とあるキラキラしたいウマ娘   作:乾燥海藻類

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第06話 葦毛のコーチたち

オグリを見送った後、西条は片付けもそこそこにネイチャの正面に腰かけた。

 

「なんでこんなことを? って顔だな」

「そうですね。まずは、いま必要だったのかってこと」

 

必要な訓練だったことは否定しない。だが今である必要が分からなかった。

 

「メイクデビューをどう考える?」

「スペシャルな明日につながる……最初の一歩?」

 

当然のようにネイチャは答えたが、西条はわずかに首を振った。

 

「全員がね。だが次のステージに進めるのはたった一人だ。それ以外のウマ娘たちは、厳しく不安な日々を過ごすことになる」

 

負けた者たちは未勝利戦で戦うことになる。それだっていつまでも続けられるわけではない。

毎年6月にデビュー戦が開始され、翌年の8月に未勝利戦が終了するまでの約15ヶ月の間に1回は勝たないと、出られるレースがなくなるのだ。

その先の進路は3つ。格上挑戦するか、地方に移籍するか、レースの世界から身を引くかである。

それまで勝てなかったウマ娘が格上挑戦したところで結果は知れたもの。結局は二択になる。

だからこそ皆が必死に勝ちにくる。レースという世界を真剣に考えている者ほど、死に物狂いで勝ちにくる。メイクデビューとはそういう場なのだ。

 

「勝つことは偶然じゃない。たまにまぐれ勝ち(フロック)などと(のたま)う輩がいるが、そんなものじゃないんだ。勝つ者は勝つために必死に努力し、勝つべくして勝っている。無論、枠順やバ場の状態、避けられないコンディションの変化など、運の要素もある。だが勝つということは必然に近いということを、まずは知ってほしかった」

 

勝つということを漠然としか考えていなかったネイチャと、勝つことは積み重ねだと考える西条には大きな乖離があった。

 

オグリキャップ(彼女)ほどのプレッシャーを放てる者は、ジュニアクラスにはそういないだろうが、そういうものを体験しておくことは、いざそういった局面に出会った時、役立つはずだ。自分のレースをすると、言うのは簡単だが、それをしっかりと実践できているウマ娘は驚くほど少ない。特にジュニアクラスでは。だからこそ今は、自分というものを知り、確立させる期間だと僕は思っている」

 

ネイチャは気圧されたように押し黙った。西条が本気でダービーを狙っていると理解したからだ。ただの誘い文句でもなく、おだてでもなく、ネイチャがダービーで優勝できると、本気で考えている。

それを理解して、ネイチャは途端に恥ずかしくなった。ダービーで勝つ、テイオーに勝つということが、自分でも懐疑的だったからだ。

 

ネイチャはあまり目立たない子供だった。ウマ娘らしく、走ることは好きで得意でもあったが、評価は"そこそこ速い"にとどまる程度。クラスで一番にはなれても、学年で一番にはなれない。そんなウマ娘だった。

レースで例えるならば、GⅢやGⅡでは勝てても、GⅠでは勝てない。といった感じだろう。

 

本人もそれが分かっているから、一度だけでもGⅠレースで勝てたらいいな。一度くらいなら、まぐれで勝てることもあるだろうと考えていたが、今この瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃に見舞われた。

 

勝利というものを真剣に考え、真摯に向き合い、勝つ為のルートを模索する。勝つべくして勝つ。必然として勝つ。

今までは流されていたというか踊らされていたというか、トレーニング自体は真剣ではあったが、どこか曖昧気味だった気持ちが引き締まっていく。

ようやくネイチャは本気でダービーを目指し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は葦毛三銃士に来てもらった」

 

オグリキャップの来訪からちょうど一週間後。今度は三人のウマ娘がやってきた。一人はネイチャも知っている顔だ。いや、知っているといえば、全員を知ってはいた。

 

「オグリキャップだ」

「タマモクロスや」

「イナリワン――って、アタシは葦毛じゃねぇ! アンタ失礼じゃねぇかい!?」

 

と、小柄な鹿毛のウマ娘が西条に向かって声を荒げた。

 

「いや、これがキミらの持ちネタじゃないのか? タマモクロスからこう振るように言われたんだが」

「やっぱアンタの差し金か! アタシをオチに使うんじゃねぇっていっつも言ってんだろ!」

「しゃーないやろ。クリークはちゃんとオトしてくれんのやし」

「そういやクリーク先輩はいねぇのかい?」

「あいつは甘やかしぃやからな。ウチらの指導方針とは噛み合わんのや」

 

スーパークリークは母性のかたまりのようなウマ娘で、あまり相手を叱ったりはしない。褒めて伸ばす育成法もあるが、闇雲に褒めているだけでは上手くいかない場合が多い。要するに相手を見極める必要があるということだ。

それに万が一、クリークに依存されては困ると思い、タマモクロスはクリークではなくイナリワンを選んだ。

 

「そもそもアタシが来る必要あったか?」

「三人おれへんとあのネタが出来んやないか」

「完全にオチ要因じゃねぇか!」

 

イナリワンが怒りをあらわにして地団駄を踏んだ。

西条が誘ったのはオグリキャップだけであったが、それを隣で聞いていたタマモクロスが面白がってついてきた。イナリワンも連れてきたのは、あのネタをやるためだろう。

 

「おまえたち、じゃれ合ってないで早くトレーニングを始めるぞ」

「おぅ、すまんすまん。ほれみぃ、アンタのせいでオグリんに怒られたやないか」

「アタシのせいか!?」

「あはははっ、よ、よろしくお願いしま~す」

 

こうして四人はトレーニングを始めた。メニューは西条の要望通り、いつもオグリたちが行っているものだった。

 

(特に奇抜なものはないな。基本通りというか、しかし量が段違いだ。ネイチャはよくついていっている)

 

だが成長途中であるネイチャに、このトレーニング量を毎日こなすのは無理がすぎる。故障のリスクを常に抱えなければならない。

 

(クラシックの後期くらいからだな)

 

その間にも、西条は三人のウマ娘をつぶさに観察していた。トレーニングのシメに行われた四人立ての模擬レース。特に指示は出していない。

 

(さすがに巧いな。コース取りやコーナーを攻める技術は、どれだけ実戦にもまれたかがものをいう。レース映像を見るだけでは、この空気は分からない。少しでも学んで、盗んでくれればいいが)

 

西条の期待を背負ったネイチャは4着でゴールを通過した。その後は、前回と同じように全員がトレーナー室に集った。

最初はインパクトを与えるために焼き肉を選んだが、今回はタマモクロスのリクエストもありお好み焼き&たこ焼きパーティーとなった。

小食のタマモクロスも焼き役に回ってくれたため。前回よりは余裕があるが――

 

「まるで無間地獄だな」

 

西条がぼそりとつぶやく。焼いても焼いても終わらない。お好み焼きとたこ焼きが、焼いた先からどんどん消えていくのだ。前回はネイチャが恐縮していたため、ほとんどオグリの独壇場だったが、今回はイナリワンも張り切っている。それに触発されてオグリのスピードも上がる。

 

(焼き肉にしろお好み焼きにしろ、調理と食事が同時工程というのがいかん。オグリキャップのスピードについていけてない。今度はカレーあたりにしとくか)

 

数時間後には、用意したお好み焼き粉とたこ焼き粉は綺麗になくなっていた。

 

 

 

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