我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第32話 裏の関係性

 柳は帰りのバスで隣に座る姫を見る。バスは空いており運転手と前に座る数人以外客は居ない。一番後ろの席に座る二人

 鼻歌を唄いながら窓を楽しげに眺める彼女の横顔。ショッピングモールのどこかの店の一角で流れていた曲を口ずさむ。

 

「~♪~♪」

 

 何の歌かはわからないがテレビや街中でよく流れているような曲だった。それをどう思うというわけでもないが、柳はその横顔を眺めていた。

 

 自分とその少女の関係性。

 傍から見れば兄妹(にしては全然似てないが)、だが実際は人と神、それも最低でも顔馴染みの可能性が大きい。自身の記憶を封じた張本人、なのに自分と仲良く遊んでいる。腹の内が見えないが彼女の振舞いには柳の事を思って何かをしている。

 

 少なくとも今の姫には恋愛感情は抱いていない。柳はそれを再確認した。

 

「次はT街~」

 

 ふと、窓の外を何か見覚えのあるものが過ぎ去った。流れゆく建造物の隙間に見えた林、その奥に見える一本道。一瞬だけだがその奥深くに建物が見えた気がした。

 柳の中のまさかが内に渦巻く。次でバスを降り、その奥に行くべきかどうか。

 

「どうしたの?」

 

 突然顔色が変わった柳に尋ねる姫。だが楽しげな表情が一転、固く結ばれた口に凍てついた眼が柳を捉えていた。心配そうに気遣う声とは裏腹に今にも柳を狙わんとする眼が、柳を身体を硬直させた。隣の席のすぐそば、目と鼻の先の脅威に身構えてしまう。実際に身体を動かせずだが、警戒だけが白痴の姫に向けられていた。

 

「?」

 

 だがそれも瞬きと同時に緊張がほぐれる。その後に見た彼女の表情は凍てついたものではなく、単に柳を気遣っているように思えたのだ。

 

「あ、いやなんでもない……」

「?、そうなの?」

 

 先程見たそれは、彼女を警戒するが余り見た幻覚だろうか。

 姫は頭に疑問符を浮かべ、また窓を眺め始める。

 バスはそうこうしている間にバス停を通り過ぎ、駅に向かう。

 

「~♪」

 

 窓に向かい鼻歌を唄う彼女の口角は上がっていた。

 

 

 

 その日の終わり。アパートに戻った二人。食用品や服の入った袋をそれぞれ下げ、自室の二階に通じる階段を上がる。カツンカツンと甲高い、靴とコンクリートの音が鳴る。暗い静かな夜に二人だけの足音だけが響く。

 

「ただいまー!」

 

 子供が元気いっぱいに奥のリビングに駆けていく。

 

「お風呂沸かしといてー!」

 

 一目散にキッチンに向い、料理を始める。冷蔵庫には今まで無かった様な野菜や調味料が増えている。

 ここ最近、ずっと姫はこの調子で家に居る時は家事をしている。さながら新婚夫婦のようだが、柳はこの特殊な関係に踏み込む事が出来ない。真相がわからぬ故、得も知れぬ恐れも故に。曖昧な記憶の中の人間と、今の幼い神。うかつに踏み込む事がどんな結末を孕むのか柳には予想がつけられない。

 

「ああ」

 

 テレビのニュースでは今日は三日月の晴れだの、一か月前のK高校に不審者が入っての臨時休校を受けての各地の避難訓練だの、多数の行方不明者だの、どこかで生まれた子犬の話だ。世間の日常が騒がしく垂れ流れる。

 

 二人の食卓を、窓に写る曇一つない暗黒の中に、金色の満月が二人を見つめる。

 

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