我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第7話 柳風斗の過去①

 

 暗いアパートの一室。

 研修を終えた柳は不安だった。自身の今後について。袋一杯のビール缶から一つを取り出し一杯煽る。

 

 恐怖は今も精神を蝕む。

 だがそれは彼が恐怖のどん底に叩き落とされた日よりかは酷くない。

 

 友を失い、日常から転び落ちてから一週間。寝る前に酒を飲まなかったのは病院にいたときだけ。

 

 学校もバイトも辞めた。

 それが何がきっかけかは自分の中でもはっきりしない。皆を巻き込まない為の偽善なのか、楽しかった日々を思い出したくないのか、あの刑事達の事を知れば自らを取り巻く恐怖を乗り越えられると思ったからか。

 

 だがいずれにせよ彼は過去を棄てた。

 

 けれど過去はいくら忘れようと無かったことにはならない。

 

 微睡(まどろ)む意識の中、夢を見た。

 

 夢の中の彼はいつも善良とは言うには問題がある人間だった。

 S県A市にある中学校の一クラスの中。

 顔は恐いがその優しさはクラスの誰もが知っていた。

 

 他校との揉め事に彼は関係ないのに首を突っ込んだ。

 ひったくりをラリアットで捕まえた。

 仲間達と大騒ぎして迷子を探した事もあった。

 いじめを行う人間を見つけたら迷いなく叩きのめした。

 ヤクザと揉め傷だらけになった。

 

 それらは頭の悪く、ガタイと人を殴る才しか自分に取り柄を見出せなかった彼なりの自分の存在意義だった。

 誰かの為に闘うそれは、世間一般からは不良となじられようと、彼にとってはそれはまごうことなき正義の味方だったのだ。

 

 夢は過去の彼を見せた後に場面が変わる。

 

 夢の中の柳は誰かの手を引き、狭い路地を走っている。

 後ろには姿は分からないが誰かの怒りの声が聞こえるような気配がする。

 

「捕■■ろ!」

「追■!」

 

 柳はただ後ろから追ってくる屑から手を引かれる彼女を守ることで頭がいっぱいだった。懐かしい顔、初恋の彼女。

 

 急いで逃げる先にある一つの扉を開け、中に入る。

 

 そこは薄暗い廊下だった。灯りは全て両脇に一定間隔に置かれたロウソク。

 廊下の一番奥の扉には誰かがけたたましく祈るように叫んでいる。

 柳はゆっくりと歩き右腕に力を入れる。

 彼女の手を握っていたはずのそこには血に濡れた銀色に輝くバットが握られている。

 ゆっくりと一歩ずつ茶色の不思議な紋様が描かれた扉に向かう。

 

「■■!■■■■!■■■■■■■■■■■!」

 

 扉の先の男は紫のローブを身にまとい魔法陣の中のでこちらに気付く事なく、狂ったように目の前の怪生物の像に向けて叫び続ける。

 

 柳はその男の背後から渾身の力を込めて振り下ろす。

 

 何度も何度も何度も、男は苦悶の声を上げる。

 

 何度も何度も何度も、抵抗しようと動くが。

 

 何度も何度も何度も、叩き潰され。

 

 何度も何度も何度も、悲鳴を上げ。

 

 何度も何度も。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

 

 

「もうやめて!」

 

 愛しい、可愛らしい声がして手を止める。

 目の前にはもの言わぬ肉が裂け骨の剝きだした赤く染まった塊が転がり血が辺りに飛び散っていた。

 

 その夢で一番恐ろしいのは、それを見る柳は屈託のない無邪気な笑みをを浮かべていたことだった。

 

 その日から彼は何者でもない。彼の中の義賊としての正義のミカタはその時失われたのだ。

 

 くたびれた布団の上で恐怖から身を守るように縮こまる彼は今や、その当時の面影など見る影もない。

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