我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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 君はまた知りたいのだろう?

 今度は伊吹雪がどうなったか?
 彼女は幸運だったろう。魑魅魍魎が蔓延る異世界で、無い精神を振り絞り、よく高校生として生きれたものだ。

 よくもまぁ、そんな彼女の最後の姿を見たいと思えるね。

 おっと気を悪くしないでくれ。君の為を思って言ったのだよ。今回は少々ショッキングだからね。

 知らない方がいいこともある。警告はしたよ?
 まぁ、どうせ君はスクロールを行うのだろう? 

 言っておくと事があるとすると、異世界とやらに幻想を持つのはやめておいた方がいい。その先が君の望む世界である確率なんぞ計り知れない。そもそも、ここと違う世界で適応出来る人間はどこでも適応出来るのだよ。

 彼女は……ここで生きるのには悲観的過ぎた。そこまでの力を与えられたにもかかわらず。力があるのだから何が来ようと迎え撃てば良かったのに。

 全て終わった後にで嘆いても仕方ないか。
 弱者は食われるしかない。どこでもそれは同じだ。


やぁ、また会ったね。
第22.5話 伊吹雪は強くない


 

 伊吹は息を潜める。

 

 男二人の会話が聞こえ緊張で身を固める。

 

「どこかにはいるはずじゃが……」

「何が?」

 

 伊吹には二人の声に聞き覚えは無かった。

 だがその年老いた声は発言でこちらを見ていた老人を思い出した。

 

「もう降りたんじゃ?昼休みになったから下に降りて、何処かに紛れこんだじゃないですか?」

 

(彼らは何者なの?)

 

 彼女はあのケダモノを知らなさそうな彼らと関わるか悩んだ。

 

「あそこ、誰か隠れられそうじゃないか?見てこい」

 

 自分の存在を知られどうなるか。彼女が見た異常は教室にとどまり外から来た人間には及んでいないかもしれない。だがその確証は無い。

 そうして梯子を登る人物に、恐る恐る声をかけようとした時だった。

 

「駄目だよ」

 

 そう、背後から少女の声が聞こえた瞬間だった。

 

 

 

 彼女は月に居た。伊吹の首裏に刻まれていた印が煌々と黒く輝き熱を持つ。

 月のクレーターの中心、そこを取り囲む青黒い人影達。空は黒く、だが地表は太陽で照らされた空間。明るいはずなのに、天は明るさを失った世界が伊吹の精神にとどめを刺した。

 

「ねぇ」

 

 空からそう声が聞こえたと同時に彼女の脳裏には、この世界に彼女を連れて来たあの存在が呼び起こされた。

 瞬間、周囲が爆ぜた。伊吹を中心にクレーター内で絨毯爆撃のように何度も爆発が起きる。クレーターの縁で立っていた人影は爆炎で吹き飛び砂塵が舞う。無から生み出された爆発が周囲を破壊し尽くす。

 空からそれを見る黒いワンピースの少女はつまらなさそうだ。彼女の目にはそれが無差別に行われ、まさに子供が泣きながら必死に手を振り回す行いと同じ様に思えたのだ。

 

「こんな子供、味方にしても足しか引っ張らないでしょ……」

 

 癇癪を起こした子供のように暴れ回りとうとう伊吹はクレーターから飛び出た。彼女は泣きじゃくりながら、声にならない悲鳴を上げながら爆発を連れて走る。その目はどこも捉えておらず、脅威と思われた佇むだけの人影の何人かが巻き込まれる。

 

「はぁ~あ、めんどくさいっな!」

 

 少女が指先を伊吹に向けて言う。

 

「”わすれろ”」

 

 少女の指先から白く細い光が発せられ、伊吹の首筋の印が今度は白くなり伊吹は立ち止まる。

 

「”うかべ”、”こい”」

 

 今度は伊吹の体が浮かび少女の前に引き寄せられる。

 

「もー、好き勝手して。”おまえ、どういう立場か理解してんの?”」

 

 底冷えするような声が直接伊吹の脳に響く。泣きじゃくっていた彼女は強制的に正気に戻される。何も無い空間に磔にされ、目の前の少女を反射的に攻撃しようにも頭が白く染められ何も行動に移せない。

 

「さて?どうしよっか?」

 

 そう言う少女と伊吹はだんだん地面まで高度を下げる。降り立った地面には青い人型の怪物が伊吹を取り囲む。隙間なく青に埋め尽くされ、何十もの金色の瞳が伊吹を見つめる。

 

 恐いだろう?今まで自分を襲ってきた怪物の親玉と言わんばかりにふんぞり返る少女は。だがその顔は不機嫌に鋭い眼つきを向けている。抵抗しようにも、言葉を出そうにも、思考が出来ずただ少女を見つめることしか出来ない。

 ただ恐怖のみが募っていく。

 

「よいしょっと」

 

 目の前の少女は突然巻物を取り出し天に掲げる。

 

「よっと」

「捕まえたよ。で、これどうすんの?」

 

 どこからともなく現れたスーツを着た女性。

 彼女は動けない伊吹に近づき目を覗いてくる。

 

「ほーほーほー、なるほどね」

「なにしてんのー?どうするのよー」

「姫ちゃん、今まで見てきてこの子どうだった?」

「こっちに引き入れるかどうかの話?ダメ、癇癪持ちの子供を入れても肝心な時に足引っ張るだけでしょ。攻撃力は満点だけどそれ以外が最悪」

「そっかぁ」

 

 伊吹は散々言われて恐怖と共に今までの理不尽と怒りがこみ上げてくる。

 

「何なんですか!?あなた達!私に付き纏って何なんですか!私はこんなこと言われるような何かしたんですか!」

 

 スーツの女性は間近で叫ばれた事に驚き、目を丸くして肩が飛び跳ねる。

 それは彼女が見せた最後のささやかな抵抗だった。

 

「ふ、ふふふ、あはは、あっはっはっは!」

 

 それを見て少女は嗤う。

 

「おまえ、まだ自分のこと、人間だと思っていたんだ?この状況で?そんな力を持っておいて?」

 

 伊吹雪は少女の言うことがわからない。自分は変な能力を持たされただけの少女だったはずだ。そうだそのはずなんだ。

 

「じゃあ、ゲームをしよう。君がクリア出来たら考えてあげる」

 

 何事もなかったかのようにスーツの女性の口元は笑っている。

 

「ゲーム……?」

「そうゲーム!姫ちゃん」

「なに?」

「彼女の何がダメなの?」

「精神」

「とのことなのでそれをどうにかしましょう!」

「ルールは簡単!」

 

 そう言った瞬間、彼女の顔が歪み五つの目だけが伊吹を捉える。

 伊吹はそれと同時には磔から解放される。

 

「満足するまで遊ばれろ」

 

 その目の一つから光線が放たれ伊吹の頬を掠める。

 

「ヒィ!?」

「恨むならボク達じゃなくその力を恨むんだね」

 

 伊吹は急いでその場から逃げる。青い人影を搔き分けてウサギのように逃げる。

 

「いや!やめて!」

 

 頭の中で声がする。

 

(困っているようだな……)

 

 彼女をここに連れてきた声。パニックになった彼女は気にしている余裕はない。

 

「やだ!帰してよぉ!」

 

(助けてやろうか?)

 

「たすけ」

 

 藁にでも縋るように、反射的に助けを求めようとした時、光線が喉を焼いた。脊髄を貫き、首から空気が漏れる。声を出せず啞然とする彼女は体を動かせなくなり、うつ伏せに倒れる。

 

「君には恨みはないけれど、こっちも必死でね。向こうの影響を受けた人間を野放しには出来ないんだ。まぁ、流石に可哀想だし生かしてはあげるよ」

 

 そこで彼女の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 暗い部屋の中、棚の中に大量の瓶が並ぶ。どれも瓶というには丸く開け口が無い。ガラス玉というには平らなそこがある。瓶には何本かコードやチューブが繋がり、その中で浮いているピンクの脳。

 

(タノシイ……)

(キモチイイ……)

(ウレシイ……)

 

 くぐもった音が部屋に響くように聞こえるが実際に音は鳴っていない。

 

「おお、いいこいいこ。」

 

 一人の女性がそれの一つを抱え愛おしそうに撫でる。

 

「女医君、居るかね?君に届けものだ」

 

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