凌辱エロゲの清掃員   作:怪異犯罪特殊清掃班

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新人ンンンン!!!仕事は好きかぁぁぁ!!?って内容。


仕事始め

「はぁ...はぁ...暑い.....。」

 

湿っぽい下水道。

僕達を避けるように床をネズミやらゴキブリが闊歩し、周りの外壁はヘドロのような黒っぽい何かがへばり付いている。

そんでもって、防護服とガスマスクを着けているので殊更暑い。

 

「しょうがねぇだろ...文句を言うならこんなところに巣を作った妖に言うんだな。」

 

「す、すいません....。」

 

隣でガタイの良い防護服の男が俺の肩を小突いた。

内藤チーフ。

彼は俺の先輩にあたる人物であり、ちょっと厳しい人でもある。

まぁ、僕自身新人だからしょうがないし、現場責任者であるから当然なのだが。

 

僕の他にも後ろには3人くらい同じ防護服を身にまとっている人たちが居る。

同僚だ。

手には各々モップやらバケツなどの清掃道具を持っていた。

そして、僕の手にはなんか液体窒素とか入れる容器みたいな形状をしたドラム缶みたいな奴を運ぶ台車。

色々入れる都合上、帰る頃には一番重くなっている荷物だ。

新人だから持たされたのだろう。

 

埃塗れの道を暫く歩いていると、前方を歩いていた先輩が足を止めた。

 

「現場はここだな....。」

 

「うわぁぁ.....。」

 

前方に広がる景色。

それはあまりにも気持ちの悪い物だった。

 

身体の節々にヘドロがへばり付いた河童とのっぺりとした胴体の下水道の通路に詰まるんじゃないかと思う程大型の亜人のような妖が四肢をバラバラに裁断されてそこらに転がっている。

そして、それだけじゃなく何やらカエルの卵のような塊が壁面にびっしりとへばり付いており、そこに返り血がべっちょりとかかっていた。

そして、そこらへんに打ち捨てられた女性たち。

着ている服や年齢層からバラバラなので、無作為に女性を集めていたことが分かる。

 

正直、見ていて気分の良い物ではない。

しかし、この光景も二度目だった。

それに様子を見るに、どの妖もきっちりトドメが刺されていた。

それだけこの巣の対処を行った退魔師が優秀だったということだろう。

 

「吐くなよ、葦矢。いちいち吐いていたらキリがねぇぞ。」

 

「大丈夫です...ちょっと見ていて気分の良い物ではないですけど...吐いたりはしません。」

 

先輩が僕に声を掛けてくれる。

そんな先輩の言葉に答えると、先輩は俺から視線を外して後ろの人たちにも声を掛ける。

 

「それじゃ、俺と坂本が壁面洗浄。高町がそこの女性の調査。そんでもって中鉢が壁面に着いた尻子玉の除去と保存。葦矢、お前は妖の遺骸サンプルの運送だ。それとお前は新人なんだから俺達の作業を見て、分からない所があれば質問しろ。お前らも、出来る限り答えてやってくれ。...それじゃ、作業に取り掛かるぞ。」

 

「は、...はい!」

 

先輩は慣れた様子で指示を出す。

僕はそんな先輩の指示に従って、手元の容器を地面に置いて蓋を開いた。

他の人も各々自分の作業に取り掛かろうとしている。

 

この世界には妖という異形の存在が居る。

人間社会と秩序を守る退魔師も。

そして僕達はそんな退魔師の戦闘などの事後処理を行う清掃人なのだ。

 

 

 

「...これは...陰性か。」

 

先輩たちの作業を見ているように言われた僕は高町先輩の作業を拝見させてもらっていた。

しかし、その作業が下腹部の..その...女性のアレに何か計器を差し込んでその数値を見て紙に残している。

正直、見ていてその...危ない絵面してるけど....。

 

「それ...何してるんすか..?」

 

僕が尋ねると、高町先輩は顔を上げて俺に答えた。

 

「河童だけならほぼほぼ必要はないだろうが...淀坊主が居たからな。受精したかどうかを調べている。」

 

どうやら僕が見ていた通りの意味があったようだ。

しかし、受精してたらどうするのだろうか?

 

「受精してたら...どうなるんですか?彼女達。」

 

僕が聞くと、高町先輩は少し黙る。

しかし、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「妖を孕んでいなければ膣洗浄して記憶処理して解放だ。ただ、受精している場合は...焼却処理だな。多くの妖を生む母体だし、新たに妖によっては種を植え付ける際に母体を変化させる場合もある。身体を残すと危険な場合があるからな。」

 

「そう....なんすか。」

 

先輩が来る前に言っていたのは、今回の現場はそもそも女性の無差別失踪事件についての調査の結果行き着いたらしい。

なんでも妖は河童で下水に生息しており、女性が通った際にマンホールから手を出して下水道へと引き込んでいたとか。

つまりは彼女たちは理不尽にもこうなってしまっているのだ。

その末に焼却されるなんて...とてもやるせない。

 

「まぁ、どちらにせよ肉体の処遇については俺じゃなくて、中鉢の方の案件によるけどな。」

 

「尻子玉...ですか?」

 

「あぁ。河童は人間の尻から尻子玉...つまりは魂を術で固形化したものを取り出して卵鞘に括りつける。そうすることで卵を育てる為の栄養にするんだ。...つまり、受精してなかろうと尻子玉がすでに絞りカスになってたら結局のところ火葬されるのさ。」

 

見ると中鉢先輩は蛙の卵のような物を掻き分けて、丁寧な手つきで白い塊を取り出す。

その塊は完全な球というわけではなく、顔や足などが浮かび上がっているように見える。

離れから見れば球状に折りたたまれた手のひら大の女性たちにも見えた。

正直、気味が悪い。

...サイズ差があるということはそういうことだろう。

 

「河童は残った身体を性処理に使うからな。そういう意味では胎生の淀坊主と共生するのも珍しくないだろう。...というわけで、残った身体使いたいから引き取らせてくださいっていうのは無理な相談だぜ?そもそも妖の体液は酸性の場合もあるからチ○コ刺した瞬間溶けたりするかもしれんしな。」

 

「なっ、そ、そういう意味で言ったんじゃないですよ!!」

 

そんなつもりで聞いたわけじゃないと言うも、先輩は分かってる分かってると俺の肩を叩くばかり。

まぁ、冗談だろう。

それにしたって人聞きの悪いことを.....。

これだから少しこの職場は苦手なのだ。

 

「おい!何与太話してる。質問は許したが、私語を許した覚えはないぞ。」

 

「へへっ、チーフすんません。」

 

「す、すみませんでした!」

 

高町先輩は、悪びれずに内藤チーフに謝っている。

対照的に、僕はしっかり謝っていた。

高町先輩は内藤チーフとも今まで一緒に仕事してきただろうし、そもそも仕事してるしな。

新人である僕が同じような態度を取るわけにはいかないだろう。

 

「俺も今からサンプルを容器に詰める作業を行う。お前もやれ。」

 

「わ、分かりました....!」

 

チーフに言われて、首を縦に振る。

容器の方へと向かう前に、高町先輩に向き直った。

 

「色々、教えて頂きありがとうございました!」

 

「おー、頑張れよ~。」

 

高町先輩はそう軽く返事すると、自分の作業に戻る。

容器の方へと行くと、その近くに河童や淀入道がさらに細かく分けられて陳列されていた。

しかし、淀坊主だけは身体が残っている。

 

「...?先輩、淀坊主はバラさないんすか?」

 

僕が尋ねると、彼は肩を落とす。

 

「なんか硬い何かに阻まれてな。まぁ別に問題ないから詰めてしまおうって話になってる。4つある内の1個を胴体1個分使う。」

 

「分かりました。」

 

僕は言われるままに、容器詰めに取り掛かる。

おっっっも!

そりゃ切り分けられなかったから当然ではあるが....。

なんとか先輩の手も借りて持ち上げると放り込む。

ぐちゃっと水っぽい音と共に容器が揺れる。

音からしてばっちぃなぁ....。

 

「ばらしてある奴は付けてあるナンバータグで纏めて入れておけ。俺は清掃作業に戻るから。」

 

「りょ、了解しました!!」

 

頷くと、先輩はモップで下水道の外壁の血液や妖の体液を取る作業を続ける。

そして僕は言われるままに、容器に妖の身体を詰めていく。

それにしたってバラした所とは別の断面、退魔師が斬った部分はいつ見ても綺麗な断面である。

もとからこんな状態だったと言われても信じてしまいそうになる程だ。

こんなのを一個人が出来るなんて、凄いなぁ...。

僕よりも若い子も居るらしいし、そう考えると大したものである。

僕はこんなドブさらいみたいな仕事してるのに、彼らは自分たちの仕事の後に俺達が片付けをするなんて考えることも少ないだろうな。

そう考えると、なんともやるせない気持ちになる。

 

溜息を吐く。

こんな湿っぽいところに居るからそんな方向に思考が傾くのである。

さっさと終わらせよう。

そう決めると、手を黙々と動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

「えーと、今運んでるの...何番だっけ?」

 

「確か、先輩のは3番です。後、残りは淀入道の胴体を入れてある5番ですかね。」

 

下水道の清掃を終えた僕たちは、報告やサンプルの安置の為に蔵知院と呼ばれる施設に訪れていた。

退魔師としての協会や妖の研究、そして僕たち清掃員の事務所などを併設した大きな規模の施設である。

そして、今僕とチーフは検体収容室に今日採集した妖のサンプルを運び込んでいた。

チーフの癖にそのくらいのこと覚えておけよ。

まぁ、言わないけど。

 

「そうか....あと一つか。」

 

神妙な面持ちで呟くチーフ。

はて....何か気にかけるようなことでもあったのだろうか?

そう思いながらも、検体収容室に3番の検体を安置して、部屋を出た。

 

窓の外は既に暗く、夜になっている。

微かにどこぞの馬の骨とも知らぬ虫の鳴く声が聞こえてきた。

後は5番の検体を取りに行くだけである。

 

そう思った矢先、自分たちの進行方向から一人の人影がこちらの方向に歩いてくるのが見えた。

それは可憐という言葉を形容したかのような少女。

長い髪と、大人しそうな容貌。

そして伏し目がちな目は一瞬こちらに向けられると、慎ましやかに口が開かれる。

 

「こんばん...わ....。」

 

遠慮がちに発されたその言葉。

しかし、僕達は壁の横に避けると頭を下げる。

それは、彼女が何者なのか知っているからだ。

 

「お疲れ様です。冷泉様。」

 

「お。お疲れ様です...!」

 

チーフの動きは慣れたもので、僕もぎこちないながらも同調する。

目の前の彼女は冷泉文代。

退魔師の中でも四柱と言われてる家の一つ、『冷泉家』の次女である。

そして今もバリバリ妖を狩っているエース的な存在でもあるのだ。

 

齢からしても大体中学二年生くらいなのに、凄い女の子である。

中学二年なんて僕の時は大したこと考えてないし、そもそもしてすらいなかったような気がするもんなぁ。

...ただ、それだけにこんな時間まで何をしていたのか...しなくてはならないことがあるということが何とはなしに可哀想に感じた。

他の中学二年生と違って背負う物が彼女にはあるから、気楽というわけにもいかないだろう。

でも、多少なりとも一般同年代とは違うっていう特別感は常に味わってるんじゃないすか?

見下されてるかもしれないなぁ...知らんけど。

 

「...ん。」

 

顔を上げる。

すると、一瞬彼女と目が合った気がした。

しかし、すぐに彼女は僕達の行動に返答するとそのまま通り過ぎてしまう。

...いや、目が合ったのは気のせいだったかもしれない。

清掃員は悲しいことに男ばかりだからな。

女の子と接するのが久しぶり過ぎて心が過敏になっているのだろう。

 

「....先輩。中学生なのに冷泉様、こんな時間まで何してたんでしょうかね?」

 

彼女が通り過ぎてしばらくして、また検体5番を取りに歩き始める。

そこでなんとはなしに話題としてさっきの少女退魔師について質問した。

 

「そりゃお前....さっきまで妖退治しててその報告...とか、資料室で妖について調べたりとかじゃないか?なんだ?気になるのか?....もしかして、ああいう女の子が気になるのか?中学生が。」

 

「めっちゃ危ない文字面ですね、それは。やめてくださいよ!...なんとなく気になっただけです。」

 

「俺も言ってみただけだ。」

 

 僕がそう言うも、先輩は前を向いてただ歩き続けるのみ。

...まぁ、会話を続けるための冗談だってことは分かっていた。

しかしまぁ新人なだけあってよく揶揄われるものだ。

正直、そういう扱いに少しうんざりしている節もある。

当人は可愛がり程度にしか考えていないだろうけどな。

 

それにしたって冷泉文代か....。

年齢的に手を出しちゃマズイ年齢ではあるが、顔が良いし胸も小さいので出せるのなら出してみたいとも思いはする。

そんな一時の下らない欲求に流されてその後の人生全部棒に振るような選択は取らないが。

 

そう言っていると、検体5番を一時的に置いていた場所に辿り着く。

あとは、これを検体収容室へと運ぶだけである。

さっさとやって帰りますかね。

そう思っていると、先輩が口を開く。

 

「...すまない。残り一つだし、あとはお前がやっていてくれないか?」

 

「えっ?僕一人...ですか?どうして......?」

 

いきなりどうしたというのだろうか?

チーフは良くも悪くも厳しい人なので、少なくとも仕事に関しては責任感ある行動を取る人だが。

それなのに、今回そう言い出すということは何か理由があるのだろうか?

...それか、しばらく一緒に働いて来てコイツなら仕事一人でやらせても何も文句言わないだろうなと思われたか。

 

すると、チーフは顔を伏せながらもゆっくりとワケを離す。

 

「今日....息子の誕生日でな。日頃から仕事も忙しくて会えていないから、この日だけは家族と一緒に居たいんだ。もう、時間が来そうになっててな...これは私用だし、あまり褒められることではない。だからお前が咎めるのであれば従おう。ただ、出来るのであれば...許して欲しい。」

 

深刻な表情でそう訴えかける先輩。

そのわけを聞いて、僕が言うべき言葉は一つだけだった。

 

「な、何言ってんすか!そんなの止めるわけないじゃないですか!?日頃からお子さんに会えていないのでしょう?だったら、誕生日の日くらいは一緒に居てあげてください。一つだけなら、あとはどうとでもなります!帰ってあげてくださいよ...。」

 

僕が言うと、先輩は申し訳ないと言ったように深々と頭を下げた。

そして、こちらに手を差し出して鍵を渡してくる。

 

「本当に...ありがとう....。この埋め合わせは必ずする。検体収容室の鍵も渡しておく。閉めたら受付に言って渡してくれ。それで仕事は終わりだ。」

 

「分かりました。」

 

そう言うと、先輩はこちらを一瞥してまた一礼すると部屋を出て行った。

これが父親の姿...ということだろうか。

僕は捨て子だから、家族がどういう物か知らない。

だからこそ、家族っていうのは一緒に入れるのであれば一緒に居るべきだろう。

どんな時でもそうするのが理想だ。

なんか...しみじみとした気分だ。

子供の為に一生懸命になれる親の姿に、一抹の羨ましさを感じたからだろうか?

ちゃんとした施設ではなくて家族の元で育っていたら今とは違った人生を送っていたのだろうか?

まぁ、そんな仮定の話にはなんの価値もないのだが。

 

「それじゃ...運ぶか。」

 

独り言をつぶやくと、近くに台車に5番の検体を入れてある容器を置く。

やっぱ重いなぁ、コレ。

よっこらせと容器を置くと、台車を押して部屋を出た。

経費削減のつもりか知らないが、全体的に資料室や検体収容室の通りは電気が少し薄暗いので一人で歩くと少し不気味に感じる。

 

人も少ない廊下に台車を押す音だけがただただ響く。

何もない、無の時間。

何を考えるでもなく、ただ検体収容室へと足を向かわせる。

 

「着いたな....さっさと置いちゃおう。」

 

歩いていると、元来た検体収容室へと辿り着く。

一度入退室する際は扉を閉めることが義務付けられており、再度重い鉄の扉を開けないといけないのだ。

正直面倒臭いが、妖の体の一部や遺骸を安置している以上はそういうセキュリティはちゃんとしないとな。

それにしたってこの仕事を初めて重い物を持つ機会がよくあるからだろうか、ここに来る前よりも筋肉が付いてきた気がする。

 

「っ...しょっ...とぉ...!」

 

ゆっくりと両扉を開ける。

薄暗い廊下から扉を開けると、これまた薄暗い部屋。

そこに台車を押して中に入りつつ、扉をまた閉めていく。

 

戸締りはよしっ!

台車を押してさっき3番を置いた場所に置くか。

そう思って押していると、少しの段差があったのか台車が揺れた。

その瞬間、段差が原因にしてはおかしいほどに派手に容器が倒れてしまう。

そしてこれまた倒れただけなのにも関わらず、容器の蓋が取れて内容物の体液が漏れ出して淀坊主の胴体が容器から顔を出した。

床は内容物の体液で汚れてしまっていた。

 

「うわぁ...最悪....。なんでこんな蓋取れるんだよ...。老朽化か?いや、でも残骸詰めてる時はそんなことなかったはずだけどなぁ...。」

 

これ掃除しないといけないじゃん...二度手間なんだよなぁ。

こういうミスはなくしたと思ったら別の所で犯してしまう。

自分が嫌になるよ...まったく....。

 

溜息を吐きながらも、まずは容器から少し出てしまった淀坊主の胴体を容器に戻そう。

そう思って容器を少し浮かせて、胴体に手を触れたその瞬間。

 

「ひっ.....!!」

 

メリメリと肉を裂くような音と共に胴体から細い紐のような物が腕に巻き付く。

紐の先端はピロピロと蠢いており、生理的嫌悪感を覚える見た目。

そして、端が鋭利なのか巻き付いた部分から血が出てくる。

痛い.....。

 

その場から逃げ出そうとして飛び退く。

しかし、その瞬間さらに裂け目が広がって胴体から何か大きなサイズの物が飛び出してくる。

それはカブトガニのような扁平型の甲殻類のような妖。

こちらに飛び掛かってくるので手で押さえる。

 

「なんっだよこれっ!!ひっ....気持ち悪ぃなお前ぇ!!ぺっ!ぺっ!どっ...けぇ.....!!」

 

「霄ォ菴難シ∬コォ菴難シ∵眠縺励>霄ォ菴難シ?シ?シ」

 

キーキーと甲高い声を上げながら、こちらの顔面に引っ付こうとする妖。

裏面からは粘液に塗れてテラテラとしている管のような器官が出て、しきりに僕の口に入ろうとする。

何の意図かは分からないが、奴の思い通りにしたらどうなるか...背筋が寒くなる。

 

振り払おうとしても、尻尾が腕に巻き付いて振り払いきれない。

寧ろ、腕を締め付けられることで切れる痛みとぐいぐいと引き寄せられることで切羽詰まってしまう。

どうしたら....どうすればいい.....?

 

俺はただの現場の後処理のこれまた下っ端。

こんな風に生きている妖に遭遇して、襲われても対処法なんかない。

しきりに管を伸ばそうとする妖に覚える恐怖。

その恐怖でテンパっているのか意識が段々と混濁して....。

 

「刺凍」

 

背後から、聞こえてきた少女の声。

その声は鈴を転がしたかのようにか細く...それでいてはっきりと空気を揺らす声。

そして、背後から冷たく清涼な風が暗く淀んだ検体収容室に吹き込む。

風が頬に当たって、混濁していた意識がはっきりとする。

目の前の生き物に、苦無がぶっ刺さる。

 

刺された個所から紫色の血が飛沫となって掛かろうとする。

しかし、僕に掛かる前に凍結して氷の粒となって皮膚に当たって地面に落ちる。

 

「縺ゅ=縺ゅ≠縺√≠縺ゅ≠縺ゑシ?シ?シ√°縲∬コォ菴難シ∽ソコ縺ョ霄ォ菴薙′??シ?シ√h縺薙○繧医%縺帙h縺薙○鬆台ク医↑霄ォ菴難シ?シ?シ?シ」

 

目の前の妖が断末魔のように声を発する。

しかし、段々と白く冷たくなっていく。

これは...凍結している?

 

そして、パキパキと氷を飲み物に放り込んだかのような音が目の前の妖から響いたかと思えば、おのずから砕けた。

胸に苦無が落ちる。

しかし肌に触れた瞬間溶けたからか、痛みはない。

ただ、仰向けになった俺に見えるのは俺を見下ろす冷泉文代が感情の窺えないような目つきで俺を見下ろしている姿。

そして、スカートが短いからか見えてしまった黒の下着。

...年齢にしては少し大胆じゃないか?

最近の中学生はこんなものなのだろうか?

 

そして、彼女はゆっくりと口を開く。

 

「...それ、大丈夫?」

 

彼女が指さす先。

それは、さっきの奴の尻尾が巻き付いていた腕の箇所。

そこだけ局所的に痛ましくズル剥けになって血が滲んでいた。

うわぁ....道理ですっげぇ痛いはずだ。

そんでもって大丈夫かと問われたら....。

 

「わかんねぇ....です。」

 

そう答えるしかなかった。

突然の出来事で敬語が出てこなかったので、咄嗟に敬語を付け足したせいでどこかちぐはぐな言葉になってしまった。

 

 

「...たとえ死骸であっても....妖には触れない方が良い....。」

 

「は、はぁ...申し訳ありません。」

 

腕の手当てを受けた俺は、施設内を冷泉文代と一緒に歩いている。

どうやらアレは他の妖に寄生している妖らしく、身体を求めて人間にも寄生しようとするらしい。

説教を喰らってはいるが、正直触ろうと思って触ったわけじゃなくて倒してしまったから触らざるを得なくなったっていうか....まぁ、なんにせよ僕の不注意のせいだな。

 

「.....。」

 

「....。」

 

会話が続かねぇ....。

見た目からして分かるが彼女は活発な方ではないし、そもそも中学生と話す話題なんか持ち合わせていない。

...いや、寧ろこれは恵まれているのか。

彼女は名家の冷泉家の人間。

つまりは、滅茶苦茶目上の人だ。

下手に話して、失礼になると思うと背筋が寒くなる。

話しかけられない方が話さなくて済むので楽だ。

 

...しかし、一つずっと気になることがある。

そこだけ聞いたら会話はしなくても良いだろう。

 

「あの...助けていただいてありがたいのですが...、その、なんであんな所まで駆け付けられたんですか?その...あの時、すれ違っていましたし.....」

 

僕が言うと、しばしの間が挟まれて彼女が口を開いた。

 

「...私は耳が良い。....そして、妖の気配にも敏感。だから駆け付けられた。....生まれ持った才能に感謝。」

 

「はぁ....そうですか。」

 

なんか釈然としない解答だったが、彼女のような退魔師を僕のような凡人の尺度に当てはめようとする考え方が既に無理があるのかもしれないな。

...それにしたって、立場が違うとはいえこんな年下の少女にヘコヘコしないといけないなんて本当に情けないな僕は。

僕の人生、こんなことばっかりだ。

捨てられて引き取られた時も、施設で育てられた時もこの職場に就いた時も誰かの慈悲?っていうかそんなのに許されて生きているような気がする。

 

...別段、何かしたいという意欲もないのだから流されるままでも良いのだろうが。

それでも...それでこんな風に生きていて、将来のビジョンもへったくれもない。

どうなっちゃうのかね?10年後の自分。

 

「貴方は...どうしてここに居る?」

 

「...え?」

 

え?いきなりどうした??

彼女の問いかけに戸惑っていると、彼女は二の句を継ぐ。

 

「その仕事は...あまり見ていて気持ちのいい物は見られない。...どんな形でも妖に関わると言うのは、そういうこと。私は家業。...あなたは?」

 

つまりは家の事情で妖に自分は関わっているが、なんの後ろ盾もないような貴方はこういう職種になんで就いたんですかってことか。

良いところのお嬢様らしい発言だ。

自分で何もかも選ぶことが出来る人間らしい言葉。

世の中には自分で選ぶことが出来ない...もしくは選ぶ気の起きない人間が居るということは考慮の範囲外にあると分かる。

 

僕の理由なんてただ孤児院の職員の一人にここと関わりのある人間が居て、給料は良いからと勧められたからに過ぎない。

まぁ、天涯孤独な人間なんてこういうガチの汚れ仕事をさせるには丁度いいだろうしな。

もし死んでも後腐れなくて、替えも利く。

でも、そのまま彼女に伝えるのもよろしくないだろう。

プライド的にも、教育的にも。

だから、俺は笑顔を作って言葉を紡いだ。

 

「なんていうか、こんな自分でも役に立つ場所...っていうのが、こういう職種しかなかったから...ですかね?ははっ、なんか照れくさいな.....。」

 

我ながら白々しい嘘である。

照れくさいってなんだよ、何も思ってない癖に。

 

「..そう。」

 

しかも演技までしたのに、彼女の返答は淡白な物である。

そちらから聞いたと言うのになんだ。

梯子を外された気分だ。

 

「...それじゃあ、ここで。今日の凶は東。貴方の自宅はここから最短で東から30分だけど、今日は西から帰宅することをお勧めする。...二度目になるけど今度から、遺骸は慎重に扱った方が良い。」

 

「へ~そうなんですね。何から何までありがとうございます。心掛けます。」

 

二度目のお叱りを受けて、愛想笑いを浮かべながらも彼女に礼を言う。

方違いとかだろうか?

今の時代にそんなこと真面目に言う子が居るなんてなぁ。

勿論、守る気など毛頭ないが。

 

だって、今まで気にしたこともないのにここで言われたからと言って言う通りに遠回りするのも間抜けだろう。

こんだけ何回も家に同じ道で帰ってるなら、彼女の言うように運勢が凶だった日は他にもあるだろう。

それでもこうして何も起きずに生きているのだから、気にしすぎるのはよろしくないと思う。

まぁ、なんかあった時はなんかあった時でしょ。

正直、あんなことがあった後で何も考えたくない。

疲れた。

 

「それでは、さようなら。」

 

「...さよなら。」

 

彼女に別れを告げて、門から出る。

関わりなんてない人だったが、悪い人ではなさそうだ。

...いや、なんかさっきの会話....主に家の吉兆の所....なんかおかしくなかったか?

....うーん、ダメだ。

違和感は感じるが、頭がうまく回らない。

まぁ、いっか。

 

今日の帰りは何買おうか。

この時間だからコンビニ飯だろうな....。

 

 

 

 

 

 

 

誰もが寝静まった深夜3時。

男はベッドに横になって眠っている。

周囲の部屋は適度に散らかっており、生活感溢れている。

 

締め切られたカーテンの隙間から月の光が差し込む。

そんな中、月光が陰る。

壁に映し出されるのは人影。

 

それは白い着物を着た一人の少女。

締め切られ、彼だけしかいないはずの部屋の中に居るはずもない少女。

烏羽玉の髪に、固く結ばれた口。

貞淑な雰囲気を纏った大和撫子と形容されるような少女が立っている。

 

彼女はただ眠りこけている男を見ている。

そしてゆっくりと口を開いた。

 

「私、西から帰ってって言った。....それなのに、貴方は...守ら、なかった。」

 

彼女はむくれながら、しゃがみ込むと男の顔を覗き込む。

男は間抜けにも口をガン開きにして、口の端からよだれ垂らしながらガーガーといびきを搔いている。

しかし、そんな姿に眉根一つ動かすことはない。

 

「...反省、しなさい。大変...だった。めっ!」

 

「んんぅ......。んがっ....。」

 

身じろぎをしながらも、変な声を上げる。

そんな彼を能面のような表面をしながら指で頬をつつく。

 

「眠ってるからって許さない....。ごめんなさいして、ごめんなさい。....こらっ。かわいこぶっても...ダメ。この...このっ.....。」

 

そう言いながらもつついてた指はいつの間にか彼の輪郭を撫で始める。

輪郭を撫でたと思えば、今度は髪へと手を移っていく。

そして不意に彼女は男の顔が付きそうな距離まで顔を近づける。

 

「んんっ....」

 

長い髪が彼の顔に掛かる。

鬱陶しそうに首を横に動かす男。

そして、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「冷泉家紋命ず霊験開門霊脈触発霊力廻....かしこみかしこみ....冷泉家紋命ず霊験開門霊脈触発霊力廻....」

 

まるで男の耳に声を流し込むように至近距離で囁く。

その瞬間、周囲の空気が変わる。

冷たく鋭く肌を刺すように揺らぐ。

 

「ん....うぅぅぅ....うぐぅぅ....」

 

うなされているのか苦悶の声を上げながら、彼女から身体を背ける。

すると、彼女はゆっくりと顔を離す。

 

「...ごめんね。...あなたが、私達を羨んでいるの、知ってる...から。私と...同じにしてあげ、たかったんだけど...まだダメみたい。」

 

申し訳なさげな声音で詫びる。

そしてゆっくりと立ち上がると、布団を捲った。

 

「それじゃ...それは、それ...として。せっかく、来たし....お邪魔、します....。」

 

そうして言い訳するように呟くと、彼女はゆっくりと足から布団の中へと潜り込んでいった。

 

 

 

「んんっ...ふぁあ~....汗やば。うなされてたのか....ん~~っ!」

 

起き上がると、身体中が汗でべとべとだ。

服が肌に纏わりつく感覚に不快感を覚えながらも、伸びをする。

いくらなんでもこのままじゃ気持ちが悪い。

シャワーを浴びよう。

 

そう思って布団を捲って、ベッドから立ち上がろうとした瞬間にとあるものが目に入った。

 

「なんだこれ....紙?」

 

それは、俺の隣に寄り添うように並んだ小さな紙切れ。

どことなく人型に見える。

はて....こんなもの作った覚えがないが.....。

もしかしてお酒で酔っぱらった時に手慰みに作ったのだろうか?

 

「まっいいか。さっむ....シャワーシャワー.....。」

 

その紙を手に取ると握りつぶしてゴミ箱へと投げ込む。

朝の冷気は汗まみれの身体を効率よく冷ましていく。

速く風呂に入って汗を流そう。

そう思ってベッドから立ち上がった。




艶やかな黒髪を枕にしたい冬の日。
いざやってみると髪の毛が鼻の穴とかに掛かって鬱陶しそう。
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