暗転が解除され、明るい音楽とともに次のコーナーの始まりが告げられた。
楽しい雑談配信のメイン企画が始まるのだ。
「さて! お次のコーナーに移りましょう!」
実写映像はひとまず端にワイプとして寄せられた。
そして、あらかじめ用意された説明画面をもとに企画説明が始まる。
「お次は、あなたの好きなものを語って、略して「スキカタ」の、お時間で~~~す!」
きちゃあああ
ここすき
でも何が好きなんだ?
ゆいラジの『スキカタ』のお時間は、普段は招いたゲストに得意なゲームの魅力を熱く語ってもらう企画だ。
「ええ、まぁ、今回は残念ながらゲストさんは実況者ではありません。まぁアーシャちゃんは一般人さんやからね」
しかし、今回の場合はそれはできない。
そもそも招かれた
ということで、今回は単純に好きなものを語ってもらうだけでいいことになってる。
「いいんですか? 面白いととか関係なくマジで好きなものだけ話しますよ?」
「それがええんやろ。本気で好きなもんを本気で語ってくれるから面白いんやで」
適当にやってるだけのヤツの話聞いても面白くないもんな
案件が面白くないのもそれ
楽しそうな人を見るのは楽しい
ならいいか。
緊張の糸が一切ほどけてしまった私は、本気で好きなものを語るつもりである。
バリバリ語ってやろうじゃないか。
「はい、それじゃあ好きなもの、語ってもらいましょー! お願いします!」
軽快な茜の声で話の主導権が私に渡される。
視界の端で垂れた銀髪をゆらゆらと揺れるのを片目に、前のめりになって話し始めた。
「まず私、とってもVtuberが好きなんですよ」
ほう
Vtuberオタか嬉しい
ガンガン伸びてるからな
「で、まぁ基本的に、ハロスターズは割と箱推しなとこあるんですけど」
リ美肉してるのにバ美肉が好きなのか………
ハロか、まぁ外人さんは大好きやもんな
わかる、ハロはいいよね。
箱推しとは?
この配信には茜のリスナー以外にも、多くの一般人が紛れ込んでいる。
だから茜は補足を行った。
「箱ってのはアイドルグループのことやな。で、ハロスタは最大手のVtuberグループやでー」
ハロスターズは、現在最も登録者の多いVtuberグループといっていい。
アイドル路線のこのグループは現在は3期生までがデビューしており、ほとんどのメンバーが100万登録者目前で、トップライバーは100万を優に超えている。
とにかく横のつながりが強く、切り抜きが多いことから初心者にもとっつきやすく、私もマシロも積極的に見ていた。
だが、今もっとも推しているのは別のVtuberだ。
「いま、一番大好きなのは、アイプロのアイリス様です!」
アイプロ、正式名称アイリスプロジェクト。
元少年漫画家のてんどー先生が主導する、少人数ゲーマー(芸人)集団だ。
ちなみにてんどー先生本人が自分で受肉している。
あーーあれか
姫様やん
あれは別格やな
天が二物も三物も与えてる
「……あの人は、ホンマすごいよな。呪滅の剣の作者やもん」
「声も綺麗でかわいいし、何より雑談がマジで面白いんですよ!」
社会現象になったレベルの漫画家がVやってんのずるいやろ
司会もうまいしな
ハロ経由で見始めた感じか
なおゲーム
天堂アイリスをリーダとしたそのグループに所属するのは、本人を除きたった3名。
全員がアイリスの知り合いで構成されているのだが、ゲーマー集団に相応しい実力を備えている。
ちなみに、ファンタジーな世界観の学園の一室で、部活としてゲーム部をやっているという設定があるため、単にゲーム部と呼ばれることもある。
登録者100万に至っているのはリーダーのアイリスだけだが、他のメンバーも負けず劣らずの個性派であった。
「いや、魅力を本気で語るなら、3分じゃ足りん。1時間くれ」
「んな時間あるわけないやろ。この配信1時間予定やぞ」
草
どんなけ語りたいねん
だいぶこなれて来たね、地が出てる?
いよいよエンジンが全開になってきた私は、緊張もほぐれて地の部分が出始めていた。
そして、視聴者もなんとなくそれが自然体なのだなと感じ取ってくれているのだと思う。
これがおそらく、茜が言っていた視聴者との距離感というやつなのだろう。
「最近見た、パケモンを想像で描きながら旅する奴ほんっとに好きなんだよなー!」
あれかwww
微妙にあってるような合ってないようなやつな
恵まれた画力からの忌み子すこ
子供向けのパケモンの世界に呪術もちこんだらあかんわな
た、楽しい! めっちゃ話が合う………!
リスナーと趣味が合いすぎて盛り上がってきた私は、ハイテンションでトークを続ける。
すると、茜は横からちょっとしたツッコミを入れてきた。
「でもゲーム部なのにゲーム下手なんよな」
「そこがいいんだぞ?」
チュートリアルで3時間詰まって絵を描き始める女
姫やからな、しょうがない
モンファンで50分かけて別の敵倒してたの好き。
そう彼女ゲーム部部長なのに、ド下手くそなのだ。
もうおばあちゃんと見まがうレベル。
ゲームになーんにも知識がないので、とにかくひどい。
なのに諦めだけは人一倍悪い。
結局ゲームが得意な残りの3人が介護する羽目になることから、付いたあだ名が姫。
しかし本人の人柄と可愛らしい声、そして諦めの悪さでなんだかんだ神配信になるのだ。
そんな話をしていると時間が差し迫ってきたのか、時間が迫ってきた茜が声を掛ける。
「……この話、長くなるか?」
「あと1分で………」
推し語りに熱が入り、更なる駄文が口から吐き出される。
「――いやほんとにねこれだけアイドル素質に恵まれてて絵もうまいのに本人は芸人めざしてそうな感じが大好きでね。雑談配信もコラボ配信もそれ以外も姫様のだけは全部全部みれちゃうしナチュラルロリボイスなところを気にしているところも可愛いし――」
――すぅーっと画面が移り変わり、無音になった。
無慈悲に茜がフェードアウトを行ったのだった。
【Tips】アイリスプロジェクト:天堂アイリスをリーダとする4人のVtuberグループ。暁月グレン、優月マリン、風峰ライカの3人は漫画家時代のアシスタントで、仲良しの4人組グループである。それぞれがトップレベルで得意なゲームがある。……アイリスを除いて。
「――足フェチなところもね、かわいいんだよ。いやね、わかってない。声がいい? かわいい? それはもう全然わかってない。 真の魅力は厄介な視聴者をうまくプロレス――」
「もううっさいわ!! もう終わったんやて!! その話は!!」
まだ話してて草
イメクラ?いや、逆に推せるわ。
好きすぎやろ、気持ちはわからんでもないけど
「ねぇねぇみんな、話したりなくないか? もうちょっと話したいよな!? ねぇみんなどう!?」
話したい
語りたい
やろうぜ!
果てまでゴーイングマイウェイ
「ほら、みんなもこう言ってるじゃん」
「……私のリスナーちゃん奪うのやめてくれん? ほら!次行くで!」
強引に先に進行しようとする茜だが、進めたくない理由がある。
というのもこの後に動画視聴コーナーがあるからだ。
普段は、ゲストの名場面を視聴者に選んでもらって視聴するという企画だ。
しかし自分に名場面なんて、残念ながら一つだけしかない。
アレをわざわざこんな公衆の面前で見たくない。
「えーー、だってあと動画見るだけでしょ。絶対アレみるじゃんか。やだよ」
「他の企画もあるやろうが、進行表ちゃんと見んかい!!」
まぁ……さすがにゴネても仕方ないか。
なら別プランも用意してあるので、そっちで行くか……。
「さて、お次は50対50のコーナーです! 長い間配信者として活動してきた方なら、リスナーの心を見通しているなんて当たり前! そこでリスナーが50%50%になりそうなアンケートを一つ選んでもらいます!」
「長い間配信なんてしてないんだが?」
「それはそれ、これはこれ」
長い間配信(30分)
これ当たってるの見たことないんだけど
難しいよな
50%50%(フィフティーフィフティー)は配信のアンケート機能を使って、視聴者の50%が当てはまる質問をゲストに決めてもらう企画だ。
これが案外難しく、とんでもないズレ方をすることもあった。
「もし誤差1%以内であれば、ちぬれゆいのオリジナルぬいぐるみをプレゼント!」
「いらねぇ………」
「えぇっ!?」
ひっど
草
草
まじでいらなそうで草
「私には一緒に遊んでくれる
「おおぅ………」
どういう反応やねん
微妙に嬉しいような悲しいような顔してて草
キマシ
アナゆいキテル……?
「ぬいぐるみは視聴者さんに上げるとして、代わりに別の要求していい?」
「ええけど何?」
そう、この企画でアドリブで交渉を持ちかけるのだ。
「これ当てたら、次の企画なしにしてほしい」
「え、『キミレコ』なし………? うーん」
『キミレコ』は、君のレコード教えてちょの略で、さっき言った動画視聴コーナーのことだ。
茜は少しの間悩んでいたが、持ち前のノリの良さで肯定する。
「よし、まぁええわ。 当てたら、な?」
「OK、当てて見せるわ」
実は進行表を見た時点から、お題は考えてあるのだ。
そしてお題を言う前には、ある程度の前振りが恒例となっている。
「私ね、バリバリの文系なんですよ。学校はバイトとゲームで忙しくて途中で通えなくなったんですけど、社会と国語はなかなか得意でした」
中退とかおっも
まてバイトはいいがゲームってなんだw
文系なんですね
「数学とかホント苦手で、二次関数とか、証明とか、もうほんとチンプンカンプンで」
「ウチからしたら何が難しいんか分らんけどな」
そう、ぶっちゃけ私は理系が全く得意じゃない。
社会の資料集とか、理科の資料集を意味なく眺めたりするのは好きだった。
写真が多くて見てるだけでも楽しいからだ。
攻略本などのアイテムやモンスターの説明を意味もなく眺める感覚に近い。
だから楽しい。
一方、数式は見ていても何もわからない。
どんどん文字が増えて、どんどん分かりにくくなっていく。
解説を見ても全く頭に入らず、嫌悪感でいっぱいになるのだ。
頭がいいエルフでも中身がダメだと活用しきれないいい例である………。
「一方で、ゆいちゃんはガッチガチの理系女子。ということで、私のお題は『あなたは理系?文系?どっち?』です!」
おお
ええとこついてくるな
これ普通なら半分になるのでは?
どっちでもないんだが?
「どっちでもない人は、得意な方答えてください」
茜が素早くアンケート機能を操作し、アンケートを行う。
そして、その結果は………。
――理系:54.1%、文系:45.9%
惜しいっ!
おーーー!
惜しくて草
「……えっ、マジか………、外れたか」
「………まぁそうやろうなぁ」
茜はどうやら確信があったようなので、そのあたりのことを尋ねてみると、思わぬ回答が返ってきた。
「いや、ウチのファンが多分理系の方が多いんよ、今日は薄まっとるとは思うけど」
「あー、なるほど………」
理系をある程度属性として前に売り出しているので、逆に理系の視聴者が集まりやすいのだとか。
ちょっとでも数式を間違っていたりすると、鬼の首を取ったように叩かれるらしい。
難儀な話である。
そして、そんなある意味面倒な理系リスナーを抱えているのにもかかわらず50%近くになったのは、外部からの視聴者が大量に流入しているかららしい。
納得できる話で、少し考えれば確かに分かる話でもあった。
そして、このミスによって残念ながらキミレコの実施が確定してしまった………。
「うううううーー、嫌だああああ」
「もう観念せいやー」
いまだにごねる私に茜は軽快にトークを返しながら、次の場面に進む。
「さて、君のレコード教えてちょ、略して『キミレコ』のコーナーです!」
きたあああああああああ
お ま た せ
めっちゃ嫌がってて草
「キミレコは、予め視聴者から募集しておいた、ゲストさんの名場面を改めて見てみるというコーナーとなっております。まぁアーシャちゃんは一般人なんで、配信歴なんてないんですけどね」
これからも多くの恥を積み重ねていくのだろうと思うと、少しだけ気が重くなる。
「さて、というわけでこの配信のきっかけになったアーシャちゃんの乱闘動画を、みなさんで見ていきましょうー!」
そうこう言いながら、事件を知らない人向けの説明を茜が付け加えていく。
カチカチとパソコンを操作し、実写画面を消して動画を映し出した。
【喧嘩】コスプレ美少女ロシア忍者が強すぎるwww【不良10対1で無双】
チャンネル登録者数 1,024人
ちなみに例の乱闘動画だが、とんでもない再生数の増え方をしておりミリオンどころかダブルミリオンまでぶち抜けていた。
その代わり、コメント欄が外国人で占領されてしまっているが。
どうやら海外のインフルエンサーがリツイートして爆発的に広がっているのだとか。
このままだと明後日辺りには1,000万いってるんじゃないかというレベルである。
天才はいる、悔しいが
映画化決定
何で画質4Kなんだよwww
野球の大平、将棋の藤田、暴力のアナスタシア
「人を暴力マシーンみたいな言い方するのやめてくれません?」
「令和の暴力装置、アナスタシアやな」
「クソダサイあだ名やめて」
動画は、口論の部分から始まる。
近くには割れているコップと、水を掛けられた友人の店員ちゃん。
さっきまで土下座していて、怖くて泣いている女の子。
ものすごく嫌な顔をしながら目を逸らしている男性客。
優しい錬金術に彩られていたはずの癒しの空間は、さながら一触即発の火薬庫と化しているのが動画越しでも容易に理解できる。
そしてガラの悪そうな男たちにつかかっている私が、インフェルノし始めた場面までたどり着いた。
ちなみに誰がつけたのか、日本語字幕までついている。
『えーww何www、もっかい言ってみてwww』
『っwww、ブサイクにーww、ブサイクって言ってなーにんが悪いんですかぁwww』
『さっきからブサイクブサイクってへらへら笑ってるけどさァ! お前らの心が一番ブサイクなんだよ! ついでに顔もな! 鏡見ろ!』
『なっ………』
す か っ と ジ ャ パ ン
絶対みんな迷惑してたし言ってくれてよかった
よく勇気を出してくれたなって思います。
コンビニ店員だから本当にこういうの見るとスカッとします
コメント欄に今まで潜伏していた一般人たちも参戦してきた。
話題が知っているものになったのでコメントをくれたのだろう。
彼ら彼女らはオタクとは全く無関係の人間なので、雰囲気が全く違うしすぐ分かる。
あと、私を見ていて一つ思うことがあった。
「あはは、キレすぎでしょこいつ」
「いやむしろキレなきゃ人間じゃないと思うでコレ」
ちょっと不謹慎だが冷静になって見ると、笑ってしまう。
多分、
そしてプンスカどころが、ブン"ズガと音がしそうな私は、いよいよブチ切れる。
『群れて威張るしかできないカスが! さっさと謝れよ!』
『くくwwwwww』
『まじこいつ、うけるんだけどぉww』
『手出されないと思って調子乗ってんじゃねww?』
ちなみに可愛いフリフリの衣装で表出ろと言ってるのが私で、煽ってるのが不良達だ。
そして、ここで手が伸びてきたので反射的に背負い投げのようになってしまった。
『………おもろいなぁ! 俺でもあそこまでは飛ばせんわ!』
誰なんだよコイツはwww
しみじみ語る撮影者兄貴すき
絶対撮影者柔道経験者だろ
ちなみに撮影者はめぎどさんという柔道元全一である。
声でわかった。
っていうか改めて思うが撮ってないで助けに来いよ。
190cm近くあるマッチョマンで、魔力なしの人間にしてはかなり強い。
そんな彼が止めてくれたら、ここまで私が目立つこともなかった。
『……いまの決まったなー、多分気ぃ失ったでぇあれは』
いや解説じゃなくて。
周りの連れも感心した声をあげる前に助けてほしかった。
『……みときや、間違いなくあの子が勝つで、あれは今も手ェ抜いてる』
無駄に的確な予想いらないんだって。
撮影主を叩くコメント欄に共感して、若干イラっとする。
今度会ったら愚痴の一つでも言ってやろうか。
そんなことを考えていると、茜が感嘆の声を漏らした。
「改めてみるとようこんなけ動けるな、ホンマに」
「ぶっちゃけ相手、初心者もいいとこだったから」
実際、武道のぶの字も知らない雑魚だった。
大方、体格と数で弱いものいじめだけしかしてこなかったクズだ。
これだけはハッキリと断言する。
人間は、必ず一度は痛い目を見ないと強くはなれない。
弱いものをイジメてきただけの人間は、実はとても弱い。
腕力は強くても、心は弱いのだ。
こういう人間はいくら強くても肝心な場面では使い物にならない。
命を張れないからだ。
これは上位冒険者たちの共通認識だ。
………まぁそんなことより、今は語りたいことがある。
「……ここ止めて! ほらみんな見て、ここ重心。見ての通り正中線がぶれてるんですよ! だから簡単に逸らされるし、仲間とぶつかってよろけちゃうんです! みんなもやるなら私の動きを真似して――」
み て の と お り
できねぇよww
※見えません
なんていうか、体格はいいので強くはなれそうな気がするのだ。
才能をどぶに捨てているのをみるとイライラして口を出してしまう。
私は生まれたエルフの里では落ちこぼれで、ちっとも才能がなかった。
使えるものを必死でかき集めてなんとかここまで生きてきた。
だから正直周りの自分より才能がある人間は、とっても羨ましい。
私が今まともに訓練していないのは、能力が頭打ちになっているからだ。
ゲーム風に言うなら、私もマシロもステスキル共にカンストしている。
伸びる余地が装備の付け替えぐらいしかないのだ。
だから、伸びる余地を見ると余計に口出しをしてしまう。
「――武道の戦いは正中線の奪い合いだよ、まずね、初心者向けのトレーニングのやり方は――」
「いらんわそんな話」
残念ながら茜にぶった切られてしまったが。
興味あるけど時間がね
また今度聞かせて
おしゃべりエルフさん
「喋るのは結構好きですよ」
「結構ってレベルじゃないけどな、もう結構やわ」
「あらお上手」
いちいち動画を止めていたら先に進まないので、茜が強引に進めるらしい。
乱闘も中盤に差し掛かり、私がバック宙したところで問題のコメントが流れた。
みえ
みえ
みえ
「みえって思ってたけど何なの?」
「パンツ見えてるってことやで」
「え?」
前オーナーの意向で、錬金術師の衣装はスカートの中にスパッツなどは禁止なのだ。
可愛い女の子の生足が大好きだというのが一点。
そして、見せないにしても、見える可能性があるというのが重要らしい。
よくわからないが、つまりバック宙なんてした日には………。
「うーん、このへんかな、あ見えた――おいやめろ! 勝手に進めるな」
「ここからは私が司会しまーす。見たやつはぶっ飛ばしまーす」
白い気がする、見てないけど
影になってるけど白、何がとは言わないけど
割とかわいらしい系か? どれとは言わないけど
「やめてね?」
執拗にパンツを見ようと全力でセクハラしてくる連中をなだめつつ、見進めていくと動画も終盤にさしかかってきた。
さっさと逃げればいいのに、最後まで戦うのはある意味律儀な連中なのかもしれない。
鎖で木刀弾くのかっこよすぎ
壁キックなんてアクション映画のバトルでしか見んわ
背中から飛んできたコップキャッチしているの凄い
「普通に投げてくる気配がしたから。ゆいはしない?」
「するわけないやろ」
そんなこんなで警察が来る前にバトルは終わった。
残ったのは気絶した不良達と、悲し気に佇む私と、荒れ果てた店内である。
南無。
「えー、というわけで『キミレコ』のコーナーでした! みなさん、いかがでしたでしょうか?」
過去最高の回だった
普通に武道解説聞きたい。
元エージェント説が現実味を帯びて来たわ
妙に鋭い指摘をしてくるやつのせいで、微妙にヒヤッとした。
正直なところだが、今の私は日本人というよりも、日本に遊び半分仕事半分で来ている異世界人であるという認識が強い。
表の顔は聖女アナスタシア、裏の顔はハンターのアーシャ。
今は裏の顔で、その時はギルドの諜報のお仕事も手伝っていた。
ある意味本当にエージェントである。
「………ええ! 私実はエージェントなんです!」
「この子になれると思う? アホやで?」
「誰がアホか」
ちなみに口調も聖女モードとハンターモードで変えている。
男っぽい雑な口調にしているのも、同一人物とばれないようにするためだ。
まぁ何故か化粧するだけでもバレないんだけど………。
頭の悪いエージェントもいるかもしれないだろ!
ひっどww
そういえばさ、最初の秘密ってなんなん?
きちんと合わせてくれたのか、本気でアホだと思ってるのかは分からない。
………天然養殖のアホだと思われてないよな………?
そんなことを考えていると、さっきの余計なコメントのせいで『秘密』に関するコメントが増えてしまった。
秘密とはあれだ、昨日の
「……んー、ああーあれか、言ってええ?」
「いいわけないだろ」
聞きたい
聞かせて
話し出しといて言わないのはなしちゃう?
こういうやりとりは見る側は結構楽しいのだが、やる側は結構ひやひやするのだ。
しばらくの間が、コメント欄と私と茜の格闘が繰り広げられる。
茜はネタになるのでどうやら言いたいらしいが、私は当然言わせたくない。
ただ、このままだと視聴者もモヤモヤしたままだろう。
そこで、一つ、提案をしてみることにした。
「………それじゃあ、さ、賭けをしない?」
「賭け?」
メイド喫茶で働いていた時は何度かミニライブがあった。
歌うのは結構好きだし、実際上手い方だと思っているので私はよく歌っていた。
そして、私以外の子も結構うまい子が多かったのだ。
しかし、茜は一度も歌っているのを聞いたことがない。
本人曰く、かなり音痴らしい。
「賭けで私が勝ったら、配信のあとゆいがライブをする。私が負けたら、秘密がバレる」
「いや釣り合ってないやろ! そんな大したことやないのに!」
いいね
何で賭けるの?
ゆいちゃんの生歌か、聞いてみたいな
「いや、ほんとウチ音痴やからやめてほしいんやけど………」
「でも声綺麗だし何とかなると思うよ」
ぶっちゃけVtuberも下手な子は多いが、かわいいので何とかなっている。
茜の声はかなり綺麗で柔らかい声をしているので、多少音痴でもなんとかなると思うのだ。
うーんと茜はしばらくの間唸って考えていたが、両手をギュっと握りしめ決意したような顔つきに変わってから言った。
「よ、よし、それなら、ウチが勝ったらアーシャが秘密をばらした上でライブ。ウチが負けたらウチがライブや」
「え? 条件釣り合って無くない?」
「音痴と歌うまの歌枠へのハードルの高さの違い舐めんなや」
おお
まとまったか
楽しみいいいい
歌枠はちょっと緊張するが、まぁ調子が良さそうならやると、事前に話してある。
私もだいぶ配信に慣れてきたので、たぶん問題なくできると思う。
歌枠というか、ミニライブ枠になるかもだが。
そして、後決めなければならないのは勝負の内容である。
「それで賭けの内容は何にする? そっちが決めていいよ」
「それじゃあ――」
ニッと笑って、喉を震わせる。
「――この後やるEPEXで決めるで!」
私たちが二人とも得意で、時々一緒に遊んでいるゲームEPEX。
互いに得意なFPSで、現在日本で大人気のゲームだ。
まぁ正直これは予想済みだった。
なんてったってもう配信終了予定時刻まで残り2分で、次枠はEPEX枠だからだ。
ふとコメント欄を見ると、濁流がごとき勢いで流れていた。
内容は主に茜を詰る内容である。
それはひどくね
ゆいちゃんマスターやぞ
ハンデマッチか?
正直何を言っているかが良くわからない。
ゆいがマスターであることと、ハンデに何の関係があるのだろうか。
「え? むしろウチがハンデもらいたいぐらいなんやけど………」
「さすがにあげん。そこまで実力差ないでしょ」
「よー言うわ」
と、ここまで言っていて、気が付いた。
ぶっちゃけた話、今の今までなんで茜が詰られているのかわからなかったのだ。
そっか、視聴者は私の実力知らないのか。
?????????
もしかしてアーシャちゃんクソ強い?
マスター女子なら既に有名になってるだろ
マスターに行ったことはない。
「いや、私はマスターいったことないね」
「まともにやってないだけやろ………始めて3日でダイヤ行った子やぞ」
「上がる前にシーズン終っちゃったけどね」
は?
やっば
センスありすぎじゃね
別ゲーやってたんだろ
「10年以上やってなかったけど、それでもゆいちゃんぐらいなら十分倒せるぞ」
「ぶっちゃけタイマンなら10回やって10回負けるで」
純然たる事実だ。
攻撃魔法が使えない分、銃の扱いは極めてきた私だ。
勿論ゲームの銃とリアルの銃は全く違うが、飛んでいる鳥に当てられるほど精密さや、反射神経、目の良さはゲームにおいても有利なものだ。
申し訳ないのだが、人間とはスペックが違う。
そして、私自身前世からFPS経験者なのも生きている。
………もっともやってたゲームはヘッショ一撃だったが。
あとエルフなのに弓じゃないのというツッコミは泣きそうになるから無しで。
タイマン負けなしとだけ聞くと勝負にならないような気がするだろう。
しかし茜は、いや血濡結衣はこの勝負を私に仕掛けてきた。
血濡結衣は獰猛な笑みを私に向かって浮かべる。
「
これはきっといい勝負になる。
いい勝負になってもらっては困るのだが、少しだけワクワクしている自分もいた。
――戦いの火蓋が、切られる。
やっと1話の要素をある程度回収できました!