凌辱エロゲの清掃員   作:怪異犯罪特殊清掃班

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退魔師にコキ使われる話


休日出勤

「えーと、つまりこれは西条家からの個人的な依頼ってことですか?」

 

「まぁ、そういうことだな。」

 

せっかくの休日。

何をすることもなく、家で気に入っている動画投稿者の動画でも見ようかと思っていた矢先に職場に呼び出された。

なんで休日に職場になんて行かないといけないのか分からないが、こちらは新人の身。

それにこの仕事はお金に色が付くということを知っては参加せずにはいられない。

何もすることがないのであれば、その時間をお金の為に使うことは有意義だと判断したからである。

 

しかし来てみれば、言われたのはとある家の令嬢による個人的な清掃依頼。

どうやら家の外壁を清掃して欲しいとのこと。

正直言って、現場の清掃なんかよりは楽であることは確定であるが自分一人であるということが一番嫌だった。

だって一人ってことは負担は全て一人に集中するし、そもそも西条は四柱の次の序列くらいの家柄なのでそんなのを一人で相手するなんて御免被りたい。

 

「なんで僕一人なんですか?先輩たちも来てくださいよ。せっかく皆さん出勤してるんですからぁ!」

 

事務所内で思い思いに過ごしている先輩たちに目を向けて、チーフにそう主張する。

しかし、チーフは頑なな様子で首を横に振った。

 

「それは出来ない。お前が西条の清掃を行っている間に我々は巻添市のホテルで発生し、破壊された『淫妖界』の後始末を行わなければならないからな。」

 

「淫妖界....。」

 

その言葉には心当たりがあった。

確か、危険度の高い仕事として挙げられていたっけ。

思い出していると、急に横から肩を組まれる。

見ると、それは高町先輩だった。

相変わらずフレンドリー...悪く言えばいちいち馴れ馴れしい人だった。

 

「淫妖界っつーのは上級の妖が形成する建物を媒介とした大規模な結界でな。大概中はなんだろうな...形容するなら臓器の中みたいな?べちゃべちゃしてて触手が滅茶苦茶あって...そこで捉えた人間で繁殖活動を行っていたり、食料として保管していたりするんだ。壁が肉壁でびっしり触手生えてたりするし、マジで気持ち悪ぃんだよ。人間が壁に埋め込まれていて触手になんかされてたりするし、見ていて心地よい物ではないな。」

 

なるほど、淫妖界とはそう言うところなのだな。

なんというか、説明だけ聞くとなんとなくネットとかで話題になっているエロトラップダンジョンを想起させられた。

そんな甘っちょろい物ではないんだろうなということ察しはつくのだが。

 

「既に退魔師によって淫妖界は制圧されているとはいえ、未だどのような結界なのか詳しく分かっていない。以前にも制圧したと見なされていた淫妖界から触手や妖が発生した例や制圧したわけではなく非活性状態になっていただけで再活性化した例がある。このことから新人には規則として特例がない限りは淫妖界への同行は認められていないんだ。だからこそ、丁度良く暇な人員をよこせと西条様から言われたのでお前を向かわせることとなったわけだ。」

 

「なるほど、そういうことですか。」

 

どうやら僕以外の全員がやらないといけない仕事があるらしい。

そんでもって西条家からの要求だからこそ、断るわけにもいかず丁度良く新人だから淫妖界での仕事に参加出来ない僕が居たというわけだ。

ここに居なければバックレられたかもしれないが、なんにせよ金に釣られてきたのが運の尽きという奴か。

それに、危険な目に遭うかもしれない淫妖界の仕事よりかは幾分マシであろう。

そう考えることにしよう。

 

「西条っつーとこえぇぞ~。そこの娘さん、結構ガラが悪いらしいからなぁ~。まぁ、俺達のやる仕事の方がやべぇの事実だけど、清掃が甘けりゃもしかしたらぶん殴られるかもしれねぇなぁ~。」

 

前言撤回。

めっちゃ行きたくない。

正直、そんな人種苦手以外の何者でもない。

 

「おい、あんまり脅かすな。安心しろ、そこまで個人的な話をすることはない。最低限の礼儀がなっていれば向こう側も何も言わないだろう。それに、何かあれば新人であるお前ではなく俺に話が行く。そこまで怯える必要はない。いつも通り、やるべきことを黙々とこなせばいい。」

 

「はぁ....そうですか。」

 

ニヤつく高町先輩を内藤チーフは睨みつける。

そしてこちらを安心させようとそう言葉を紡ぐ。

まぁ清掃人に対してそこまで積極的に接触する雇い主も少ないか。

それが確実な上の立場であれば猶更。

それに、何かやって責任を取らされるのは内藤チーフ。

だったら気負わなくてもいい...のか?

 

「まぁ、金多くもらえるチャンスなんだ。頑張れよ!」

 

高町先輩は僕の背中を叩く。

ちょっといてぇな...本人的には本気ではないんだろうけど。

 

「う、うす。」

 

笑顔を見せる高町先輩に頭を垂れると、今度は内藤チーフが腕を組む。

 

「機材は向こうが用意してくれているから。お前は身一つで行くだけで良い。場所は今送った。頼んだぞ。」

 

「分かりました。」

 

機材を用意しなくてもいいなら、結構楽だな。

それじゃあ向かうか。

ロッカーの方へ向かって作業着に着替える。

そして、部屋の外を出ると受け取った位置情報を携帯で見るのだった。

 

 

 

 

 

 

位置情報に示されていた場所。

赴いてみれば閑静な住宅街だ。

周りを見回せば一戸建ての家ばっか。

 

「アパート暮らしの俺とは縁遠いものだな。」

 

周囲を眺めて独り言ちる。

家か....。

果たして僕に一軒家が買えるかどうか。

家賃を払う必要がない家には心惹かれる物があるが。

 

だってそれってつまり僕の財産ってことだろ。

それに借り物ではない自分だけの物と言える。

なんかポスター張ったりとか内装とかで壁に穴開けると退去時に金かかるなとか色々考えずに済むし。

...まぁ今のどうしようもない段階で考えても虚しくなるだけだが。

 

そう思いながらも画面を見ると、どうやら目的地は目の前の角を曲がったところらしい。

取り敢えず立場が上の人達なので、失礼のないようにしないとな。

そう思いながら、目の前の角を曲がる。

そして、目の前に広がる光景に目を見張った。

 

「うわぁ....。」

 

目の前にある立派な垣根や門がついた日本家屋の豪邸。

しかし、そこにはスプレーや絵の具などで所狭しと落書きされていて酷い有様である。

ここだけスラム街みたいな光景してやがる。

なんか廃墟サイトとかでヤバイ背景があってもぬけの殻になっている家じゃんコレ。

 

「地図を見る限り...ここなんだよなぁ.....。」

 

スマホを見る限り、ここであることに間違いない。

恐る恐る近づいていって門の横に就いているインターホンを押す。

....これよく見たらカメラの所塗りつぶされてるじゃん。

えぐいな。

 

横に見える門には大きく『不知火死ね』と大きく書かれており、その上から『マンコの割れ目もう一個作ったろかコラ』『マンコの臭さ日本一~!』『お前弱いねほんと』『明日お前の家燃やすから❤』と書き殴られていた。

品性の欠片もないじゃん....本当に西条の家かよこれ....。

 

外観に圧倒されていると、暫くしてドアの開く音がする。

多分、カメラを塗りつぶされていたから直接確認しに来たのかな。

そして門が開かれた。

 

「あん....誰だテメ―。」

 

そして門の隙間から赤みがかったショートヘアの女の子が顔を出す。

顔立ちや身体付きからして高校生くらいだろうか。

西条については僕詳しく知らないんだよなぁ。

 

目つきは鋭く、どこか不機嫌そうにこちらを睨みつけている。

美人ではあるが、おっかない。

言うならばほら、ギャルとかヤンキーとかそこらへんのオラオラ感?が出ていた。

運動でもしていたのだろうか?

スポーツタンクトップを着て、額に滲んだ汗と乱れて張り付いた前髪を見てそう思った。

 

「あ、あの~....僕、西条家から要請されて掃除班から派遣されてきた葦矢と申しますけれど...こちら西条様の御宅で間違いないですか?」

 

出来れば間違いであって欲しい。

落書きが広範囲過ぎて掃除するのが確定で怠いだろうし、何よりこの住宅街の中で異質極まりない。

ここだけ異空間みたいな有様だから、さっさと離れたかった。

 

すると、不機嫌な様子でこちらを睨みつけていた彼女の表情が一変、人好きのするような屈託のない笑顔を浮かべる。

 

「あぁ!?んだよ掃除の奴かよ、さっさと言えよ~。てっきり遂にインターホン鳴らす度胸のある奴が出てきたのかと思っちまったじゃねぇかよ~!待ってろ、道具もってくっから。」

 

そう言うと、また門の内へと引っ込んでしまう。

やっぱりここが西条の屋敷らしい。

やはりと言うべきか、家の中までは落書きは及んでおらず見える範囲で上品な日本庭園が見える。

しかし何をすればこんな風に落書きされるのか、気になる物である。

ただの野次馬根性であるが聞いても良いのだろうか.....いや、掃除する以上は聞く権利がないわけでもないように思える。

しかし、あの子が多分西条の娘さんだろ?

高町先輩が言うにはガラが悪いそうじゃないか。

聞くの怖いなぁ.....。

 

「おら、よく分かんねぇから家じゅうの掃除道具かたっぱしから集めてきた。これ使って門と垣根の落書き落としてくれよ。水とかは門の内側のあそこに蛇口あっから。」

 

大きなバケツを両手で持ってくると、俺の足元に置く。

そこにはスポンジやら雑巾やらの掃除道具とよく分からない洗剤が5本入っている。

豊富であるが、雑多。

多分、本当に分からないからこそ家にある落書き落としに使えそうな掃除道具を持ってきたのだろう。

そんでもってまた門の内側に戻ると、今度は高圧洗浄機もバケツの隣に置く。

 

「わかりました。」

 

「おう、頼むぜ。オレはトレーニングしてるからよ。なんかあったら呼んでくれ。でけぇ声張り上げてな。」

 

そう言って、門の中へと入って行こうとする。

 

「あ、あの!ちょっと待ってください!それで掃除する上で聞きたいんですけど...どうしてこんなことに?」

 

しかし、人の好奇心というものは罪な物で気になってつい聞いてしまった。

一応掃除する上というって建前はあるし、許されるか...?

すると、彼女は一瞬嫌そうな表情を見せるも深くため息を吐く。

そしてゆっくりと口を開いた。

 

「あー、なんだ。オレ、自分で言うのもおかしな話だけど所謂由緒正しい血統のお嬢様っつー奴じゃん?」

 

「は、はぁ...そう..っすね。」

 

この有様と、どこか不良然とした彼女の振舞いから忘れてしまいそうになるが一応は四柱に次ぐ名家連中の中の一人だ。

そりゃくっそお嬢様だろう。

しかし、それがなんの関係があるのだろう。

もしかしたら豊かであることで周辺住民から嫌がらせされてるとか?

だとしたら可哀想だな....そんでもってここら辺の地域の程度が知れるな....。

 

「だからよぉ、オレよりも血統としては下の癖に血がなんだの言って中途半端にやってるような連中とか親が退魔師じゃなくても頑張ってるような奴見下してるような奴見てるとつい耐えられずに〆ちまうんだよなぁ。テメェらごときが何やってんだってな。そんなこと繰り返してたら恨み買ってたらしくて遂に今日朝起きたらこうなってた。」

 

「えぇ....。」

 

彼女がモロに原因だった。

まぁ、行動を起こす理由としては義憤に聞こえる。

だが聞き方によれば自分と同じくらい...つまり彼女以上である四柱の人間であれば彼女が言う中途半端な真似したり、見下したりすることを容認しているように聞こえるのは僕が卑屈になっているだけか。

というか.....。

 

「退魔師の人たちにもこういう嫌がらせする人....居るんすね。」

 

「あ?...あぁ、そーゆこと。別にオレ達だってアンタと同じ人間だしな。なまじオレには絶対に勝てないからこういう方向でしか仕返しできないんだろ。しょうもないよな、まったく....。」

 

そう言いながら肩を落とすと、門の中へと入っていく。

しょうもないと言いながら、結構効いているようだった。

....まぁ、妖に対抗できる力を持つといっても一人間。

そりゃ嫉妬するだろうし、嫌がらせもするだろう。

組織においての立場がその連中よりも下だから自分とは切り離して違う人間だと考えていたのかもしれないな。

 

「....さて、掃除するか。」

 

僕も門の中へと入る。

すると、すぐそこに水場がある。

庭の手入れ用だろうか。

使わせてもらおう。

バケツに水を入れる。

 

そして、重いバケツを両手で持ちながら外に出るとそのまま足元に置く。

さて、仕事に取り掛かるとしますかね。

 

 

 

『不知火ちゃんは37人目でボコにされました❤』

 

「...ボコにされるってなんだよ...。」

 

落書きを色んな洗剤掛けながら拭いて消していくこと2時間。

垣根の上の方にまで書いているのを見て、ある種の執念のような物を感じていた。

それにしたってさっき消した『享年17歳』の落書きとかならまだしも、今消しているコレのような意味の分からない落書きとかもあって、これ書いている奴どんな顔して書いているのか気になる物である。

 

まぁ『ぜってーワキガ』とか『駅前でウリやってます。中年オヤジのくっせぇチンポ大好きです❤』とか『豚条☆マゾぬい 趣味:ザーメンゲップとリンチされること❤』みたいなひっでぇ落書きがあるのも事実だが。

便所の落書きの寄せ集めみたいな有様だなぁ....。

こんなの書いている奴とか品性疑うわ....。

そう呆れていると、曲がり角から人影が入ってくるのが見える。

 

そこに立っているのはセーラー服の少女3人。

3人とも目つきが悪く、髪の毛は金髪。

それも外国人やハーフのような生まれつき特有の綺麗で自然な発色ではなく、所謂髪を染めた後に色が抜けきったかのような色をしていた。

そんでもってマスクには『仁義』とか『無双』とか書かれてあり、手にはスプレーらしきものを持っていた。

 

....絶対アイツらが犯人じゃん。

え~....西条不知火の口ぶりから察するに多分あの人達も退魔師ってことだよね....。

それにしたってファンキーすぎないか?

あれじゃ一昔前のスケバン....いやそれより酷い。

 

彼らが角を曲がり、2~3歩踏み出した時点で眼が合った。

うわぁ....目が合っちゃった.....。

やろうとしていることはなんとなく分かった。

多分、今日も落書きをしていくつもりだろう。

 

しかし、それをされると困る。

そりゃ僕が今綺麗にしている途中であるし、そもそも人の家に落書きされそうなのに止めないのかお前と詰め寄られてしまえばぐうの音も出ない。

でもなぁ....アイツら退魔師ってことは俺よりも立場が上で、しかも強いと来ている

なんか呪い的な何かを掛けられたりしたらと思うと声を出すのを躊躇われる。

 

....まぁ、でも結局のところ僕がどうするべきかなんて決まっているわけだ。

見る限り、彼らは学生である。

大人として、清掃人として、人として僕がやるべきこと。

そんなのは明白だ。

 

「あの~、君たち....もしかしてここの垣根や門に落書きしに来たのかな?」

 

「...あ?話掛けてくんじゃねーよおっさん。」

 

「そーそー引っ込んでなよ。」

 

「アタシら、舐めてっと痛い目見っよ?制服見るに、掃除している奴だよねぇ?アタシらの後始末で御給金もらってる奴があたしたちの機嫌損ねて良いわけ?アタシら退魔師ぞ?」

 

お...おっさん....。

いや、まぁ20台であっても社会人なんて学生からみたら大人...つまりはおっさんか。

それに老けて見られているのかもしれない。

 

しかし見事なまでに威圧的だ。

そしてヘラヘラとこちらを嘲笑しながらもそう言ってくる。

作業着から僕が掃除班の人間であるということが分かったらしい。

分かったうえでこれな時点で僕らがどれだけ軽んじられているのかって言うのが分かるな。

舐められていることがはっきり分かる。

 

...あぁ、嫌だな話したくないなぁ。

それでも言っておくべきことは言っておかないと。

少なくとも、ここで俺が何をされようと制止したという事実が大事なんだ。

仕事を俺は真面目にやっていて制止もしたが、致し方なく汚された。

これなら西条に悪印象を抱かれずに済むだろう。

 

あくまで笑顔を向けて、好意的な様子を見せる。

 

「その~、別に機嫌を損ねるつもりはないんですよ。ただ、この落書きを消すのが僕の西条様に言づけられた仕事でして....なのでその汚されると困るんですよ....。だから落書きは後日にして頂けないでしょうか?」

 

あくまで下手に出て頼み込む。

すると3人は顔を見合わせて、そして大きな声を上げて笑う。

 

「お前の都合なんて知らねぇよ!」

 

「つーか、アンタごときが盾突くとか何様なわけぇ?」

 

「みーちゃん、コイツ〆ようよ~?」

 

こちらを嘲笑しつつも、物騒な事を言い出す彼ら。

これはまずい...かな。

なんで正しいこと言ったのに、こんな風に僕が怯えなければいけないのか。

こういう理不尽なことは別に今回に限ったわけでなく生きている限りはいくらでも直面してきた。

それでも、だからといって慣れて何も感じなくなるほど渇いちゃいなかった。

うんざりだよ、こんなの。

 

こちらを見てニヤニヤと笑みを浮かべながら一歩前に進む彼女達。

霊術を使って僕を痛めつけるつもりだろうか。

困るな....労災とか出るのかなこれ。

出ないんだったら正式な出勤日である明日の仕事には出れる程度で留めて欲しいな...。

 

諦観を胸の内に抱く。

しかし、その瞬間俺と彼女たちの間を少女の声が引き裂いた。

 

「その前に、人の家の前で何イキリ散らかしてんだお前。テメェこそ何様だよ。」

 

横を見れば、門から西条...多分落書きから察するに不知火?が一歩前に踏み出す。

3人は彼女を見て露骨に後ずさる。

 

「は...はぁ?なんでアンタいやがるんだよ....今頃学校だろ!?」

 

「そ、そーだそーだ!偉そうに説教してる癖にサボりとはどういう了見なんだコラ!!」

 

「チクッちゃうから!テメェチクッから!!」

 

なんというか、さっきまでとはまるで違う。

すっごい小物臭い。

心なしか彼女たちの表情に怯えの色が見える。

 

そんな彼女たちの言葉を聞いて不知火は鼻で笑う。

 

「ハッ、ただ単に家の行事がこの後あるから休みとっただけだ。ご心配なさらなくても、学校の方には話は通ってますよ?っつーこと。そういうテメェらはオレの家に落書きする為に態々サボタージュしてきたっつーことだろ。オレの留守を狙ってコソコソしゃばい真似してくれちゃってまぁご苦労なこった。」

 

家の行事があったのか。

まぁ、名家なら色々あるのだろう。

 

「は...はぁ!?変な言いがかり辞めろや!そんなんじゃねぇし!!」

 

「惚けても無駄だ。手にスプレー持ってるし、そもそも声デカくて話し聞こえてたわタコスケが。」

 

「しまった...!!」

 

3人の内、真ん中の子が頭を抱えた。

僕も今頃惚けても無駄だと思う。

ははぁ....今の3人と彼女の会話から分かるがあの子たち、バカだろ。

いくら何でも油断しすぎだ。

もしくは事前にリサーチして不知火が家に居ないと高をくくっていたのだろうか?

 

彼女達は最早へっぴり腰。

そんな彼女達を見て、不知火は嗤う。

 

「それでどーすんだ?元々、オレには会うつもりなかったんだろう?帰ってみるか??オレに背を向けて、尻尾を巻いてよぉ?」

 

揶揄するようにそう呟く不知火。

すると3人の内の右側の子が真ん中の子に話しかける。

 

「ど...どうするみーちゃん....?」

 

「...じゃん。」

 

「みーちゃん?」

 

真ん中の子が俯きながらも、言葉を微かに漏らす。

そんな彼女の様子に首を傾げる右の子。

そして、真ん中の子が顔を上げた。

 

「やってやる...やってやろうじゃんかよぉぉぉぉ!あぁ!?こっちにだって面子ってもんがあるんだ....西条だが斎条だが知らねぇけどやってやらぁ!お前が偉いんじゃなくて家が偉いんだよ!!時は令和、古臭ぇ家制度なんか知ったこっちゃねぇ!!下剋上じゃゴラぁぁああ!!!」

 

「み、みーちゃん!?」

 

横の少女の叫びに驚愕する右の子。

すると左の子も不敵な笑みを浮かべて不知火を見据える。

 

「そうね...私達三人の複合結界があれば如何に西条の家の人間であっても倒せないことはない。3人寄らばもんじゃの知恵って言うじゃない....怯えてちゃ何も始まらない。」

 

「あいちゃん...そ、そーだよね。3人集まれば大丈夫だよね!!」

 

困惑していた右の子も左の子の言葉を聞いて、力強く頷く。

それにしたってあの子たち他人と話す時と身内で話す時で言葉遣い変わるタイプなんだな。

それともんじゃじゃなくて文殊だ。

....正直、不良っていうかマジでただの馬鹿じゃないかこの子たち。

 

そんな彼女達を見て、溜息を吐きながらも不知火は笑顔を浮かべる。

そして門から一歩踏み出して出てくる。

 

「はぁ...血統とか家が偉い云々についてはテメェらに言われたくないわけだが、でもやる気ってことだな。面子を気にする程度の度胸はあるってことか。少し見直したぜテメ―ら。...おい、アンタ。」

 

「あ...あ、はい!なんですか?」

 

すると突然彼女に視線を向けられる。

彼女たちのやり取りに気を取られて反応するのが遅れてしまった。

しかし、そんな僕の反応など気にしていない様子で言葉を続ける。

 

「門くぐったら門を閉じて敷地内で待ってろ。こいつら片付けたら掃除を再開してくれ。」

 

「あっ、はい。分かりました。では失礼します....。」

 

どうやら戦闘を行うらしい。

霊術を使っている瞬間なんてこの前の冷泉文代の凍った苦無くらいしか見たことがない。

だから興味がないわけではないが、この世には好奇心は猫をも殺すって言葉がある。

巻き込まれるのは勘弁なので、ここは言う通りにさせてもらおう。

 

すると、そんな僕の行動に目ざとく反応して真ん中の子が指を突き付ける。

 

「片付けられるのはどっちかなぁ!?」

 

「そーそー!余裕ぶっちゃって、そう言うところがムカつくんだよねぇ!!」

 

「こちとらそこの男を巻き込んでやっても良いんだぞコラ!!!」

 

やめなよ。

僕、退魔師じゃないんだよ?

そんな一般人を故意に巻き込もうとするな。

怖すぎでしょマジで....。

 

すると、不知火もそれは良しとしないのか彼女達を睨みつける。

 

「...あまり図に乗るなよ。オレはただ害虫みたいなお前らがほんの少し人間らしい度胸つーもんを見せてきたから待ってやってるだけで今までの会話の間にオレがその気になればテメ―らは既に272回は燃えてるよ。よーするに今からの勝負はお前らの面子を掛けた戦いだろ?あんま白けさせんな。」

 

「...っ!....そこのおっさん、さっさと入れ!!」

 

「えぇ...みーちゃん...いいの?」

 

「いいのっていうかそれ以外どうしようもない気がするわね。」

 

不知火に睨みつけられると真ん中の子はびくりと身震いした後、気を取り直すように僕に門の中へと行くように促す。

他の二人はなにやら二人でこそこそ話しているみたいだし。

まぁ、ここから離脱出来るのは素直にありがたい。

 

一応彼らも目上である為、会釈しながら門をくぐると閉じる。

そして家の玄関の方まで避難した。

その直後、門の向こうから3人の少女の声が聞こえた。

 

「アタシから始まるぅ~!イェ~!!棘茨格子!」

 

まるで山手線ゲームを始めるかのような掛け声と共に手拍子が聞こえる。

多分、声的に真ん中の子だろう。

 

「...痺痢痺痢撥々!!」

 

そして左の子が手拍子の後に霊術の名前...かな?それを口走るのが聞こえる。

 

「わっ...に、仁郡式御前試合!!!....仕上げだよみーちゃん!」

 

そして慌てた様子の右の子が真ん中の子に呼びかける声。

その直後、急な風が頬を撫でる。

まるで外で何かが起きていることを明確に見えていない僕に表すかのように。

 

「行くぜぇ...泣いて震えろ!これがアタシたちの合作!複合結界、殿竜死試合!!」

 

そう真ん中の子の声が聞こえた瞬間、外から強風が屋敷の中へと吹きすさぶ。

確実に、外で何かが起きている。

冷泉様の時では感じなかった感触。

まるで外に別の何かが出来ているような。

 

西条不知火の声を聞かない。

大丈夫だろうか?

でも見に行くのは....。

 

そう逡巡しながらも、結局ゆっくりと門の方に歩みを進めていく。

そしてすぐ目の前まで到着した。

その直後、外で何かが砕けるような甲高い音が鼓膜を揺らした。

 

な、なんだよ...マジで外では何が起きているんだ?

冷泉文代の時とは違う。

これは一体、何が違うんというのか....?

戸惑っていると、突然門が叩かれる。

 

ギョッとして門を凝視していると、もう一度門が叩かれた。

 

「おい、終わったぞ。開けろ。」

 

「あ....あ、はい。」

 

その声は西条不知火その人。

どうやらもう終わったらしい。

もう!?

相手は3人で、何かをやっていたみたいだけど.....。

 

そう思いながらも門を開く。

すると、そこには一面煙を上げるアスファルト。

もわっと伝わってくる熱気と地面から揺らぎ出る陽炎。

そこらへんに横たわっている3人は煤で汚れてあたかも火事現場で逃げ遅れた所を救急隊員に助け出されたような有様だ。

 

そして、不知火は視線を他所へと一瞬逸らすとこちらに手を合わせた。

 

「わりぃな、仕事増やしちまった。まっ、取り敢えずこれで全部終わったから仕事に戻ってくれ。一応、道路とかに付いている煤を取ってアスファルトに水を撒いていてくれよ。」

 

「わ、分かりました...あの...!」

 

あの3人は声だけしか判断材料がないがなにやら大掛かりな何かをしようとしていた。

それをものの一瞬で制圧したということだ。

彼女は、一体何をやったのか。

好奇心からそれを聞こうとするも、彼女は手を突きだして制止する。

 

「悪いが質問は遠慮してくれ。このあと用事があるっつったよな。あいつらの後処理をしないといけないことを考えると、あの3馬鹿のせいで結構時間押してんだ。言い方は悪くなってしまうが、何も言わずにとにかく事に戻れ。」

 

「は、はい....。」

 

確かに学校を休んだ理由が家の行事だと言っていた。

それならば彼女たちをまともに相手取るのは時間を取られてしまうだろう。

後処理って何をするかは分からないが、極論を言えばこれは退魔師同士の話。

僕には、あまり関係がない。

 

西条不知火はぐったりとしたあの3人を引きずりながら門の中へと入っていく。

 

そして僕は門の外に出た。

そこだけムワッと気温が高い。

うだる暑さだ。

それが何故かはわからない。

けれど、ゆっくりとハンカチ越しにバケツを持った。

 

バケツは....暑くない。

これなら持てるな。

まずは水撒きだな、これじゃ暑くて仕事にならん。

そう決めると僕はバケツを手に、また門の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「つかれた.....。」

 

あれからまた1時間半かけて掃除を終えて、現在は事務所。

あの後、あの3人は似たような馬鹿への見せしめということで門の前に縛り付けられていた。

まぁ、目を覚ましていたが西条不知火への怯えやへりくだりやらでうるさかったものだ。

骨の髄まで小物臭かった。

まぁ結局行事の邪魔になるって理由で口に猿轡噛ませられていたけど。

多分、彼女の方が家柄が上なので特段問題になることはないのだろう。

向こうから吹っ掛けて来てるわけだし。

 

そんでもって僕の手には分厚い封筒。

中身はお金。

なんでも頑張った甲斐があって、仕事振りを評価してもらったのだ。

...それと多分あの3人との会話が聞こえていたらしく、3人の退魔師にも退かずに仕事を為そうとしたところにプロ根性を感じたとも言っていたか。

 

そんな大した理由ではなく、プロ根性なんかあるわけないのだが....まぁそういう意味ではあの3人のおかげで余計に金に色が付いたのだから感謝だな。

封筒を懐に仕舞う。

すると、事務所のドアが開かれた。

 

「ふぅ~疲れたぁ~」

 

「今日、飲みに行きましょうよ。」

 

「その前に菓子折りとか買いに行かないとな。」

 

先輩方だ。

汗を掻いている様子で、一仕事終えてきたって感じだろう。

僕は立ち上がると、頭を下げる。

 

「お疲れ様です。」

 

「おっ、戻ってたか。そっちもお疲れ様。西条邸への清掃、大丈夫だったか?」

 

内藤チーフは頭を下げる僕に声を掛けてくる。

問題は...まぁなかったな。

僕と西条様との間で特にトラブルが起きたわけではない。

トラブルはあの3人の来訪だったわけだし。

それに西条不知火は高町先輩が言う程、ガラが悪い人でもなかったな。

見た目とか喋り方くらいでまともな人ではあると思う。

 

「大丈夫です。西条様からもまたの機会があったら頼みたいと言われました。」

 

「そうか、よくやった。それじゃ、今日は解散してもらって構わない。また明日な。」

 

「はい、ありがとうございます。....ところで、高町先輩はどこへ?」

 

頭を下げるも、とあることが気になった。

入ってきた面子に高町先輩が居ない。

僕が仕事に行く前は居たのにも関わらず。

トイレかな....?

 

そう思っているとさっきまで着替えをしていたり、スマホを見ていたりと思い思いの時間を過ごしていた先輩方が顔を合わせる。

それは何とも言えない空気だった。

なんだ.....?

心中で首を傾げていると、内藤チーフは頬を掻きながらもゆっくりと口を開いた。

 

「あ~...高町...な。その~アイツは今...病院に搬送されている。」

 

「えっ...!?」

 

病院。

病院ってあの病院か?

怪我したり、病気になったりしたら運ばれるあの病院?

一体どうしたというのだろうか。

確か、今日は先輩方は淫妖界という所に仕事をしに行ったんだったか。

そこで何かがあったのか?

 

「中の制圧はしっかりされてたんだけどな。どうやら肉壁から引きずり出した女性の胎内にまだ生きが良くて十分に成熟した奴が居たみたいでな。引きずり出した時の衝撃で活発になって腹食い破ってガブリさ。」

 

中鉢先輩がこちらを見て、そう教えてくれる。

つまりは高町先輩はその妖に襲われたということだろうか。

だとしたら搬送となるとかなり一大事なんじゃ。

もしかしたら命だって危ういんじゃ....。

 

「おい!悪戯に不安を煽るな!....命に別状はない。ただ右手の小指と薬指を嚙み千切られそうになっただけだ。ちゃんと処置を受ければ完治して生活にも支障は出ないだろう。」

 

右手の小指と薬指を噛み千切られるって結構重大だと思うのだが...。

僕も着たことのある防護服かどうかは知らないが、防護服ってのは結構厚くて丈夫な素材で出来ていたはずだ。

アレを通して指を噛み千切りかねないなんて、どんな牙と顎の力をしているのか分かったものじゃない。

 

....もし、僕が淫妖界に居たら。

こうなっていたのは僕かも...いや、慣れているはずの高町先輩でも負傷しているなら、僕は一体どうなってしまうのだろうか。

なんというか人としてよろしくないかもしれないが、僕じゃなくて良かった。

新人で良かったし、なんなら普通より多く金がもらえるのに何も危険のない仕事を宛がわれて良かった。

 

それでも、その安堵は直ぐに掻き消える。

だって人はいつまでも新人ではあり続けられないのだから。

いつかは僕も淫妖界とか、新人には宛がわれない危険度の高い仕事をしないといけなくなる。

それは揺るがない事実だ。

 

いつかは危ない目に遭うことが分かる見えている地雷のような仕事。

そんでもって退魔師に下に見られている。

いつまでも、この仕事に就いていて良いのだろうか?

 

...そんなことを考えて、無駄だということに気づく。

僕は施設の人の紹介でこの仕事に就いた。

でも、それは何故だ。

紹介なら断ることだってできたはずだ。

それは、給料が良いこともあるが僕が就ける仕事でそんな『良い仕事』はなかったからだ。

この仕事をやめて、自分がやっていけるかなんて自信がない。

人間関係だって職場の人とはうまくやっていけてる。

それを手放すのは惜しい。

 

要するに、僕には端から選択の余地がなかった。

命あっての物種とは言われるが、現代にあっては金がなくては質のいい生を送るのは難しいだろう。

クオリティオブライフという観点では文化的な生活にはお金がどうしても必要である。

世知辛いけど....それが事実だ。

 

「まぁ、とにかくアイツは大丈夫だ。だから今日は帰りなさい。明日の出勤時間はいつもの通りだ。」

 

「分かりました。..お疲れ様でした。」

 

帰りの用意を済ますと、先輩たちに背を向けて事務所から出る。

 

なんにせよ、仕事終わりに未だ来ていない未来の事を考えるのは良そう。

余計に疲れるだけだ。

まぁある程度お金を貯めたらすっぱり辞めて、さっさとどっかに隠居してゆっくり暮らすとかでも良いんじゃないか?

株とか始めても....いや、それは流石によくわかんないしまずいかな。

 

そんなことを考えていると、ふと冷泉文代との会話が頭に過る。

 

『なんていうか、こんな自分でも役に立つ場所...っていうのが、こういう職種しかなかったから...ですかね?ははっ、なんか照れくさいな.....。』

 

冷泉文代になぜこんな仕事をやっているのかと聞かれて言った言葉だ。

はっきり言って今思い出すと白々しいのを通り越して片腹痛いし恥ずかしい。

中学生の女の子相手だからってカッコつけてるんじゃないよ、まったく。

...ただ、それでも。

 

「...そんな風に、思えたらもっと楽しいだろうな。生きてて。」

 

自分の仕事に誇りを持てるってことはとても幸せなことだ。

だから、なんていうか....そういうのにどこか羨望やら憧憬に似た物を覚えるのも事実なのである。

だってそういうの、僕の今まで生きてきた時の中では縁のない物だから。

 

今回の件でも痛感したが、退魔師はやっぱり人間性が良い人ばかりじゃない。

僕のような非退魔師や同じ退魔師でも家柄の有無でも見下したりする。

それに、なまじ霊術とか使えるから今日みたいにオラついてる奴も他に居るのだろう。

それでも、多分自分が退魔師である...というか自分が自分であるということに誇りは持っていることは分かる。

そこは、なんか羨ましいな。

 

「お金、一杯もらえたし...今日はいつもより少しだけ豪華な食事にしてみようかな。」

 

いつまでも沈んでいちゃしょうがない。

幸いお金は沢山もらった。

だったら自分の唯一の楽しみである食事にお金を少しだけ掛けてもバチは当たりはしないだろう。

明日が仕事だからお酒を控えめにしないといけないのは残念だけれど。

 

 

そうと決まれば、青年は渡り廊下を歩いて玄関口へ向かう。

はらりと自分のジャケットから落ちた長く艶やかな烏羽玉の毛には気づくことなく。

 




3人の小物チンピラが使った複合結界、あれは右の子の結界を土台に真ん中の子が茨みたいな鎖を巡らせて左の子の術式でそれに触れると電流が流れて発破するといったものです。
まぁ要するに名前の通り電流デスマッチですね。
3対1になるのが強いのであって結界自体はそこまで強くないです。

エロトラップダンジョン要素に当たる淫妖界は後ほど主人公も入ることになります。
まぁいつまでも新人ではいられないから多少はね?

最後の長い髪の毛...一体誰のなんやろなぁ....(すっとぼけ)

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