我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第21話 伊吹雪の嘆き

 

 学校の屋上で一人、彼女は誰にも気づかれないように屋上の入口の上、横にある梯子を使って行ける給水タンクのある空間の壁にもたれかけ座る。ここは室外機やタンクを隠すため遮蔽物が多く周りの目をごまかせる。自分一人、屋上にいるのを老人に見られた時に彼女はなんとなく身を隠したくなった。

 

「どうして……何で……」

 

 屋上で独り泣く彼女には勇気が無かった。

 

「こんな世界に来ちゃったんだろう……行きたいなんて思ってない……」

 

 昼休みを告げるチャイムが校舎に響く。

 

 

 

 伊吹は死んでここに来る前は普通の女子高生だった。

 特に波風立てられる影響力もなく、少し成績がいい程度の人間だった。そんな彼女は不幸にも命を落とした。

 

「ここ、どこ?」

 

 暗い闇の中で目を覚ました。

 見渡す限り闇。地震災害に寄って命を落とした彼女はきっと埋められたと思っていたのだろう。

 

「誰か!誰かいませんか!」

 

 自身の体すら見えない闇の中彼女は叫ぶ。だがその時、見えはしないが体が自由に動かせることに気づき、状況が理解出来なくなる。倒壊によって埋められた場合どこかに圧迫感や拘束されるような重さがあるはずなのに。

 

「え?なんで?ここどこなの?」

 

 全身を覆い始めた闇が彼女の心を包み込む。

 自分の足にも地を踏んでる感触が来ず、五感の全てが機能せず自分がどうなっているかさえわからない。やがて宙に浮いているかのような錯覚を覚え始め、自身がどうなるかさえわからない。

 

 永遠の闇の恐怖に怯え、伊吹は精神が見えない恐怖に追い詰められていく。

 それに変化を与えたのはその闇から聴こえる何者かの声。

 

「お前は恐ろしいか?」

 

 そのものが何者かはわからない。低く唸るような、けれど、どこか暖かいような不気味な声が響く。

 

「怖い!」

 

 ただ彼女はここにいる恐怖から逃れようと反射的に叫んだ。

 

「ならば生まれ変わらせてやろう。お前たちは刺激に飢えているのだろう?自由に、愉悦に、闘争に飢えているだろう?お前たち人間は」

 

 彼女は物語に出て来るような人間と違う。常識も文化も違うような世界で生きていける程の胆力を持ち合わせていない。何処でも生きようと抗える図太さなんて無い。

 ただ死にたくない、恐ろしいものに会いたくない、不幸に会いたくない。そんな消極的な弱い人間。そのような人間が人を殺してしまうかもしれない状況で戦える精神などない。罪の重さに耐えられず潰されてしまうだろう。

 

「い、嫌です!そそんな恐ろしい事……」

 

 だがそれは無情にも受け入れられない。

 

「お前には現実に近いが少し違う世界に送ってやる。怪物と戦える素敵な世界だ」

「え?待って?そんなのいらない!」

「だからお前にはそんな世界で生きられるよういいものをやる」

 

 話を聞いてくれない、どころか定型文のようにあらかじめ決められた言葉を吐き続ける機械であるかのように勝手に話が進められる。

 

「待って!やめて!いや!」

 

 何を言っても反応しない声に彼女は底知れない恐怖がやってくる。

 私は一体ナニと話しているのだろう。私は一体そのナニから見てどういう存在なんだろう。視界が段々白くなる。

 ああ、何故私はこんな目に遭うのだろう。

 こうして彼女はここに来た。きっとあの男もこうしてここに来たのだろう。きっとまともではないのだろう。こんな人間には過ぎた力、持て余してる彼女は実感が無いけれど、あのケダモノは思うがままに振り回して来たのだろう。

 

 こんな世界来たくなかった。そう思う彼女は絶望しか残っていない。

 

 そう、給水タンクにもたれうなだれる彼女は階段を登る音を聞き取る。

 その時、彼女の下にある屋上の扉が開かれた。

 

「ヒィ……」

 

 身を伏せ気付かないよう息を潜める。あのケダモノに見つからないように。

 

 

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