようだったな……」

「日常……ですよ」

「大変だな」

「ええ……」

 

 

 翌日になり、トレーナーはばっちり選抜レース会場でスタンバっている……はずだった

 

「やべえ! よく考えたら昨日あのまま帰ったから、レース場の場所分かんねえじゃねぇかよ!」

 

 マッピングが途中で終わってしまっていたため、18という歳にもなって絶賛迷子中なのだが……

 建物の向こうから声が聞こえてくる

 

「てめェは…………ハズじゃねェ…………って話だよ!」

「ハッハッハ! …………るなよ!」

(二人くらいか……ん? 向こうにいるのは皇帝か? なんつーか物々しい顔してるが……)

 

「…………出ねェ……受けねェ……しねェ」

(話が進んじまってる、もう少し近寄るか)

「てめェの学園での立場、そろそろヤベェぞ」

「ふぅン……相変わらず愉快だなシャカール君は」

「で、さっきからそこにいるのは誰だい?」

「すまないな、盗み聞くつもりはなかったんだが……」

「なんだ、先日の新人トレーナー君じゃないか!」

「ああ、一つ聞きたい」

「なんだい? モルモットになりに来たのかい? 殊勝な心掛けだねぇ……」

「違う、選抜レース走らないのか? 君は」

「必要性を感じないからねぇ、そんなことより独自開発の筋機能測定装置のプロトタイプが、昨晩完成したところでね! これは従来の1000倍は詳細なデータが──────」

「君は本当に実験しか頭にないんだな」

「あらゆる可能性は、実験によって発掘され検討されるべきだ」

「たしかにな、そうなるといくら時間があっても足らない」

「しかしそこまで何を研究しているんだ?」

「”ウマ娘の可能性”さ」

「さらに言うならウマ娘の生物としての最高速度……いや、最高のその先といったところか」

 

 二年前自らが求め、そして諦めた夢を、目の前にいる実験狂いの少女は、どんな手を使ってでも実現させるといった目をしていた

 

「ウマ娘という種族は謎が多いからね、我々は何処まで速くなれるのか? 限界速度は? それを私はこの体で知りたいのさ!!」

「だが……その研究の為には、トゥインクル・シリーズで様々な相手と競うのが最良の選択じゃないか?」

「ああ、しかし……」

「アグネスタキオン……学園側から通達がある、来い」

「ここでお呼び出しとはね……では失礼するよ、新人君」

「……」

 

 このままではいけないと、そう漠然と思った

 過去の目標と同じものを掲げる娘だからか、それともただ不憫だと感じたからなのか、本人にもよくわからなかった

 

 

 

 あれから数日が経った

 何かできないかとも思ったが、そもそもなぜ立場が危ういのかすら分かっていない現状では、行動なぞ出来るはずもなかった

 

「じゃあ…………決まったんですか? ここを、出て行くって…………」

(……!? この声は前に聞いた……確かカフェといったか? 出て行くってもしかして退学か……?)

 

 詳細を確認するため、聞き耳を立てることにする

 

「まあ、そうだね」

「申し込んでもいない選抜レースへの強制参加要求が、どうやら最後通告というやつだったらしい」

「選抜レースくらい……出ればよかったのに…………」

「それか、普段の授業を…………もう少し真面目に受ける、とか…………」

「有象無象に研究を邪魔される日々を繰り返すのはごめんだよ」

「授業だって、無駄のない範囲でなら受けていたつもりなんだが」

「でも……退学したらトゥインクル・シリーズにも出られないし…………研究は…………どうするんですか…………?」

「無論続けるよ、私の頭脳と肉体は常にここに在るのだから」

「それに、トゥインクル・シリーズでなくとも、高い実力を持ったウマ娘の集まるレースはある」

「いっそ海外に拠点を移してもいいな! イギリス、フランス、アメリカ、ドバイ! それはそれで新たな可能性が広がりそうだ!」

 

 タキオンは心の底から嬉しそうに、楽しそうに指折り数えて、新拠点の候補を挙げていく

 まるで、たかだか一つの手段が消えただけで、何の影響もないというように

 

「海外……それはまた…………随分と、思い切りのいい…………」

「ハッハッハ! それもこれも研究のため、というやつだよ!」

「ともあれ私は”アグネスタキオン”というウマ娘の肉体を用いて、最高速度のその先を見に行く、それが揺らぐことは無いさ」

「……そう、ですか」

「なんだいカフェ? 私の身を案じてくれているのかい? それともモルモットに? 安心したまえよ! 薬は郵送……」

「いえ、結構です…………むしろ願ったり、といいますか」

「えー!!」

「でも…………研究は続けるというのなら、よかったです…………では」

「あ、待てカフェ! 最後にこの実験…………ってもう聞いてないか」

「……君、退学するのか?」

「ん? おや、最近よく会うね新人君」

「まあそういうことになった」

「……」

「これでも入学したときはかなり期待されていたんだけどね…………唯一絶対の目標である『トレーナーのスカウトを受け公式戦にデビューする』に従わない生徒を、お上は我慢できなかったんだろう」

「まあつまり私のような生徒さ、その結果はこの通り、退学勧告だ」

 

 惜しいが仕方ない、他のモノには代えられないという表情でタキオンは肩をすくめた

 

「トゥインクル・シリーズの出走権は惜しいし、研究は牛歩のごとき速度になるだろう…………が、しかし停滞よりはよっぽどいい」

「それに、いつか来る日であったわけだし、何より私も望んでいたのかもしれないねぇ……つまり」

「『つまり僥倖だった』、だなんて寂しいことは言わないでくれよ?」

 

 そう言葉を継いだのは生徒会長でもある皇帝(シンボリルドルフ)だった

 

「おや! 学園生徒のトップがお出ましとは、驚きだな」

「横入り失礼、彼女に用があってね」

「…………アグネスタキオン、退学の意志は固いのか?」

「私の意志は常に研究活動へと捧げられているんだよ、会長? 質問は以上かな?」

「…………そうだな、以上だ」

「故に、ここからは君への要望だ」

「要望? ふぅン、何かな?」

「私と並走してくれ、アグネスタキオン」

 

 そういうと、ルドルフはあれやこれやと調整し夕方の誰もいないレーストラックを貸し切った

 

(最後にタキオンの走りを見ておきたい……この謎の聞き覚えの原因も分かるかもしれねえしな)

 

 

「っと……ちゃっかり客席にいるとは……君もなかなか太い奴だな、新人君」

「まあね……期待された実力者と皇帝の並走を見逃すわけにはいかないからね」

「ふぅン、まあそういう人間は嫌いじゃない、好きなだけ観戦していくといいさ」

「私がこのコースを駆けるのも、最後だろうからね」

「待たせたなアグネスタキオン、幸いここには私たちだけ……静かな勝負が楽しめそうだ」

(そりゃあそうだろう、こうなるように手を回したの知ってんだぞ?)

(まあ今回はその掌で転がされてやりますかねぇ皇帝殿?)

「そういう時間帯を狙ったんじゃないかい? どういう腹積もりかは知らんがね」

「ふっ……さて、コース芝2000mでいいかな?」

「なんだって構わないよ、恐らく会長には大恩があるだろうからね、お安い御用という奴だ」

 

「…………」

「…………どうかしました? 会長さん」

「研究を阻むのならトゥインクル・シリーズに拘泥することは無いと、実に論理的な話だが、なぜ彼女は『邪魔者(トレーナー)』から逃げられない学園に、最後通告があるまで居続けたのだろうな?」

「…………君はどう思う?」

「……」

 

 こうして、アグネス一家の最高傑作と言われたアグネスタキオンと絶対を周りに見せつけるほどの実力者シンボリルドルフ、非公式のドリームマッチが俺だけを観客に始まった

 

 ゲートが開き、まず真っ先にハナを進むのはシンボリルドルフ

 終始先行ルドルフ、後追いタキオンでレースが進み、やはり勝つのは皇帝かと思った最終直線で、『アグネスタキオンの眼が変わった

 いつもの光を吸い込むような眼から、可能性を信じそれを実現させんとする眼に

 変わったと思った途端、タキオンがルドルフの前に躍り出る

 

「もっと速く! もっと速く!! もっと速く!!!」

「ウマ娘の脚に眠る可能性の果ては! この肉体で到達しうる限界速度は! いまだ影すら見えぬ程、遥か彼方なのだから…………!!」

 

 ああ、思い出したよ、その目その信念そのセリフ

 無邪気な少女のような……狂気的欲望に憑りつかれた悪魔のような、その速さへの渇望

 そうか、アグネス……君は……

 

「ああ! 本当に! 本当に素晴らしい!!!」

 

 

 レースが終わり、ルドルフとタキオンが何やら話している

 しかし、もう何もわからない

 速さに魅せられてしまったから、君なら速さの限界を見せてくれると分かったから

 そして……

 

「なあ! アグネス!」

「! ほう? 君、どうしたのかな? その目は」

「随分と懐かしい……狂った色をしているが?」

 

 俺一人で出来なかったことを、君と二人ならできると知れたから

 

「……こら、勝手に呆けるな!」

「スカウトを受ける気はないよ? これ以上研究を遅らせたくはないんだ」

「散々俺をモルモットにしようとしたんだ、当然試薬はあるんだよな?」

「急になんだ君は、あるけど」

 

 そういってタキオンが持っている危険な色をした薬を全て奪い、そのすべてを飲み干した

 

「……驚いた、いや驚いたな」

 

 そういうとタキオンは大きく笑った

 全ての悩みを吹き飛ばすかのような勢いで、それはそれは大きく

 

「そんなに勢いよく被検体になるやつがあるか!? まるで、モルモットだな、君は!!」

「モルモットで構わねえさ」

「……ふぅン? 何が君をそうさせた?」

「俺も、一緒に”果て”が見たい」

「……懐かしい、とても懐かしいねえ」

「昔の約束を果たしに来た」

「!? もしかして君……」

『限界を超えて魅せるウマ娘だ! その時を楽しみにしているよ!』

「そうか……いいだろう! 限界のその先へ連れて行ってやろうじゃないか!」

「ああ! 退学なんてしてる場合なんかじゃあない!! とっとと職員室まで紙を叩きつけに行こうじゃないか!」

「あー、トレーナーは何分か待った方がいいな」

「何故だ!?」

「君……発光しているぞ! 三色に! アッハハハハハ!」

「仕返しかよッ!」

 

 

 ────────これからよろしく、タキオン

 ────────こちらからもよろしく頼むよ、トレーナー君




いつも見てくれてありがとうございます。
これからも頑張ります
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