我々は皆、怪物である   作:西城文岳

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第9話 地獄の門

 

「お前さん、まだ印付いてるぞ」

 

 柳は稲永が何を言っているのか信じられなかった。

 

「心配するな。呪いだったら二つ付けられた時点でどっちか消えるから多分祝福だ。」

 

 続けられた言葉に柳は胸をなでおろす。

 

「そうなったら縄張り争いみたいに、餌巡って殺し合ってる、で強い方が残る。祝福ってのは呪いと表裏一体のように思ってんのかもしんないが別モンだ。」

「だが妙なんだよなー。ここまで弱い印は中々見ねぇ」

 

 稲永が柳まで後一メートルのところで針が動きだす。

 

「ここまで弱いと印の主が相当弱ってるか、相当つけられてから日がたってるかの二択だ。心当たりは?」

 

「そんな……俺はいままでそん……なん…と…?」

「どうした?」

 

 柳は過去の記憶を探ってみるが何一つ思い出せない。()()()()()()()()()()()()

 あれ、おれはいったいいままでなにをしていきてきたんだ?

 

 大学やめてバイト辞めて……?

 

 そのまえなにしてたっけ?

 

 

 何もない、問題ない、以前変わりなく。

 

 あなたは()()()()()()、何も変わってない。

 

 ()()()()()()

 

 

 

 

「だいじょうぶです。心当たりはないですね。」

 

「そうか。まぁそれについては今心配しても仕方がねぇ、行くぞ。」

 

 そう言って伐採場に入っていく稲永。

「さて今日の仕事はこの近辺で行方不明になってる若者の捜査兼、原因の調査だ。まぁ、わかると思うがワシら理由不明の失踪とかの調査だ。たまに現場周辺の警備もする」

「具体的には何を?」

「そこらへん見て回って、調べて見つけて終わり。簡単じゃろ」

 

「まぁ、少しショッキングなものはあるかもしれんが」

「こういうとこには大抵変死体なんてザラだ」

 

 柳の方を見て楽しそうに言う稲永を見て、やっぱりクソ爺なんだと再認識した。

 

 稲永は親指と人差し指で輪っかを作り両手のそれを重ね、中を覗きながら辺りを見廻す。

 

「……何してんすか」

 

 柳は突然の奇行にクソ爺がボケたのではと心配する。

 

「やっぱあの建物になんかあるな、よし行くぞ」

 

 稲永は伐採場でも一番大きい建物を覗きながら答える。柳の疑問は無視された。

 

 

 その建物は木材を保管する倉庫だろうか。大きな倉庫で金属製にのスライド式の大きな扉があるが錆び付き南京錠まで付いている。

 

「駄目です。開きません。ホントにここなんですか?」

「ああそうだ。お前が磁石みたいな奴じゃなければ証明のしようがあるんだが。」

 

 常に揺れる柳のASは宛てにならない。

 

「で、さっきのは何なんですか?」

「さっきのってなんだ?」

「手使ってなんか覗いてたアレです。」

 

「術だ」

「術?」

「ああ、こんな世界に長くいれば呪術だの魔術だの忍術だの見る。その一つだ」

「火とか氷とかで攻撃出来る、アレ?」

「そんなん使えるのは妖怪か神しかいねぇ。人の身でそんなん出来たらそいつは神の部類に入る。人の出来る術ってのは超能力的なもんばっかだ。火出せても精々アルコールランプ位のサイズだ。さっきのはそう言った術を使った痕跡を見る術だ。」

 

 この老兵は恐らく他にも熟達した術を持っているのだろう。

 

「お前は物理で殴ってろ。そう言った術ってのは人の身に余る」

 

 だが忍術がそれらと同列に扱われるものなのか疑問なのだが。

 

「さてどうする?何処かに入り口はねぇか?辺りには痕跡は見えん。この中が殆どだ。」

 

 そう言いながら稲永は両手の輪で覗きながら下の方向へ視線を移す。

 

「地下がある?」

「あるな。となると…柳、俺は右側を調べる。お前は左から探れ。なんかあったら無線で呼べよ」

 

 そう言って、そそくさと倉庫の右側に歩いて行ってしまう稲永。

 

 柳は少し心細かった。

 

 が、そうも言ってられない。

 

 柳は建物の影に隠れながら倉庫の左側を覗く。

 大の男が厳つい顔だけ出して覗くのはとてもシュールだろう。

 

 大しておかしなところは無い。

 柳から見て右側の倉庫の壁に穴があるわけでもない。扉にも鍵がかかっている。

 一番奥の先には正面にはフェンスがありその先は川。

 一番左側には事務所であっただろうプレハブ小屋の中は目を引く物は何もない。だが中には入れない。

 

 何処にも入れない柳は消去方的にフェンスに向かう。

 

 こんな真っ昼間、どうせ何も出ないだろうと暇つぶしに川にを見る。

 小さな川で子供数人が遊べそうではある。

 柳のトラウマである藪は何処にもない綺麗な小川だ。

 

 ふと、視界の右端に何かが見えた。気がした。

 

 柳が目を移したときは何も無かった。そこはちょうど倉庫の壁が死角になっており、妙にそこが気になった。だがこちらからではフェンスが邪魔で倉庫の裏には行けない。

 

「稲永さんちょっと来て下さい」

 

 無線の向こうから応答がある。

 

「何か見つけたか?」

「川のあたりに一瞬動くものが見たんです。」

「へっ。なんだ怖気付いたか?」

 

 このクソ爺は人を煽る隙を常に伺っているのだろうか?柳は対して平然と気になった事を告げる。

 

「いや、それが倉庫の方に消えたんで何かあるんじゃないかと」

「……」

「……」

「……そうか。先にこっちに来い」

 

 大人の対応に少しだけ無言になった。最後の返事は少し気恥ずかしそうだった。

 八つ当たりでもされるのだろうか、と気になったが取り敢えず稲永が向かった右側に向かう。

 

「柳、これ見ろ。どう思う?」

 

 そこにあったのは白いバンだった。

 稲永は真剣な目で車を眺めている。

 

「この車、放置されてそんなに時間が経っていない」

 

 柳は開けられたままの車内を見て言う。

 シートは真新しく埃が全然積もって無い。

 後部座席には封の切られたペットボトルが一本。

 

「となると、ワシらの封鎖をコッソリと抜け道かなんかで来たのか?まぁ放置されてるところを見ると、恐らく今頃全員仏じゃな。」

 

 柳はいとも容易く消えていく人間に哀しみを感じた。

 

「川の方に行くぞ。」

 

 伐採場の裏側、川のせせらぎは何処にも異常はないと語るが、柳は一切信じれず川を眺め警戒する。

 倉庫の裏側にはちょうどナニかが内側から飛び出たかのように引き裂かれていた。

 ちょうど人一人通れる大きさの穴として。

 

「あの車の連中は何でここを通ろうと?明らかにヤバいだろ……」

 

「いや違うぞ」

 稲永はしゃがみ込み倉庫に続く穴と自分たちが立つ土の境目を指す。

 

 そこには倉庫の奥へ続くように敷かれた二本の土色の線。よく見ると上から何本も上書きされているのか真ん中辺りは濃く、端は薄い。

 

「無理矢理連れ込まれた、と言った方が正しい」

 

 裂けた倉庫の壁にある赤い手形を見ながら稲永は言った。

 

 

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