とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第04話 東条ハナの考察

東条ハナがその噂を耳にしたのは偶然だった。

その日、チームリギルのリーダーであるシンボリルドルフがいつになくそわそわしていたのもので、「何かあったか?」と軽い気持ちで訊いてみた。

そうしたら、トウカイテイオーがチームの選定に東奔西走していると返ってきた。

トウカイテイオーのことは東条とて知っている。入学時はメジロマックイーンと共に双璧を成す存在と噂になった。

 

(マックイーンがデビューしたことで、本格的にトレーナーを探し始めたか)

 

東条ハナは多くのウマ娘を手掛けているが、何人かはトゥインクル・シリーズを卒業し、上位のドリーム・シリーズに進出している。トレーニング内容も確立され、人数の割に忙しさはそれほどでもない。

今なら新たに2、3人ほど面倒が見れるだろう。

 

トウカイテイオーは幾人かのトレーナーに、自分を指導する場合どんなトレーニングメニューを組むかと聞きまわっているようだ。

比較的自由を好むトウカイテイオーは、ガチガチの管理主義であるリギルは選ばないと思っていた。それゆえに、東条はテイオーにはあまり気を配っていなかった。

しかし、手慰みというわけではないだろうが、東条は本気でテイオーのトレーニングメニューを考えてみるかと思い立った。

それからの彼女の行動は早かった。過去のトウカイテイオーのデータを集め、思索にふける。

 

(模擬レースでは差しが4割、先行が6割といったところか。単純に気分屋だな)

 

全力ではあるが本気ではない。そんなところだろう。実力差がはっきりしている相手でも、ぶっちぎったりはしない。ちゃんとレースをしている。それは決して舐めプなどではなく、レースを壊さないための配慮だ。

 

(やはり先行型で進めるべきか? 時代もそれが主流だし……)

 

そう考えて、東条は首を振った。つい最近それで失敗したばかりだと気づいたからだ。

 

(大事なのは本人がどう走りたいか、だ。トレーナー()の考えを押し付けるべきではない)

 

東条ハナが脚質(スタイル)を変えようとしたウマ娘は、明らかに納得していなかった。理解はしていたが、納得はしていなかったのだ。

納得することは覚悟することに通じ、覚悟することは全力を出せることに通ずる。

 

事実、彼女は勝てなくなった。東条ハナをもってしても、それほど特異な才能を持つウマ娘を担当するのは初めての経験だったのだ。その愚を繰り返すつもりはない。

改めてリモコンを操作し、テイオーの映像を進めていく。東条がそれに気づいたのは、13本目のレース映像だった。

 

(コーナーの回り方が独特だな)

 

コーナーでは直線に比べてフォームが崩れやすい。自分の中に垂直の線を意識することが重要になる。

テイオーの曲がり方は、一見するとフォームは崩れていないように見える。

 

(上半身の鍛え方が甘い。これでは下腿にかかる負担が大きくなる。最後の直線ではフォームのブレがそのまま残っている。それでも速いのは、さすがテイオーといったところだが……)

 

下腿部、とりわけ足首にかかる負担は相当なものになるだろう。疲労や負荷は蓄積されていくものである。

東条ハナほどのトレーナーでも、故障と無縁というわけにはいかない。時速60キロ以上、一流のウマ娘ともなれば時速70キロ以上で疾走するウマ娘は、人間の想像を超えた構造をしている。その身体は今もって未解明の部分が多く、神の創造した神秘の存在と言う者もいる。

50戦以上走ってもピンピンしているウマ娘もいれば、わずか4戦で重度の骨折を負うウマ娘もいる。最大限配慮しても、そういうことは起こり得るのだ。

 

(最初はフォームの改善と上半身の鍛錬だな。テイオーがトレーナーを決めたら、それとなく彼女のトレーナーに伝えておくか)

 

そう結論付けて、東条は資料をまとめた。

だが数日後、テイオー本人と会話する機会があり、東条は自分の意見を伝えた。それを聞いたテイオーは目を丸くし、笑みを浮かべた後、お礼を言って去って行った。

 

それからさらに数日経って、テイオーはリギルに加入したいと言ってきた。その時の条件も面白いものだったが、東条は気にするでもなくあっさりと受け入れた。

その時に、東条はひとりの男の名を知った。

 

(聞いたことのない名前だ。ということは新しいトレーナーか? そういえば、最近は新人トレーナーとの交流もなくなっていたな)

 

そんなことを考えて、東条ハナは苦笑した。

 

 

 

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