「何やってるんですかあああああっ!!」
平原に響き渡る、私の声。私は慌てて、和真さん達の下へ駆け出していた。
……話は、少し前に戻る。
冒険者ギルドにて。
「ええと、それじゃあまず、めぐみんの実力を見てから決めるって方向で」
パーティー募集の面接を、そう切り上げる和真さん。まあ、これが妥当な意見だろう。いくら上級職とはいえ、ステータスが足りてるというだけで、実力が伴っているとは限らない。
事実私も、中級魔法まで覚えておきながら、ジャイアントトードに捕食されるという失態を犯してるのだ。
「……それで、めぐみは?」
「私は…、私もそろそろパーティーを組もうとは思ってますが、今はめぐみんを優先させてください」
和真さんにはそう返した。めぐみんが中々パーティーを組めなかったのは知っているし、私はといえば、ジャイアントトード相手ならソロでも、まだしばらくは問題ないだろう。
「そうか。それじゃあ早速…」
「あ、待ってください。私もジャイアントトードの討伐依頼を受けてくるので、平原まで一緒に行きましょう」
「……なあ。めぐみってどういう風に、ジャイアントトード倒してんだ?」
平原に到着するなり、和真さんが聞いてきた。とはいえ。
「私はアークウィザードですから、魔法で倒すだけです。……まあ、実際に見せた方が早いですね」
言って私はそろりと、前方にいる二匹のカエルに近づき。
「『
光球を投げつける。光球は地面に触れた瞬間、炎を巻き上げ、二匹のカエルを飲み込む、はずだったが、一匹が不意に動いてしまい難を逃れてしまう。
カエルは当然私に気づき、こちらへ襲いかかろうとするが、私は既に次の魔法の準備が整っている。喰らえ! 私の新たなる再現魔法!
「『
放たれた閃熱がカエルを直撃、全身を焦がして絶命した。
「……とまあ、こんな感じです」
そう言いながらみんなの下に戻ると、全員ぽかんとした表情をしていた。はて、何かおかしな事でもしただろうか?
「な! 何ですか、今の魔法はっ!? アレンジしたファイアーボールはまだしも、ギラなんて、見たことも聞いたこともありませんよ!?」
「ちょ!? ギラってどう見ても、閃熱呪文の、あのギラだよな!?」
……ああ、確かに。めぐみんにとっては未知の、和真さんにとってはDQの呪文を見たら、驚かれても仕方がない。これは、私のうっかりですね。
「今のは、私が一から構築した呪文です。私や和真さんが生まれた国にある、とある物語の架空の呪文を再現しました。ちなみに
「【スレイヤーズ】か…」
和真さんが、ぽそりと呟いた。
「ともかく。私の戦い方は、現状では参考にならないでしょう」
「そう、なのか?」
ちらりとめぐみんを見る和真さん。おそらく、同じアークウィザードなら、等と思っているのだろう。
「まあ、すぐにわかると思います。それでは私は、向こうで討伐してきます」
そう告げて、私は和真さん達と別れた。
狩りを始めて数分。たまたま三匹が固まっているのを見つけたので、中級魔法のフリーズガスト三連弾でまとめて動きを止めて、各個撃破した。呪文はもちろん、ギラである。ようやくDQの魔法が使えるようになったのだ。少しくらい浮かれても、罰は当たらないだろう。
その時。ドオオッ! という大きな音と共に、激しい爆発が起きる。どうやらめぐみんの爆裂魔法が炸裂したようだ。……我ながら、爆発、炸裂、爆裂と、訳がわかんなくなりそうな言葉のチョイスだ。
そんな下らないことを思いながらそちらを見れば、随分と立派なクレーターが出来上がっている。ホーストの時にも思ったけど、やはり中々の威力だと…え? ええと、あのカエルの口から出ているのって、アクア様の足? あのブーツ、見覚えがあるのだが。
和真さんから話を聞こうと、視線を移したその先では。カエルにパクリとされる、めぐみんの姿があった。
…………って!
「何やってるんですかあああああっ!!」
こうして冒頭に戻り。私は慌てて、和真さん達の下へ駆け出していた。
「『フリーズ』ッッッ!!」
めぐみんを飲み込もうとしているカエルを、全力のフリーズで凍結させる。
「和真さん! こちらは凍結で足止めしてるので、今の内にアクア様を! 私が倒すと、和真さん達の討伐にならないので!」
「あ、ああ、わかった!」
和真さんはショートソードを振り上げ、アクア様を飲み込もうとしているカエルに向かって行った。
「あの…、この状態、なんとかなりませんか?」
動きを止めたカエルの口から、頭だけ出しためぐみんが言う。
「半ば自業自得なんですから、和真さんがとどめを刺すまで我慢してください」
それを冷たく突き放す私だった。
私は和真さん達と一緒に、ギルドへ向かう道を歩いている。私は少し離れて歩いているのだが、その訳は。
「ぐすっ…、生臭いよう…、生臭いよう…」
「カエルの体内って、生臭いけどいい感じに温かいんですね…」
めそめそと泣く、粘液まみれのアクア様と、いらない知識を披露する、同じく粘液まみれのめぐみん。いえ、私も知ってますが。
因みに魔力切れのめぐみんは、和真さんに背負われている。
「今後、爆裂魔法は緊急時以外は禁止だな。これから、他の魔法で頑張ってくれ」
「……使えません」
「……は?」
めぐみんの返しに、和真さんはハテナ顔だ。私は知っているが、これはめぐみん自身が言うべき事。私から言うわけにはいきません。
「……私は、爆裂魔法しか使えないです。他の魔法は、一切使えません」
「……マジか?」
「……マジです」
和真さんが絶望したような表情になる。
「爆裂魔法以外使えないって、どういうこと? 爆裂魔法を習得できるほどスキルポイントがあるのなら、他の魔法習得してないわけないでしょう?」
アクア様の疑問ももっともである。ゆんゆんだって、他の魔法を習得するように言っていたし、それが世間一般的な発想だろう。
「私は爆裂魔法をこよなく愛してます。爆発系統の魔法が好きなんじゃないです。爆裂魔法だけが好きなんです」
めぐみんが爆裂魔法について、熱く語る。
「もちろん、他のスキルを取れば楽に冒険が出来るでしょう。……でも、ダメなのです。
たとえ、今の私の魔力では一日一発が限度でも。たとえ、魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法しか愛せない! だって私は、爆裂魔法を使うためだけにアークウィザードの道を選んだのですから!」
めぐみんの独白には、強い念が隠っているように感じた。以前聞かないとは言ったが、それでもやはり、気にはなる。一体何が、彼女をこれほどの想いに駆り立てているのだろうか。
「素晴らしいわ! 非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」
……え、アクア様? それ、本気で言ってます?
いや、私もロマンを追い求めているが、少なくとも、他の全てを
「……そっか。多分茨の道だろうけど頑張れよ。それじゃあ、ギルドに着いたら今回の報酬を山分けにしよう。まあ、また機会があったら、出会うこともあるだろ」
あ、和真さんが切り捨てにかかった。
「ふ…。我が望みは、爆裂魔法を放つこと。報酬などオマケに過ぎず、なんなら食事等の雑費のみで、無報酬でも構いません」
「いやいや、その強力な力は、俺達みたいな弱小パーティーには向いてない。めぐみんの力は、俺達には宝の持ち腐れだ」
「いえいえいえ、私は上級職ですけど、まだまだ駆け出し。レベルも6ですから」
くっ!
……あ。今確認したら、レベルが4に上がってた。悔しいけど、なんか嬉しい。
「いやいやいやいや、一日一発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いから。……くっ、こいつ魔法使いのくせに、意外な握力をっ…!」
ついに和真さんから、本音が漏れだした。
「お前、他のパーティーにも捨てられた口だろ!? というか、ダンジョンにでも潜った際には爆裂魔法なんて使えないし、いよいよ役立たずだろ!」
「見捨てないでください! もうどこのパーティーも拾ってくれないのです! ダンジョン探索の時には、荷物持ちでも何でもします! だから捨てないでください!」
めぐみんが切実に願っていると、それが聞こえた街の人達から視線を集める。
『 あの男、小さい子を捨てようとしてる』
『 隣には、粘液まみれの女の子を連れてるわよ』
『見て。女の子は二人ともヌルヌルよ? どんなプレイをしたのよ、あの変態』
少し離れて歩いていたためか、どうやら私はカウントされなかったらしい。しかしこのままでは、和真さんの風評被害が大きすぎる。フォローを入れてあげないと、と思った矢先、めぐみんが発したのは。
「どんなプレイでも大丈夫ですから。先ほどの、カエルを使ったヌルヌルプレイだって」
瞬間、私はめぐみんの下に入り込み。
すぱああん!
ワンドで彼女の脇腹を一閃する。さすがに今回は手加減無しだ。
「~~~~~!」
あまりにもの痛さに声が出ない様だが、知ったことではない。
「やれやれ。あなたがパーティーを組みたいと思って、形振り構ってられないのはわかってます。ですが、曲がり形にもジャイアントトードに飲み込まれそうだったあなたを救った人に、こんな濡れ衣を着せる様な形でパーティー入りして、それでいいのですか!?」
「……う、ですが」
「それに紅魔族は、格好良さを求めてるのではないのですか? ハッキリ言って今のあなたのやり方は、最低に格好悪いですよ?」
「……」
めぐみんも思うところがあったのだろう、私の意見に押し黙ってしまった。
「ええと、めぐみ、助かったよ。ありがとう」
「いえ。私はめぐみんのやり口が、気に入らなかっただけですから」
そう。これは私の、勝手な押しつけである。
「……なあ、めぐみ。冗談抜きで、うちのパーティーに入ってくんないか?」
「え?」
まさか、このタイミングで勧誘されるとは、思ってもなかった。
「なっ、私という者がありながら!」
「そういうところだぞ、めぐみん」
めぐみんの暴言は、今は無視するとして。和真さんのパーティーか。同じ転生者同士、少しは気兼ねなくいられるだろう。
「……そうですね。それも面白いかも知れません」
「本当か!?」
「なっ、メグ…」
「ですが! 一つ条件があります」
文句を言おうとするめぐみんのセリフに被せ、私は言った。
「……条件って、なんだ?」
恐る恐る尋ねる和真さんに、私はにっこりと微笑み。
「めぐみんも和真さんのパーティーに入れてください。これが私の出す条件です」
「……悔しいけど、カッコいいです」
ポツリと呟くめぐみん。
「……むうう、背に腹はかえられないか。わかった、条件を飲もう」
背に腹は、って。めぐみんの評価、低いですね。
「やったじゃない、カズマ! 優秀なアークウィザードが二人も入ってくれるなんて!
後はアタッカーかタンカーが来てくれれば、もう言うこと無しね!」
アクア様は子供の様にはしゃいでいる。いい大人の、しかも女神に対して失礼だが、アクア様のこういうところは憎めない。
まあ、私達が優秀かは置いておくとして、あとアタッカーかタンカーが来てくれれば、というのは非常に正しい。先ほどの和真さんの戦闘で確信したが、今のこのパーティーには、近接戦闘を得意とする者がいない。なので近接戦闘のアタッカーか、それが無理でも、主戦力となるだろう私達を守るタンカーが欲しいところなのだ。
しかし。こんなパーティーに入ってくれるような、上級職のアタッカー、もしくはタンカーなんて、果たしているのだろうか?
めぐみがめぐみんに対してアンチヘイト気味な発言をしてますが、脅しをかけることは、交渉手段として否定していません(あまり良い手段とは思ってないが、清濁併せ持つとも思ってる)。ただ、濡れ衣によって謂われの無い悪評を広めかねない、浅はかな行動が許せなかっただけです。