ダクファン帰りのエルフさんは配信がしたい   作:ぽいんと

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エルフの森っていつも燃えてますよね。
エルフは炎上に好かれているのかもしれません。


【配信前3】肉は焼け、炭は弾け,エルフは炎上する

 頭の上から炭火の熱気を感じつつも、額からはテーブルのひんやりとした冷気が伝わってくる。

 店内はにぎわっており、仕切りがきちんとしているのでフードを外していても問題ない。

 だから耳を外に出している。

 耳が外気に触れていると、本当に良く聴こえるし、良く見える。

 

 ジュウジュウと肉が焼ける音に、油が炭の上に落ちてボウッっと燃え上がる音。

 ビールの心地よいシュワシュワに、無邪気に食事を楽しむ声。

 炭火と肉は外気と世知辛さで冷え切った人の心に、確かな熱を灯してくれるらしい。

 

 エルフの耳は魂とマナの流れを見ることが出来る。

 ここは幸せな魂によって幸福なマナが充填している、暖色に満ちた空間だ。

 

 

 そんな空間で

 私のいる空間だけが冷え切っていた。

 

 

 

「死ぬんだぁ、社会的に、私は死ぬんだぁ…………」

 

「いや、そんな落ち込まんでええやん…………、何も悪いことしたんやないんやし」

 

 そう、机につっぷして冷気と怨嗟を垂れ流しているのは私だ。

 ひえっひえなのは私だけで、同伴している二人はいつも通りだ。

 いや、茜は優しく私を慰めてくれているので、いつも通りなのは一人か。

 葵はいつも通り眠そうにスマホをいじっている。

 最近いいネット小説をスコップしたと言っていたので読んでいるのだろう。

 

「もう終わりだぁ……、音MADが作られて、グルメレースさせられて、クソコラ量産されて、一生ネットのおもちゃになるんだぁ…………」

 

「何言ってんのかようわからんわ」

 

「ん、多分大丈夫だと思みょう──」

 

「喋りながらキャベツ食うなや」

 

 今、私たち3人は焼肉屋に来ていた。

 さっきはノリノリでバック宙を披露して見せたりしたが、落ち着いて顔を隠しながら入店を待っていると、外の寒さに熱を冷まされ、冷静になってしまったのだ。

 今、私はある意味炎上している。

 対象は主にあの不良達だが、飛び火しそうな気分だ。

 横の家が燃えている家主の気分である。

 

 だが、私からはどうしようもない話でもあるのだ。

 既に匙は投げられた、諦め時だ。

 嫌なことがあった時は、よく食べて、よく遊んで、よく寝る。

 これに限ると思っている。

 

「マシロちゃんは何て?」

 

「『いま見てる配信がいいところだからやめておきます、楽しんできてください』だって。あの子は……」

 

「ふーん、そっか、残念やな」

 

 実の妹ではないが、マシロはあちらの世界で出会った妹分兼、私の護衛だ。

 あっちの世界生まれなので、当然の帰結として母国語は異世界語である。

 その点考えると、3か月でよくもこれだけ日本語を使えるようになったなとは思う。

 

「だいぶ流暢になってきとるよな、マシロちゃん」

 

 日本にいたころには気が付かなかったが、日本語は世界で最も早い言語で、最も難しい言語なのだ。

 その点踏まえると、読み書きも出来てきているあたりむしろかなり優秀といえるだろう。

 

 そんなマシロとの食事事情だが、日本に来てからはいつも自炊である。

 あっちでは街にいるときは基本的に外食で済ませていた。

 こっちも出来ればそうしたいが、切実な問題として金がないのだ。

 討伐クエストでもあれば一稼ぎできるのだが…………。

 

 まぁともかく、私たちが金がないことを知っている茜はちょくちょく奢りに誘ってくれるのだ。

 茜が二人分奢ってくれるというのでマシロも誘ってみたのだが、あえなく断られてしまった。

 

「配信は言い訳で、本音は直接話すのが怖いんだと思う」

 

「EPEXもチャットだけやもんなぁ…………、代わりに指示はよく聞いてくれるけど、誰かさんと違って」

 

「茜も大変だなぁ」

「あんたのせいやで」

 

 マシロは端的に言えば人見知りだ。

 そうなるだけの理由があったので、あまり強くは責められないが、本人も改善を希望しているので改善プログラムを実施中だったりもする。

 その試みの一つとして、私とマシロと茜の3人でEPEXをしょっちゅうやっていたりする。

 ただ、チャットでなら割と流暢にやり取りできるのだが、ボイチャになると全然ダメなのだ。 

 対面になると、なおさらダメなのだろう。

 

 友達を持てることは本当に幸せだ。

 マシロも私以外にも関係性を広げて幸せになってほしい。

 そんなことを考えながら、愚痴や冗談を続けていると店員が注文を持ってきた。

 

「お、肉きたで…………、て、最初から頼み過ぎちゃう? あふれてんで」

 

「このミシロさんがいくら食うか忘れたとはいわせんぞ」

 

「まぁそれもそやな」

 

 私は結構大食い…………、というか魔力回復のためにいっぱい食べる必要があるので大食いになったというべきか。

 普段からタイムセールや食べ放題を利用しているのはそういう理由である。

 やりすぎると出禁になるので加減が必要だが。

 エルフだけど肉食だ。

 いや、狩猟民族なんだからある意味当然なんだけども。

 

 葵もスマホをいじるのをやめて、肉を焼きだす。

 しばらくは雑談しながら肉や野菜を味わっていた。

 そしてしばらくしてまた話題がループしてくる。

 

「うわ、もう50万再生になってる。すごい人気だね」

 

「全く嬉しくないんだよなぁ…………、はぁ…………」

 

 一銭にもならないのに目立ってもなにも良くない。

 向こうの文官の一人でもいれば何かしら儲ける手段も考えてくれるのだろうけれど…………

 心底けだるげに葵がつぶやく。

 

「削除申請でもすれば?」

 

「それは無理。いいか葵ちゃん、ネットには昔から格言がある。『消したら増える』」

 

「…………そうだね」

 

 人々の関心が集まっている動画や画像が削除されると、逆に関心を集めて、その動画や画像を持っている人が再アップロードするので増えるというやつだ。

 ニマニマ動画で腐るほど見てきた話だ。

 

「警備会社とかで雇ってくれないかな…………」

 

 とにかくお金がないのだ。

 今日明日ではなくならないが、貯蓄は本当に心もとない。

 

 それに弁償もだ。

 現オーナーの壺はともかくとして、前オーナー特注の装飾品はある程度自分も弁償しなければならないだろう。

 相当高いのは分かるが、これはしっかり払うつもりだ。

 

 いくらになるか分からないが、数百万は下らなさそうで先が思いやられる話だ。

 

 そんな風に思案しながら焼肉をつついていたところ、今度は着メロが鳴り響いた。

 自分のではない、葵の方からだ。

 

「…………大事な電話、ちょっと席外すね」

 

 眠そうな目とは違う、すこしキリっとした目で席を立ちスタスタと歩いて行った。

 店員に話して一時的に外に出るのだろうか。

 すると、出ていくのを見ていた茜がそのままつぶやくように言った。

 

「…………最近あの子よく電話してるんよ、誰とかは知らんけど」

 

「―――恋人……とかじゃなさそうだけど。別のアルバイトとかじゃないのか?」

 

「いや、そうやったらええなって。葵は前は絵の依頼受けてたんやけど、最近はめっきり描かんくなってたから」

 

 興味があったので詳しく話を聞いてみると、どうやら葵はイラストや漫画の仕事を大学に通いながらいくつか受けていたらしい。

 まだ卒業もしていないのにプロとはすごいと思う。

 しかし最近…………ここ半年近くは一切仕事を受けていないっぽいのだとか。

 あれだけなりたがっていたイラストの仕事をしなくなった葵を、陰ながら心配に思っていたのだとか。

 

 もっともアカウントまでは教えてくれなかった。

 というか知らないらしい。

 

 まぁ思えば確かにラテアートも上手だった。

 それに、しょっちゅういろんな場所で写真を撮るのだ。作画資料だったと思えば納得である。

 

 …………もし本当にイラストが上手なら、一儲けできる案はあるかもしれない。

 向こうの著作権フリーの小説に絵を付けて売るとか…………

 あるいは、自分の冒険譚を小説にするとか…………

 自慢だが、吟遊詩人や劇の人気演目に詠われる程度には活躍したことがあるのだ。

 …………ちょっと安直すぎるだろうか? 

 

 

 そんなことをふわふわと考えていると、

 思わぬところから、思わぬ話が飛び出してきた。

 

「なぁ、ミシロちゃん。これ、葵にも内緒の話なんやけど…………」

「ん…………?」

 

 なんだろうか。

 するとモジモジと顔を赤らめながら、恥ずかし気に唇を開く。

 

「ウチと一緒に、高収入のバイト、やってみんか……?」

「…………!?」

 

 自分の白色のマナが、激しく揺れているのがわかってしまう。

 弾けた炭の音が、やけに大きく響くような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

【Tips】エルフの耳の真の凄さは聴力にない。確かに聴力は高いが耳の良い獣人族に負けず劣らずといった程度だ。真の価値は、『魔力を見る第六の目』とでもいうべき性質だろうか。エルフ族はその長い耳をアンテナとして類を見ないほどの正確な魔力検知を行うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──高収入のバイト。

 

 そんな言葉を聞いて、私は固まっていた。

 茜からは、次の言葉はまだ出てこない。

 

 汗をかいた水入れから、トポトポと水を足し入れる。

 コップもだらだらと汗をかき、机の上のひたりと濡らす。

 肉気と熱気にあふれた店内で。

 背中にかいた汗は、果たしてただの汗か、それとも冷や汗か。

 

 カミングアウト、そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

 

 ちらりと見えたバックも、毎日変わるカーディガンも、大学生が持つには少々高級品だ。

 買えないことはない。

 ないのだが、お嬢様大学でもない普通の大学生は買わないだろう。 

 

 私も向こうだと、高位の聖神官として高級な衣服を身に着ける機会があった。

 ある程度以上高級なものは、一目ではわかりづらいところに差がある。

 仕立てとか、生地とか、誰が作ったかも大事だが、それ以外にも確かな差がある。

 社交の時に間違えて褒めたりすると、とんでもない恥をかかされることになる。

 だから嗜む程度には勉強している。

 

 だからわかるのだ。

 決して見せびらかしはしないその衣服が高級品であると。

 

 簡単にお金は稼げない。

 それはどこでも同じだ。

 だが、見た目がいい人間なら、特に女性なら、比較的簡単に稼げる方法はある。

 

 茜はかなり見た目がいい。

 きちっと化粧しているが、元もいい。

 双子なのに胸が小さいが、その分スタイルが良くてモデル体型だ。

 話も上手な、()()()()()()()女の子だ。

 

 つまり、そういうことだろう。

 店員の中にも、働きやすさを求めて夜のお店から流れてきた人がいた。

 連絡先を渡さなくていいので働きやすいとその子は言っていた。

 夜の世界のディープなところから、浅いところに。

 

 ()()、あり得るだろう。

 

「…………高収入の、バイト」

 

「うん…………、いや、報酬出すんはウチやけど」

 

 …………もしかして売り手ではなく、ブローカーでもやっているのだろうか。

 そうなれば身なりの良さにも納得がいく。

 

 自分が売り子をするなら当然断るつもりだ。

 しかし、そうでないなら働いてもいい。

 慎重に話を聞く必要があるだろう。

 

「それで、私はなにをすればいいんだ?」

 

「えっと、カメラに向かって、喋るだけでええよ」

 

 カメラに向かって喋る。

 女の子限定の、高収入のお仕事。

 つまり、あれか、この仕事は──

 

 あっちの世界でも国──もとい独立都市によっては、そういう仕事はあった。

 あるいは下品なサキュバス街のヌードなバーであり、あるいは古代ギリシャのような上品な芸術方向でのヌードなファンションショー。

 とりわけ上品な方の彼女らのことは、男たちによっては"女神"、なんて呼ばれることもあった。

 魔力持ちである有色神官はやることはないが、魔力を持たない灰色神官はそういった仕事をまわされることもある。

 

 性的嗜好が金貨を齎すのはどこの時代、国でも同じだ。

 つまり、茜はアダルト配信を行っている。

 証明完了である。

 

「茜って、配信者だったんだ」

 

「え、あ、うん、せやで。これでも結構人気な方でな──」

 

 さて、証明完了したところで、一つ大きな問題がある。

 

 それは、どう断るかだ。

 

 職業に貴賎なし。

 これは良い言葉だ。

 

 だが、職業に貴賎は無いが生き方には貴賎がある。

 そのせいか世間に偏見は存在しており、これを否定してもどうにもならない。

 そして得てして、差別される側の人間は些末なことで傷つきやすいのだ。

 

 茜は数少ない私の友達だ。

 あっちの世界にも知り合いはいたし、友好関係にあるといえる人間は多かった。

 ただ、それは仕事での友好関係だ。

 正しい意味での『友達』が例えば片手の数ほどもいたか、それは分からない。

 

 言い出しにくかったことを見るに、茜は100%善意で誘ってくれている。

 その好意を適当に踏みにじると大事な友達を失いかねない。 

 

 つまり、できるだけ相手を下げないように断る必要がある。

 そのためにはもう少し話をきちんと聞く必要があるだろう。

 すげなく断っては侮りがあると思われかねない。 

 

「話変わるけどさ、どういうきっかけで配信始めたんだ……?」

「ん、きっかけかぁ、17の時になんとなく、かなぁ。あ、でも顔出し始めたんは割と最近やで」

 

 なんとなくはじめて、大儲けしているのは相当才能があったのだろう。

 顔出しだしたのはどういう心境の変化があったのかは気になるが。

 女神が顔出しなんてすると街中で襲われかねないような気もする。

 

「配信やっててさ、嫌なことってない?」

「そりゃあいっぱいあるよ。ち〇こDMで送りつけてくるやつなんてしょっちゅうやで。何が楽しいんやろか」

 

 ──思わず顔が歪んでしまう。

 Vtuberでもそういう話は聞いていたが、目の前の被害者から聞くと嫌悪感もひとしおだ。

 適当に相槌を打ちながら、話の続きを促す。

 

「でもやっぱさ、楽しいんよ。みんなに楽しんでもらうんが」

 

「…………そうなんだ」

 

 裸をみんなに見てもらうのが楽しいという露出狂的楽しさなのか、それとも虚しい承認欲求の表れなのか、それは分からない。

 だが、語る口調に嘘はなく、マナも楽し気に揺れている。

 

「それに、恥ずかしいけど顔見られながらするのも楽しいしな」

 

 一体もってナニをするのかは、聞かない。

 

「こう、なんていうか、ありのままの自分、っていうんかな、それを曝け出せるんや」

 

 ありのままの自分、つまり全裸だろう。

 私には、到底できない。

 

「やっぱプロは違うね」

 

「プロなんてもんやないって、程遠いわ」

 

 この素晴らしい女神に祝福を。

 きっと彼女は多くの報われない男を幸せにしているのだろう。

 だがこの道はきっと厄も多い道だ。

 帰ったら久しぶりに短縮式じゃない祈祷でもあげよう。

 願わくば汝の進む道に幸多からんことを、というやつだ。

 

 その後も会話を続けると、ところどころから意識の高さが伺える。

 よっぽど視聴者のことを大事に思っているのだろう。

 なら、私のすべきことは一つだ。

 

 断り文句は決めた。

 変なごまかしはやめて、正直なことを告げよう。

 

「ごめんっ、私百合しか無理なんだ! 

 だから男に対して裸を見せたり、そういうことはできない!」

 

「へ?」

 

 え、の形で固まった茜の口は、しばらくそのまま動かなかった。

 

 

 

 

 

 

【Tips】転生しようとも、生まれ持ったアホは治らない。出身の違いにより常識やその経験に差があればなおさらのことだ。

 

 

 




茜「それに、恥ずかしいけど顔見られながらゲームするのも楽しいしな」

ミシロ「行為を遊び気分で!?とんでもねぇ淫乱だぁ!」


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