とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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レーススケジュールは現代に合わせて菊花賞→秋天としています。



第13話 菊花散る

ナイスネイチャが日本ダービーで優勝してから約5ヵ月後。クラシック最終戦の菊花賞が開催された。

1番人気はトウカイテイオー。ダービーでは2着に敗れたものの、僅差の敗北であり、皐月賞ウマ娘である。今度こそはと思うファンが多いのだろう。

2番人気はナイスネイチャ。ダービーに続いて2冠目を期待されている。

2強対決とも言われたが、結果はトウカイテイオーの圧勝であった。ダービーの熱戦が夢だったかのように、ネイチャは最後の直線でも伸びを欠いて、終始テイオーを捉えることはできなかった。

 

「あの感覚に頼ろうとしたな?」

「…………」

 

ネイチャは答えなかった。だがその沈黙が答えだった。

 

「あれは、入ろうと思って入れるものじゃない。むしろ入ろうと思えば思うほど入れなくなる。偶発的に入る1回目と違ってね。だから、ダービーのことは忘れろと言ったはずだ」

「――――っ」

 

ネイチャは何かを反駁(はんばく)しかけて、しかし何も言えなかった。

 

(やはりこの子は、精神的に脆いところがあるな)

 

それは言葉にはせずに、西条は優しくネイチャの髪を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌週、テイオーは菊花賞からの連闘で秋の天皇賞に出走した。

 

「東条トレーナーはよくこんな無茶なローテーションを許したな」

「マックイーンとの対決だからね。テイオーのやる気を尊重したんでしょ」

「焦らなくてもジャパンカップも有記念もあるのにな」

 

西条はそう言ったが、テイオーが好調であることと、この夏に大きく成長したことも無関係ではないと思っていた。

ウマ娘の成長曲線はなだらかに上昇するパターンばかりではない。ある日突然、何かに目覚めたように急成長する場合もある。

いわゆる『本格化』である。

 

(悔しいが、菊花賞では大した疲労もなかったということだろう)

 

西条は小さく臍を噛んだ。改めて、(ライバル)の大きさを知る。

 

(とはいえ、GⅠレースの連闘はな……どうかと思うが)

 

疲労は少なかったとはいえ、テイオーはそこまで頑丈なウマ娘ではない。ネイチャの手前言葉にはしなかったが、西条ははっきりとこれはクソローテだと思っていた。例えるなら偉大な三冠ウマ娘に超長距離GⅠを走らせ、間を置かず短距離GⅠに出走させるような。

そこまで酷くないにしても、もし新人トレーナー(自分)がこれを敢行すれば非難轟々であろう。場合によっては理事長あたりが「狂気ッ! 気でも狂ったのかーーッ!?」と怒鳴り込んでくるレベルの采配である。

 

このレースでテイオーが惨敗するようなことがあれば、東条ハナはマスコミから吊し上げを食らうだろう。その程度が予想できないとも思えない。

西条は東条ハナを尊敬しているし、トレーナーとしての手腕は天と地ほどの差があると思っている。それを埋めようと必死で努力しているわけだが、経験という差はそう簡単に埋まるものではない。

 

(よほどの勝算があるのか。それとも距離的な不安のためか)

 

俗に秋シニア三冠と呼ばれるレース。マックイーンはすべて出走してくるだろう。とはいえ、天性の長距離走者(ステイヤー)であるマックイーンが相手では距離が延びれば延びるほどテイオーは分が悪くなる。

それ故の判断かもしれない。

 

西条とネイチャはスタンドの後方からターフを眺めている。東京レース場は朝からの激しい雨でバ場は荒れに荒れていた。

この不良バ場ではスピードがウリのテイオーはやや不利。しかし距離は2000メートルとテイオーの得意距離だ。

東京芝2000メートルはスタートしてからすぐにコーナーへ入るため、枠が外になればなるほど不利になる。マックイーンは18人中13番。大外ではないが、なかなかに不利な番号である。

対してテイオーは最も有利な1枠1番。それでも1番人気を譲ったのは、やはり春秋連覇という記録がかかっているからだろうか。

 

 

 

『注目は春秋連覇のかかったメジロマックイーン、そして今年の二冠ウマ娘のトウカイテイオーでしょう。さあ、ゲート入りが完了し、秋の天皇賞レース、今スタートしました』

 

スタートは綺麗な横一線。わずかにマックイーンが遅れたが、微差の範囲だ。

 

『2コーナーまでの先陣争いですが、外からメジロマックイーンが行った! 外からメジロマックイーンが一気に来た!』

 

アナウンサーが興奮気味に捲し立てる。だが西条はスタート直後の攻防に眉根を寄せた。

 

「……今の、おかしくなかったか?」

「え? どこ?」

「いや、遠目だったしな。見間違いかもしれん」

 

西条はそう言ったが、掲示板には審議の青いランプが灯っていた。しかしそれでもレースは続く。

 

『先頭はプリクラースナ、2番手にヴァイスストーン、メジロマックイーンは3番手に落ち着きました。それを見るようにしてトウカイテイオーが続きます』

 

先頭(ハナ)を取ったプリクラースナが軽快に走る。かかっている様子はない。だがそれでも彼女の表情には焦りが見えていた。

 

『最終コーナーを回って最後の直線に入ります。先頭は依然としてプリクラースナ。2バ身離れてメジロマックイーン。さらに2バ身離れてトウカイテイオーが迫ります!』

 

プリクラースナも懸命に走ってはいるが、相手が悪かったとしか言えないだろう。内から来たメジロマックイーンに抜かれ、外から来たトウカイテイオーにも、並ぶ間もなく抜かされた。

 

(ここで……踏み込むのか!)

 

西条はテイオーの変化に目を見張った。菊花賞で兆しを見せていたとはいえ、次走で踏み込んでくるとは予想だにしていなかった。

 

(ネイチャが再現に四苦八苦しているというのに、テイオーはすでに要諦を掴みかけている)

 

ダービーでネイチャが"入った"ことに触発されたのだ。テイオーはすぐ間近で視ていたのだから、何かを感じ取っていても不思議はない。

 

(トウカイテイオー……やはり天才か)

 

テイオーの天才性の根幹をなすものは、身体的な性能もさることながら、その直観力にある。

シンボリルドルフが理性と威圧でレースを支配するのなら、テイオーは共感と直観によってレースを看破する。

シンボリルドルフがその威圧によって他者を畏怖(デバフ)させるのに対し、テイオーは他者の思惑を直観で読み取り、かわすことで己を鼓舞(バフ)する。

似て非なるもの。テイオーは皇帝とは別ベクトルの天才性を有していた。

 

『メジロマックイーンが先頭! 残り100メートル! しかし後ろからトウカイテイオーが来ている。トウカイテイオーが伸びる! マックイーン粘れるか! テイオーが来た! テイオーが来た! テイオーが今、マックイーンをかわしてゴーーールイン!』

 

最後の100メートル、さらに加速したテイオーは計ったようにゴール直前でマックイーンをかわして優勝した。

これでテイオーは4つ目のGⅠ制覇。シンボリルドルフに並ぶ七冠が現実味を帯びてきた。

しかしスタンドがざわめいている理由は、それだけではなかった。

電光掲示板に灯る着順判定が、いつまでたっても確定にならない。

そして、電光掲示板からマックイーン(13番)の番号が消えた。

 

「え? え? これってどういうこと?」

「…………え?」

 

わけもわからず困惑するテイオー。同じくわけもわからず混乱するマックイーン。

ざわめきが治まらない中で、アナウンスとともに中央のモニターにパトロールVTRが流された。それは衝撃的な映像だった。

スタート直後のマックイーンが外枠ロスを抑えるために、内側に切れ込むようにして斜行、他のウマ娘たちを妨害していた。特に妨害の影響が大きかったハニーフィッツは転倒寸前で、一歩間違えば大惨事であった。

意図したことではなかったのだろう。その映像を見たマックイーンの顔色は血の気が引き、蒼白となっていた。

 

「――ちょっ!? マックイーン大丈夫!? マックイーンってばぁ!?」

 

事実を受け止め切れなかったマックイーンの脳はパンクし、倒れるように失神した。

 

 

 

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