ほのぼのちんじふ 作:かのえ
彼が指揮する艦隊はまさに無敵とも言えた
誰もが進めなかった海域を楽々と攻略していき、常に最前線で戦い続ける、そんな艦隊を彼は指揮していた
海軍の誰もが彼を有能だと認めた。同じく、彼の指揮下に入っている船――艦娘――達からの信頼も厚い(一部を除く)
当然ながら、彼がどのようにして誰一人沈没させることなく作戦を遂行するのかを知りたがった
ありとあらゆる人が司令部室に出入りし、彼のすべてを真似しようとした
しかし、当の本人はこう言うのだ
「特別なことはしていませんよ。ただ、危なくなったら帰るだけです」
それが難しいのだ、とある人物はいう。艦娘も生きている、生きている以上無理をしてしまう。「大丈夫?」と聞かれて素直に「正直きついです」なんて答える者は数少ないだろう
彼女らの疲労や損傷を見極めるのはとても難しいのだった
ならば、どうやって見極めているのか、それを聞く
「普通に彼女らと触れ合っていれば分かります」
と言うが、よく考えてみよう。軍人は基本男性で、艦娘は女性だ。しかも、提督が一人に対して艦娘は数多い。そんな中で生活するのでさえ辛いというのに触れ合えというのか
軍隊生活の中では男性ばかりが周囲にいた。そのためにそこいらの道行く女性ですら美人に見えてしまうというのにだ。そんな彼らが会話だなんてハードルが高い。高すぎる
結果、誰もが収穫なしに自らの持ち場に戻っていくのだった
「あ、お土産にどうぞ」
大量の袋詰めされたクッキーを片手に
***
ほのぼのちんじふ
いちわ
ていとくってなにもの? その1
***
「お疲れ様」
「なんでいっつも俺のところにくるかなあ。他にも優秀な提督だっているのにさ」
「今は優秀な彼らでも、必ず一隻は沈没させています。貴方が異常なのよ」
はい、お茶。と秘書艦である戦艦「陸奥」が湯飲みを机に置く
ここは提督の部屋、というか執務室。だというのにここには艦娘達の私物(例を挙げるならば戦艦「金剛」やその姉妹たちのお茶の道具、正規空母「赤城」「加賀」専用のお櫃やしゃもじ等)が散在していて彼の机は隅っこに追いやられている。哀れ
「ていうかさぁ、提督ぅ。ここに来る前は本当に何やってたのさ。軍人じゃなかったんでしょ?」
雷巡「北上」が季節はずれの炬燵に包まりながら言う。春になったというのに炬燵が出されているのは北上の姉である軽巡「多摩」がどうしても、と駄々をこねるからだ
事実、彼女がここにいるときは炬燵で丸くなっている。猫じゃないと言っている彼女であるが、猫っぽいとは誰もが思っている
「まあ、秘密ということで、ね。言っちゃうと色々と厄介なことになりそうだし。約一名のせいで」
「約一名……?」
「那珂だよ那珂」
よっこらせ、とそう言いながら椅子から立ち上がる提督(年齢不詳)
「じゃあ、そろそろ帰るかぁ。夜も遅いし、夜の巡回はしばらくうちに来ないし」
「はいはい、お疲れ様でした」
「陸奥は暗闇でこけるなよ?」
「余計なお世話よ」
不運ばかり続く彼女に声をかけて、じゃあ戸締りはよろしくと言って帰る提督(住所不明)
「でも本当に気になりますね」
「ええ、本当に」
「食うのか喋るのかはっきりしろ二人とも」
赤城、加賀の二人は夕飯も大盛り食べたというのに夜食も食べている。エンゲル係数がマッハでアレなのはこの二人が主な原因だろうか
ツッコミを入れた戦艦「長門」は陸奥の姉であるが、おちついた女性である陸奥とは逆に勇ましい雰囲気を漂わせている
今現在この部屋にいるのは第一艦隊、基本敵が現れたときに瞬殺していく高火力部隊である
旗艦は北上。続いて大井、長門、陸奥、赤城、加賀の順番である。この雷雷戦戦正正はオーソドックスな編成で、これでは対応しきれない事態になったときは少しずつ変更を加えている
「彼がここに来て最初に指揮下に入ったのって電よね?」
「大井っち?」
ふと、呟いた大井。表では提督にいい顔をしているというのに艦娘だけになると毒を吐く彼女(しょっちゅう猫がはがれる)が提督に興味を示すのは少ないのだ
「あの子なら何か知っていてもおかしくないかも知れないわ、北上さん。そして弱みを」
「あ、それが本音か」
北上は苦笑する
「では行きましょう北上さん」
「えっ……やだよ。駆逐艦ウザいし」
「そうですか、なら陸奥さんが行ってください」
「どうして私に振るのよ私に」
「だって今の秘書艦だし、何かと理由がつけやすいでしょう?」
陸奥は心の中で「あ、北上と一緒に行けないなら行かなくていいくらいの事象なんだ」と呟く
「仕方ないわね。じゃあ行って来るわ」
執務室を出て、駆逐艦「電」がいる部屋へ向かう。第六駆逐隊の四人、即ち「暁」「響」
「雷」「電」がいる部屋は少し執務室から遠い
これは、まだ幼い容姿の彼女らが夜遅くまで仕事をしている事もあるそこの騒ぎで起きないように配慮された結果であるが、それを暁に言うと怒られるので提督はぼかして伝えている
部屋の前に立ち、ノックをする。すると、ドアが開けられて陸奥の胸より低い位置に頭が現れた
「こんばんは」
「はわわ、陸奥さん! こんばんは、なのです」
ちょうど出てきたのは用事があった電であったが、どうぞどうぞと招かれたために陸奥は部屋へと入った
「あら、ごきげんよう」
「やあ」
「こんばんは! 何か用事? あ、お茶淹れてくるね!」
テレビを見ていたのか、ソファで寛いでいたほかの三人が挨拶をしてくる。年上ぶっているのが暁、簡潔だったのが響、そして何かと世話を焼きたがる雷
「いえ、いいわ、雷。用事があるのは電ね」
「私、ですか?」
「提督のことなのだけど」
「なになに! 司令官のこと?」
雷が食いついてくるのを苦笑しながら陸奥はこれまでの経緯を話す
「司令官はしょっちゅうクッキーを持ってくるからてっきりそういう仕事だと思っていたけど」
「響の言うとおり、私もそう思っていたわ。でもどうも司令官は女性の扱いが上手なのよね……。ひょっとしてそういう」
「絶対無いわ、雷。だってこの暁をお子様扱いするのよ?」
それは本当にお子様だからね、とは陸奥の心の言葉
「そうですね、別に口止めされてませんし、言ってもいいのでしょうか?」
「電は何か知っているの?」
「はい、でもちょっとだけです」
電は回想する
『こんにちは、俺が今日から君の司令官だ。よろしく』
『よろしく、なのです。えっと、司令官さんは軍人さんじゃないのですよね?』
『うん、そうだよ』
『どうしてここに?』
『うーん、知り合いの勧め、かな? あとはちひろさんから……』
『ちひろさん?』
『ああ。いいか、電。この世には鬼や悪魔を超える存在がいるんだ。覚えておけよ? 俺は彼女にお金を搾り取られてきたんだ。軍人は給料がいいからね、来たんだよ』
『そ、そうですか……』
「といった感じで、その『ちひろさん』という人にひどい目に遭わされてたらしいです」
「お金を搾り取られる……もしかして、司令官の彼女!?」
「いや、司令官は女性に貢ぐような男じゃないよ、雷。そういえば私も」
『響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ』
『よろしく、響。……うーん、こっちの響は落ち着いた感じか』
『どういうことだい?』
『いや、俺の知り合いに同じ名前の女の子がいてな。南国生まれの元気な子だったよ。今なにやってるかなあ』
「という感じで」
「二股!?」
「いいえ、多分違うわよ雷。あの男に二股できるような甲斐性あるわけないじゃない。私のようなレディを子ども扱いするんだから」
そういうところが子供っぽいのよ、とは陸奥も言わない
「そうよ! 出会ったとき司令官ったら本当にひどかったんだから!」
『暁よ。一人前のレディとして扱ってよね!』
『そうかそうか、ほらクッキーだ。妹たちと食べなさい』
『むー!』
『あはは可愛いな。ほら、これもあげよう。試作品クッキーだ。金から練成して作ったんだぞ。凄いだろ』
『嘘でごまかさないの!』
「金から作るって嘘にもほどがあるわよ」
陸奥はあきれながら言う。だが、しかしそれと同時に思い当たることがあった
「でも変ね、確かに彼は毎日のように、というか毎日クッキーを持ってくるわ。余ったからって」
「今日も沢山抱え込んでここに持ってきたのを朝見たよ」
「響ちゃんも見たの? 私も昨日みたのです!」
うーん、と考え込む一行。実家がお菓子屋だとしてもそんだけのクッキーを普通余らせないだろう、しかも一年以上毎日
「謎が深まったわね」
しかし、ふと陸奥は思い出す
『まあ、秘密ということで、ね。言っちゃうと色々と厄介なことになりそうだし。約一名のせいで』
『約一名……?』
『那珂だよ那珂』
軽巡「那珂」が彼の素性に関係あるのだろうか
「どうしたのです?」
「いいえ、ただ、さっき提督が前職が那珂に関係があるみたいなことを言ってて」
「那珂がかい? ただアイドルになりたがっているだけで……アイドル?」
「どうしたの響?」
ふと、何かに気がついたのか部屋においてあったパソコンに向かい、何かを調べだす響。そして出てきたのは
「『765プロアイドル我那覇響』? これがどうしたの?」
「ずっと引っかかっていたんだ。私と同じ名前で南国出身の少女」
「でもそんな人と提督が知り合い……?」
続けて響は検索をする
「『アイドル ちひろ』……出てきたよ。『シンデレラガールプロジェクト』、それを進める芸能プロダクション。そしてそこの事務員の千川ちひろだ」
さっき電が言っていたよね、ちひろという人に金を搾り取られていたって
「そして那珂が煩くなる、そんな前職。つまり、司令官は昔芸能関係で仕事をしていたに違いない」
な、なんだってー! と四人は驚く
「……響、もしかしてさっきの765プロってやつに『やよい』とか言う女の子いない?」
「調べてみるよ……いた。どうして、雷?」
「私も司令官に会ったときに言われたの。『元気で家庭的だな……やよいみたいだ』って」
と、いうことで陸奥がこれまでのことを整理してみる
「提督は昔、芸能関係の仕事をしていた。特にトップアイドルを輩出し続ける765プロと親密で、そして同じ業界の千川ちひろという女にお金を搾り取られた、と。大量のクッキーの謎が解けないけどこんなところかしらね?」
「女性アイドルと関係があったなら女の子の扱いが上手くても頷ける」
「響、司令官は女性の……」
「暁ちゃんは黙るのです」
「はい」
最近電が怖いわ、と暁は呟く
ということで、この考察を執務室に持ち帰る
「ただいま~」
「お、陸奥。何かいい情報聞けたか?」
「ええ、長門姉さん」
こっちも色々をわかったよ~と、北上も言う
「あれ? どうして」
「大井っちが提督の上司をおど……説得したんだよ。ちょうど資料を持ってきてさ、そのついでにちょろ~っと話を聞いたのさ」
相変わらず大井は、と額に手を当てて溜息をつきながら彼女らの話を待つのだった
Q つまりどういうこと?
A 艦これする人間は結構な割合でPやってたりクッキー作ってたりするってこと
設定が練りやすいように編成とかはうちの艦隊を参考にしています
以下カード番号順に毎回ずつこのお話での艦娘の設定
・長門型戦艦 一番艦 「長門」
殴り合いの強いお姉さん、腹筋が麗しい
サーモン海峡最深部(秋イベE-5)には提督が高速艦統一で挑んだため、最後の最後の大決戦に主力として戦えなかったことを悔しがっている
最近自分よりも連度が高くなっている陸奥に少し羨ましいと思うものの、不幸体質ですぐ被弾するから目が離せないらしい
その見た目からは想像できないが、結構料理が上手(というか艦娘は大概料理上手)
可愛いものにデレデレな、ちょっと残念な女性