我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第二章 二人のメアリー・スー
第15話 懐かしい香り


 

「え?なんで……?」

 

「約束してくれたじゃん!来るのは構わないって!」

 

 そう言えばそうだった。とは言えこんなすぐに来るか?それにどうやって部屋に……いや、これは神相手に考えるだけ無駄なのだろうか?

 

「フウトの為に洗濯も掃除もしておいたよ!」

 

 散らかっていた柳の部屋はゴミは全て袋に詰められ、入口すぐにあるキッチンの食器は全て洗ってある。洗濯物は全て畳まれており、これはしまう場所がわからなかったの机に置かれている。

 自由奔放で不器用そうに思えた彼女は随分と家庭的だ。

 

「どう!褒めて褒めて!」

「お、おおう」

 

 元気いっぱいの忘れん坊の少女に流され言われるがまま、大人しい記憶を食われた大男は戸惑いながらも少女の頭をなでる。

 

「ふへへ」

 

 にんまりと頬を緩めされるがまま撫でられる。かわいい。

 だがそれがここに無断で来ていい理由ではない。

 

「よし、姫。何でここにいるんだ?」

「え?だから来ていいって」

「俺は来てもいいとはいったが、何時でもいいとは言ってないぞ。せめて連絡くらい入れてくれ」

「どうやって?」

「……」

「……」

「確かに……」

 

 月に住む神がどうやって現代人と連絡を取り合うのだろう。そこを失念していた。月から光でモールス信号を送られてもこちらは気づけない。

 

「ねぇ、いいでしょ~?迷惑かけに来るわけじゃないし~?」

「うーむ……」

 

 確かに姫が来ることで、いつもしていた家事は終わっている。そこまで彼女がここに来ることで起こる弊害が無いか?

 

(基本的に友好的だからと安心してはいけない事を再認識したよ。彼らは超常の存在、気持ち一つで我々は簡単に消え去る)

 

 そこで柳の脳裏に伏警部の言葉が思い出される。だから距離を置こうと断ろうとするが、すんでのところで言葉を飲み込む。

 柳は気付いたのだ。断って機嫌を損ねても面倒になる。どちらにしてもデメリットがでかい。結局柳は穏便に済ませるべく姫に許可を出した。

 

「やったー!」

 

 こちらの気も知らずに無邪気に飛び跳ねる姫に柳は先が思いやられた。

 

 

 

 

「出来たよー?」

 

 料理まで出来るとは思わなかった。彼女は一体何故神になったというのだ?

 そんな大層な存在にならなくても普通に生きていけたろうに。

 

「はーい」

 

 机に置かれたはカップ麵。そんなことはなかった。

 

「材料が何もなかったからね……」

 

 それもそうだ。ろくに自炊してない人間なのだから自炊の為の食材もない。

 適当な肉と魚の缶詰、米、後はインスタントしかないような人間だから。

 

「そうか……」

「さぁ食べよ!」

「そうだな」

 

 気を取り直して食事に移る。

 

「「頂きます」」

 

 こうして誰かと一緒に食卓を囲むのはいつぶりだろうか。

 

 中学卒業の後に一人暮らしを始めた柳はとても懐かしい。

 両親は事故で亡くなりボロい実家を売り払い土地と遺産、バイトで賄ってきた。

 よく遊んでいた友人達も今は居ない。

 

 彼女の麵を啜る姿が空白の記憶と重なる。

 柳が一番幸せだったはずの空っぽの高校時代。

 傷だらけで微笑む彼女。

 

 今まで独りだった柳にはとても暖かく耐えられない。

 

「うぅぅ、ぐすっ」

「ど、どうしたの!?」

「アァ、くそ、くそ!」

「大丈夫!?なにがあったの!?」

 

 柳は泣いた。

 彼女の胸の中、かつての懐かしい香りのする彼女の胸の中で。

 

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