バーガーランド配信の翌日。
今日はマシロとの約束通り、一日家に籠って生活する日なのだが──
「──ふわぁぁぁ……」
やることが無くて暇だった。
いや、正確に言うと、やる気が出なくなって暇になった、か。
さっきまでは自分も、動画の編集をしていた。編集するようになって気が付いたのだが、動画ファイルというのは基本的に滅茶苦茶容量を食う。編集していた4時間のゲームの録画ファイルなんて50GBもあった。その辺よく知らずに録画しまくった結果、ドライブの容量がいっぱいになってしまったので、動画ファイルを整理することにした。
つまり編集中に動画ファイルを別の場所に移したわけだ。
すると、とんでもないことが起こった。
動画編集をしたことがある人ならどうなるか分かるだろう。
これをやると、編集ファイルが破損する。
つまりさっき頑張ってやっていた2時間分の作業が、一発でパーになったわけだ。
この時点で茜に聞けば直し方を教えてもらえたのかもしれない。
しかし焦っていろいろ試した結果、大変おめでたく編集ファイルはお亡くなりになられてしまった。
──よくやるよ、こんなの
フリーソフトに文句を言うのもあれだが、辛い。とても辛い。
少なくとも今日1日は編集ソフトに触れたくなかった。
しかし、そうなると暇である。
肝心のマシロはひたすらカチカチRTA動画の編集をしている。
これは前からそうなのだが、私たちは一緒にいても別の行動をしていることが多い。自分が手慰みに魔道具をチマチマ手入れする傍ら、マシロは小説を読んでいたりするわけだ。これは別に私たちの仲が悪いとか、話す話題がないからではない。むしろ、仲がいいからだと考えている。一緒にいるときの沈黙は辛くないのは親しい証拠だと思う。
しかしそれでも暇なものは暇なのだ。
だからといって外に出て遊びに行こうとすると、マシロは頬をぷっくら膨らませて抗議の視線を送ってくる。一緒の部屋には居て欲しいらしい。しかし今日はどうにもアニメや漫画を見る気分でもなかった。横で頑張っている子がいるからかも知れない。
『──仕事するか』
異世界の言語でつぶやき、あっちの世界の仕事をすることにした。
と言っても、暇つぶし程度のものだが。
ベッド1個分ぐらいしか物が入らないくせに豪邸並みの値段がするマジックポーチから、イヤリングのような魔道具を取り出す。そしていくらかの操作を行って、目当ての音声を聞くことにした。
再生されたのは一人の姫と、お目当ての人物の高らかな笑い声だ。
『──あぁスモーキー様!! いい飲みっぷりですぅ!』
『ハッハッハッハァ! 酒は命の水じゃ!! あぁ~~生き返るんじゃー!!』
酒をゴクゴク飲んで豪快に笑い声を上げているのは、私たちのお目当ての人物、つまり魔王である。
彼女は『煙の魔王スモーキー』と呼ばれていた。
八番目に魔王に指定されたので第八魔王と呼ぶこともあるが。
その声は好きに変えられるので覚えても仕方ないのだが、喋り方とか、間とか、話題の運び方とか、そういったものには確実に癖が出る。まぁ実際に会えば魂の方で分かるので、正直魔王と偶然ネットで知り合うぐらいの奇跡が起きなければ意味のない仕事だが。それでも何もしなくて暇すぎるよりはマシだ。どうせ夜になれば二人一緒に配信を見るのだから。
今日は21時からハロスターズ4期生の初配信がある。
悪の組織ハロテイルズと名乗る彼女らの期待値は高い。
それまでの間、魔王の情報を整理し直し、お仕事をしたつもりになっていた。
【Tips】マジックポーチ:一級遺物(ギルド名鑑参照)、現代の技術で作ることが出来ないため、現状流通しているすべての品は遺跡からの発掘品である。大した容量こそ入らないが、それでも高い便利性から上位冒険者たちの中でも人気の逸品。
【初配信】わらわの願いを聞け! 【一宮かぐや】
チャンネル登録者数 212,454人
「………すごいね」
「…………そうですね」
流れるのは、一宮かぐやのモデルとなった竹取物語を模したプロモーションビデオ。今回トップバッターとなる彼女は、日本の童話をモデルにした悪の組織『ハロテイルズ』の首領格なのだが、どんな配信をしてくれるのだろうかという期待も否応なく高まる。
そして、ハロスターズは現在、
その期待値を表すかのように、自分の初配信の時の10倍以上の視聴者がこの場には集まっていた。
文字通り、桁が違う。
配信する前から既に今の私のチャンネル登録者数を上回っていた。
そして、画面が移り変わり、配信が始まる。
花々をあしらった着物姿で、その黒髪を美しく腰まで伸ばした二次元の女の子が、ちらちらと首を振る。そしてニコっと笑って声をあげた。
「この配信を見ている諸君…………、妾の名は一宮かぐやじゃ!」
かわいいいいいいいいいい
WOOOOOOOOOOOOOOO
はいかわいい!
きちゃー!
声は少しロリ声だろうか。可愛らしいが作っていない透き通った声だった。
「一度は月に連れ戻されてしまったが、妾は諦めんかった。1000年の時を経て月より舞い戻った妾は、超優秀な組織の仲間たちとこの星を征服するつもりじゃ!」
コテコテだけど可愛い!
「妾の魅力の前には時の帝も逆らえんかった。つまり超偉い妾にはハロスターズの奴らも当然逆らえんわけじゃ。………しかしそのままの姿で妾がこの世に降りてしまってはオタクどもがびっくりしてしまうからの。これは世を忍ぶ仮の姿というわけじゃ」
…………ん、でもどこかでこの喋り方聞き覚えがあるような。
そんなことを考えている間に、Vtuberモデルの作者である絵師とモデラーが紹介される。
ママもパパも滅茶苦茶有名人じゃねぇか
声好きいいいいいいいいいい
推します。メンバーシップはよ
喋り方すこすこ
「……こやつらは人間界では有名人なんじゃろ? ──さて、それじゃあ妾の組織の仲間を紹介するとしようかの」
そして、愉快な仲間達の紹介に移った。
浦島ワタリ、桃姫タロウ、一寸コマリと、それぞれ翌日以降に配信する彼女らの紹介を手短に行っていく。
「ワタリは我らの頭脳じゃな。実際はババアじゃからババアなりの知恵袋を持っておるぞ」
「タロウは我らの経理担当じゃな。鬼ヶ島で手に入れた財産分布でもめた経験を生かしておる」
「コマリは我らの癒し担当じゃな。小さすぎて見えんからよく踏みつぶしそうになるがの」
草
lmao
みんなかわいい
「あっそうじゃ、先に言っとかねばならんことがあったんじゃ。妾、ガチで女の子が好きじゃからお主らも覚えておくように──」
そう言って、一宮かぐやはガチなエピソードを展開していく──
「じゃから妾にガチ恋するなら女の子になってから来ることじゃな…………あっ、一緒に応援する分には男も大歓迎じゃぞ?」
「妾は攻められるよりは攻める方が好きじゃなー。……普段とのギャップがあればあるほど"もえる"という奴じゃな」
「いやほんと女はよいぞー? というか女体もよいし、女心もよい。」
えええええええ
これまたぶっ飛んだの来たなwww
ハロメン逃げて!
ガチレズビアンやん! やったぜ!
「……まぁ事務所の偉い人には、『絶対にメンバーには手を出さないで下さい』とガチトーンで約束させられたからの。……メンバーには何もせんよ」
草
そりゃそうよww
修羅場ったらねぇ…………w
「…………」
女好きカミングアウトから食い入るように画面を見つめるマシロ。たまーに私を見てくるのはいったい何を伝えたいのだろうか。
しかしそんな些末な疑問よりも、更に気になることがあった。
──この喋り方って…………
ちょうどよい毒があって、そして同時にどこか愛も感じるこの喋り方。
聞く人を惹き付ける、どこか魅力的な話の運び方。
ここまで聞いて、やっと気が付いた。
前にあった時と声が違うからわかりにくかったが、ほぼ間違いない。
──こいつが魔王スモーキーだ。
一体なぜ配信を始めることにしたのか甚だ疑問だが、これはかなりの朗報だ。
まず、所在がある程度確認できたというのが1点。
そしてもう1点は、最低1年は日本にいるつもりだということがほぼ確定したということか。
ハロスターズは、最低でも1年の間、週に3回は配信をする契約になっているらしい。
そして、魔王スモーキーは滅多に契約を交わさないが、交わした契約は破らないと聞いた。あくまで伝聞なので確証はないが、ある程度の信ぴょう性はある。
つまりしばらく魔王は日本での配信業に釘付けになるわけだ。
それなら所在を探すのも楽になるし、いちいちこの町で見張りに神経をすり減らす必要もなくなる。
そんなことを考えて、結論をマシロに伝えようとすると深紅の双眸がこちらを覗いて──
「こいつがま──」
「──お姉さまお姉さま! この方のメンバーシップに入りましょう!」
…………。
「………メンバーシップが解放されたら、考えてみよっか」
「はいっ! 楽しみが増えましたっ!」
何かがマシロにブッ刺さったのか、文字通り目の色を変えて喜んでいるマシロ。
私たちのような魔力持ちは、感情が高ぶると髪色や瞳色が変わったりする。
ちょうどマシロの瞳は赤く煌めいて感情の高ぶりを教えてくれた。
そのせいで、こいつが魔王である可能性を伝えられなかった。しかしまだ奴が魔王でない可能性も残っている──
「──む、妾に苦手なことなんてないぞ? 歌だろうと"げえむ"だろうと"いらすと"だろうと、全ては月人である妾にとっては容易いことじゃ。………そうじゃの"かいがいあにき"向けに翻訳してやるとしようかの」
そう言って彼女は、英語どころか、中国語やその他の言語まで全ての質問に答えた。
Her English pronunciation is fluent.
发音太完美
Es ist das erste Mal, dass ich in meiner eigenen Sprache angesprochen werde.
「えっと、『発音がうますぎる』と『自分の国の言葉で話しかけられたのは初めてです』で、あってるのかな…………」
「多言語マスターとは、人間にもすごい方がいらっしゃるのですね!!」
「いや…………多分違う…………」
言語の精霊は割とどこにでもいるので力を借りて翻訳してみたが、多言語を流暢に話せるのは流石におかしいと思う。
魔王ポイント+20点だ。
この子期待の新星すぎん?
ハロENとのコラボが捗るやん!
これは伝説の始まりになりそうだ
「ふふふ、物真似もやってやろう……『どうも~~、ハロスターズ3期生、ねむねむねこちゃんの~~、猫又ねこみで~す。かぐやちゃんよろしくね~~?』…………どうじゃ?」
!?
本人だろこれ
うめええええええええええ
「ねぇ凄いです! 凄いです凄いです! 凄いですよ人間凄いです!」
「……いや…………って揺らすな! おいこら揺らすなっ!」
最早似ているとかいうレベルじゃなくて、本人の声にしか聞こえない。
そして、あの魔王は自由に煙で体を作り替えることが出来るので、声帯の操作ぐらいなんてことないだろう。
つまり魔王ポイント+100である。
俺らのセリフ読み上げてくれるってことは、マジで真似なのか
本人がいる可能性は初配信だからないか
かぐやちゃんすごい <猫又ねこみ
「おお、猫又ねこみではないか、妾と来週月曜の夜にコラボしようぞ」
先輩に対して押しが強すぎる
なれなれしくて草
自由過ぎるだろww
しばらくハロメンとはコラボ禁止じゃねぇのかよww
「妾はかぐや姫ぞ? 無理難題を突き付ける側であって、突き付けられる側ではないのじゃ」
傍若無人なかぐや姫の振る舞いだが、多分ラインは弁えているからか、別に不快な感じはしない。そうこうしている間に、いつの間にか先輩からコラボの約束をもぎ取ってしまった。わがままなハロテイルズの首領に、視聴者もマシロも、そして私もいつの間にか惹き込まれていく。
「さぁ…………生歌も披露してやろうぞ」
そう言って、彼女は歌い始める──
「──ふふん、どうじゃったか? 口を開きすぎて喉が渇いてしもうたなら水でも飲んでくると良い。それぐらいは咎めはせん」
──圧倒的だった。
うめえええええ
めっちゃ可愛かった!
脳が蕩けるわ
この女最高過ぎる
単純に上手く歌っているだけでなく、キャラにあった声のまま歌うのは最早プロのレベルを超えていた。
魔王ポイント+50である。てかもう確定だろう。
偉そうなのに、全く不快に感じず笑ってしまう。むしろ自然と好感度が高まっていく。人たらしとはきっとこういう奴のことを言うのだろう。
そして配信開始から20分で終わろうとして──
「──あーこのままじゃ終わろうかと思ったが偉い人が怒っておったからの、もう少し続けるわ」
草
そりゃそうだろww
勝手に終わるな
「よし、お主らに難題を与えてやろう。…………片手で逆立ちしながら視聴するがよい」
「いや無理でしょ…………マシロォ!?」
「お姉さまもやりましょう!」
きっと実際にやってるのはこの子ぐらいなものだろう──
「──さぁお主ら! 妾のハッシュダグ、kaguya_is_dominatorをトレンド入りさせるんじゃ! さぁ唱えるがよい! …………唱えんか貴様ら! 地獄の煙で燻してやろうか! …………誰がロリじゃ! これでも億年の時を生きとるのじゃぞ!」
もう一回言ってくれませんか?
なんて?
KID
KID
幼く甲高い声で視聴者と殴り合うワガママ首領。
そうこうしているうちに、トレンド1位をかっさらっていった。
「トレンド1位か、まぁ当然じゃの、妾は世界一位の美少女じゃからの…………ってタグがKIDではないか!! 誰が子供じゃ! 妾は大人だと言っておろうが!」
早々にネタが出来上がり、コメントと一体となって盛り上がる。
そうして、質問タイムが始まった。
かぐや姫はどうして5人の求婚者や帝を振ったのですか?
「妾が女好きじゃからじゃの。当たり前じゃ。じゃから無理難題をふっかけてやったのじゃ」
かぐや姫の設定が上手く解釈されていく。
質問と返答とそのツッコミで盛り上がっていると、自分にとっても一番気になる質問がやって来た。
Vtuberになったきっかけは何ですか?
「世界征服をするための仲間を集めるため──というのもあるが、もう一つあるの。…………これマジ話なんじゃが、妾が月におったころ2人組の女に殺されかけたんじゃよ。普通にあるいとったらいきなりぶっ殺されそうになっての」
は?
えぇ…………
まぁ外国人っぽいし治安悪いとこ住んでたんやろ
「とんでもないやつですね! 許せないです!」
「…………そっか」
多分、その二人、私とマシロだと思います。
「追剥というよりは強盗みたいなもんじゃったの? とくに白髪のちっこいやつがやばくての、全身刺されて大怪我を負ってしまったのじゃ」
よく生き残ったな…………
ガチトーンなのが怖いわ
最近変な外国人多くね?
「お姉さま! 今すぐそいつを倒しに行きましょう! 生かしておけません!」
「…………とりあえず自分でも殴っとけば?」
盛大にブーメランを投げるマシロに、ますます言い出しにくくなってしまう。
確かに大義名分はあっても、やってることは強盗殺人に近いし…………。
「……まぁ妾は気にしとらんよ。妾は今が楽しければそれでよいからの。……今日のためにいろいろ準備してきたが、おかげで楽しかったぞ、お主ら」
俺らも楽しかったよ
その考え方好き、ずっと応援する
こんなハイスぺ殺そうとするなんて…………
「……いや、ここだけの話じゃがな、多分その二人組かなりの美少女じゃったと予想しておる。小さい顔、フードから見える煌めく髪、白磁の肌、あれはきっとかなりの美少女じゃ。…………妾は格闘技もそれなりに嗜んでおるのじゃが、美少女に使うのは憚られての。ちょっとしか抵抗できんかった」
ちょっと、なんてレベルじゃなかったんですけどね。
「じゃが同時にこうも思うのじゃ。あのような気の強そうな、最初は敵だった女が、いずれ仲良くなってから魅せてくれる羞恥の顔、それが魅力的じゃと思わんか? ………それになんとなくじゃが、配信を始めれば奴らにもう一度会えるような気がしての。まぁ超凄い妾の気まぐれというやつじゃ」
やべーやつだ!
二次元なら思うけどリアルだとやべー奴感しかしねぇ!
いや、気持ちは分かるぞ
「あーまた奴らに会って、今度はまともに話がしてみたいのぉ。…………まぁ妾からは探さんがな。来るもの拒まず、去る者追わずが悪の組織ハロテイルズのスタンスじゃからな」
そう言ってから、質問タイムを打ち切り、一宮かぐやは放送を終了した。
悪辣なる二人組への義憤を募らせて、私に協力を求めてくる
最後のは私たちへのメッセージか、それともただの独り言かは分からない。
しかし、来るもの拒まず、去る者追わずというのは間違いないだろう。
これはつまり、自分たちが探すのであれば逃げないし、こちらからは探すつもりはないという意味だ。
ところで、実況者には格がある。
格が違いすぎるとコラボが難しくなる。
彼女の登録者は、きっと明日には30万を超えるだろう。
しかし自分の登録者は、まだ20万人のままのはずだ。
その差は何もしなければもっと開いていくに違いない。
ところで、Vtuberとリアルの間には壁がある。
リアル実況者とVtuberはコラボすることはかなり難しい。
Vtuberにはオフコラボなるものがあるが、それは基本的にVtuber同士でしか行われない。
つまり、あれだ。
――この日私は、出会い厨になることを決めた。
【Tips】ハロテイルズ(Halo tales):一宮かぐや、浦島ワタリ、桃姫タロウ、一寸コマリから構成される悪の組織系Vtuber。事実上のハロスターズ4期生であり、それぞれ日本むかしばなしの『竹取物語』、『浦島太郎』、『桃太郎』、『一寸法師』をモチーフとしている。
やっとここまで来た!
配信回はどれが面白かったでしょうか! 今後の参考にさせてください
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1章:雑談配信
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1章:EPEX配信
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2章:壺おば配信
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2章:ぺーさん配信
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2章:バーガーランド配信