とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第22話 秋シーズン(後)

各国から強豪ウマ娘たちが集うジャパンカップ。パドックも終わり、西条とネイチャは最後の確認作業を行っていた。

 

「相手のデータは少ない。キッチリした作戦はなしにしよう。自分がすべきだと思ったことを即座に行うこと」

 

海外のレース映像を入手することは困難だ。西条にそういったコネでもあれば話は違ったのだろうが、あいにくとそんな伝手はない。

1番人気のインティメイトゥ。2番人気のナチュルメロディ。どちらも侮れない相手だ。

逆にトウカイテイオーの人気は低い。休養明けの天皇賞でいまいちな成績だったからか、今回も荷が重いと感じているのだろう。

 

「それと、テイオーにも気を配っておけ。前とは別物だぞ」

「……うん。あたしも感じてた」

 

観客の見立てとは逆に、西条はひと際テイオーを警戒していた。

テイオーの調子は明らかに良い。オーラさえ漂って見える。ネイチャもその気配をヒシヒシと感じていた。

 

(ちょっと塩を送りすぎたか?)

 

西条は少しばかり後悔した。

 

 

 

『今年から国際GⅠレースに認定されましたジャパンカップ。この府中東京レース場には16万人を超えるファンが詰めかけています。1番人気はヨーロッパの女傑、インティメイトゥ。天候は晴れ、バ場は重との発表です』

 

(芝は乾いているが、土にやや水分を含んでいるという感じか。ネイチャは……落ち着いてるな。話しているのはイクノディクタスか? ……ん? あの子、先週のマイルチャンピオンシップにも出てたよな。その前の秋天にも出てたし、疲労が溜まらないタイプなのか?)

 

GⅠレースは過酷で熾烈だ。レース後には数キロ痩せるウマ娘もいる。芝だと脚への負担も大きいし、あまりポンポンと出走させたくはない。イクノディクタスは丈夫なウマ娘なのだろう。

 

『さあ、全ウマ娘がゲートに収まりました。ジャパンカップ、スタートしました。まずは先頭争い、誰が行くのか。飛び出したのはレリックアース。レリックアースが先頭に立ちました』

 

(さすがに世界の強豪ぞろいだな。簡単に前へは行かせてくれんか)

 

テイオーは現在4番手。ネイチャは7番手あたりでレースを進めることになった。先頭はレリックアースで、中団では何度か入れ替わりがあったが、大きな動きはなかった。

 

(1000メートルの通過タイムは60秒3。平均ペース……いや重バ場だと考えればハイペースか。インティメイトゥは日本の芝に手こずっているようだ。これは伸びないかもしれんな)

 

ヨーロッパと日本では芝の質が違う。天然そのままに残るヨーロッパの芝は、何よりもパワーを必要とする。翻って日本の芝は綺麗に刈り揃えられている高速バ場だ。パワーよりもスピードが重視される。

かのブロワイエも、日本の芝に合わせることができずに、最後の直線では伸びを欠いた。

 

『最終コーナーでトウカイテイオーがインティメイトゥをかわして3番手。トウカイテイオーがぐんぐんきている!』

 

(さすがにレース勘が鋭い。後ろにイクノディクタス。ネイチャはその後ろか。悪くはないが……とどくか?)

 

『最後の直線に入ります。レリックアース逃げ切れるか。トウカイテイオーが来た。ナチュルメロディも良い位置だ。ナイスネイチャも上がってきたぞ!』

 

レリックアースはもう一杯だった。残り200メートルでゆるゆると後退を始め、残り100メートル時点で先頭を譲った。

レリックアースをかわしたテイオーがそのまま1着に入り、ナチュルメロディが2着、ネイチャは3着に終わった。

 

『トウカイテイオーが海外の強力ウマ娘をねじ伏せました! 1着はトウカイテイオーです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レース終了後、西条はいつものように控え室でネイチャの脚を診ていた。

 

「ごめん。また負けちゃった」

「またって……秋天(前走)は勝っただろ?」

「…………」

 

ネイチャがそういう意味で言ったのではないことは、西条も察していた。ネイチャが本当の意味でテイオーに勝ったことはダービー以来一度もない。

特に今日は、コース取りの関係で競り合うことなく負けた。

 

「さっき出たデータだがな、あがり3ハロンのタイムは、テイオーとほとんど差がなかったそうだ」

「……ホントに?」

「こんなことで嘘は言わんよ。ダービーだって、テイオーの前で仕掛けただろう? 次のレース、たぶん有記念か。テイオーより前でレースを進めよう」

「……勝てるかな」

「勝てるさ。勝つ為の、練習をしよう。だがまずはウイニングライブだ。行こう、笑顔でな」

 

西条はネイチャの髪を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小柄なウマ娘は大成しない、などというトレーナー間の迷信みたいなものがある。だがそれはかつて葦毛のウマ娘は走らない、と言われていたような根拠のない妄言にすぎない。

実際、タマモクロスなどは小柄で葦毛なのだが、GⅠをいくつも取った素晴らしいウマ娘だ。

 

(そんな都市伝説に踊らされているとはな。なんと料簡の狭い……)

 

菊花賞のウイニングライブは、西条の心に強いしこりを残していた。あんなにがんばったウマ娘が、あんなに素晴らしいレースをしたウマ娘が、正当に評価されないというのはどうにも納得ができない。

 

ライスシャワーにはトレーナーがいなかった。それはつまり自分一人でトレーニングを行い、ローテーションを決めているということだ。あの菊花賞でライスシャワーを再評価したトレーナーもいるだろうが、心意気だけは伝えたいと西条は思った。

 

「ライスシャワーをうちのチームにスカウトしたいと思う」

 

西条はネイチャとブルボンにそう告げた。

 

「いいんじゃない」

「私も賛成です」

 

西条の提案はあっさりと受け入れられた。ネイチャはあのライブで西条が気分を悪くしたのは知っていたし、ブルボンもライブ中のライスシャワーの様子がおかしいことはなんとなく察していた。だがあの時は自分のことで手一杯だったのだ。

なぜならブルボンは、1着(センター)のダンスは完璧に習得していたが、2着3着(サイド)のダンスはあまり練習していなかった。そのせいで周りに気を配る余裕がなかったのだ。それを少し悔やんでいた。

 

「ありがとう。まあ、相手が受けてくれるかは分からないが」

 

まずはふたりが快く承諾してくれたことに、西条はほっと胸をなでおろす。

ジャパンカップが終わり、西条はライスシャワーのスカウトに動き出した。菊花賞が終わった頃、ライスシャワーは何人かのトレーナーからスカウトを受けた。だが契約には至らなかったと聞いている。

そして、菊花賞以降レースには出走していない。それはいい。ブルボンだってまだ疲労は抜けきっていない。怪我をしたとも聞いていないので、単純に休養期間なのだろう。

 

本人の希望により、ブルボンを連れ立ってライスシャワーの下へと向かう。だがトラックにライスシャワーの姿は見えなかった。

しばらく探し回って、ようやく見つけたのは夕暮れ時。ジョギングから帰ってきたらしいジャージ姿のライスシャワーだった。

 

「初めまして、トレーナーの西条です。ブルボンの紹介はいらないかな?」

「は、はい。あのライスは……わたしはライスシャワーです」

 

少し怯えた様子でライスシャワーは返答した。西条は隣のブルボンに視線を送る。自分よりも同じウマ娘が誘う方が適任だと考えたのだ。

 

「ライス。私と一緒のチームに入りませんか?」

「え? ブルボンさんのチームに?」

「ライス。私と一緒のチームに入りなさい」

「命令形!?」

 

いまいち手ごたえがないと感じたのか、ブルボンはすぐに二の矢を放った。西条は仲介しようかとも考えたが、もう少し様子を見ることにした。

 

「ライス、私も朝日杯が終わるまでは独りでした。このトレーニングは正しいのか、私の夢は間違っているのか、そんな不安もありました。支えがないのは、辛いことだと思いました」

 

ライスシャワーはただ黙してブルボンの独白を聞いている。

 

「何度もお父さんに電話しました。ですが、遠くにいるお父さんでは私の心は埋まりませんでした。その時に出会ったのです。私の夢を肯定してくれる人に」

 

それが誰かは言うまでもなかった。ライスシャワーはちらりとブルボンのそばに立つ西条に視線を向けた。

 

「そんな夢を……ライスは壊してしまいました。ライスが走るとみんなが不幸になる。ライスはただみんなに認めてほしかっただけなのに。だから一生懸命がんばったのに……ごめんなさい、ライスはもう走りません」

 

がんばって走った結果があのライブなら、確かにショックは大きいだろう。何のためにがんばったのか、分からなくなってもおかしくない。

ならばなぜ練習しているのか、キミの脚は走りたがっているのではないか、と西条は問いたかったが、やはりブルボンに任せようと判断した。

 

「確かに私の夢は終わりました。しかし、あなたを恨む気持ちはありません。悔しい、それ以上に清々しい気持ちでした。私の全てを出し切っても勝てなかった、唯一のウマ娘。それがあなたなのです」

「か、買い被りです。所詮ライスは悪役(ヒール)なんです。ライスが走ったら、みんなを不幸にする」

「私は、少なくとも私は不幸だなどとは思ってはいません。三冠という夢は失いましたが、新たな夢が生まれました。次は勝ちたい。今度は負けたくない。強いあなたと走りたい。そう、私はあなたと一緒に走りたいのです」

「ラ、ライスと一緒に……?」

 

茫然とライスシャワーがつぶやく。ブルボンは小さくうなずいて、言葉を続けた。

 

悪役(ヒール)だなどと悲しいことを言わないでください。もう走らないなどと寂しいことを言わないでください。私はあなたと走りたい。強いあなたと一緒に走りたい」

「……ライス、走ってもいいのかな?」

「いいんです。誰も走るななどとは言ってません。一緒に走りましょう。私と、私たちと」

 

ブルボンはゆっくりとライスシャワーに近づき、右手を差し出した。ライスシャワーは目じりに涙を浮かべながら、その手を取った。

 

 

 

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