ダクファン帰りのエルフさんは配信がしたい   作:ぽいんと

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【日常編2】モフモフバスタイムと個人勢の頂点

 

 大理石のような色をした浴室はとても広い。

 大きな鏡が一面に貼られており、浴槽もゆったりと足をのばせる広さだった。

 体操座りで無ければ座れないウチのお風呂とはなんだったのか。

 私とマシロは、浴室を見ながら服を全て脱ぎ捨てて、一糸まとわぬ姿になった。

 

「このような広いお風呂は久しぶりですねお姉さま!!」

「………そうだね、はぁ……」

 

 私とマシロの反応は少し違う。

 マシロは久しぶりの大きなお風呂を純粋に喜んでいるのに対して、自分はあの小さな風呂に慣れ切っていたという悲しさをひしひしと感じていた。というのも、向こうにいた時は結構な高所得者だったので、いつも大きなお風呂に入っていたのだ。

 

 例えば私の本拠地の教会にある低級聖神官とその従者用の大浴場だろうか。

 ジャグジーもどきや、波のある風呂など無駄に多種多様な機能がそろった大浴場は室内プール並みに広かった。活気があって一番好きな風呂だったのだが、お忍びでなければちょっと入りずらかった。

 そこでマシロと一緒に従者枠で入浴していたのを思い出す。

 

 キャッキャとはしゃぐマシロに、先にシャワーするように言う。

 ただでさえ長髪なのに、ふさふさの尻尾まであるのでちゃんと洗い流すのには時間がかかるからだ。すると、マシロは少し頬を赤らめ照れくさそうに言った。

 

「………昔のように洗っては、くれないのですか?」

 

 上目遣いでコテンと首を傾けておねだりするマシロは、やっぱりかわいい。

 今だ小柄なマシロではあるが、出会った時と比べると肉付きも身長も胸もずいぶん大きくなった。

 

 いつ頃だろうか?

 私に洗って欲しいと言わなくなったのは。

 なんだか昔に戻ったような気がして懐かしい。

 随分と成長したが、まだまだ子供だなぁと思う。

 けど、そんなマシロが好きな自分も、妹離れが出来ていないのかもしれない。

 

「……しょうがないなぁ、いいよ。……それじゃ座って」

 

 一応言っておくが、ここに性的な感情は一切ない。

 たった5年の付き合いだが、逆に言えば5年も寝食と戦場を共にしてきたのだ。もう正直なところ完全に妹だと思っている。

 

「洗うね」

 

 お湯の方を捻ればお湯が出てくることの有難さを感じながら、シャワーを浴びせていく。

 

「………♪」

 

 腰まで掛かる美しい白髪を手で透かしながら、ふわふわとした髪に水ををぺたりと寝かしつけていく。ついでに頭を撫でた後、目にかかった髪を払う。そして今度は耳を親指と手の平でで挟み込み、もみもみする。

 

「あぁ…………、ふわぁ…………♪」

 

 マシロはとろんとした声を漏した。

 そのまま根本からすぅーっと端まで撫でつけていく。

 撫でる指につられて、気持ちよさそうに体を揺らした。

 

「気持ちいい?」

「ん………♪ 気持ちいい、です………♪」

 

 ちゃんと耳の内側までぐっしょりとなったのを確認したら、次は尻尾だ。

 まぁなんたって九本あるので、洗うのは結構大変だ。

 

 お湯の勢いをさらに強くして、尻尾の根元から一本一本少しずつお湯を含ませていく。ふさふさの毛がへにゃりと引っ付き重くなっていく。

 気が付けばマシロは心地よさげに尻尾をタイルに垂らしていた。

 

「ふぅ…………」

「シャンプーもするよ」

 

 そう言って、お風呂セットから故郷の村謹製のシャンプーと石鹸を取り出した。

 シャンプーと石鹸は、世界樹の樹液やいくつかの果樹から油分を抽出して錬金術で仕上げた特別品である。毎日使うには勿体ないが、たまに使うと毛ツヤがよくなるのだ。

 

「……いい香りですね」

「これ使うの久しぶりだからなー」

 

 作るのはちょっと面倒だがたまの贅沢ぐらいならいいだろう。

 直接ドロリとした液体を手ですくって、濡れたマシロの髪や耳、尻尾全体にたっぷりと塗り込む。そして、わしゃわしゃと泡を立てて全身を泡だらけにしていった。そして森林の中のような清涼な空気が、風呂の熱気とまじりあい不思議な気持ちよさをもたらす。

 

「ん………」

 

 完全に蕩けてしまったマシロは、癒しの湖の中で船をこぐ。

 うつらうつらと体を揺らすマシロをの髪を手で弄びつつ、今度は全身を流していく。

 

「…………♪」

 

 数分かけて、きっちりと泡を落としていった。

 マシロは私に寄りかかって、くぐもった声を漏らしている。

 

「終わったよ」

「…………」

 

 しかし、まどろみの中にいるのか反応が無い。

 反応が無いとなると、悪戯がしたくなる。

 

「…………失礼しまーす」

 

 脇腹に手を伸ばして。肋骨の下あたりをこちょこちょした。

 すると、ビクッと体が跳ねる。

 

「……っあっ!! 、ちょちょちょっとお姉さま!?」

「お風呂場で寝ちゃだめだよー?」

 

 唇をきゅっと結びながらも、さっきの余韻で少し蕩けたマシロの可愛らしい抗議を適当に受け流しつつ、今度はマシロに体を洗ってもらった。耳が長い系の種族の特徴だが、耳の中まで清潔にしておくというのが、身だしなみでは結構重要ポイントだったりする。

 これはエルフになってから知ったことだが、耳が大きいとなにかと汚れやすい。こまめに掃除しないとすぐ汚れる。なので、耳を見るだけで清潔好きかが分かったりするのだ。

 

「…………んはぁ~~」

 

 マシロよりはずっと洗うところが少ない私だが、長耳の扱い方を分かっているマシロは、念入りに揉み洗いをしてくれて、少し頭の中が蕩けてしまった。

 やっぱり洗いっこは最高なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Tips】聖神官用大浴場:聖神官達やそのお付が入浴するための浴場。聖神官は戒律で男との交わりが禁じられているが故に、どこか微笑ましい百合の花園となっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁぁぁぁーーー」

「あぁ…………」

 

 熱めに調整したお湯が、じんわりと肌を温めていく。

 人は母親の胎内にいるとき、温い羊水の中につかっていると聞く。

 だからこそお風呂に入ると、まるで細胞が蘇るような安心感を感じるのかもしれない。

 

 しばらくの間、向かい合わせでゆったりとした時間を過ごした。

 その後、今度はお風呂の外に手だけを出して、横向きになる。

 

「スマホスマホスマホーっと、あった」

「防水なんでしたっけ」

「防水だねー。まぁ袋に入れてるから大丈夫だよ」

 

 適当な高さの台を作って、そこにスマホを立てかける。

 これぞ至高の贅沢、お風呂スマホである。

 奸計を思いついたマシロに、称賛の言葉を贈る。 

 

「……お主もワルよのぉ」

「……いえいえ、悪代官様ほどでは御座いません」

「お代官ね?」

 

 軽くツッコミを入れると、あ、そうでしたとマシロは軽く笑う。

 日本のステレオタイプな表現を即座に理解して冗談を言えるマシロは、やっぱり賢いと思う。

 多分、来歴が悪すぎるだけで、本来のコミュ力は決して低くないのだ。

 むしろ一度慣れれば人懐っこい性格をしているので、愛される子ではあると思う。

 

 ………でも、どこかにお嫁に行くのはなんだか嫌だ。

 

「マシロ。………好きな人が出来たら言ってね。見極めてやるから」

「私が好きなのはお姉さまですよ?」

 

 即座に帰ってくる言葉に、少し安心する。

 どうやらまだ恋愛に対する憧れとかはないらしい。

 

「そういう好きじゃないんだけど………まぁいっか」

「………」

 

 呟くような私の言葉に、マシロは何故かちょっとムッとしたご様子。

 体をグイグイと寄せて、コテンと肩に頭をのせて来た。

 なんだか今日は随分甘えん坊だなと思う。

 まぁ可愛いから良いんだけども。

 

「…………」

「あったあった」

 

 肩にのったプチオコ白饅頭を揺らさないように、左手でスマホを操作し、配信を流す。

 ちょうど推しの天堂アイリスが配信をしていた。

 自分は正直アーカイブでも良い派なので、ライブ中に見るのは久しぶりだ。

 しかもこの企画は、最近見て一番面白かったやつの続きなので嬉しい。

 

 

 

 

12時

ブラッドムーンの照らす頃

ひぐらしのなく頃に

 

 

百鬼夜行が始まるころ

夜更けの12時

 

バイクで走り回る15の夜

▶ ▶❘ ♪
 
 ⚙ ❐ ▭ ▣ 

『コメント安価で最強の漫画作ろうぜ:part8』

 193,315 人が視聴中・1分前にライブ配信開始 
 
 ⤴45,251 ⤵501 ➦共有 ≡₊保存 … 

 
 天堂アイリス / Iris Tendo 
 チャンネル登録 

 チャンネル登録者数 1,385,621人 

 

『ねぇ、『いつ』の指定で『黄昏時の真昼』って何時ですか!?

 私にどうしろって言うんですかキミたちは!!』

 

 草

 何時だよwww

 夕方の昼やぞ

 おわりだぁ………

 

 

「まーた、凄いことになってるね………」

「毎回これで良く纏まりますよね」

 

 画面の向こうではアイリス姫が、余りのコメントの暴れっぷりに困惑していた。

 ただこれ、この企画の場合はぶっちゃけいつものことだ。

 

『コメント安価で最強の漫画作ろうぜ』はアイリス姫の中でも特に人気が高い企画である。

 なんてったって、最強の漫画家が自分たちの悪ノリに全力で付き合ってくれるのだから。

 

 企画内容は単純明快。

 今、アイリスプロジェクトの公式ウェブサイトで刊行している『天才暗殺者さんと賢者の声』のストーリーやキャラデザをみんなで決めるという企画だ。

 

『……まぁ、マシな方かぁ………。次は頼みますよキミたち!! ハジメちゃんの運命はキミたちにかかってるんですからね!!』

 

 まかせとけ

 我等賢者ぞ?

 ハジメじゃなくてイッチな?

 ハジメちゃんいじめないで先生

 

 

『イジメてるのはキミたちなんですよ!!』

 

 視聴者に擦り付けられた責任を、姫は素早く撃ち返す。

 そもそも安価こと賢者の声のせいで、この主人公は毎回ひどい目に合わされているのだ。

 バケツ被ったままドラゴンと戦わされたり、意味もなく城の頂点の旗の上で逆立ちして衛兵に追い回されたりするのを見ていると中々悲しい。

 

 物語の設定としてはこうだ。

 まず、密かに恐れられる伝説の暗殺者がいた。

 数々の人間を闇に葬ってきた彼は、最後の命令を受け王女の暗殺に向かう。

 しかし王女と護衛は強く、暗殺者を返り討ちにしてしまう。

 仕事に失敗したその男の人生はここで終わるはずだった。

 

「あなたの身はこの私が保証します。そして、あなたは贖罪の旅に出るのです」

 

 生まれて初めて人に優しくされた男は王女に深く感謝し、新たな主である王女から『ハジメ』の名を授かり諸国を巡る旅に出る。異界の叡智を齎すという賢者の石と共に………。

 

 というストーリーだ。

 暗殺者は人の命令のみで生きてきたため、自分で何をすればよいかや善悪の判断が付かない。

 それを賢者の石という名の視聴者が成長させていく参加型企画だ。

 ………そういう予定だったらしい。

 

「まぁ、安価企画にした時点でこうなるのは分かってたけどなぁ」

「でもこのハチャメチャな感じ、見てて楽しいです」

「それはそうなんだけどね」

 

 企画の後、数週間後に漫画がサイト上に無料公開され始める。そして、こんな製作手順だからめちゃくちゃな話になるのかと思いきや、何だかんだ毎回笑いあり涙ありの少年漫画風ストーリーになるのだ。無料公開なのに有料版が飛ぶように売れているという事実も、この面白さを証明していると言えるだろう。

 

『あっ、そうだっ。この国は、悪い魔女に昼を奪われた設定にしましょう! これならいけますよ! どんなもんですか!』

 

 おっいいじゃん

 さすがだね

 王道ストーリーっぽいね

 

 

 今回も厄介なお題を処理し、うまく話を運んでいくようだ。

 視聴者とのプロレスをこなしつつ、即座に簡易なネームを書いて目でも楽しませる。

 そして、美麗な画面構成は手際の悪さや拙さを一切感じさせない。

 しばらくの間、視聴者(私とマシロ)は夢中になっていた。

 

 ふとお湯がぬるくなってきたのに気が付いて、我に返った。

 

「……あぁ、やっぱり面白いですね」

「…………うん、そうだね」

 

 配信は凄く面白い。

 しかし、私は少しばかりの戦慄を覚えていた。 

 

 少し前までなら、ここでキャッキャと騒いで一緒に笑っていただろう。

 しかし、少しばかりの配信経験を積んだ今だからこそ分かる。

 この配信がどれだけの努力の元で洗練されたものなのかということが、分かってしまう。

 

 絵のスキルにしてもそうだし、一切ノイズを感じさせない音声もそう。

 良い意味で上品に仕上げられた配信画面に使われている素材がどれだけ多いのか、マシロや茜の編集画面と比較してみるとよくわかる。

 嫌な視聴者を上手にあしらいつつ笑いに変え、しかしラインを超えた視聴者はモデレーターが気が付かないうちに消している。

 

 配信を始めると毎回『Hey Guys』だの『Watch my channel!』などと言いながら謎のアダルト外国人がコメント欄に沸いてくる私の配信とはえらい違いだ。

 

『……大丈夫かなーこれ。あーでも結構形になってきてない?』

 

 きてるきてる

 流石やね

 その形はワイらが崩すで

  

 

「………凄いね、ホントに」

「…………ええ」

 

 もう一度呟いた私の言葉に、マシロも同調する。

 マシロも僅かだが動画制作に関わった身だ。

 一度、裏側を覗いたからには、もう単純な目では見られなくなったのだろう。

 

 ――個人勢の頂点。

 

 アイリスプロジェクトは一応は企業勢だ。

 しかしごく最近まではアイリスが一人でやっていた。

 それ故、突き抜けた登録者を持つ彼女は、実質個人勢と言われることもある。

 彼女を個人勢と定義するなら、間違いなく頂点と言っていい。

 

 今更ながらに、再認識した。  

 これが今の女性配信者の頂点で、目指すべきところなのだ。

 

 圧倒的個性、突き抜けた企画、卓越したトーク力に、高い配信技術。

 

 一つ欠けても決してたどり着けない高みに、彼女はいるのだ。

 

「…………」

 

 僅かに感じた恐怖に、ごくりと唾を飲み込む。

 

 金の盾(登録者100万人)をとるということは、そういうことなのだ。

 

 今のままの配信ではダメだ。

 そう強く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Tips】個人勢:企業による運営でなく、個人運営によるVtuber(運営が個人なら事務所に所属していても個人勢)。よっぽどの突き抜けた個性を持たない限り、既に2万以上いると言われるVtuberの中からまともに立ち上がることすら困難。

 




マシロとのお風呂回書きたかったんだ!!!
許して!
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