我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第23話 塗られていくキャンパス

 

 黒髪スポーツ刈りの生徒、枯れ木のように細い彼の体格だが、柳は一目でわかった。彼はなにかしらの武道を収めてる。腕章を見る限り風紀委員だろう。

 だがそれは柳が腕章を見てそう思ったのではない。彼の立ち振る舞いに柳の空白の記憶が彩を塗られていく。だがそれは下手な水彩画のように不鮮明だ。

 

「今すぐ立ち退きなさい!」

「すまない。すぐ出ていく」

「ん?貴方たち……見ない顔だ。うちの学校の教師じゃありませんね?」

 

 稲永はその言葉にどうしたもんかと頭を抱える。

 口を開いたのは柳だった。

 

「ああ、ここの卒業生だ」

 

 そう、柳は思い出した。自分はかつてここに居た。彼と同じように何度か怒られていた。だがそれは何故だ?その記憶は無い。

 

「そちらの方は?」

「俺の恩師だった人だ。もう退職してる」

 

 柳はよく自分でもこんな出任せを思いついたものだと内心笑った。

 噓というものは本当と織り交ぜると説得力が増す。風紀委員の彼は柳の顔を見て何かに気付く。

 

「もしかして貴方?柳さんですか?」

「あ、ああ。そうだが……」

「よく問題を起こしていた?」

「そ、そうだ」

 

 柳はまだ自分がここ在籍していたことしか思い出していない。

 過去の自分が何をしていたのか分からないが、この状況を乗り越えるため頷くしかない。

 

「あーなるほど、そういうことですか……取り敢えずここは立ち入り禁止なんですから出ていって下さい」

「何かあったのか?俺がここに来た時は屋上は開いていたはずだが」

 

 三人は階段に向かいながら喋り、二人階段に進むのを確認した風紀委員は鍵を掛けている。

 

「何言ってるんですか?先輩からよく聞いてますよ、無理矢理ここに来て占拠していた迷惑な奴だったって」

「そうじゃない、()()()()()()()()()()()()()()ぞ」

「なんですって?」

 

 柳のあとの稲永の発言に耳を疑う風紀委員。

 

「ワシがここに来る前に誰か屋上にいるのを見たぞ」

「本当ですか?」

「誰か心当たりが?」

 

 柳はさりげなく風紀委員から情報を聞き出そうとする。

 

「いえ……少なくとも貴方がここを去ってからそんな例は聞いていないそうですが……」

 

 過去の柳は一体どれだけ傍若無人だったのだろう?

 

「とにかく私はこの件を報告しに行きます。」

 

 そこで風紀委員と別れた。

 

「結局、手掛かりはありませんでしたね」

 

 柳は肩を落とす。柳の記憶の第一歩はあった。だが事件にまつわるものは何一つ見つかってない。

 

「いや二つあった。まず普段から入ることのない生徒がここにいたって事はやっぱり学園内で何かがあったってことだ」

「二つ目は?」

「柳、お前ここの卒業生なら違和感とか無いのか?何でもいい。それを掴めれば進めるかもしれんぞ」

「そんなこと言ってもあんまり憶えてないんですから」

「物は試しだ。ヤマダの野郎が言うんだ。何かはあるはずだ」

 

 柳は気が進まなかったが校舎内をうろついてみることにした。事件よりも自身の記憶を塗りなおす為に。

 

 

 

 廊下を歩いていく柳。見覚えはある。がそれだけ。

 記憶にはないが、どこかで見たことがある気のする既視感が柳にこびりついて離れない。

 

「例の怪しい教室はどこですか?」

「三階の端、体育館とは反対のとこだ」

 

 今は既に昼休みを終えている。生徒達は今授業で教室にこもっている。廊下には人っ子一人居ない。教室の窓ガラスは全てすりガラスでこちらの姿を認識されないのは都合がいい。

 柳は曖昧な記憶と目の前の現実を摺り合わせ、何か異常がないかを探る。

 この学校は教室棟とその他、特殊教室がある特別棟に分かれそこから体育館に通じている。教室、技術室、家庭科室、化学室、生物室、コンピュータ室等々。多くの教室の前を進んできたが今は特に異常はない。誰もいなさそうな教室も中を見てみるがおかしなところもない。

 だが職員室を通った時一つあることを思い出す。確か自分の担任は鍋川と言う名前だったはずだ。

 柳は稲永に離れているように言った後職員室に入る。

 

「すいません」

「ん?君は誰だ?」

 

 突然やって来た柳に対して尋ねる教員。彼には見覚えがない。

 

「俺、ここの卒業生で鍋川先生に会いに来たんですけど……」

「鍋川先生?ああ、彼なら今なら生徒指導室だよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 先生に礼を言い職員室を出る。稲永はすぐに柳に近づいてくる。

 

「で、なにがわかった?」

「それを今から聞きに行きます。ずっとここにいる人に」

 

 生徒指導室に行こうとする柳に呼び止められる。

 稲永はちょっと言いにくそうに話しを切り出す。

 

「そうか。だがちょっといいか?」

「なんです?」

「さっきここを通り過ぎた若い女の先生が居たんだがな。その先生、なんか変だったぞ」

 

 稲永の眼は倉庫の時と同じ何かに感づいている眼だ。

 

「なんかって…なんすか」

 

 稲永はポケットからピンク色の何かを出す。その手は捜査で使う白い手袋をしている。

 

「虚ろな眼でこれを落とすなんざ、絶対になんかあるに決まってる」

 

 それは屋上でも見たものだ。

 

「教師が……ゴムを?」

 

 しかも使用済みだった。

 

「絶対に何かある。多分教師だけじゃなく生徒もな」

 

 稲永は何かを確信しているがその詳細を言おうとしない。

 

「でも単にただの校内恋愛なんじゃ?」

「ああ、お前の疑問ももっともだ。だからもっと証拠が必要なんだ。ほら、聞き込みに行くぞ」

 

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