我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第5話 お前もこっちに来い

「どういう……ことなんです?」

「言葉通りだ。お前さんは知り過ぎた。そのままで帰す訳にはいかん」

「いやちょっと待ってくれよ!関わらせたのはあんたじゃないか!」

 

 それは怒りではなく純粋な焦りから出た言葉だった。

 

「いや、あの土座衛門に会った時点でお前さんは呪われていた。ワシがおらんかったら今頃砂山が一個増えてただけだった。あのまま座りこんでてもそのうち向こうからやってきてたぞ」

「そんな……」

「ワシはお前さんが仇討ちしたいか聞きたかっただけじゃ。あそこで逃げとったらワシが始末してただけじゃぞ。まぁあれが逃がしてくれたかはわからんが」

 

 どうもはぐらかされているような、もっともではあるが本心では無いような返答に柳はどうにも煮え切らない。

 

「まぁ君が逃げていようとこの決定は変わらないんだ。すまないね、柳君」

 

 伏の笑顔から業務的で無感情な謝罪が投げかけられる。柳が聞きたいのはその定型文のような謝罪ではなくその後の自分の処遇だ。

 

 「君にはまずこの書類にサインをしてほしい」

 

 伏警部から渡された書類を見る。

 

 

 

_________

 

 秘密保持契約書

 

(甲)         と

(乙)S県A市警察署六課との間における、秘密情報の取扱に関して以下のとおり契約を締結した。

第1条 (定義)

本契約における秘密情報とは甲が遭遇した超常現象全般、怪異全般、六課及び警察

の捜査情報であり、但し、以下の各号に該当する場合にはその限りではない。

1.乙もしくは乙関係者が許可した情報。

2.秘密情報を隠す為のカバーストーリー

 

第2条 (秘密保持義務)

甲は、知りえた情報を注意をもってその情報を管理・保持するものとする。

甲は、乙もしくは乙関係者の許可がない限り機密情報を知る必要のある者以外の者及びその他の第三者に情報を開示してはならない。

 

第3条 (複製・複写)

本件の契約に係る情報については、必要のある場合にのみ複製・複写を行なうことができる。

 

第4条 (契約違反)

甲は本契約に定める秘密保持義務に違反して秘密情報を漏洩した場合には、甲及び甲が秘密情報を漏洩した第三者の生命もしくは人権の保証は日本国憲法に該当しないものとする。

 

第5条 (有効期限)

本契約の有効期限は無期限とする。

尚、本契約の解消などについては甲乙協議により決定し記憶処理を受けた後とする。

 

_________

 

 

 

 

 柳は契約書の中身を見ない人間だった。

 何を考えるわけでもなくサインをしてしまう。

 

 それよりも柳はこの先自分がどうなるかが不安だった。

 

「君はしばらくは監視が付くだろう。ああ心配しなくてもいい君に昨日あった事を言いふらされないかを見張るだけだ。まぁ分かってると思うがもし、喋ったら……」

 

「ズドン」

 

 にやけた顔の稲永と呼ばれた白髭の刑事が呟く。

 

「こちらは公安以外にもコネがあってね。君の事を監視してくれるツテがあるんだ。君も死ぬような目には会いたくないだろう?」

 

 柳はただ息をのみ、話を聞くしか出来ない。

 

 そんな柳を見かねてか伏警部は話を切り出した。

 

「ここから本題なんだがね。柳君、うちで働いてみないか?」

「へ?」

「稲永君から聞いたんだがね、君はあの怪物を一人で殺したそうじゃないか。今来てくれたら手当もするし。どう?」

 

 ここまで聞いて柳が思った事は「さっきくそじじいって言ってなかった?」だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!少し考えさせてください!」

 

 柳は場の空気飲まれて返事しないように考える。

(上の立場の人間が下手(したて)に出て相手に頼むのは何かをさせたい時の常套手段。さらにこちらはこれから監視される立場。向こうとしては監視対象を部下にして監視と人手不足の解消のメリットがある。だがこちらのメリットはなんだ?自分としてはまたそんな恐ろしい目に会いたくない。手当と言っていたが金はそんなに困って…)

 

 そういえば自分の右手はどうなったのかと目を向ける。

 ギプスが巻かれている。動かそうとしても力が入らない。

 

「まさか、手当って右手の……?」

 

「そうだよ?こんなカラッカラの手はどこの病院でも治せない。知ってる限りじゃこの県にはいない。あたしだけ。あ、勿論金は弾んで貰うよ?千万くらい」

 

 そう答えたのは隣の鴉女医だった。

 

「そんなのヤクザの脅しじゃないか!?」

「その通り。このおじさんは君の腕と治療費を人質に下に置こうとしているんだよ」

「柳、お前は一つ勘違いしている。ワシらは警察組織の人間だが公的な存在じゃない。そんな正義の味方みたいな人間たちは()()()

 

 その言葉は今まで聞いた稲永刑事の言葉の中で一番冷たかった。

 

「どうかね?来てくれるかい?」

 

 柳は自分の立場を理解した。自分はいつ消えてもおかしくないただのチンピラ。

 彼らは市民の安全のため全力で守るのではなく市民が混乱しないように隠すための存在だと。

 目に映った怪物たちはいつ襲って来てもおかしくない存在だらけ。

 そのことは彼らのような人間(怪物)が組織された事が証明している。

 今まで自分は強い人間だと思っていた。だが怪物は容赦なく人間に牙をむき摘み取る。危険に気付き、逃げようと走ろうにもその足には既に魔の手は絡み付いている。

 

 

 (人間)はただ頷くことしかできなかった。

 

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