我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第30話 柳風斗の過去③

 その日の夜、柳はアパートの自室でアルバムを探していた。

 知らぬ間に忘れていた高校時代、その中身を探していた。

 

「あった」

 

 押入れから取り出された一つのアルバム。

 そこに映る柳はどれも笑顔は一つもない。むしろ怒りなのか悲しいのかわからないが不機嫌なものが多い。だが年が経つに連れそれも無くなり三年の頃には誰かと楽しそうだった。

 

 記憶の無い風景。

 

 だがそれが恐怖や違和感を抱くよりも懐かしく感じるが、ただそれだけではない得も知れぬ空白の感覚が柳に残っている。

 

 柳は押し入れの後ろに目をやる。

 柳のすぐ後ろの布団で眠る姫。

 

 彼女と過ごして早一週間は過ぎ、未だ彼女のことが良く分からない。わかるのは柳に好意を向けていること。頭の悪い柳でも嫌でも意識してしまう。外見こそ違えど、この子は夢で見たあの人なのではないか?

 

「姫、もしかしてお前……?」

 

 そんなまさかが、柳の中を廻る。

 

 だが足りない情報で答えが出るわけでもなく横になる。安らかに眠る目の前の姫。

 考えても埒が明かない。そのまま布団の中で眠る。

 

 

 

 柳は幼い頃、悪と戦う正義の味方の番組を見て育った。一本筋の通った自身の正義を変えることなく戦う。その生き様に憧れたのだ。

 英雄になることではなく何があっても曲げない生き様に惚れたのだ。

 なまじ身体能力だけはあった柳はその正義と同じ様に生きた。かつて彼が友人達と纏めたそのグループは柳の象徴と言えよう。

 

 夢の中、柳は車に乗っていた。後部座席で一人、助手席には母、運転席には父が居た。そこで二人は楽しそうに話していた。内容はわからない。柳の新生活の事だったかもしれないし、今から向かう楽しい旅行の事だったかもしれない。

 

 だが一瞬にして全ては燃えた。

 

 そのとき柳が理解出来たのは何かが車にぶつかり車が宙に浮いた事だけ。

 

 気が付いた時、そこは燃える車内だった。朦朧とする意識、煙が足元に向かい上がる。目の前は赤いインクが一面に広がっている。

 ベルトを外した時、頭から天井に叩きつけられた事で始めて車が反転していることに気づいた。火の手は自分のそばに来ていた。少しづつ割れた窓ガラスまで這って出る。柳はその後の事はよく覚えていない。

 

 ただ古ぼけた屋敷の暗いリビング、仏間には二人の写真が有った事だけ。

 

 二人は柳の事を愛していた。柳の事を否定することなく、ただ不器用で学を気に付けられなかった彼が生きやすいようにと、人としての道徳や社会のことを教えてくれた。暴力的な風斗が不貞腐れる事無く正義でいられたのは間違いなくこの二人のおかげだった。

 

 柳には二人の死が受け入れられなかった。ずっとこの家で暮らすことは度々のフラッシュバックで出来ず、家を管理することも出来ず柳は最低限の荷物を纏め、今の駅に近いアパートにやって来た。幸い怪我もなく入院もしなかったが柳が失った物は多い。

 

 思い出したくもない記憶。

 だがこの先を知らねば柳は今置かれている謎には近づけない。

 意を決して、夢の中でその次を見ようと目を閉じる。

 

 

 

 目を閉じた瞬間、柳は闇の中に立っていることに気付いた。目を開けても変わらない暗黒。足元には水たまりがあるのか足を動かすたびに、チャプチャプ音が鳴る。そこから少し離れた場所にポツンと、電灯とその灯りが地面を照らす。その下の水は白く反射して一面水浸しだということがわかる程だ。暗黒の中を柳は歩く。

 

 白熱電球から出る光は暖かく懐かしい。その下に立ったと同時に周りの風景が変わり始める。

 

 暗い林道に点在する電灯の一本道の先にある洋館。

 柳はそこに何度か行った事がある。理由は解らない。それ以外、全て黒く塗りつぶされた闇が広がり情報が得られない。背後から何度か何かが割れる音が鳴る。

 

 振り返ると後ろの電灯が一個ずつ割れ、闇が迫る。急いで館に走る。迫る闇は黒一色で電灯と並木を飲み込んでいく。最後の電球が割れると同時に門に飛び込み扉が閉められる。庭の調度品を照らすライトや、真ん中の広場の噴水を照らすライトが闇を追い払う。

 

 一息つき柳はその館を探索しようとした時。

 

 ジリリリと鳴る目覚ましが時間切れを告げる。

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