我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第31話 表向きの日常

 煩わしい目覚ましの咆哮が響く。

 もう少しあれば夢の中を探れたのに。時計は八時、今日は土曜、休みだ。柳は今日見た夢に違和感が有った。何がどうおかしいのか自分でもよくわからない。

 

 渋々起床しキッチンに向かう。自分一人ならこのまま寝ていたいが姫が腹を空かせるだろうと柳は歩き出した。季節はそろそろ秋に入る頃だろう、足が冷える。

 

 ひと月の研修も終わり、今は十月。段々と六課にも馴染めてきた。あの事件以来は訓練ばかりで、取り敢えず殺せば死ぬを徹底して殺しのイロハを仕込まれた気がする。警察が基本、人間相手ではないとは言え殺し。益々、警察六課が正義ではないことを痛感する。

 

「今日のごはんはー?」

 

 寝起きの姫が訪ねてくる。

 

「目玉焼きでいいか?」

「うん」

 

 フライパンの上で焼ける二つの卵と少しばかり厚いベーコン。焼けた卵に塩コショウ、レタスとベーコンをパンで挟んだ簡単なサンドイッチ。

 生活は前より良くなった。夜遅くだが最近は二十四時間やっているスーパーもある。仕事終わりに適当に食材を買って帰る。この間の給与は並の手取りは家賃食費抜きで五十万。地方の二十代では信じられない給与だ。

 柳にはあまり物欲がない。この前付けていたアクセサリー類は硬いし武器に使えるから持っていたような所が大きい。仲間はそうではなかったようだが。今はそんな物より、もっぱら食費に費やされている。

 

「今日はどうするの?」

「そうだなぁ……」

 

 柳は普段この頃は何をしていただろう?何処かのゲーセンか適当な街中で遊んでいただろう。だが仲間も居なくなり独り。

 

「服でも買いに行くかお前の、ワンピース一個だけじゃ寒いだろ」

「やったー!」

 

 だが、今柳には姫が居る。

 

 

 

 柳の住んでるA市駅周辺から離れたところ、国道沿いにあるショッピングモール。

 都会ならば駅近くにあるものだが、田舎とはそういう所だ。

 ここに来たのはいつぶりだろうか?夏休みに来て以来、誰とも来ていなかった。柳のすぐ後ろから着いてバスを降りる姫。

 

 柳と並んで歩く姿は兄妹のような印象を与える身長差だ。

 久しぶりに私服の赤いパーカーで外に出た柳と。傍から見れば日系人とロシア系のハーフの子に見えるだろう。

 

「フウト、どんな服がいい?」

「そう言われても俺にセンスなんざないぞ」

「フウトが選んだものがいいのー」

「そうは言ってもなぁ、どうするか?」

 

 女子の服に興味の無かった柳はどうするか決めあぐねていた所に、救いの手が差し伸べられる。

 

「お困りですか?」

「ん?ああそうなんです」

「わぁーかわいー!」

 

 柳そっちのけで姫の方に構う店員に面食らった柳。

 

「ふふーん!そりゃあそうでしょう!」

「妹さんですか?」

「似たようなもんです」

「んが!?」

 

 胸を張り誇らしげにする態度に適当に柳にあしらわれたのがショックなのか、それとも妹と間違われたショックか、今度は姫が大口を開けてショック受けた。

 その身長差と幼い振る舞い相まって、そう思われるのも無理はない。実際は神とそれに付き纏われている人間なのだが、それが分かる人間はその当人だけだろう。

 

「じゃあ、この中か選んで下さい!私がそれにオススメの服を教えますので!」

 

 結果、姫のコーディネートはもこもこした暖かいグレーのファスナー付きのパーカーに黒いベレー帽、下は少し緑がかったベージュのロングスカートになった。

 

「フウト!どう!」

「わからん!」

「えぇ……」

 

 店員に引かれ、不機嫌になった姫と店を出る。その服を買ったが柳には乙女心なんてわからない。それを知っているのは()()()()()()()()()だろうと言うのに。

 どうしたものかと頭を抱える柳に姫が言った。

 

「いいもん!分からないならボクが教えるだけだもん!フウト!」

「ん?」

「こっち来て!」

 

 そうして連れられて来たのはメンズファッション店。

 

「今度は僕の番だからね!」

 

 ここから数時間、柳は散々、自分のファッションショーに付き合わされることになる。

 

 

 

 満足そうに前を歩く姫と、その後ろを大荷物で歩く柳。長い間服を着させられるという長い拘束時間に晒されその顔は虚空を見つめいる。

 

「どうだった?」

 

 そんな柳の顔を下から覗き込むように顔を見せてくる。整った顔立ちがいたずらっ子のように微笑み、うつむく自分の顔近くにまで迫る。

 

 小悪魔のような妖艶さとあどけない無邪気さが混ざった顔に、柳は胸が高鳴る。

 

 夢で見たあの少女と姿が重なる。

 

「なぁ」

「なあに?」

 

 自分の喉まで出かけた言葉を発していいのか悩む。悩むうちにその心臓の高鳴りが彼女への好意から来るのか、それとも彼女の正体を言及した時に起きる予測不可能な現象に対するものなのかがわからなくなる。

 

「い、いやなんでも……」

「ふふーん?」

 

 そのまま嬉しそうに軽やかな足取りで帰路に向かう姫。

 自身より小さい少女に弄ばれる柳は、今もそのドキドキの正体が判らずにいる。

 

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