とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第18話 激突の春

年が明けて、マックイーンがトレセン学園に戻ってきた。それと機を同じくしてテイオーがリギルからスピカに移籍した。

本人は誤魔化していたが、マックイーンを心配しているであろうことは一目瞭然だった。

もちろん東条ハナは快く承諾した。

その頃、西条たちは春シーズンのローテーションについて話し合っていた。

 

「まずブルボンだが、皐月賞に直行しようと思う」

「トライアルは挟まないんだ」

「ああ、優先出走権がなくても皐月賞には出られそうだからな。それでどうだ? ブルボン」

「問題ありません。マスターの指示に従います」

 

ブルボンは畏まった姿勢で頷いた。

 

「次にネイチャだが、大目標からだな。大阪杯かNHKマイルCか。どうする?」

「やっぱり天皇賞はなしなんだ」

「僕が長距離に否定的なのは知ってるだろ? どうしても春の楯が欲しいというなら考えるが」

 

長距離は故障のリスクが大きいことに加え、レース自体が少ない。レースの主役はやはり中距離なのだ。ならば中距離に絞ってトレーニングを重ねた方が効率という意味では正しい。

メジロ家のように春の楯に特段の拘りがあるのなら話は別だが、そういうものがないのであれば、無理に固執する必要はない。

 

特に近年では菊花賞(3000m)を蹴って秋の天皇賞(2000m)マイルチャンピオンシップ(1600m)を勧めるトレーナーも増えてきていると聞く。

URAも長距離の地位低下を危惧して、格付け(グレード)や賞金額のアップ、新たなレースの設立などを画策しているようだが、上手くいっているという話は聞こえてこない。

 

歯に衣着せぬ言い方をすれば、長距離はダルいのだ。長距離の楽しみ方は駆け引きや探り合いなどの妙であるが、言ってみればそれは玄人志向である。

ファン心理としてはもっと派手で分かりやすい勝負を望んでいる。ボクシングで例えるならインファイトでの殴り合いのような試合だ。

レースならば短距離でのぶつかり合いがそれに相当するが、それではスピードに才がある者の独壇場になってしまう。

ある程度の戦略を必要とし、どのウマ娘にもチャンスがあり、エンターテインメントとしても成立する中距離がメインになるのは、ある種の必然ではあった。

 

「テイオーはどのレースに出ると思う?」

「可能性が高いのは大阪杯だな」

「なら、あたしもそれに出る」

「敢えていばらの道を選ぶか。なら弾みをつけるために、再来週の日経新春杯に出る。いいか?」

「オッケー。待ってろよ、テイオー!」

 

ネイチャは意気揚々と拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――さあナイスネイチャが上がってきた。1番人気の期待に応えられるか!? 伸びる伸びる! 凄い末脚だ! 先頭のカミヤクラシオンをかわしてゴールイン! ダービーウマ娘の貫禄を見せつけました!』

 

 

 

『――第3コーナーを回って先頭はイクノディクタス。その後ろにナイスネイチャ。トウカイテイオーは3番手。グランプリウマ娘のダイサンゲンもきているぞ。最終コーナーを抜けて最後の直線。トウカイテイオーとナイスネイチャがほぼ同時にスパートをかける。イクノディクタスをかわした! だが阪神はここから坂がある。トウカイテイオー、ナイスネイチャが駆け上がる。脚色は衰えない。内からナイスネイチャ! 外からトウカイテイオー! 並んで並んで、あーっとわずかに外か! トウカイテイオーだ! 1着はトウカイテイオー!』

 

 

 

こうしてナイスネイチャの春シーズン2戦は幕を閉じた。初戦の日経新春杯は優勝できたものの、2戦目の大阪杯はテイオーに競り負けての2着。

戦績だけ見ればそう悪いものではないが、ネイチャは悔しさをあらわにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポカポカとした陽気、桜の蕾が開きそうな春先に、西条は久方ぶりのウマ娘と出会った。

 

「およよ? こうして話すのは、なんだか久しぶりだね、西条トレーナー」

「テイオーか。そう言われれば、そうだな」

 

今年に入ってから、スピカとの距離は遠ざかっていた。チームとして認められ、チームルームの供与や施設の使用申請が出せるようになってからは、次第に絡む機会が減っていったのだ。

ネイチャの情報を渡したくないという西条の思惑も多少あったが。

 

「……なあテイオー。春の天皇賞だが、止めないか?」

「やめる? どゆこと?」

 

テイオーはきょとんとして西条を見つめた。本来なら、彼女のトレーナーでもない西条がこんなことをいう筋合いはない。だがどうにも抑えきれなかった。

 

「関節の柔らかさはキミの長所でもあり短所でもある。その連動性が爆発的な加速を生み出しているが、リスクもある。キミの脚は長距離を走るには繊細すぎる。成長期を越えて骨が固まってきたとはいえ……はっきりと言えば、キミは骨折しやすい体質なんだ。長距離レースは止めた方がいい。マックイーンと戦いたいだけなら、宝塚記念でもいいだろう?」

「……実はね、それおハナさんにも言われたんだ。筋疲労が極限まで高まる長距離レースはリスクが高すぎるって」

「ならば……」

「でもね、前はボクの得意距離(秋の天皇賞)でボクが勝った。だから今度は、マックイーンの得意距離(春の天皇賞)で勝つんだ。そうしないと意味がない」

 

テイオーに回避する意思は無さそうだった。西条はそれ以上は何も言えず、ただ一言「無理はするな」とだけ言ってその場を離れた。

「無理しなきゃ勝てないよ」という小さい呟きは誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

春の天皇賞は予想以上の注目を集めた。マックイーンが勝てば春の連覇。テイオーが勝てば春秋制覇。どちらも偉大な記録である。

半年ぶりのレースにも拘わらず、パドックで見る限りマックイーンの調子は良さそうであった。それはテイオーも同様で、アナウンサーもどちらが勝つか全く分からないと言った。

 

レースはスタート直後から逃げたメジロパーマーが引っ張る形となり、マックイーンは中団前目の位置に落ち着いた。テイオーはそれをマークするように右後ろを追走。第3コーナーに入るとマックイーンはスパートをかけ、メジロパーマーをかわして独走態勢に入った。テイオーもマックイーンを追いかけるものの、その脚はまったく精彩を欠いていた。

テイオーはこのレースで初めて連対を外した。

 

そして翌日の新聞でテイオーの剥離骨折が発表された。

またマックイーンもレース後のトレーニング中に負った骨折で長期休養することになる。

 

 

 

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