我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第28話 不都合は曖昧に消える

 

 日が傾き始め、少しずつ傾きカラスが鳴く。

 そろそろ学生達が家路に帰る時間だ。

 

「盛大にやってくれたな。ヤマダクン」

 

 伏警部は今にもブチぎれそうな程、顔を歪めている。

 気を失った生徒達を一人づつ教室に並べている。

 

「しょうがないよ。外来人とはそう言うものだし」

 

 そうヤマダがあっけらかんと言ってのけ並べられた彼らに呪文をかけていく。

 一人一人、傷や服の汚れが巻き戻っていく行くように直っていく。治りきった人から朦朧と歩いて教室を出ていく。誰もそのことに疑問に思っていないようだ。

 

「これを私と君だけで後始末出来ると思って彼らを野放しにしたのか?」

「そー言わないでよ、だから私は月のあの子を引き込んだんだよ?」

 

 ヤマダが指した窓の先には白痴の姫が空に手を掲げ何かを唱えている。

 学校の敷地を覆うかのように半透明の結界が作られている。外から見たそれは朧げに映っているが近くを通る人間は誰も気にしていない。むしろそれを見た人間は何も考えていないような腑抜けた顔になる。

 

「ここまでの大事、ばれたら大目玉を喰らうだろうね~、ポン?」

「……記憶を消し、彼らの時を巻き戻し、後は気づかれないように調整する。我々が上手く隠してこれたのは少人数だったからだ。その程度だったら記憶違いでどうにかなる。だがこの規模、それも一つ組織単位で同じ違和感を持たれた場合どうなるか解らない。君はそれを理解しているのかね?」

 

 伏警部はヤマダに問い詰める。自身の立場からして伏から見たヤマダも世間から隔離するべき存在。今までは協力的だったからこそ見逃されていた。今回の事例で伏はヤマダを警戒している。

 

「メアリー・スー、知ってる?」

「なんの話かね」

 

「ネット発祥の言葉。元あった創作を論理とか道理を無視した改変、ようは自分のやりたいよーに滅茶苦茶に変えちゃうの。世界丸ごと、関わるものすべて。そんな相手に学校一つ、まぁ他にも被害者いるかもしれないけど、だけど学校一つで済んでるんだよ?」

 

 伏警部は顔を手で抑えた。それは諦めからでた仕草だろうか、それとも今後の心配からだろうか。

 

「覚悟はしていたが……ここまで大事なったのは初めてだ……」

「言ったでしょ。ただでさえ危険な神を引き込まなければいけない程の事件が起こるんだよ。新人二人の初仕事、結構ハードじゃないと後々大変なんだよ」

 

 黙々と作業を続けていく。全校生徒を家に帰した

 

 

 日も暮れ、カラス達は飛びたつ。校舎は陰り一部職員以外誰もいない。

 伏警部が学校を後にしようと車に乗ろうとした時だった。後部座席には柳が寝ている。稲永は伏警部がやって来ると同時に柳を放り込み助手席で寝てしまった。

 

「あ、そうだ。ポン!」

「何かね?」

「これあげる」

 

 そう言ってヤマダから渡されたもの、それはバスケットボール程の黒い袋に入れられた何か。

 

「これは?」

「いやー()()にも協力してもらおうと思ったんだけどねー、()()()()()()()()()()()()()

 

 その袋を伏は開ける。

 

 まず目に入ったのは袋の中で乱暴に絡まった細く黒い髪。

 その上に置かれた誰かの眼鏡。

 さらにその下の肌色をつたった涙の跡。

 

 伏はヤマダを睨み警戒心を剝き出している。

 

「見込みある外来人を見つけて姫ちゃんにしばらく面接させてたんだー、能力には問題無かったんだけどねー」

 

精神が未熟だったから不合格になっちゃって(あんまりにもワガママいうから殺しちゃった)ー☆」

 

「そうか……女医君も喜ぶだろう。材料が二つも手に入って」

 

 そう諦めたように言う伏は乗ってきた車に既に一つ、同じ様な黒い袋が積まれている。

 

「わたしとしては引き込みたかったけどな~」

 

 ヤマダは気にもしてないようにその辺の石を蹴り飛ばす仕草をする。

 言葉とは裏腹に表情は全然悲しそうではない。

 

「あ~疲れた~。たった一日とは言え三百ちょっとの人数を戻すのはしんどい~」

「一日だけなのかね?」

「うん、ホシが転校してきたのは今日だからね。余所の県で始末出来なかったのがうちに回ってきただけだから」

 

 ヤマダは伏の前に歩みを進め門を出る。境界を抜けたヤマダの後ろ姿は影に溶けるように見える。辛うじて電灯から出る光がヤマダの輪郭が分かった。

 

「なぜ、なぜ君は、そこまで協力的でありながら全てを明かさない?今回だってここに来るまでに仕留めてどうにか出来ただろう」

 

 ヤマダを責めるように言う伏警部。

 一瞬、ヤマダは立ち止まるがすぐに歩き出して姿を消した。

 

「わたしはみんなみたいに強くないから……」

 

 闇に溶けるよう小さく吐かれた言葉だけが伏の耳に入った。

 

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