我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第37話 夏川家

 入ってすぐの玄関には右手に階段、左に廊下がありそこにはリビングに通じるといくつか他の扉も見える。

 

 柳は靴を脱いで家に上がる。階段下には収納やトイレ、脱衣場、風呂。左手の扉の先はリビングにキッチン。その間取りは何処をどう見ても一般の家の間取りと同じだった。リビングの窓から見える庭は、狭く塀に囲まれ館の外も中の様子も分からない。ここは完全に玄関を境に外界から隔離されている。

 

「宗教を作って置きながら、当人は信者と距離を置くだなんて随分と身勝手だな」

 

 ここまでして彼、夏川宗一は何を、何から信者を遠ざけたかったのだろうか?少なくとも一階からはそれは分からない。

 

 階段から二階に上がる。二階には部屋が三つ。階段を上がって右側が子供部屋、左側が両親の寝室らしき部屋、正面が書斎だった。

 寝室には特に目ぼしい品は無い。ただの夫婦の営みが行われていたであろうキングサイズのベッドとクローゼットがあるだけ。

 書斎には壁の量際に置かれた本棚には、隙間無く本が敷き詰められ、真ん中に置かれたデスクを後ろの窓から入る夕陽が照らしている。どういう本が並べられているのか柳にはわからない。おもむろにデスクには何かの資料が置かれている。その紙は「閉鎖的集団生活の人間の変化」と書かれた原稿のようだ。著者は夏川宗一と書かれている。その中は人間が閉鎖空間で強い権限の役職を与えられた人間が如何に振る舞うか、如何に下の役職の人間に対する態度が変わるかなどの人間の変化が書き綴られている。

 信者を実験対象にしたかのような記録。殆ど人間が下の人間に高圧的になり自らの役職に固執するようだと書かれた物だった。

 

 知らない家の子供部屋を漁るのは気が引けたが、今更かと柳は扉を開ける。女の子らしい部屋の内装で、一人には少し大きいベッドと二着づつあるK高校の制服がかけられた棚。学習机と趣味の漫画や一昔前のゲーム機が置かれた棚。どこか懐かしい香りのする部屋だ。柳の勘が叫ぶ。

 

「夢の……あの人のか?」

 

 柳の中を廻る既視感と懐かしさがどうしてもここを探せと叫ぶ。わき目も降らず手掛かりを探す。棚やクローゼットを探る中、スクールバッグに目が付き、中を開ける。何だか悪いことをしているような感覚が柳の後ろ髪を引く。ノートや教科書には夏川姫と書かれている。彼女の鞄の中は日用品や筆記具、スマホがある。

 

 

 

 学習机の上に置かれた写真立てに目が行く。その写真には黒髪の少女と見覚えのある男性が写っている。

 

「俺だ……」

 

 写真の中の柳は無表情だが自分の顔だからわかる。少なくとも少女といることが嫌だと思っていない。にこやかに笑う少女の顔はとても楽しそうだった。

 その写真を取り出しよく見ようと写真立てを裏返した。

 

 時だった。

 

「フウト」

 

「え?」

 

 見たことのない程、無表情だが不機嫌だと分かる顔の姫が振り返る柳の前に立っている。

 館を探している間に日が暮れていたのか外はすでに暗い。

その顔は柳の後ろの窓から差す月明かりが、姫の顔を照らす。

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