キャベツ狩りも無事に終わり、今はみんなでテーブルを囲み食事をしている。集計には時間がかかるため、換金は数日後、賭けの結果はそれまで持ち越しだ。
和真さんは「納得いかねえ」とか言いながら、キャベツの野菜炒めを食べているが、何が納得いかないのだろう。野菜炒め、こんなに美味しいというのに。
そんな中、アクア様がダクネスさんに、先ほどの戦闘(?)について語りだした。
「あなた、さすがクルセイダーね。あの鉄壁の護りには、流石のキャベツたちも攻めあぐねていたわ」
「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。誰かの壁になって護ることしか取り柄が無い」
「アクアの花鳥風月も見事なものでした。冒険者のみなさんの士気を高めつつ、収穫したキャベツの鮮度を冷水で保つとは」
「まあねー。みんなを癒すアークプリーストとしては、当然よねー」
めぐみんが加わった3人が、それぞれを称え合ってる。
「それ、大事か?」
和真さんの疑問に、アクア様が胸を張り言った。
「アークプリーストの魔法の水は、とても清いのよ」
……宴会芸の水でも、そういうもんなんだろうか。
「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ。キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか」
「フフフ、紅魔の血の力、思い知りましたか」
確かに爆裂魔法の威力は凄まじい。しかし場所を弁えないと、いつか死人が出るのではなかろうか。
「俺ならめぐみを推すけどな。引き取り価格を上げるためキャベツを傷付けないよう、わざわざ新規に呪文を組み立ててんだから」
おっと。まさかそんな評価をされるとは思わなかった。ならばこちらも。
「それを言うなら和真さんこそ、なかなか見事な収穫っぷりでしたよ。潜伏スキルで気配を消して、背後から『スティール』で強襲するその姿は、まるで鮮やかな
「カズマ。私の名において、あなたに[華麗なるキャベツ泥棒]の称号を授けてあげる」
……ええと、アクア様? イマイチ褒め称えてるようには聞こえないのですが?
「[カエルスレイヤー]メグミとお似合いだわ」
「やかましいわ! ああもう、どうしてこうなった!」
「ちょっと待ってください! [カエルスレイヤー]ってなんですかっ!?」
いつの間にか私には、そんな二つ名が付けられていたんですか!? いや、確かにずっと、ジャイアントトードばかりを倒してたけど!
戸惑う私が視線を彷徨わせていると、めぐみんが。
「ふっ…」
「あああああっ! 私にそんな哀れんだ眼差しを向けるなあああ!!」
私がようやく落ち着いた頃。ダクネスさんがこほんと咳をしてから。
「皆に、私のクルセイダーとしての実力が判ってもらえて何よりだ」
そう言ってダクネスさんは立ち上がり、更に話を続ける。
「では改めて、名はダクネス。一応両手剣は使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。……何せ不器用すぎて、攻撃がほとんど当たらん。
だが、壁になるのは大得意だ!」
そう。結局ダクネスさんも、うちのパーティーに入ることになったのだ。
「うちのパーティーも、なかなか豪華な顔触れになってきたんじゃない?
アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみんとメグミ。そして、クルセイダーのダクネス。
5人中4人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよ?」
まあ、そこだけ抜き取れば確かにそうだが。お世辞にも優秀な上級職とは言えないだろう。自分もまだまだだと思うし、そこまで自信満々な理由が見当たらない。
ダクネスさんはドM全開で何か曰って、和真さんが頭を抱えているし、アクア様とめぐみんはその様子を笑顔で見守っている。
……やれやれ、どうやら私の気苦労は絶えないみたいだ。
私は最後に、野菜炒めのキャベツを口にして立ち上がる。
「ん? どうした、めぐみ?」
「ああ。明日は午前中に、組んだ魔法の発動実験をしようと思っているので、今日はもう宿に戻ることにします。なので明日ここに来るのは、お昼頃になると思いますが」
「そっか。ま、問題はないと思うぞ。どうせ俺も、午前中は買い物しようと思ってたしな」
ふむ。なら気兼ねなく、実験も出来るというもの。
「わかりました。それではまた明日」
私は別れの挨拶を済ませて席を後にした。
こ、これは、とんでもないことになってしまった!
朝、宿の食堂で朝食を食べた後、早速近くの森まで来て魔法実験を始めたのだが。
最初は簡単なもの、治癒魔法を試してみた。……しかし実験のためとはいえ、他人や動物を傷つけたくない。となると必然、自傷行為をしなければならないので、さすがに見られる可能性のある部屋の中で行うわけにはいかなかったのだ。そして治癒魔法はなんの問題も無く発動してくれた。
更に
そして調子に乗った私は、ある呪文を唱えたのだが。発動こそしたものの、突然体から力が抜けて倒れてしまったのだ。
別にそういった仕様でも、魔力切れを起こしたわけでも、ましてや命を削ってしまったわけでもない。おそらく認識と実際の魔法の出力とのギャップに、体がついていかないのだろう。体の方も、しばらくすれば普通に動かせるはずだ。事実、既に首を動かせるほどには回復している。
だが今は、それどころではない。ここは森の中。身動きの取れない今の状態では、モンスターに襲われたらひとたまりもない。
がさっ!
な!? まままままずい! 今の思考がフラグになった!?
「……えっと、メグミ?」
「どひゃああああ! ……って、リーンさん?」
そこには私の恩人の一人、リーンさんがいた。
「どひゃあって、驚きすぎよ。それより大丈夫? 急に倒れてびっくりしたわよ」
「え、ええ。おそらく一時的なものだと思われるので。それよりもリーンさんこそ、どうしてここに?」
問い返すと、彼女は少し跋の悪いという表情をして答えた。
「朝早くから、街の門の方に一人で向かってくメグミの姿を見て、気になって後をつけて来ちゃった」
なるほど。私がパーティーを組んだのは一応報告してあるし、それなら一人で、しかも早朝からフィールドに出るのを見て、興味を持ってしまうのも仕方がないだろう。
私は身を起こして、リーンさんの横に座り直す。さすがに立ち上がるのはまだキツい。
「そういう事でしたか。しかしお陰で助かりました。こんな状態でモンスターに襲われたら、ひとたまりもありませんでしたから」
あえて咎めることはしない。実際、有難い事だと思ってすらいる。
「モンスターだけじゃないよ。下手したら、邪な男の冒険者に…」
う…。言われてみたら、確かにその可能性もあった。これからは魔法の実験をするのにも、慎重にならなくては。
「……改めて、感謝します。……ところでリーンさんは、一人ですか? 他のパーティーメンバーの方は?」
まあ、たまたま見かけて後をつけて来たのなら、一人だったとしても何らおかしくはないのだが。
「あー…、ダストが思ったほどキャベツを収穫できなくて、八つ当たりでどこかの誰かに喧嘩ふっかけて、今はまた留置場のお世話になってる」
「何やってるんですか、あのクズは」
まあ、あの男に今更なに言っても始まらないですが。
「それでしばらく、クエストを休むことになったのよ」
「とんだとばっちりですね」
しかもリーンさんが彼の、保護者的な立場なのだ。年齢的には逆だろ、と言いたい。
……まあ、あいつの事はいいです。それより。
「ところで先ほどのお礼と言ってはなんですが、リーンさんに私のオリジナル魔法をひとつ、お教えします」
「えっ、いいの? なんだか悪い気がするなぁ」
戸惑った表情を浮かべるリーンさん。確かにオリジナルの魔法が優位となるには、その魔法を出来る限り秘匿することである。
しかし私は、非道にすぎる魔法、そう、マトリフ師匠が言っていた「禁呪法」や、取り扱いが難しかったり注意が必要な魔法でなければ、みんなに使ってもらいたい。そう思っているのだ。
「別に構いませんよ。初級レベルでありながら、攻撃魔法としても使える優れ物です。
考えてみると、[DQ]や[スレイヤーズ]の初級レベルの魔法は、こちらでは攻撃魔法として充分に通用する。こちらの魔法もフリーズ等は、魔力を込めればそれなりに攻撃魔法としても通用するが、それなら中級魔法を唱えればいい、という事になるのだ。
「……それ、便利そうね」
リーンさんも興味を引いたようだ。
「習得ポイントは、普通の初級魔法より少し高くて2ポイントですが、コストパフォーマンスはいいですよ。欠点は、完全な対個人用という事でしょうか」
「むうう…」
リーンさんはお悩みの様だ。……あ、これを言うのを忘れてた。
「どこかのクズの、馬鹿な行動を止めるのにも役立ちますよ?」
「うん。お願い、教えて」
……ダストさん、リーンさんにどれだけ迷惑をかけているのだろうか?
回復した私は、現れたモンスターに烈閃槍を実戦して見せた。
リーンさんの冒険者カードには習得可能スキルとして、[烈閃槍]の文字がしっかりと表示されている。彼女はそれを躊躇いもなく習得し。
「『
別のモンスターへと試し撃ちをする。モンスターは意識はあるものの、怠そうに、体を引きずるようにして逃げていった。
「これ、ホントに使えるよ!」
「でしょう。キャベツ狩りの時にも大変重宝したものです」
と言うより、その為に急遽完成させたのだが。
「確かにこれなら、傷をつけずに収穫できるわね」
「その通りです。あまりありませんが、生け捕りが条件のクエストの時にも役立つはずです」
スレイヤーズの魔法はバリエーション豊富で、戦闘特化から便利魔法まで、しかも便利魔法でありながら戦闘に応用できるものまである、使い勝手のいいものだ。DQ呪文派の私としては、少しばかり…、いやかなり悔しいのではあるが。
しかし、今回の件で有用性がより顕著になったことだし、もう少しそちらの呪文も再現することにしよう。
「さて。それでは、カエル退治でもしてから帰りますか」
「え? もしかしてクエスト受けてきたの?」
「はい、昨日のうちに。せっかく街の外に出るのですから、クエストを受けない手はないでしょう?」
片手間に受けるクエストなら、カエル狩りはまさに打ってつけである。
「……カエルスレイヤー」
「カエルスレイヤー言うなあああ!」
私は思わず絶叫した。
どうやらこの二つ名は、私が知らないうちに確実に広まっていたようだ。考えた奴、いつか倒す!
カズマと出会う前のお話。ギルドにて。
めぐみ「さあ、今日もはりきっていきましょう!」
クリス「いいけど、今日もやっぱりジャイアントトード…、だよね?」
めぐみ「当たり前じゃないですか。私はまだ、初心者なのですよ?」
クリス「それはわかるんだけど、なんか変な二つ名が付かないかなってね」
めぐみ「……どういうことです?」
クリス「この街の連中ってさ、やたら変な二つ名を付けたがるのさ。例えば『頭のおかしい爆裂娘』とか」
めぐみ「爆裂娘って、まさか…」
クリス「さあ? あたしも噂を聞いただけだから。でもまあ、そんな訳だから、ジャイアントトードばかり倒してると、そのうち[カエルスレイヤー]とか呼ばれちゃうかもよ?」
めぐみ「クリスさん。間違ってもそんなの広めないでくださいよ?」
クリス「わかってるって」
そんな二人の会話を、離れた席から聞いてる男がひとり。
ダスト([カエルスレイヤー]…。おもしれえ、広めてやろう)
というわけで。二つ名の発信源はクリス、広めたのはダストでした。