この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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お久しぶりです。


このリッチーに赦しを!

日が暮れかけた頃。私達は今、キャンプを楽しんでいる。

 

「おい、アクア。肉ばっか取ってるんじゃねえ」

「そのお肉は私が目を付けてたやつよ。ほら。カズマさんはこっちの焼けたキャベツを…」

「俺、キャベツ狩り以来、どうも野菜が苦手なんだよ」

 

……まあ、少しばかり騒々しいが、これとてキャンプの醍醐味だろう。

それにしても、野菜が苦手とは。たしかに空飛ぶキャベツとか、活け造りの野菜スティックとか、ツッコミ所は満載ですが、せっかくこんなに美味しいのだから食べなきゃソンである。

私はアクア様が言っていたキャベツを皿に乗せてから、それを口に運ぶ。

 

「な、めぐみ!? お前には、葛藤やらトラウマやらはないのか!?」

「なにを言っているのです。これしきでトラウマを抱えていたら、私はとっくにカエル肉が食べられなくなってますよ」

 

いやまあ、ジャイアントトードに関しては軽いトラウマを払拭したのだが、それは言わぬが花だろう。

ふと、めぐみんを見ると、視線が合った彼女が瞳を紅く輝かせ、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「カエル肉が、という事はどうやらメグミも、ジャイアントトードにはこっぴどい目に遭わされたということですね?」

「そうなのか?」

 

く、さすがは知力の高い紅魔族。言葉尻の僅かな情報から的確に言い当ててくる。あとダクネスさんは、一見普通に尋ねる風を装ってはいるが、その期待に満ちた眼差しを向けるのをやめてほしい。

 

「……一度だけですが、油断をしてジャイアントトードに飲み込まれたことがあります」

「なんだと! ……それで、飲み込まれたときの感触はどうだったのだ? やはりヌルヌル感と圧迫感、そして深淵の闇が、なんとも言えない恐怖感と高揚感を与えたりするのか!?」

「……ノーコメントで」

 

というか、そんな事聞かれても困る。

 

「お前今、高揚感とか言ったか?」

「言ってない」

 

いや、言った。敢えて追求する気もないが。

 

「そっかあ。メグミが仇敵の如くジャイアントトードを倒していくって聞いたけど、それが原因だったのね」

「いや!? いやいやいや! なんだか噂に尾ひれが付いてるんですが!?」

 

というかアクア様、噂話を信用しすぎでは?

 

「私はただ、戦闘経験を上げるためにジャイアントトードを倒してただけですよ! どうやらレベルが上がりにくい体質みたいで、アップ時のステータス上昇の恩恵が中々得られなかっただけです!」

「……そうなの?」

「そうです! 和真さん達に会った日のジャイアントトード狩りでようやく4まで上がったのに、昨日のキャベツの野菜炒めであっさり5になって、物凄くやるせない気持ちになるくらいにはレベルアップに悩んでたんです!」

 

……いけない。なんだか愚痴になってきた。

 

「ほら、めぐみ。これでも飲んで落ち着けや」

「あ、ありがとうございます」

 

私は和真さんから渡されたカップに口をつける。……苦い。中身はコーヒーだったが、私の舌はまだ子供寄りなので、苦味がキツく感じられた。飲めなくはないけど。せめて砂糖かミルクのどちらかでも欲しいとこではあるが、こんな場所で贅沢など言ってはいられない。

そう。こんな丘の上の、共同墓地の前でなど。

 

 

 

 

 

私達がこの様な所でキャンプをしているのは、もちろん伊達や酔狂からなどではなく、ちゃんとした訳がある。

私が魔法の実験を切り上げ、カエル退治も終わりギルドへやって来ると、そこには衣装を新調した和真さん達がいた。アクア様はテーブルに突っ伏して眠っていたが。

パーティーメンバーで何やら話し合っているので、声をかけてから加わってみたところ、アクア様のレベルアップに適したクエストを受けようという話だった。

アークプリーストのレベル上げには、浄化魔法や回復魔法がダメージとなるアンデッドがよい。そこでこの墓地に出没するという、ゾンビメーカーの討伐依頼を受けて、夜が来るまでキャンプをして食事をすることになったというわけだ。……まあ、墓地の傍で平気で食事を取る我々は、私も含めて図太い性格なのは確かだろう。

 

 

 

 

 

和真さんはクリエイト・ウォーターでカップに水を注ぎ、ティンダーの炎で炙り自らのコーヒーを作って飲んでいる。ふむ、なかなか器用なものだ。というか、水を汲むくらいなら私でも考え付くが、ティンダーで炙るのは思いつかなかった。普通は着火魔法という認識で、私もライターやマッチ程度の認識しかなかったが、火力調整すればこんな事も出来るのか。

 

「……すみません。私にもお水ください。って言うか、私より魔法を使いこなしてますね」

 

めぐみんの意見には同意するが、そもそも彼女は爆裂魔法しか使えない。比較対象にならないのでは。

 

「いや、こういう使い方するもんじゃないのか、初級魔法って」

 

……そうなのかも知れない。初級魔法は取らない者も多く、取っても使わない人が殆どらしい。つまり、冒険者にとって役に立たない魔法のため、その本来の使い方が廃れてしまったのだろう。

 

「そういや、『クリエイト・アース』! ……これって何に使う魔法なんだ?」

 

和真さんは手を開き、魔法で作り出した土をめぐみんに見せながら尋ねる。

 

「……えっと、その土は、畑などに使うと良い作物が採れるそうです」

 

うん。私はリーンさんのノートで知ってた。しかし先程のティンダーの例に倣えば、この魔法も戦闘に応用できそうな気がする。例えば…。

 

「何々? カズマさんってば畑作るの? 土も作れて水も撒けるしもう、天職じゃないの! プークスクス!」

「『ウインドブレス』!」

「ぎゃあああ!? 目が、目がああああ!」

 

和真さんを馬鹿にしたアクア様の顔に、手にしていた土を風の初級魔法で吹きつけた。いわゆる目潰し。まさに今し方、私が思いついた戦法とまったく同じである。

 

「「なるほど。こうやって使う魔法なの(ですね)」」

「違います! 普通はこんな使い方しません! なんで二人して納得してるのですか!?」

 

いや、そんな風に突っ込まれても。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

夜も更け、いよいよ探索を始めた俺達。

 

「……ねえ、カズマ。私、ゾンビメーカーなんて小者じゃなくて、もっと大物のアンデッドが現れそうな予感がするんだけど」

「アクア様、余計なことは言わないでください。それ、ほとんどフラグ発言ですよ?」

 

俺が思ったことを代弁してくれるめぐみ。やはり日本人、しかもオタク気質だとこういう所が理解し合えて、ちょっと嬉しくなる。

さて、こんな残念女神の戯言(たわごと)などにかまけてはいられない。俺達、というかアクアがやるべき事は、ゾンビメーカーの討伐。そして呼び出されたゾンビ達を浄化してやることだ。アクアのステータス、ひいては知力アップのためにも、ここは譲れない。

そんな事を考えていると、何かピリピリと感じ始める。

 

「敵感知に引っかかったな。一体、二体、三体……四体?」

「それは、おかしいですね。ゾンビメーカーが呼び出すのは精々二、三体という話ですが。……まあ、相手の能力による誤差もあるのかも知れませんが」

 

た、確かにめぐみが言うとおり、誤差の範囲に違いない。

……ん? 何だ? あの青い光は…、魔法陣? それになんか、人影も…。

 

「あれは、ゾンビメーカー…ではない…気が…するのですが…」

 

呟くめぐみん。俺もそう思う。

 

「どうします? とりあえず烈閃槍(エルメキア・ランス)でも当ててみましょうか? 人間なら精神衰弱起こすだけですし、アンデッド系なら強い相手でも、少しはダメージを与えるはずですから」

「物騒だな!? 何処ぞの天才魔道士が乗り移ったのかと思ったぞ!?」

 

とはいえ、めぐみの意見も一理ある。人間だったら後で謝っとけば問題ないだろう。こんな夜中にこんな場所にいる人間なんて、俺達みたいなクエストを受けたやつを除けば何かやましいことがある奴が殆どだろうし、向こうも強くは言い返せないはずだ。

そこまで状況を整理し、めぐみにゴーサインを出そうとした、その時。

 

「あーーーーーっ!! なんでこんな所にリッチーが!? 成敗してやる!!」

 

アクアが大声で捲したてる。……って、リッチー!? それってよくアンデッドの王みたいに言われてる、あれだよな!?

 

「あああ、やめてください! 何故私の魔法陣を壊そうとするんですか!?」

「黙りなさい、このアンデッド! どうせ碌でもないこと考えてるんでしょ!? 何よ、こんなもの!!」

 

魔法陣を、まさにそのままの意味で踏み躙るアクアを、リッチー(仮)が必死にしがみ付いて止めようとしている。

 

「この魔法陣は、成仏できない迷える魂を天に還すためのものです!」

 

なるほど。言われてみれば確かに、人魂らしきものが魔法陣の光と共に天へと昇り消えてゆく。……この人、本当にアンデッドの王、なのか?

 

「リッチーの癖に生意気よ! そんな善行はアークプリーストの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい! この墓地ごと、まとめて浄化してあげるわ!

『ターンアンデッド』!」

 

アクアが発動させた魔法の光は墓地を覆い、その場にいたゾンビや人魂を浄化し消滅させていく。そしてもちろん。

 

「キャーッ! 体が消えちゃう!? やめてっ、私、成仏しちゃうぅ!!」

 

…………なんだか、可哀想になってきたんだが。そんな事を考え、アクアを止めようと一歩踏み出したところで、隣りにいためぐみが物凄い勢いでアクアの元に駆け込んでいった。その手には例の如く、ワンドが納まっていて。

次の瞬間にはアクアの脇腹に、綺麗に胴が決まっていた。

 

「いったあああい! 何するのよ、メグミ!」

「何するのよ、ではありません。先ずは話を聞くべきです」

「何言ってんの!? 相手はリッチーなのよ? こんな石の下のナメクジ以下の話なんて、聞く必要ないわ!」

 

ひどい言いようだな。当のリッチーも涙目になって、「ひどい」とか言ってるし。

 

「……ちゃんと聞きましょう?」

「でもっ!」

「アクア様?」

「…………はい」

 

……この時のめぐみの笑顔が、何故か非常に怖ろしかったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

彼女の名前はウィズ。アクアが言ったとおり、アンデッドの王、ノーライフキングとも呼ばれるリッチーで、ここアクセルで店を開いているらしい。彼女はこの共同墓地に眠る浮かばれない魂を、定期的に訪れては天に還す作業をしていたそうだ。

なんていい人なんだろう。アンデッドだけど。しかし。

 

「それは立派な行いだと思うが、そんな事はこの街のプリーストに任せればいいんじゃないか?」

 

俺が尋ねると、ウィズがアクアをチラチラと見ながら、言いにくそうに答えた。

 

「その…、この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金の無い人達は後回し………と言いますか…………」

「一言で言えば、お金にならない仕事はしない、という事ですね?」

 

めぐみのヤツ、どストレートに言っちゃったよ!

 

「は、はい…」

 

なんだか、返事をするウィズの方が気後れしてるんだが。

 

「え、ええと、事情はわかったんだが、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか? 俺達、ゾンビメーカーの討伐のためにここに来たんだけど…」

「あ、そうだったんですか。あの、呼び起こしてる訳じゃなくって、私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。

その、私としては、迷える魂達が天に還ってくれれば、ここへ来る理由も無くなるのですが…」

 

なるほど、そういう事か。それなら。

 

「ウィズ。俺にいい考えがあるんだが」

 

そう切り出したその横で、めぐみが難しい顔をしていたことに、その時の俺は気付かずにいた。

 

 

 

 

 

「納得いかないわ!」

 

墓地からの帰り道、アクアが憤っている。……? なんか違和感があるが、俺はアクアに言い返した。

 

「しょうがないだろ。て言うか、あんないい人討伐できるかっての」

 

そう。俺達はあのリッチーを見逃すことにした。成仏できない魂については、俺が提案したアクアに定期的に浄化させるということで折り合いもついた。

 

「でも、穏便に済んで良かったです。もし戦闘になっていたら、アクアやダクネスはともかく、私達は間違いなく死んでましたよ」

「げっ、ひょっとしてヤバかった?」

「ヤバいなんてものじゃありませんよ。リッチーは強力な魔法防御に魔法の武器以外での攻撃の無力化、相手に触れただけで状態異常を引き起こし、その生命力や魔力を吸収する伝説級のアンデッドモンスターです。むしろ、何故アクアのターンアンデッド効いたのかが謎ですよ」

 

背筋がぞわっとする。ほんと、ウィズがいい人で助かった。まあ、めぐみんが不思議がっていたが、一応でも女神のアクアがいれば、なんとかなるとは思うが。

……はて。

 

「……なんだか、さっきから違和感の様なものを感じるんだが」

「ああ。それはおそらく、もうひとりのツッコミ役が、先程から大人しいからではないですか?」

「もうひとりの…って、めぐみか!」

 

そういや愚痴るアクアにも、アクアのターンアンデッドに訝しむめぐみんにも、なんのリアクションも取っていなかった。

俺は振り返りめぐみを見ると、凄く難しい顔をしてこちらを見ていた。ついでに、隣りにいたダクネスも。

 

「おい、二人揃ってどうしたんだ?」

「いえ、その。先程はアクア様が暴れそうなので切り出せなかったのですが…」

「何? 人を狂戦士(バーサーカー)の様に言わないでよ!」

 

アクアが噛みつくが、話がややこしくなりそうなので無視する。

 

「あー、ええとですね…」

 

めぐみにしては、かなり歯切れが悪い。その様子を見たダクネスが、代わりに口を開く。

 

「……ゾンビメーカーの討伐クエストはどうなるのだ?」

「「「あ!」」」

 

討伐クエスト自体は憶えていたが、完遂に関しては頭から抜けていた。

 

ゾンビメーカーの討伐

失敗




すみませんでした。最近スランプ気味で筆が乗らなかったのです。
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