とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第03話 覇王から学ぶもの

ネイチャが西条とトレーナー契約を交わしてから一週間が経った。基礎トレーニングを大事にするという西条の信条に従い、何とも地味なトレーニングを続けたネイチャだったが、やはり自分で考えて何となくやっていたトレーニングよりも身になっている気がする。

そのくらいの信頼関係は出来上がっていた。

一日の授業が終わり、今日もトレーニング頑張るかぁと席を立ったところで背後から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「ネイチャネイチャ、ついに結果発表の時間だよ!」

「テイオー? 結果発表って……何の?」

「む~、忘れちゃったの? ネイチャんとこのトレーナーのことだよ」

「あ~、あれかぁ」

 

ネイチャのトレーナーである西条がテイオーの欠点を指摘した。それが正しいかどうかをテイオー自身が動いて確かめていたのだ。

 

「で、どうだったのよ。12人のトレーナーさんたちが提出したトレーニングメニューは」

「細かい違いはあったけど、ボクの走り方について言及した人はいなかったね」

「ん~、じゃあうちのトレーナーの考えすぎってこと?」

「それがさぁ、ここからが面白いところでね。カイチョーのチームのトレーナーにも訊いてみたんだよ。そしたらこう言ったんだ。「私が指導するなら、まずはおまえの走り方を矯正する。あの走り方では早晩脚を痛めかねない」って」

「リギルのトレーナーさんにも訊いたの!?」

 

テイオーの言うカイチョーとは、生徒会長のシンボリルドルフであり、彼女の所属するチームリギルは、このトレセン学園のトップチームだ。

メンバー全員がGⅠウマ娘であり、彼女たちを指導する東条ハナは文句なくこのトレセン学園で最も手練れのトレーナーであろう。

その彼女と意見が一致したということは、西条の意見も無視できないとテイオーは考えた。

 

「うん。確かに面白い結果になったわね。で、あんたはどうするの? うちに来るならトレーナーさんの説得も手伝ってあげるけど」

「ううん。とりあえずリギルに入ることにしたんだ。もっと面白そうなとこが見つかったら移籍するって条件出したけど、笑いながら受け入れてくれたよ」

「天下のリギル相手によく言えたわね。やっぱあんた大物だわ」

 

ネイチャは呆れたように呟いた。

 

 

 

 

 

「――ということになったのよ」

「リギルに入ったのか。それはますます手が付けられなくなりそうだな」

 

ネイチャの報告を聞いて、西条はため息を零した。あの時、いくら舞い上がっていたとはいえ、ドアの向こうでテイオーが聞き耳を立てていたのに気づかなかったのは西条の失策である。

 

「でもなんだかんだテイオーのこと気にかけてたよね、トレーナーさんは」

 

ネイチャが揶揄うように薄く笑った。実際その通りで、テイオーがいつまでもトレーナーと契約しないようなら、ネイチャを通してそれとなく伝えるつもりではあった。

ライバルの故障を願うほど非道な人間ではないのだ。

 

「まあ、その件はもういいだろう。今日のトレーニングは、お勉強だ」

「お勉強かぁ。具体的には?」

「あるレースの映像を見てもらう。そこにはレースのすべてが詰まっている」

 

西条はリモコンを操作して、モニターに映像を映し出した。画面に大きく有記念の文字が映る。

ゲート前に出走ウマ娘が集まっているのを見て、ネイチャはすぐにいつの有記念か気づいた。

 

「これ、オペラオー先輩が勝ったレースですよね」

「そうだ。この年のオペラオーは神がかった強さだった。年間通して無敗。GⅠレース五つを含む重賞八連勝。その最後を飾るレースだ。またオペラオーもあの性格だからな。止められるものなら止めてみろ、というようなことを、芝居がかった口調で言ったわけだ。その結果、こうなった」

 

それは、レース開始直後から始まった。

 

「完全に……囲まれてますね」

「オペラオーの勝ち方は、前の方でレースを進めて、最後の直線で逃げているウマ娘をかわすという、先行型の脚質(スタイル)だ。だがこのレースは後方に抑え込まれている。自分のレースをさせないことで、オペラオーを封じ込めたんだ」

 

オペラオーを囲むウマ娘たちの視線は厳しい。絶対に勝たせないぞという意志が伝わってくるほどに。

 

「レースが動いたのは最終コーナー。ここまではオペラオーを抑えることに注力していたが、ここからは自分が勝つことを考え始める。よく見ろよ、ここからのオペラオーは、圧巻だぞ」

 

オペラオーの位置は中団のやや後ろ。前にはウマ娘が固まっている。内には入れない。外にも出せない。道は消えたはずだった。

だがオペラオーはわずかな隙間をこじ開けるように進んで、先頭を走っていたメイショウドトウをハナ差捉えて勝利した。

 

「この時のオペラオーには"1秒先の未来"が見えていたはずだ」

「いきなりファンタジーですか?」

「観察力、洞察力、経験則。すべての感覚を研ぎ澄まして、他のウマ娘の動きを先読みしてたんだよ」

 

俯瞰で見てようやく分かる程度のわずかな隙間。オペラオーはまるでそこに隙間ができることを知っていたかのように飛び込んで行く。

あるいは誘いをかけ、隙間を作る。

ネイチャがごくりと唾を呑み込む。最初にこのレースを見た時は、単純に「オペラオー先輩は凄いなぁ」としか思わなかったが、解説付きで見ると改めて彼女の強さが実感できた。

 

「ここまで露骨になることはまずないだろうが、前を塞がれた時や妨害された場合の捌き方は頭に入れておいた方がいい」

「それは……まぁ」

「模擬レースでも位置取りは重要だろ? 本番はみんな必死に良い位置を取りに来るからな。自分だけじゃなくて、相手の動きを予測できるようになればレースが楽になる」

「なんか難しそう?」

 

ネイチャが怪訝な顔で覗き込んでくる。西条はその視線を真摯に受け止めた。

 

「1秒……でも遅い。コンマ1秒の判断で未来を変える。一朝一夕にできることじゃないな。まあ、慣れだよ」

「言わんとしていることは分かるんですけど、このお勉強はちょっと早くないですか? あたしまだデビューもしてないんですけど」

「レース展開を知ることは必要だ。レースはひとりでやるものじゃないからね。これは相手の思惑や作戦、仕掛けどころを見抜く「眼」を鍛えるための、いわゆるレース勘を鍛えるトレーニングだ」

 

それからふたりは、何度もそのレースを見返した。

 

 

 

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