とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第01話 あるウマ娘との出会い

年に4回行われる選抜レース。それはトレーナーとウマ娘の真剣勝負だ。

トレーナーは将来性のあるウマ娘の発掘に熱意を燃やし、ウマ娘は少しでも自分を引き上げてくれる有能なトレーナーを欲している。

 

無論、まだデビューもしていないウマ娘たちである。色々と足りない部分は多い。むしろ足りないものの方が多いだろう。その中で何か光るものがないかと、トレーナーたちは目を皿のようにして探している。

ひとりのトレーナーが受け持てるウマ娘に制限はないが、キャパシティを超える人数を受け持てばパンクする。

 

基本的に新人はひとりのウマ娘に絞り、マンツーマンで指導するのが暗黙の了解のようになっていた。

気づけば午前中から行われていたレースも、すでに最終レースを残すのみになっている。この日、まだひとりもスカウトしていない新人トレーナーの西条はわずかに焦りを感じていた。

 

(前回は声かけすらできなかったからな。でもこういうのは焦って捕まえるものでもないし……)

 

トレセン学園に赴任して最初の選抜レースは、勝手がわからないというのもあってか、完全に見学だけで終わった。

これと思えるウマ娘に出会えなかったというのもあるが、声すらかけないのはどうかと、同僚からも呆れられた。

ただでさえ何の実績もない新人トレーナーは断られやすいというのに。

 

そしてこの日の最終レースがついにスタートした。

西条はハッとして顔を上げる。

レースに参加しているのは8人のウマ娘。距離は1200メートルで、コーナーをふたつ挟む半円のコースだ。

 

先頭のウマ娘が最初のコーナーに入る。この時期に上手くコーナーを回れるウマ娘はそうそういない。スピードを落としたとしても、遠心力で外に膨れてしまう。当然、先頭を行くウマ娘もわずかに外へと膨らんでいった。

その隙をついて、小さな影が内に飛び込んできた。

 

(――速い!)

 

西条は内心で舌を巻いた。もちろん他のウマ娘と比べて速いというだけで、絶対的なスピードがあるわけではない。それでも、デビュー前としては破格の速さだった。

そのウマ娘はそのまま先頭に立ち、最終コーナーを回ってもスピードは落ちず、他のウマ娘を大きく離してゴールした。

拍手が巻き起こり、見学していたトレーナーたちがゴールに殺到する。

 

(あれはさすがに無理かな)

 

彼女を囲むトレーナーたちの中には中堅からベテランの顔も見えた。その中からわざわざ新人トレーナーの西条を選ぶ可能性は皆無に等しいだろう。

それよりも、西条が気になったのは3着に入ったウマ娘だった。

 

(最後に見せた末脚は光るものがあった)

 

仕掛けどころを間違えなければ、1着は無理でも2着には入れたはずだ。恐らく脚が持つか自信がなかったのだろう。だが、彼女は明らかに脚を余らせていた。

素晴らしい素質だと西条は思った。

 

(早くスカウトしなければ!)

 

見れば彼女はすでにコースから離れ始めている。誰も声をかけていないのが不思議でならなかったが、これはチャンスだと思い西条は足早に追いかけた。

 

「待ってくれ!」

 

立ち去るウマ娘の背に向かって声を掛ける。振り返った彼女と目が合い、西条は頭の中が真っ白になった。

 

(……スカウトって、どうやるんだっけ?)

 

思えばこれが最初のスカウトだった。トレーナー養成学校で、ウマ娘をスカウトする際のあれこれは頭に叩き込んだはずだが、それが一切合切吹き飛んでいた。

そしてついに飛び出したのは、とんでもない誘い文句だった。

 

「僕と契約してダービーウマ娘にならないか?」

 

そのウマ娘はポカンとした表情で西条を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と契約してダービーウマ娘にならないか?」

 

いきなりそんなことを言われて、ナイスネイチャは面食らった。スカウトというのはもっと段取りがあるのではないかと思ったが、実際にスカウトされるのは今回が初めてのこと。もしかしたらこれが普通なのではないかと、ネイチャは無理矢理自分を納得させた。

 

目の前の青年の襟元に光るのは、鉄色の真新しいトレーナーバッジ。そのピカピカのバッジを見れば、今期に採用された新人なのだということはネイチャにも予測できた。それはともかくとして。

 

(ダービーときましたかぁ……)

 

と心の中で独りごちる。

無論、日本ダービーはすべてのウマ娘が憧れるレースだ。ネイチャとて出られるものなら出てみたいという気持ちはある。

ここでダービーで勝ちたいと思わないあたりに、ネイチャらしさの奥ゆかしさというか、自信のなさが表れていた。

 

「えーっと、なんでテイオーじゃなくてあたしなんですかねぇ?」

 

1着を取ったトウカイテイオーにトレーナーが群がっていくのはネイチャも見ていた。競争率が高そうだといって2着の子に行くなら分かるが、3着の自分をスカウトするのがちょっと分からない。

今日の最終レースだから、とりあえず唾を付けておこうと思っているのだろうかと邪推しても、それは決しておかしくないことだろう。

 

「あー、そうだな。テイオーじゃない理由ね」

 

西条は後頭部をボリボリとかいた後、深呼吸をひとつしてネイチャに向き直った。

 

「テイオーは、僕にとってデメリットの方が大きいからね」

「デメリット?」

 

言っていることの意味が分からず、ネイチャは小首を傾げた。テイオーは遠からずGⅠレースで優勝するだろう。そうなればテイオーを担当したトレーナーは、GⅠウマ娘を育てたトレーナーとして名が上がるはずだ。そのメリットは大きい。それよりも大きいデメリットとは何だろうか。ネイチャには見当もつかなかった。

 

「テイオーはクラシックレースに出走するかな?」

「そりゃしますよ。あたしテイオーとはクラスメイトなんですけど、本人は無敗でクラシック三冠取るつもりですよ」

「じゃあ、見事クラシック三冠を取ったらどうなるかな?」

「どうなるって……三冠ウマ娘ですよ。凄いことですよね」

「そうだな。凄いウマ娘だよ。たぶん誰が担当してもクラシック三冠取れたって言われるだろうね」

「え? いや、それはどう……なんでしょう?」

 

いくらトウカイテイオーが才気あふれるウマ娘だとしても、クラシック三冠が確実に取れるとは断言できない。

クラシック三冠を確実に取ると言われるウマ娘は毎年のように現れるが、実際に三冠を取ったウマ娘は片手で足りるほどしかいない。

 

「では逆に、クラシック三冠を取れなかったらどうなるかな?」

「えっと、悔しい?」

 

ネイチャは率直な感想を口にした。

 

「悔しいだろうな。じゃあその感情の矛先はどこに向かうと思う?」

 

西条の何気ない言葉に、ネイチャは不機嫌をあらわにする。

 

「テイオーが自分のトレーナーに向かって「勝てなかったのはトレーナーのせいだ」って言うとでも? テイオーはそんなやつじゃないわよ!」

 

知らず知らずのうちに語尾が荒くなる。それを見た西条は、不謹慎にも友達思いの良い子だなと思ってしまった。

 

「いや、確かにテイオーはそんなこと言わないだろうな。問題は彼女のファンだったり、マスコミだったりだよ。無能な新人トレーナーが才能あるウマ娘を潰したと言うだろうね」

「……そんなことはないと思うけど」

「そんなことはあるんだよ。特にマスコミはウマ娘を叩けないからね。どうしても矛先はトレーナーに向かう。だから、僕にとってテイオーはそれほど魅力的なウマ娘じゃない」

「でもその理屈だと、あたしだと失敗してもいいって聞こえるんですけど?」

「確かにそう取られても仕方ないが、僕だって貴重な時間を無為に使うつもりはない。キミならダービーを取れると思ったからスカウトしたんだ」

 

真摯な態度で西条はそう言った。ネイチャは不覚にもその姿勢を好ましく思ってしまった。

 

「まあ、すぐに返事をくれとは言わないよ。これを渡しておく」

 

西条は懐から取り出した名刺入れの中の1枚をネイチャに差し出した。

 

「連絡先とトレーナー室の場所が書いてある。電話でもメールでもいいし、直接訪ねてくれてもいい。今日はこの辺で失礼するよ。話を聞いてくれてありがとう」

 

そう言って、西条はネイチャに背を向けて歩き出した。

 

 

 

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