ほのぼのちんじふ   作:かのえ

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「こんばんは、資料を持って……ん、彼は」

「帰りましたよ、元帥。わざわざ来られなくとも彼に」

 

 執務室に現れたのは彼、提督(大将)の上司である元帥だった。彼女は女性ながらもその階級に上り詰め、今では海軍にいなくてはならない存在となっていた

 何か特別な会議があったらしく、彼女がその後様々な関係部署に出向いている姿が見られていた

 執務室にいた艦娘の敬礼に返礼した元帥。彼女は数枚のクリアファイルに挟まった書類と、小さな箱を手にしていた

 

「いやいや、私は彼のおかげで助かっているからね。これくらいは」

「それでも仕事量は彼よりも」

「いいや、長門君。仕事量は確かに彼のほうが少ないかもしれない。だが、彼は机上のそれよりも遥かに有用な事をこなしているさ」

「有用なこと……?」

 

 元帥は彼を高く評価していた

 彼女は持っていた書類、そして箱を秘書艦がいないということで第一艦隊旗艦の北上に渡し、部屋から出ようとした

 

「ふふ。では私は」

「少しお待ちを、元帥」

 

 ゆらっと立ち上がったのは大井。彼女はうっすらと笑みを浮かべながら元帥の元へと歩み寄った

 不思議そうな顔をしながらも「お耳を」と言われ、耳を貸す元帥。なにやら大井がごにょごにょと彼女の耳元で言うと、彼女は急に表情を一変させて狼狽した

 

「な、な、大井君! どうしてそんなことに思い至ったのかね!?」

「うふふ、さて。貴女達も気になるかしら? 私が彼女に言ったこと」

「大井君! 誤解、誤解だから!」

 

 顔を真っ赤にして慌てふためく元帥に誰もが疑問符を浮かべる中、大井は悪そうな笑みを浮かべながらこう言うのだった

 

「このことをあまり知られたくなかったら、提督のこと、少しお話して下さいな?」

 

 このとき誰もが思った。大井をあまり敵に回したくないな、と

 

 

***

 

ほのぼのちんじふ

 

いちわ

 

ていとくってなにもの? その2

 

***

 

 

「私を脅すなんて、君は命知らずだね」

 

 じとーっと大井を見つめる元帥。うふふ、と誤魔化す彼女

 

「まあいいさ、後で彼はたっぷりお仕置きだ」

「楽しみですか? 元帥」

「ばっ、誰が楽しみだなんて!」

 

 自分から口を挟んでおきながらも、早く彼の過去について話して下さいと催促する大井

 

「知っている、とは言っても少しだけなんだが」

「それでもですよ」

 

 そうだな、と言いながら彼女は胸ポケットから携帯端末を取り出す。少し、パソコンと通信ケーブルを使わせてもらえないか? と言い携帯端末をパソコンに接続する

 

「君たち、ポケモンバトルに興味はあるか?」

「は?

「ポケモンバトルだよ、ポケモンバトル」

 

 突然おかしなことを言い始めた彼女に長門は戸惑いを見せる

 

「携帯獣を戦わせて競うアレでしょうか、確か国家プロジェクトとして優秀なポケモントレーナーを育成するというものがあったとは記憶していますが……。それと彼と、どういう関係が?」

「まあ見れば分かる」

 

 加賀が説明したとおり、この国だけではなく、世界各国ではポケモントレーナーを育成することが国家事業としてある

 

『さァーてはじまりました! ポケモンワールドトーナメント、決勝戦です!』

『今回はどういう熱い戦いが繰り広げられるのでしょうか! 司会は私――』

 

「この動画は?」

「落ち着け赤城君」

 

『ということで、選手の入場です! やってくるのは伝説のチャンピオン、レッドだァァァーーーーーー!』

 

 歓声が上がる。やってきた少年は赤い帽子、そして肩に黄色いポケモン――そう、ピカチュウを乗せている

 

『そしてこちらからやってくるのは、なんと――』

 

「な!?」

「う、嘘、提督!?」

 

 大井も、そして北上も驚く。そう、レッドの反対から現れてきたポケモントレーナーは、今よりも若干幼さをみせる風貌ながらも間違いない、彼女らの提督だったのだ

 一通り動画を見終わった。結果は提督の辛勝。突然最終進化形態と言われていたサーナイトが更に進化しての勝利だった

 

「いやいや、提督の名前と同じ人が強いトレーナーにいるな、とは思ってたけどさ。まさか本人だとは思わなかったよね~」

 

 そういいながら陸奥に話す北上

 

「頭が痛くなるわ」

「どうしたのさ」

「提督がポケモントレーナーだったのは百歩譲って良いとしましょう。でも、元帥がそんな動画を持ち歩いているって、それってもしかしなくても……」

「陸奥、それ以上は、よくない」

 

 長門は止めた。そんなことがあってはならないのだ。きちんとした規律があるというのに、そんな、軍の中で上司が部下に――

 

「早々にどうにかしないと、問題は大きいわね」

「だから赤城、食べるか話すかどっちかにしろ」

 

 そして陸奥は自分の知りえた情報を話す

 

「あー、ますます謎だわ。提督」

「北上さんの言うとおりね。芸能関係者で、ポケモントレーナーで、山のクッキー」

「まあいいじゃないですか、大井。彼のおかげでお菓子には困りませんし」

 

 赤城の言葉にコクコクと頷く加賀。貴女たちは本当にそればっかりね、と呆れながら陸奥は北上から書類などを受け取る

 

「どういう書類だ?」

「そうね、長門姉さん。大体は支給される資材や、新装備の提案、そして……あら?」

 

 書類をぺらぺらと捲っていた陸奥であったが、あるところでぴたりと動きを止めてしまった

 

「どうした陸奥?」

「あ、あらあら。あらあらあら」

 

 ぺっぺっぺとその後数枚捲ってみるものの、その内容はどれも先ほどの紙が幻ではないことを示していて

 

「ちょっと、皆。これ、見て頂戴……」

 

 それでも信じられない。ということで他の子たちに確認してもらう

 

「なんと!」

「これは……」

「う、うふふ……」

「え、どれどれ。へ?」

「なんということでしょう」

 

 長門、北上、大井、赤城、加賀の順番で読んでいったものの、それは幻なんかではなく、現実だった

 

(あの噂が本当だったなんて……嗚呼、明日は絶対荒れるわ)

 

 陸奥は嘆いたのだった

 

 そして翌日、いつも通り現れた提督に無言で書類を突き出す陸奥。それを彼は受け取り、一通り読んで

 

 そして、彼の指揮下の艦娘をすべて招集するのであった

 

「皆、急に呼び出してすまないな」

 

 壇上に上がる提督。彼の目前には百を超えるほどの艦娘達が整列して彼の言葉を待っていた

 集まってもらった理由を言わずに、まず諸連絡を始めた彼の姿をぼうっと見つめる軽巡「神通」

 彼女は電に次ぐ古参で、全く仕事に慣れていなかった頃の彼をずっと補佐していたことがあり、このように重要なことを後回しにするときは彼が嫌がっている、もしくは面倒な自体が起きているというのをなんとなく分かっていた

 

 先ほどまでの天龍型姉妹との会話が脳裏に浮かんだ

 

『緊急招集か、前回の召集からそんなたってねえぞ』

 

 軽巡「天龍」がどこか不安そうな表情を浮かべながらそう言う。前回の召集のときは軍全体で噂になるような事件、すなわち極めて強力な敵が見つかったというそれだった

 前回の大規模出撃からそんなに日が開いていない。資材も心許なく、もしこの状態で攻撃を受けたならば出撃すらできずにやられてしまうだろう

 無敵艦隊と言えども、燃料が無ければただの置物に過ぎない

 

『でも変ね、敵基地が見つかったという話も出ていないわ』

 

 軽巡「龍田」もほわっとした表情の中に不思議そうな色を漂わせる。ただ、侮る無かれ。彼女はこの場にいる艦娘の中でも1,2を争うほどには危険な性格をしている

 

『敵ではなく、軍の中で何かあったのでしょうか』

『そうねえ、神通ちゃんの言うのも一理あるわ。何か重要な会議が上のほうであったらしいし』

『軍法会議があったとでも言いたいのか? 龍田は』

『でもうちでそんな重大な事件を起きてないわねぇ』

 

 しばらく額を突き合わせていたものの、答えは出ることが無かった

 会議、そして全員を呼び出すような出来事。そして時期

 

 今の時期は調度大規模先頭が終わり、それに追われていた軍内の非常事態における役職などが正常になるそれと重なるのだ

 

 もしかするとそれにあわせて提督が異動……そんないやな想像を神通は頭からどける

 

『神通ちゃん元気ないねえ。ほら! 那珂ちゃんスマイル!』

『ふふ、ありがとう。元気が出るわ』

『二人とも時間よ』

 

 何かと濃い姉妹に挟まれながらも、神通は提督の言葉を待つのだった

 

「――で、58(ゴーヤ)と168(イムヤ)、そして19(イク)は夕方にオリョールだ」

「えー! またオリョールぅ?」

「いつも言っているだろ? ゴーヤ、補給路を断たれ、おなかがすいているときにチクチク攻撃されたらイライラするだろう?」

「そうです、ご飯は大事なんですよ58さん!」

 

 提督はイイ性格していますよ、と赤城は続ける

 

「頼む」

「むー、仕方ないでち。ゴーヤ、了解しました」

「イムヤ、了解よ」

「了解なの! あとでイクたちにご褒美お願いするの!」

「はいはい。で、残った8(ハチ)、401(しおい)、まるゆは哨戒任務で」

 

 と、ここまでで各種連絡は終わりかな、と彼は言う

 

「えー、と。まあ、ここからが本題なんだが」

 

 全員が彼の言葉に集中する

 

「君たちも風の噂で知っているだろう? 更なる強化、そのための道具。それが、うちに着た」

 

 ざわめきが起きる。嘘、本当にそんな道具が? という声と、その道具が何かを知っているがゆえに頭痛を覚えるもの、そもそも強化に興味が無い者

 だが、続けて発せられた言葉に彼女らは更に驚くことになった

 

「まあ、それだけじゃあないんだ。うーん、そう、誤解しないでほしい。決して俺から頼み込んだわけではなくそもそもの仕様で、決してセクハラじゃないから、うん」

 

――その道具、結婚指輪なんだよ

 

 一瞬の静寂、そしていっせいにあがる声

 

「ちょ、テートク! それってもしかして」

「そうだよ金剛、噂にあっただろう? 提督と艦娘が擬似結婚するという通称ケッコンカッコカリ。アレと戦力増強が結び佃なんて想像もしていなかった」

 

 とりあえず落ち着いてくれ。ケッコンカッコカリをした後どうなるかについて説明するぞ、と言われてすこしざわついてはいるものの、先ほどよりかは幾分おとなしくなった

 

「簡単に言うなれば、更に強くなる。不思議フィールドでも使うのか知らんが耐久が上昇して、運があがる。そして一番大きいのは」

 

――燃費だ

 

 戦艦たちがいっせいに興味を示す。もっとも、運が向上するということでどこかの不幸姉妹に代表される不運組が思いっきりキラキラした目で提督を見つめ、否、睨んでいたが

 

「上の実験結果によるとおおよそ15%燃料、弾薬の消費が少なくてすむらしいぞ」

 

 比較的重い艦の運用がしやすくなるのは利点だ、と彼は呟く

 

「でも、強くなれる代わりにだな。まあアレだ。結婚式的なのをしないといけないんだ」

 

 できれば練度の高いやつが相手になってくれれば上にどうして彼女を選んだのかって言う報告がしやすいけど、強制はしない。君たちの間で誰か一人決めておいてくれ

 

 以上、そう言って彼は逃げるようにその場を後にした




Q 練度低くてもケッコンカッコカリできるの?
A ゲームでは不可ですけどここではできるということで

・長門型戦艦 二番艦 「陸奥」

あらあらうふふなお姉さん、暁の憧れの一人らしい
第一艦隊で加賀と共に秘書艦をしている事が多く、比較的人望はある。火がちょっと苦手
しょっちゅう被弾して服が傷むのが最近の悩みだけれど、少し破れた服のチラリズムにどぎまぎする提督を見て楽しんでたりもする
扶桑、山城、大鳳と一緒に不幸を嘆いているところが良く目撃される

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