我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第27話 我儘な子供の末路

 

 龍造寺の犯したミスは二つ。

 割腹のいい鍋川を前にたたせ、柳が視界から隠れた事。

 そしてよりにもよって、痛めつけられた女子を人質にした事。

 

「さあ!やれよ!デブ!」

 

 龍造寺の発言と同時に鍋川が木刀を振り上げると同時だった。

 鍋川の体がこちらに飛んできた。

 

「は?」

 

 そのまま巨体に押しつぶされ、悲鳴もあげることもできない。

 柔らかく大きいボールが飛んでくるのを想像してもらえればいいだろう。その一撃そのものの、殺傷力は低い。だが衝撃は強く簡単に体勢を崩される。肥満体の男性が全身に飛んでくる。

 柳はただ鳩尾を殴っただけ。高速で放たれたカウンターの正拳突き。

 幼少から人を殴っていた彼は我流ながら格闘術も持っている。

 

 大きくものを振り上げ、反り返った人間を、くの字にへし曲げ吹き飛ばす。鞭のような脱力から瞬発力、全身のアドレナリンから押し上げられた馬鹿力、我流武術から全身の力を込めた掌撃。

 

 デカい体格と筋力から放たれた一撃を容赦なく恩師に叩き込んだのだ。いくら憶えていないとはいえ、親しかったであろう人間への一切の躊躇なし。

 

 赤く目を血走らせ、息を荒げる柳は正気でない。

 

 人質の少女は幸運だったろう。彼女は衝撃によって後方に飛ばされ、後ろの龍造寺がクッションとなった。龍造寺は教室の壁に叩きつけられ、ナイフを取り落とした。

 人質も手放し、床に倒れる。

 

「お前……正気かよ……」

 

 龍造寺、君はどんな手を使ってここまでの悪行を重ねてきたのだろう。神から力を貰い、それは増長した。人を操り自身には何の証拠もない。君が過去、どのような人間だったにせよ過ぎた力で暴れまわったツケはやって来る。

 

「お前、お前、お前も俺の言う事を聞けよ!」

 

 龍造寺は柳の目を見ながら叫ぶ。眼が怪しく光る。倒れ伏した他の少女たちが起き上がり柳を抑えにかかる。

 だが柳は怒りのまま龍造寺に向けて歩みを止めない。既に柳から落ちた木札は灰になっているというのに。手や足に亡者のように縋られても勢いは止まらない。

 

「なんでだよ、とまれよ…」

 

 龍造寺、どこに逃げようと理不尽はある。龍造寺は札の事は知らないが貰い物の能力が効かないという、自分より強い人間に当たってしまった。

 柳は近くに逆さまになった机の足を握る。

 

「こんの、野郎!」

 

 ふらつく足取りでスタンガンを押し当てようと走る。十数に組みつかれた一人の人間には当てられるはずだった。

 冷静さを失った二人、勝つのは強い方。横なぎに振るわれた机が龍造寺に直撃。

 重い一撃にそのまま倒れ伏す。スタンガンは机の天板に叩き潰される。

 

「待ってくれ!そ、そうだ!俺の力があればお前らの役に立つはずだ!助けて!」

 

 負けを悟った龍造寺、証拠を残さないようにしてきた狡猾な頭脳で命乞いという取引をする。柳はただ龍造寺を見下ろし、獣の咆哮を揚げ、振りかぶる。机の天板がギロチンの刃となり、龍造寺の喉をとらえる。

 

「……!?」

 

 喉を潰され喋る事が出来ない。

 会話の出来ない獣に取引を吹っ掛けるなど、意味の無い。それを他でもない龍造寺自身が、知っているはずだった。彼が快楽で痛めつけた、生徒たちのように。

 

 鈍い板では首を切断出来ない。続けざまに二撃目が振るわれる。龍造寺は死の恐怖に怯え目をつぶり、手で身を守ろうとする。

 

 腕は容赦なく砕ける。ささやかな抵抗はただその時を遅らせただけ。

 

 そして三撃、四撃、五撃。少しづつ血を吐きながら、涙を流しながらその時を待つことしか出来ない。

 

 そして六撃目、トマトが弾けた。

 

 

 

 

 死屍累々の教室。いや死者は一人だが、誰もが倒れた教室から柳は教室から出る。

 柳を今動かしているのは赤い憤怒だけ。その感情、本能が何かを知っている。廊下は何人かの生徒は血を流し倒れている。割れた窓ガラスや打撃痕、生徒がいなければここが廃墟なのではないかと思うほどの惨状。何故、誰もこの騒ぎに駆け付けないのか。そんなことはわからない。

 

(そう言えばあの夢の場所、同じ階だったな……)

 

 一歩、一歩、遅い足取り。

 

 柳の中は今、空っぽの頭でそこに向かう。傀儡のようにぎこちない歩み。無気力な思考。屑を見た時に思い出した記憶が柳を疲弊させた。

 

(またあの夢に近い場所に行けば安らぐだろうか?)

 

 何分とも思える長い廊下の先、教室の扉を開ける。そこは夢で見た光景と重なる。まだ昼過ぎで明るいがそこから見える景色は紛れもなく同じだった。

 だがそこに立っていた少女は違う。

 同じ制服を着ていたが首が無い。鋭利なもので切り取られ、力なく倒れている。

 

 その傍に白痴の姫が首だけの少女の髪を持ち佇む。その下には彼女のものだったであろう眼鏡が落ちていた。

 

 こちらに気付いた血に濡れた姫はあどけなく微笑む。ただ微笑んでいるはずなのに、彼女の狂気が柳の肌を伝う。

 

「もう大丈夫だよ。後は任せて」

 

 そこで柳は意識を失った。

 

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