我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第35話 検閲済み

 

「今日変な夢見たでしょ」

 

 突如、通常では言い当てられぬモノを当てられ柳は硬直する。

 

「なんでわかったんですか……?」

「何か見えたのかね?」

「ええ。伏、その資料貸して」

 

 伏警部が資料を渡す前にその手からひったくり、柳に一つずつ資料を見せる。

 

「反応が一番強いのは二つ目か……」

 

 柳のどこの何を見て判断してるのか鴉女医は柳の頭を見つめながら話す。

 

「この子にはもう言っていいんだったっけ?」

「ああ、君が良いなら」

 

 警部確認を取った後に彼女は少し俯いて何かを呟いた後、顔を上げて言う。

 

「”きみやとがはなんぞ?わがまゑにその■をあはらしたまへ”」

 

 その一言の後、柳は何かに吸い込まれる感覚が襲った。

 

 

 

 

 柳が気が付いた時、そこは暗黒だった。その中に一羽の烏が飛んでいる。

 

「目が覚めたかい?」

 

 柳の前にその鴉は飛んで来た。柳の目線の位置に、枝の上にでも止まるかのように

 降りる。そこには枝など無く。暗黒だけがあった。

 

「この姿で会うのは初めてだね。あたしは鳥葬の渡し人。君が女医さんと呼んでいた存在の正体だ」

 

 鴉がお辞儀をするように羽を腹の前に置き頭を下げる。

 

『ここはどこなんです?』

 

 その時、柳は自分の声が自分の喉から出ておらず、その空間にこだましているようにどこからともなく響いてきた。

 

「ここは君の記憶の中だ。ホラ、何か探してみよう。君の過去を」

 

 女医は現実と同じ様に説明よりも先を急いでいる。

 鴉がカァと一鳴きすると闇の中から色が浮かび上がる。

 

『女医さんは何者なんですか?何で頑なに言わなかった名前をここで言ったんです?』

 

 ぼやけた色が鮮明に世界を創り、空を、家を、道を造る。

 

「そうだなぁ、あの世とこの世を繋ぐ渡し人、とでも思っといてくれ。医者をしてるのはこの世で活動するための仮の姿だよ。」

 

 世界が創られたが何処か曖昧で、所々に暗黒が広がっている。

 建物の輪郭はわかるが下手な水彩画のように滲んで、空や道の先に大口が空いているように暗黒が待ち構えている。

 

「こりゃあ酷い。君の記憶は何かを隠すように暗黒に包まれていたという訳だ。これは興味深いな、忘却とは違う。」

 

「移動するよ。ついて着な」

 

 鴉は飛び立ち、柳はまるで鎖でも繋がれているかのように体を引っ張られる。暗黒に飲まれぬよう道を迂回しながら先に進む。数歩進むうちに世界は形を変え街中や校舎、大学、家の中など場所を転々としていく。継ぎ接ぎの動画を早送りしてるように切り替わっていく。

 

「えーっと何だっけ?そう名前だ。君、名前というのは裏の世界において非常に重い意味を持つんだ」

『?』

「名前というのはその世界に縛り付ける枷であると同時に力でもある。だから名前を知られるというのは余所者にとっては送り返されたり、封印されたりする弱点となる。動物の縄張りみたいなもんさ」

『ということは女医さんも余所から?』

「だけど名前を教えるというのはある種、信頼の証。まぁでも教えたのは本名じゃあないんだけどね。こっちで呼ばれた名前だから気にしないで」

 

 柳は知らない神秘に感心しながらも疑問は尽きない。

 

『どうして女医さんはこんな事が出来るんです?』

「あたしの本来の役割は渡し人、その際にその人の罪を覗き閻魔に口添えすること。これはその応用みたいなものさ。」

「今、どこに向かってるんです?」

「君の眼を見て分かったんだけど君が二つ目の資料を見ている時に違和感があってね。気になったのさ、君の記憶にヤマダから送られた資料から何か関係があると思ってね。」

 

 鴉が飛ぶのを止めた場所は夢に見た一本道。

 

 だがその先は既に暗黒に覆われ、先には進めない。

 

「これはもう無理だね。だけど確信したよ」

 

 鴉は振り返ってそう言う。その目線は柳の目の奥を見据えている。

 

「さ、目覚めだ」

 

 

 

 その後、柳は鴉女医に自分の中で何が起きているかを何度も尋ねたが教えてはくれなかった。渋々帰る柳を見送った後、伏警部は尋ねる。

 

「で、女医君。彼の中で何があったのかね?」

「あの子、罪が隠されてるね。それも随分と手の込んでる事で。わざわざ記憶消すのでは無く、()()選択をしてるのが不可解だけどね。」

 

「初めて気付いたときは驚いたよ」

 

 鴉女医はため息を吐いてからいう。

 

「なんせ、それを受け入れているんだから」

 

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