とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第23話 冬の日々

紅葉の時期も終わり、強烈な寒さを実感するようになってきた。新たにライスシャワーをチームに向かえ、今日は最初のトレーニングだ。

3人の出走予定レースは年末に開催される有記念。

まだ確定ではないが、おそらく選ばれるだろう。

ブルボンの疲労も抜けて、ライスシャワーも問題ないように見える。ネイチャの意気も高い。調整は念入りにして、ベストコンディションで有記念に送り出したい。

 

そうして練習を終え、定例のマッサージとなったが、その時になってライスシャワーは困惑した。

3人の格好は短パンにスポーツブラというラフなものだ。これだけでもライスシャワーは気恥ずかしさを覚えている。

 

「やっぱり最初は躊躇うよね。あたしもそうだったもん」

「練習後のマッサージは重要です。お父さんもそう言っていました」

「そういやあんたは最初から全身許してたわね」

 

最初の頃は脚だけだったネイチャに比べて、ブルボンは初日から全身マッサージを受け入れていた。聞けば実家では父に施術されていたとのこと。それ故に抵抗が少なかったのだろう。

 

「まあ、今日は軽めのトレーニングだったから無理にとは言わないが」

「ううん、ライスがんばる!」

「がんばる必要はないが、じゃあそこに仰向けになってくれ」

 

寝そべったライスシャワーの右脚を自身の肩に乗せ、クリームを塗りこんでマッサージを始める。

 

「末端から心臓に向かって丹念にモミあげる」

「……あっ……あっ……んんっ」

 

自分でやるマッサージとも、友人にしてもらうマッサージとも違う、理にかなった正しいマッサージ。ライスシャワーは初めて体感する心地良さに感銘を受けた。

 

「よし。次はうつ伏せになって」

 

体勢を入れ替え、続けて肩、背中、腰をまんべんなくモミほぐしていく。そこで西条はふとした違和感を覚えた。

 

(背骨……腰骨か? 若干歪みがある……か? それに筋肉のバランスも悪い。自己流鍛錬の弊害だな)

 

人間と同じようにウマ娘にも利き腕、利き脚というものがある。使いやすい方の手足が必然的に鍛えられてしまうのだ。その結果、体軸がブレやすくなってしまうのだが――

 

(この状態でブルボンに勝ったのか。末恐ろしいな)

 

もしライスシャワーにきちんとしたトレーナーがついていたのなら、ダービーも危うかったかもしれない。

 

「――()っ」

「すまん。大丈夫か?」

「う、うん。ライス平気だよ」

「トレーナーさん怖い顔してたよ。ライスに何かあった?」

 

ネイチャが訝しむように声を掛ける。筋肉のバランスはトレーニングで改善できるが、骨格の歪みはさすがに専門的すぎる。

 

「少し、骨格に歪みがあるかな。今すぐにどうこうというわけじゃないが、整体院で矯正した方がいいかもしれない。ただその場合、有記念は諦めることになると思う」

 

筋骨格が改善されれば、今のフォームには違和感を覚えるだろう。その矯正は一朝一夕にとはいかない。

ライスシャワーは少し考えた後、答えを出した。

 

「悪いところは、早く治したほうがいい……よね」

「有記念はいいのか?」

「うん。仕方ないよ」

「そうか」

 

西条は頷き、整体院に予約を入れるべくスマホを取った。

 

(どうせライスが選ばれるわけないし……)

 

どこまでも自己評価の低いライスシャワーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

師が走ると書いて師走。要するに忙しい月である。トレーナーもウマ娘も。

その例にもれず、西条も忙しい日々を送っていた。トレーニングメニューの作成はもちろん、今年はふたりも有記念に出走する。ライスシャワーの治療についても色々と考えなければならない。

 

そしてウマ娘も忙しい。有記念という大レースに臨むのだ。トレーニングにも熱が入る。そんな中で、ネイチャはレースとは別のことを考えていた。クリスマスについてである。

 

(去年は微妙な空気だったからなぁ)

 

去年のクリスマスパーティーは、有記念の後に行われたので、西条が気を遣ってくれているのが分かった。

今年は有記念の前にクリスマスがあるのでその心配はないが、レース前に浮かれすぎるわけにはいかないという問題がある。

ささやかながらパーティーは開催するが、ネイチャはその際に用意するプレゼントについて悩んでいた。

 

そこでふと思いついたのがスーツである。

ネイチャがGⅠ戦線で戦うようになってから、西条がスーツを着る機会は増えた。具体的には記者会見などで。

だからこそスーツが候補に挙がったのだが、どんな感じのものが良いのかよく分からない。いっそのこと自分の勝負服(カラー)と同じ緑や赤ではどうだろうと思った。

 

「でもそれだとマーベラスな怪盗っぽくない?」

 

そう言われて少し想像してみる。緑のジャケット、赤のジャケット。確かに安っぽいコスプレのように見えなくもない。ならば緑と赤を合わせて……やめておこう。さすがに前衛的すぎる。

ネイチャは小さく首を振った。そして何となくペアルックみたいじゃんと思って頭を抱えた。

 

そもそもウマ娘(学生)トレーナー(社会人)にスーツを贈るというのはどうなのだろう。ネイチャから見て、西条は既製服が合うような体型ではない。あれはアスリートの体型だ。

 

(絶対なにかやってたよね……)

 

以前にそう訊いたことがあった。返ってきた答えは――

 

「色々と手を出して、結局すべて中途半端に終わってしまったよ。だからひとつのことに打ち込んでいるウマ娘(キミたち)が眩しく見えた。そんなキミたちをサポートしたくて、僕はこの仕事を選んだんだ」

 

というものだった。

ともあれ、西条は既製服が合うような一般的な体型ではない。

長く愛用してもらうには、オーダーメイド以外ありえないわけだ。となればサプライズは中々厳しい。それにクリスマスまで間に合うのか。値段もオーダーメイドとなれば、二桁万円、あるいは三桁万円も視野に入れなければならない。

 

(プレゼントにそんな高価なもの……重い……重くない?)

 

今のネイチャならそのくらいの金額は右から左……ほどではないが、用意できない額ではない。だが西条は、気持ちだけ受け取っておくと言って普通に断りそうだ。というか良識ある大人ならそう対応する。

誰だってそうする。西条だってきっとそうする。

 

「ならマーベラスなネクタイはどう?」

 

天啓を得た。小物ならば向こうも気を遣わずに使えるだろう。ネクタイなら緑でも赤でも、そこまで奇抜なものではない。今の時期ならクリスマスカラー(緑と赤)のネクタイだってあるかもしれない。3本買ったって、そう大きな出費じゃない。

 

「よし。ネクタイにしよう」

 

決意を声に出して、ネイチャは小さく拳を握った。

その様子を眺めながら、マーベラスなルームメイトは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

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