ダクファン帰りのエルフさんは配信がしたい   作:ぽいんと

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【文理対決】アーシャ VS ちぬれゆい【EPEX】その2

 ――2回戦:大将戦

 

 1回戦目は紅白戦で、最後まで生き残ったチームが所属してる方が勝利だった。

 つまり別に私が死のうが茜が死のうが、チームさえ勝てば関係なかったわけである。

 

 2回戦目は違う。

 今回のルールでは、私と茜のチームが大将となり、その大将が死ぬと負けになる。

 周りの護衛につく部隊がどうかは全く関係ない。

 

 分かりにくい人のために少し解説を加えておく。

 このEPEXというゲームは、仲間が死んでも蘇生手段が結構ある。

 体力が0になって倒れた仲間は『ダウン』と呼ばれる芋虫状態になり、仲間の蘇生を待つことになるのだが、撃たれるか時間経過で死ぬ。

 そして終了…………ではない。

 仲間のうち1人でも生き残っていれば『バナー』と呼ばれる蘇生チケットに変わるため、面倒な手順さえ踏めば蘇生することもできるのだ。

 だから、1人でも生き残っていれば、意外と部隊を立て直せたりもする。

 

 このゲームのキャラ人間じゃないからね、仕方ないね。

 死んでも働かされるとはブラックなことだ…………と思ったが、プリーストである自分も蘇生魔術を使って死体に鞭打って働かせてるようなものなので人のこと言えない。

 リアルでやってる分、幾分自分の方がタチが悪いだろう。 

 

 さて、申し訳ないが『バナー』の話は今回あまり関係ない。

 今回は大将である私たちは『ダウン』して、『バナー』になった時点で負けだからだ。

 

「むぅ………結構頑張ったんだけどなー、やっぱやるなーゆい」

 

 くっそマジか

 範囲が悪いよー範囲が

 がんばった!

 惜しい

 

 

 ………そして、私は普通に負けた。

 

 展開は、私が地図の南側、茜が北側に降りる形となった。

 しばらくの間は、これがバトロワゲーであるとは思えないほどの平和が続いた。まぁ範囲縮小までドンパチやる必要もないので当然と言えば当然だ。

 

 そして展開が動いたのは4度目の縮小。

 非常に残念なことに茜側が範囲の中となり、奇しくもこちらが範囲の外になることになった。

 相手は既に有利ポジに展開しており、まともに撃ち合えるポジションをとることは難しかった。

 

 2回戦目が終わったので、次の試合まで茜のメイン配信に顔を出す。

 

「いや~~~! あれはズルいって! どうしようもないぞーアレ!」

「はははは、凸ゴリラに思い知らせたったわ!」

 

 ナイス戦略だった

 いい指示

 完封してたな

 最後まで(アーシャ)はしぶとかったけどなww

 

 

 自分が思っていたより茜を称える声が多かったので、茜に聞いてみた。

 

「いやな、最初からウチが周りのチームに指示出してたんよ。細かいのはさすがに無理やけどな。一応どこが範囲になっても勝てるつもりやったで。このゲームは一人でやるもんちゃうからな!」

 

 どうやら茜は姫モードが始まった時点で、周りに指示を出して動くことを考えていたらしい。

 その口ぶりには、何回やっても負ける気がしないというような自信を感じた。

 3対3でどう勝つかという戦術なら私は得意だが、30対30になるともはや戦略だ。

 戦略を考えるのは古来から頭のいい人と決まっている。

 私には無理だ。

 

 茜はもともと頭がいいのもあるが、前からこの企画を温めてきていたらしい。

 この辺りを踏まえて、二回戦の勝利の女神は茜に微笑んだのだろう。

 

「いやもうこれ私が凸った方がよかったのかな?」

「それやと無理にでも集中砲火してたと思うで」

「……まぁそっかー」

 

 言い始めた時点で、もうこれは否定されるなと思っていた。

 私は突撃大好きマンで、待つの大嫌いマンだ。

 そしてその無理を通せるだけの実力はあると思っている。

 

 しかし、さすがにこのルールで大将が突っ込むと、ありえないレベルの集中砲火を受けて哀れなハリセンボンと化すのは間違いないだろう。

 なので、人数が減ってくる終盤までスナでチクチクヘッショするしか仕事がなかった。

 

 そのせいで、今回の戦績は2キル、3,721ダメージである。

 ダウンは取れても蘇生されるので全くキルが取れなかった。

 

 次の企画の準備が出来たらしい。

 次は、必ず勝つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Tips】バナー:死んだ味方のアイテムボックスから回収できる蘇生チケットのこと。リスポーンさせる為にはこのバナーが必要になる。マップに複数ある蘇生ポイントで蘇生する必要があるが、蘇生には時間がかかる上に周りに位置がバレるので、終盤に蘇生するのは難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3回戦!!

熱くなってまいりました

伝説の始まりとはこれのことか

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かわよ

チャンピオンが見たいぜ

 

ちまみれエルフさん好き

▶ ▶❘ ♪
 
 ⚙ ❐ ▭ ▣ 

【文理対決】アーシャ VS ちぬれゆい:アーシャ視点【EPEX】

 20,185 人が視聴中・1分前にライブ配信開始 
 
 ⤴6,701 ⤵65 ➦共有 ≡₊保存 … 

 
 エルフのアーシャ 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数 8,421人 

 

 

 ――3回戦。

 

 視聴者の人数は減るどころかむしろ増えている。

 私のサムネに吸引能力でもあるのか、インフルエンサーがツイートしたためかは知らない。

 

 3回戦目は、ガチバトルロイヤルだ。

 通常のEPEXルールでカスタムマッチをプレイを行い、順位が高い方を勝ちとする。

 当然チャンピオン(1位)を取れば勝利だ。

 しかし、例えば私たち(19位)、茜たち(20位)でも私たちの勝利となる。

 まぁこんなの放送事故でしかないが。

 

「よしっ! 入れた人は配信画面見ないでくださいね」

 

 ゴースティングされる可能性も無いわけじゃないが、20,000人が見る中でバレると炎上する可能性もあるので、流石に露骨にはやらないと思う。

 そんなことを考えているとき、事件は起きた。

 

「味方つっよ……ってかあれ?」

 

 mikanmochiいて草

 裏切ってて草

 文 理 両 道

 

 

 mikanmochi:間違えました

 

 ………どうやら理系チームのエースがこっちに紛れ込んできたらしい。

 しかもよりによって、このガチバトルロイヤルでだ。

 裏切り者の存在にあわや企画倒れかと思ったが、向こうの配信を見てるスパイ曰く、続行でいいらしい。

 

 ちなみにこっちのメンバーは、プラチナ(仲間1)、ダイヤ(私)、グラマス(mikan)である。

 私はキャラ操作と撃ち合いは強いが、大まかな立ち回りはぶっちゃけ分からない。

 茜とやるときは茜の指示に従って動いたり、動かなかったりするからだ。

 なので、1度は1位にタッチしたことがあるグラマスの人にリーダをお願いしてみる。

 

「mikanさんmikanさん! リーダーお願いできませんか! 付いていきます!」

 

 そう言って、飛び降りの権利をmikanに押し付ける。

 しかし一瞬で一周して、メッセージと共に自分に戻ってきた。

 

 mikanmochi:付いていきます師匠!

 

「誰が師匠か! ……わかりました、立ち回り下手でも『lol』とか言わないでね」

 

 飛んであげないミカン

 これは腐ったミカン

 日本1位の師匠とは

 

 

 いつも通り即降りし、激戦区に突っ込む。

 コメント欄がツッコミの嵐で埋まっているが、この戦力なら事故らなければ問題ない。

 

 ………そう、事故らなければ。

 

「モザンピークばっかいらねぇんだよ!! 何個目だよ! 先にリュックを出せ! 弾を出せ! ライフルもいらないんだって!またモザンピークゥ!! 」

 

 ライフルいらんの珍しいな

 中距離最強やぞ

 そういや1回も使ってないね

 

 

「まっすぐ飛ばない武器はいらない」

 

 どのFPSもそうだが、フルオートの武器は思いっきりブレる。

 そしてそれを抑制しながら、相手をトラッキングするのも技術の一つだ。

 しかしそれより最初から1発で頭抜いたほうが楽しいので、ライフル系は基本使わない。

 まぁ最初は武器がないのでイヤイヤ使うが。  

 

 ―17、28、45、56、73、90、107、123、140、157!

 ジャージにワイシャツ絶対変だをノックダウン

 

「………狙い辛いなぁ」

 

 めっちゃいい音してましたけど。

 殆ど外してなくて草

 SMGでこの距離で頭狙うのか……

 

 

 強いっていうのは分かるのだ。

 強いんだけど………。

 

「ロマンがない! 頭一発でぶち抜きたい!」

 

 wwwwww

 草

 いやわかるけども

 VALORANTSやれや

 

 そんなこんなでコメントにドン引きされたり、私を放り出して2人で暴れてるmikanmochiにドン引きしたりしていると、お目当ての武器を見つけた。

 

「おっ、ウイングガンとロングスナイパーじゃん、もらおっと」

 

 ウイングガンは得意のリボルバーで、ロングスナイパーは得意のスナイパーライフルだ。

 弾はマガジンにしか入ってなかったが、あとで拾えばばいい。

 そんなことを考えていると、味方がこっちまでやってきた。

 

 いや、敵を引き連れて来た。

 どうやら調子に乗り過ぎた結果、別2チームが漁夫りに来たらしい。

 3チームが入り混じってバチバチにやりあっている。

 

 ―97、―142、―239!

 ベースラインやってる?笑をノックダウン

 

「いええいやいやちょっとまってまって、ヤメロォ、今はヤメロォ!」

 

 ―45、―90、―135!

 明智光秀(下剋上前)をノックダウン

 

 なんとか壁と扉を使って一方的に二人倒した。

 そしてもう別の1人がやってきた。

 体力を回復しつつ、いつも通り応戦しようとする。

 

 ――カチッ、カチッ

 

「あっ」

 

 弾無いの忘れてた。

 当然の権利が如く、クソザコナメクジはダウンさせられた。

 

 あるあるww

 wwwwww

 なんか逆に安心したわ

 

「………スゥゥゥゥゥーーー………」

 

 ほどなくして仲間のダイヤの一人もダウンする。

 敵はあと二人いるらしい。

 

「お願いッ! お願いします! mikanmochiさん! お願い、頼みます!」

 

 彼に私の尊厳が託されているのだ。

 絶対に勝ってもらわなければ困る。

 そうこう考えていると、体力ミリの状態で2人とも倒しきってくれた。

 さすがグラマスである。

 

 さすがグラマス

 アーシャちゃんも凄かったけどね

 このチーム強くね?

 ガチバトルの立ち回りじゃないんだよなぁ

 

 ガチバトルの立ち回りではないとはいうが、実は1位を狙うならあながち間違いとも言えない。

 このゲーム、敵にダメージを多く与えるとアーマーが堅くなるという仕様がある。

 たかだか25ぐらいしか変わらないが、その差は実はすごく大きい。

 

 激戦区を生き残り、散らかっているアイテムボックスをあさった結果、十分な資材が集まった。

 これだけあれば、最後まで戦い抜くことは難しくないだろう。

 何故か自分はリュックが出ない呪いがあるので、誰かを殺すか貰うかしないといけないのだが、今回は首尾よく敵から奪うことが出来た。

 

 その後もいくつかの部隊と戦闘しながら、範囲の中を進んでいく。

 そして、能力(アビリティ)で空中に掛けられたジップラインを飛んで向こう岸に渡る。

 万が一このジップラインから落ちると問答無用で即死なので、ちょっとだけ怖い。

 

「よし……ここならいい位置かな」

 

 範囲が狭まってきて、残り4部隊。

 もう殆ど隠れられる場所もない。

 姿こそ見えないが、どこにいるかは互いに分かっていた。

 

 そして次の範囲が決まった瞬間、有利ポジをとるため、ジップラインを戻った。

 

 移動中に視点を動かし、周りを警戒する。

 瞬間、何故か自分が落ちていくのが見えた。

 

「は?」

 

 ふと横を見ると、呆然と自由落下するmikanmochiさん。

 どうやら、ジップライン上で空中衝突したらしい。

 

「え、えぇ………?」

 mikanmochi:ごめんなさい

 

 ちなみにこのゲーム、場外落下は即死である。

 

 ファーーwwwww

 グラマス2人が事故死

 なにやってんだよ団長!

 

 

 mikanmochi:いや本当にごめんなさい

「いや、私の方こそごめんなさい。そんな謝らなくていいですよ」

 

 位置的に私側から移動するのが当然の状況だった。

 だから、実際なんでこっちに移動したかは知らない。

 その理解不能な行動にちょっとだけイラっとした。

 

 しかし、私の尊厳がかかっていたとはいえ遊びでやってるゲームだし、ちょっとしたミスぐらいでそこまで謝らないでほしい。

 そもそも配信的には美味しい部類なのだ。

 だから、少し考えた後、わざとらしい怒り顔を作り、要求を述べた。

 

「えー、それじゃあ明日までに小指持ってきてください」

 mikanmochi:それは嫌

 

 草

 wwww

 ヤクザかよ

 組長のお通りだああああああ!

 

 

 許しを与えるというのは、厄介な話である意味ちょっとした上下関係の意味も孕んでいる。

 ここで私が『いいよ気にしないで、私も悪いから』と言って流すのは簡単だが、それだと私が許してあげてるみたいな雰囲気になるし、きっと好きなVtuberならそんなことは言わないだろう。

 むしろ盛大にブチ切れる気がする。

 だから、あえて少し偉ぶって、逆にツッコミを入れてもらうことを狙ってみたのだ。

 

 コメント欄の反応を見る限りだと、あながち間違いといったわけでもなかったのだろう。

 お通夜ムードにならなかったことに一抹の安心を覚えたのち、さらに言葉を加える。

 

「ウソウソ、冗談ですって」

 

 もしかしたら言葉をそのまま受け取って、私がガチ切れしてると思ってる人がいるかもしれないので、冗談であることを明示しておいた。

 そして気持ちを切り替え、残りの一人を応援する。

 私たちの蘇生も望めず、状況は割と絶望的だが試合はまだ終わってはいない。

 

「お願い! 頑張って!」

 

 残り一人は3部隊が争う中をうまく立ち回り、2位までは粘って見せた。MVPをあげたいぐらいの頑張りっぷりだった。どこからあんな執念が出てきたのだろう。

 しかし、残念ながらチャンピオン部隊は茜のチームだった。

 本当に惜しい話だ。

 

 そして、この勝負は茜の勝ちで幕を終えた。

 嬉々として茜は私の秘密を話し、私は発狂した。

 今度は私が逆に最後の試合の顛末を教え、茜とコメント欄は大爆笑した。

 

 ――ゲーム実況をアダルト配信と勘違いしたエロフ

 ――詫びに指を要求してくる組長

 

 私のよくわからないあだ名が、また増えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジップラインは味方同士は衝突しない?と聞いたのですが、このゲームでは衝突することになっていると思って下さい。

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