我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第4話 狂気の門

 柳と向き合う怪物は息も絶え絶えだが立ち上がり柳の向けて口を伸ばす。

 だがそれは柳までは届かずただ威嚇してるかのように激しく荒ぶらせる。脇腹から滴る液体は血と言うには透明で柳には先ほどの銃弾は致命傷とは言えないように感じた。

 

「ほれ、使え」

 

 柳の足元に折り畳み式のナイフが投げられる。刃渡り十五センチ。

 刑事は顔は笑っていたがその声は取り調べの時も聞いた真剣そのものだった。

 

 ナイフを拾い怪物に向き合う。フラフラとした足取りだが少しずつ柳に近づいて来る。柳はこいつが友人達を砂山に変えた元凶だと背後の刑事の態度から当たりを付けていた。どうやったかはわからない。だがこの存在は一瞬にして人を殺せる。ナイフを握る手に緊張が走る。

 

 怪物は鞭のように口と腕を子供のように振り回し近づいて来る。その口の長さはその腕と同じ。知性の感じられない怪物の攻撃には楽に仕留められそうだと思うがそれよりも怪物の攻撃を警戒して近づけない。

 一歩一歩。柳より遅い足取りに柳は少しづつ後ろに追い込まれていく。

 奇声を上げ半狂乱に振り回される攻撃は柳の冷静さを奪う。

 柳が後ろに周りこもうと動いても怪物の首は可動域の限界を迎えることなく柳を捉え続ける。埒が明かないと、とうとう柳はずっと振り回される腕に翻弄されつつナイフを何度も振り回す。

 

「この!当たれ!」

 

 刃物など使ったことがない柳には心得などない。それでも彼が手放さないのは慣れた拳を叩き付けるよりも効果がありそうだったからだ。

 がむしゃらに振り回すナイフは何度か腕を掠めるがブヨブヨの腕は上手く切れずただ表面を撫でるだけ。

 手ごたえの無さに焦りを覚える中ナイフを持つ右手を掴まれる。

 

「ッ!」

 

 柳が焦った時には遅く右腕に口先を刺されてしまう。

 腕の血、それどころか水分を抜かれるような脱力感に柳は友人達の最期を連想させた。右腕が萎び力が抜けナイフを取り落とす。カラカラに乾燥した右腕を見た柳は恐怖がピークに達する。

 

「うああぁぁぁぁ!」

 

 柳がナイフ落とすと同時に自由な左手で怪物の目に手を突っ込み力の限り引き抜く。自身が黒い血に塗れる事も厭わず。

 その行動は反射的に、本能が生命の危機感じて起こしたものだった。

 

 瀕死の状態で傷を癒すため唾を付けていた餌に自身の大切な片目をえぐられる屈辱は計り知れないだろう。人より多く繊細な視神経を引きちぎられた痛みは怪物の想像を絶するもので餌から口を離し悲鳴を上げた。痛みに耐えかねよろめき、見るからに冷静さを失い柳から離れる。怪物にも恐怖があるのだろうか。

 痛みに悶え殺してやると振り向いた時、怪物が見たのは白銀に輝く一閃だった。

 

 

 

 怪物の目に根本まで突き刺さったナイフからは黒い液体が流れ落ちる。

 怪物は鳴き声を上げる間もなく倒れた。

 

「これ……で…どう…だ」

 

 怪物に向けて投げられたナイフは見事命中。

 理不尽に挑み仇を討った一人の漢は力なく倒れる。急激な脱水症状と体を無理やり動かした限界が来たのだ。柳は安堵の笑みを浮かべる。

 

「ふーむ。ここまで食らいつくとは」

 

 構えていた拳銃を下し無線機に連絡を入れる刑事。

 

「久しぶりの新人だ。殺すなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~!~~~~!」

 

 少しずつ意識が戻って来た。

 近くで何かが聴こえるがそれが何かはわからない。

 

 

「あら、目が覚めたのね」

 

 女性の声が聞こえその方向を向く。

 朦朧とする意識ではその輪郭を捉える事は出来ないが何故か声がハッキリ聴こえる。

 

「ほら患者が目覚めたわよ。ほら黙った黙った!」

 

 椅子から立ち上がり手を叩いて注目を集めているようだった。

 

 次第に意識が明確になって来た。

 

 そして自分が柳風斗であった事を思い出す。川であった出来事も。

 

 目に映る三人の人間。

 

「もうこの話はいいじゃないですか。せっかくの新人なんですよ」

 

一人は自分から見て左の壁にもたれかけた取調べと川で会った初老の白い顎髭、白髪の刑事。

 

「話を逸らすんじゃない!ったく稲永(いななが)君、君が発砲したせいで住人から苦情が来たんだぞ。もっと他にも手段があったんじゃないかね!」

 

二人目は正面に立つでっぷり太った恰幅いい黒いスーツの男性だった。輝く頭頂部をお持ちのちょび髭オヤジだ。

 

「そんな楽な話はないです(ふく)警部。それにその程度適当にあしらえるじゃろう」

 

「そんなんだから君は警部補止まりなんだぞ!」

 

「いい加減にして!ここはあたしの病院なんだよ!」

 

 三人目は自分が横たわるベットの右横に居る黒スーツに白衣をした……鴉頭被った女性?目にわかる体のラインから女性だとは思う。ペストマスクの周り黒い羽根を纏ったマスクをしている。

 

 全員警察関係者だろうか?

 

「あんたらこの子と話がしたいんじゃなかったの?」

 

 少し怒気を込めて吐かれた鴉女医の言葉に伏と呼ばれていたちょび髭親父が自分の前に出る。

 

 さっきまで怒っていたのが噓みたいに営業スマイルになりへこへこしながら話しかけてくる。

 

「やぁやぁ、君が柳風斗君だね?このくそじじいから話は聞いてるよ。大変だったね。私は六課警部の伏泰平だよ」

 

「お、おう……」

 

 あまりの変わりように反応に困る柳。突然態度を変えたこの男が胡散臭く感じる。

 その言葉の中で一つ気になったことがある。

 

「六課?そんな部署ありました?」

 

「六課というのは警察の中でも暗部。神秘や超常現象に関わった部分の調査を担当している部署だ。この地域ではワシとそのハゲしかおらんがな」

 

「一、ニ、三、四、六と他の部署と距離を置かれているのさ、彼らは」

 

そういったのは鴉女医だった。

 

「え?あなたは警察じゃないんですか」

 

「あたしはただの医者だよ。君みたいな事件の被害者のね。本業は葬儀屋だけど」

 

 彼女の言葉からは深く聞いては行けない何かを醸し出している。

 

「さてここからが本題なんだけどね」

 

目の前の人物から一体どんな言葉が飛び出すか身構える柳。

伏警部が次の言葉を放つ時その目だけは笑って無かった。

 

「君はもう日常には帰れないんだ」

 

 

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