我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第三章 空白の亡骸
第36話 真理の館


 

 時刻は三時、柳は一旦家に帰った後、一人で例の林の一本道に来ていた。空は少しだけ赤みがかっている。夢で見た一本道を歩く。後ろから闇が迫ることもなく進む。

 道は所々荒れ果て、落ち葉や土が被り汚れている。枯れた木々の上に数羽の烏が止まっている。

 

 夢で見た時はここまでは汚れて居なかった。

 

 館の門は雨風と時間による劣化で錆び付き、鎖を巻かれて閉ざされている。館自体も白い塗装が剝がれ、かつて見た美しさは何処へやら。門の奥に見える噴水は枯れて庭にあった調度品の数々は無くなっている。

 

 柳は門をよじ登り、中に入る。スーツの裾に錆が付いた。

 廃れ、誰も入ることのない館に久しぶりの来客だ。

 

 昼前に見た資料で見たカルト宗教「真理の瞳」と呼ばれる連中は教祖の夏川宗一が全てを見渡す真理の神からもたらされた瞳によって世界に確変をもたらそうとしていたらしい。詳しいことは資料からはわからない。少なくとも柳の中学生時代には聞いた覚えはない。

 

 だが夢で見たこの景色、更には闇がその全容を隠している。闇が隠す秘密を求め扉に手をかける。

 

「開いてる……?」

 

 柳は不審に思いながらも館に入る。館の中自体は埃が被っただけで異常は無く、掃除すればまだ使えそうだ。入ってすぐのエントランスは広く薄暗い、壁紙やシャンデリアは劣化している様子は無い。

 

「まだ綺麗だな」

 

 館の中は昔、誰かがそこで暮らしていたのか生活の痕跡が残っている。埃が被っているもののそこに残された物品はまだ使えそうだ。信者が生活していたであろう簡素なベッドルームや謎の像やボードが保管された部屋達、食堂やトイレ、シャワールームなどがあり、住み込みでの生活が行なわれていたのだろうか。鍵のかかった部屋もあり、その中は分からない。だがその部屋の扉には化学室や技術室と書かれている。

 

「宗教で化学?」

 

 館の部屋を一つ一つ見て回るが、見たところでは誰もいない。ここで惨劇が行われていた時、どんな状態だったのだろう?

 

 そんな時、柳の目に一つだけやけに豪華な扉が目に留まる。館の正面奥の先、その部屋の扉は綺麗に装飾され、プレートがつけられている。

 

「夏川……?」

 

 ここを仕切っていたであろう人物の部屋だ。

 だがそれはプレートの真ん中に「夏川」とだけ刻印されている。教祖というからには様づけとかもっとこう……敬うだろう。

 

「なんで、夏川だけなんだ?」

 

 その答えは扉の先にあった。その扉の先は玄関。

 

 ?

 

「???」

 

 一瞬、自分に何が起きたかわからない。館の奥の一つの扉の先が、まるで一般家庭にあるような玄関が柳を迎えたのだ。自分が何処か別の場所にいるのではないかと後ろを振り返るが、後ろはさっきまでの館の廊下だ。

 

 館の中に家?

 

 随分と素っ頓狂な設計だ。建物の中に建物とは。つまりあのプレートは表札だったのだろう。マトリョーシカのようなこの設計に何が隠されているのか気になった。

 

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