「ねえ、カズマ。この人誰? 昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」
和真さんとダクネスさんのやり取り見ていたアクア様が、そう声をかける。というか、その話初めて聞くのだけど。……あ、昨日は回復魔法を完成させたくて、食事をして早々に宿へ引き上げたんだった。
「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由など無いのでは?」
そう。普通に考えれば、めぐみんの言うとおりだ。だが、先程の和真さんとのやり取りに感じた、イヤな予感が非常に気になる。何より和真さんが、物凄く浮かない顔をしているのが不吉にさえ思う。
そして急に真剣な顔をして、和真さんが口を開く。
「実はな。俺とアクアはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えてる」
さすが転生者。その使命を忘れてはいなかったか。……と言いたい所だが、僅か一日ちょっとの付き合いだが和真さんの性格は、ある程度理解している。これはあれだ。厄介払いをするための口実だ。
「俺とアクアは、どうあっても魔王を倒したい。というわけで、俺達の冒険は過酷なものになるだろう。特にダクネス。女騎士のお前なんて魔王に捕まったら、それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」
思わず、私の顔が熱くなる。それっていわゆる、エロゲー的な…。
「ああ、全くその通りだ! 昔から魔王にエロい目に遭わされるのは、女騎士の仕事と相場が決まっているからな! それだけでも行く価値はある!」
……なんだろう。今、想定していたのとは違う答えが返ってきたような。和真さんも、おや? という表情になっている。
それでも気を取り直したらしく、めぐみんに向き直り。
「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうてんだ。そんなパーティーに無理して残る必要は…」
今度はめぐみんを厄介払いする気らしい。確かに自分から抜ける分には、私が引き止める謂われはない。
しかし、めぐみんの性格からすればおそらく。
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!
我を差し置き最強を名乗る魔王は、我が最強の魔法で消し飛ばして見せましょう!」
うん。めぐみんならそう言うと思っていた。期待通りの返答が聞けずに、悩ましげな表情の和真さん。それなら期待に応えてやらねば。
「そうですね。そんな相手に挑むのなら、私も少し、考えさせてもらった方がいいかも知れませんね」
「え、ちょ、めぐみ!?」
途端に慌てふためく和真さん。
「……冗談ですよ」
そう答えると、ほっと胸を撫で下ろしてる。全く、分かりやすい人だ。
そもそも私は、アクア様に頼まれた魔王討伐も視野に入れて、転生を受け入れているのだ。今更そんな事を言われたからといって、尻込みなんてするはずがない。
「……ねえ、カズマ。私なんだか腰が引けてきたんですけど」
……おい。
私が思わずツッコミを入れようとした、その時。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街にいる冒険者各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
緊急クエスト? 一体何が起きたというのだろうか。
「緊急クエストってなんだ? モンスターが襲撃に来たのか?」
和真さんも同じ様な考えだったらしいが、めぐみんとダクネスさんが嬉々としている理由がよくわからない。
「……ん、多分キャベツの収穫だろう」
………………は?
ダクネスさんのセリフに、私は一瞬思考を停止してしまった。
「なんじゃこりゃあっ!?」
「何ですかこれはぁっ!?」
歓声が聞こえギルドの外に出た私たちは街中を飛び回るキャベツを目の当たりにし、私と和真さんはそう叫ぶことしか出来なかった。
そんな私達の近くにやって来たアクア様が、厳かに言う。
「この世界のキャベツは飛ぶわ。味が濃縮して収穫の時期が近づくと、食われてたまるかとばかりに。やがて大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境で、ひっそりと息を引き取ると言われてるわ。
それなら私達が一玉でも多く捕まえて、美味しく食べてあげようって事よ」
……昭和のアニメで、飛んでる魚や喋るキノコが出てくるヘンテコ世界の物語があったらしいが、どうやらこの世界も片足踏み込んでいるようだ。
「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」
「待ってください。その気持ちはよぉくわかりますが、せっかく一攫千金のチャンスなんですよ?」
そう。先ほどのルナさんの説明では、一玉一万エリスで買い取ってくれるそうだ。日本の場合安ければ、一玉百円もしないのに。
「うっ!? ……くっ、背に腹はかえられない、か」
和真さんは意を決したように言った。しかし、気持ちはわかるとは言ったが、何もそこまで…。
門を抜け街の外へ出ると、既に多くの冒険者達がキャベツを狩り始めていた。
ダクネスさんが「私の実力をみてくれ」と言って駆け出していったが、振るう剣のことごとくが空振りだ。なるほど。和真さんが嫌がるのも無理はない。
やがてキャベツの体当たりによってダメージを受け始める冒険者が現れる。跪いた冒険者に、キャベツが襲いかかり。
その前にダクネスさんが立ち塞がる! 執拗なまでのキャベツの体当たりに、それでも彼女は身を挺して守り続ける。
ああ、これだ。これこそがファンタジー世界にあるべき光…け…い? ……ダクネスさんは何故、顔を上気させているのだろう? それにあの、恍惚とした表情は?
私は先ほどの、ダクネスさんのセリフを思いだし悟ってしまった。彼女はドMなのだと。そうか。私が感じたイヤな予感はこれだったのか。
私がやれやれと、達観した心持ちになっていると。
「我が必殺の爆裂魔法の前に於いて、何者も抗うことなど叶わず!」
などとほざきながら、めぐみんが呪文の詠唱を始める。狙いはキャベツが密集している場所、……ってダクネスさんも巻き込まれるのでは!?
「め、めぐみん! あそこには…!」
私が止めるのよりも早く。
「『エクスプロージョン』ッ!!」
めぐみんは爆裂魔法を放ってしまった!
……ダクネスさん、平気でした。多少服が焦げてるけど
もう、深くは考えないで、私もキャベツ狩りに勤しむ事にしよう。とりあえずは。
「『
お得意の呪文を放ってみると、直撃したキャベツはこんがりと焼かれていた。ううむ、空を飛んで攻撃力もあるとはいえ、やはり野菜は野菜だったか。となればお次は。
「『フリーズガスト』!」
白い霞を発生させ、それに包まれた数玉のキャベツが氷漬けになって転がる。……これは、捕獲効率は良いものの燃費が悪すぎる。そうなるとフリーズで一玉ずつが良いのだが、常に出力高めに発動させなければならない。それはそれで面倒である。
……よし。こうなったら組み立て途中のあの術を完成させてみよう。DQの呪文じゃないからイマイチ乗り気じゃなかったけど、この場面でなら役立つはずだ。
……なんだ? めぐみが前線から引き上げたと思ったら、ワンドで地面に何か書き始めた。気になった俺は近づいて声をかける。
「めぐみ、何やってんだ?」
「ああ、和真さん。ちょっと、途中になってた魔法の組み立てをしている所です。文字に起こすと整理がしやすいのですよ」
なるほど。しかし途中まで出来てたとはいえ、こんな場所ですぐに完成できるもんなのか?
「……よし、理論は完成しました」
出来ちゃったよ!? いや、理論はって言ってたし、呪文の詠唱までは…。
「という事は、詠唱は…、え?」
ん? どうした?
「……ま、まあ、試してみましょう。ええと、和真さんにも見ていてもらいたいのですが」
「え、ああ、構わないけど」
というわけで、めぐみと共に前線まで上がった俺。
「……では、見ていてください。
── 光よ 我が手に集いて閃光となり
深淵の闇をうち払え」
え、ちょっと待て。その詠唱ってゲーム版の…。
そんな事を思ってる間にも、めぐみの前に光の槍が現れて。
「『
[
「……なあ。今のって[スレイヤーズ]の烈閃槍だよな? しかも詠唱が、ゲーム版の方」
「はい。呪文を組み立てたとき、私自身まさかと思いましたが…」
どうやらめぐみも、この結果には戸惑っているようだ。
「もしかして他の術も…」
「あ、いえ。それはありません。現に
そうか。しかし偶然としても凄い確率だ。
「ですがこれで、キャベツ狩りの目処が立ちました。魔力消費量もさほどではありませんし、傷を付けずに収穫が出来ます」
ああ、それで急いで呪文を組み立ててたのか。
「……和真さん、勝負しませんか?」
……は?
「今、勝負って言ったか?」
「はい。先ほどのクリスさんとの勝負を見て、少し憧れました」
なるほど。確かにあの時俺も、少し、いや結構高揚してたし、気持ちはわかる。
「構わないけど、クリスみたいのは無しだぞ?」
「もちろんです。方法は、どちらが多くのキャベツを…、いえ、どちらが多く稼いだか、の方がいいですか。わざわざ数えるのも面倒ですし」
確かに、稼いだ金額ならギルドの方でやってくれるのだから、その方が楽できていい。
「よし、乗った。それじゃあ負けた方が勝った方に、食事をひと皿奢るって事でどうだ?」
「いいですよ。それでは勝って、ギルドで一番高い料理を奢ってもらうことにしましょう」
「その言葉、そっくり返すぜ」
俺達はお互い、ニヤリと笑い合い。
「それでは」
「Ready…」
「「Go!!」」
同時に放ったかけ声と共に、俺とめぐみはキャベツを狩り始めたのだった。
めぐみの古い情報はネット調べ。さすがに[ポールのミラクル大作戦]の再放送も、最近はやってないみたいですし。
ただしゲームは、歴代の家庭用ゲーム機とソフトがあるので、それをプレイしてたりもする。後[ダイ大]は、父親が昔揃えたものを読んで嵌まったらしい。