爆裂魔法によって、アンデッドナイト達を倒しためぐみん。彼女もまた、魔力を使い切り倒れていた。
めぐみんを抱き起こし、おんぶする和真さん。そして冒険者達は歓喜する。
だがしかし、喜ぶのはまだ早い。何しろ肝心のベルディアは、未だ健在なのだから。
けれどそんな事はお構いなしに、安心した様に和真さんに体を預けるめぐみん。その状況で、和真さんは複雑な表情を浮かべていた。
私はそんな二人に近づく。
「紅魔族は知能が凄く高いのです。カズマが今、何を考えているのか当ててあげましょうか?」
「ええ。私、気になります!」
めぐみんに追随し、私が何処ぞの古典部に在籍するお嬢様の様に訊ねると、和真さんは一瞬たじろいてから答えた。
「めぐみんって着痩せするタイプなんだなーと思った」
それを聞いためぐみんは、和真さんの首を絞めようとし、この私は。
「……和真さん。後でじっくりO・HA・NA・SHIしましょうか?」
ニッコリと笑みを浮かべながら言った。
「おい待て! その言い方って高町式交渉術だよな!? どうしてめぐみまでっ!? ……て、ああ、そうか」
おいコラ、余計にムカつく反応なのだが。
そんなやり取りをしているとベルディアが。
「クハハハハ! まさか駆け出しの街で、本当に我が配下を全滅させられるとはな!」
いや、それはさすがに舐めすぎだろう。こちらに爆裂魔法の使い手がいるのはわかっているのだし、アクア様ほどの効果があるかはわからないものの、ダクネスさんにデコイを使って貰い同じことをすれば、同様の結果を生んでいたはずである。
「……では約束どおり、この俺が自ら貴様らの相手をしてやろう!」
そう告げてベルディアが、私達に向かって駆け出してきた! 私はめぐみんを背負っている和真さんの前に立ち、ワンドを構えて呪文を唱え…。
そこへ他の冒険者数人が、私達を守るように割り込んできた。
「ほう…。俺の狙いはそこにいる連中なのだが。まあ万が一、俺を討ち取る事が出来れば、相当な報酬を手にする事になるだろうな。
さあ、一攫千金を夢見る者たちよ。まとめてかかって来るがよい!」
あからさまな煽り文句。しかし冒険者達は、一攫千金の言葉に色めき立っている。そして冒険者の一人が言った。
「おい、どんなに強くても後ろに目は付いちゃいねえ! 囲んで同時に襲いかかるぞ!」
いわゆる袋叩きと言うやつだが、相手は魔王軍の幹部。そんな手でレベル差が埋まるとは思えないし、何よりその台詞は、死亡フラグ以外の何ものでもない。
「待て! 相手は魔王軍の幹部だぞ! そんな手で倒せるわけないだろ!」
同じことを考えていたのだろう、和真さんが警告をする。しかし、かの冒険者は怯むことなくこう返した。
「時間稼ぎが出来れば充分だ! すぐにこの街の切り札がやって来るさ!」
……切り札? 誰のことかはわからないが、何だかイヤな予感がする。
「おい、お前ら! 一度にかかれば死角が出来る! 四方からやるぞ!」
そう言って冒険者達が同時に飛び出し。
……イヤな予感が膨れ上がる。私はみんなを止めようとして。……足を踏み出すことが出来なかった。
情けない話だが、ベルディアの放つ威圧感に足が竦んでしまったのだ。
前の世界で女の子を救った時。そしてベルディアが死の宣告を放った時。どちらも、直接自分の死と繋がる状況ではなかった。女の子を救った時は、足が痙らなければ溺れることもなかったし、死の宣告の時は、ベルディアもそこまで威圧感を出してはいなかった。
しかし、今ベルディアが放っているものは、かつてホーストが放っていたものよりも遥かに強い。口調は馬鹿にしているようだが、さっきまでとは違い殺気を隠してもいない。
やはりベルディアは強敵なのだ。そしてそれは、すぐに証明される。
冒険者達が襲いかかろうとする中、ベルディアは自分の首を上空に放り投げる。その顔は地上を向いており。
── 俯瞰からの知覚。もしそれに、魔力的な何かのバフがかかっていたとしたら。
「やめろ! 行くな…」
和真さんが止めようと、声を張り上げる。だが、既に遅く。
冒険者達の攻撃をいとも容易く避け、大剣を両手に持ち直したベルディアが彼らを呆気なく斬り伏せてしまう。
これが、人の死。クエストを始めた頃の、
落ち着け。そして勇気を持て。そう自分に言い聞かせる。今こそクールでなければいけないのだから。
「さあ、次は誰だ」
落ちてきた首をキャッチしたベルディアが言う。みんなはその様子に怯んでいたが、一人の女性が声を上げた。
「あんたなんか、ミツルギさんが来たら一撃で斬られちゃうんだから!!」
…………今、なんと? え? ミツルギって、あの御剣の事ですか!?
「おう! あの魔剣使いの兄ちゃんが来れば、きっと魔王の幹部だって…」
確か彼の魔剣は、和真さんが売っ払ったって…。
「いるんだぜ、この街にも! 高レベルの、凄腕の冒険者がよ!」
剣を売ったと聞いた彼は、それを捜しに凄い勢いで飛び出していった様な。
せっかく心を落ち着けたのに、再び動揺してしまう。困った私は振り向き和真さんを見ると、同じ様に途方に暮れた顔をしていた。背負われているめぐみんも、一見冷静そうに見えるが、明らかに目が泳いでいる。
……どうする? どう立ち向かえばいい? 私が頭を悩ませていると、一人、ベルディアの前に立ち塞がる者がいた。
「次はお前が相手をするのか?」
ダクネスさん。彼女は剣を抜き、青眼に構える。
……全く、彼女の腕では攻撃を当てることも出来ないだろうに。だがその表情は、いたって真剣なもの。決していつもの性癖でないことが伺い知れる。
何よりも。この強敵にも怯まずに立ち向かうその姿勢は、正直尊敬に値する。
……やれやれ、です。
「ダクネスさん。すみませんが、ここは私に任せてはくれませんか?」
「な、メグミ?」
私のセリフを聞き、驚くダクネスさん。まあ、それも当然のことではあるが。それでも私は、真剣な眼差しでダクネスさんを見つめ続ける。
「……どうやら決意は固いようだな。わかった。ここはメグミに任せよう」
そう言ってダクネスさんは剣を納め、道を空けるように移動する。
「……ほう、アークウィザードか。あの頭のおかしな紅魔の娘と、よく似ているが」
「他人の空似ですよ。そもそも私は、紅魔族ではありません」
まあ、瞳の色を見れば一目瞭然なのだが、念のためです。
「ふむ。それでお前は、魔法使い風情で俺と一騎討ちでもするのか?」
「一騎討ち、というより勝負…、賭けをしませんか?」
「賭け、だと?」
ベルディアは驚きと、僅かばかりの興味の色を浮かべながら聞き返すのだった。
「一騎討ち、というより勝負…、賭けをしませんか?」
そうめぐみは言った。
「私はアークウィザード。上級魔法も覚えてますし、めぐみんの様な一撃必殺の魔法はまだ覚えてませんが、それでもあなたにダメージを通すことは可能でしょう。
ですが同時に、魔王軍幹部相手に一対一で挑めるほどの経験があるわけではありません」
それはそうだ。いや、めぐみの打ち込みの速さや体捌きからすると、おそらく剣道を嗜んでたんだろうとは思う。だがそれは武術ではなく、あくまでも武道。それに実戦にしても、大会形式しか経験はないはずだ。
それで本当の戦場での殺し合いに挑んだところで、結果は火を見るより明らかだろう。
「ところであなたは先程、『お前達、駆け出し冒険者では傷一つ付けられぬ』と言ってましたね?」
なんだ? 急に話を変えた?
「ああ、言った。あのアークプリーストや紅魔の娘の様な例外はいたが、今でもそう思っている。……お前も、その例外なのだろうなあ」
やや諦め口調でベルディアが言う。まあ、低レベルであの威力だ。愚痴る気持ちもわからないではない。
「攻撃力という一点だけを見るなら、否定はしません。さっきも言いましたが、経験が追いついてませんが。
まあ、それは置いといて、です。低レベル冒険者の、例えば魔法使いが使う中級魔法程度では、ダメージを受けることはないと考えていいのでしょうか?」
中級魔法。魔法使いが扱う
「その通りだ。まあ、お前が使ったのならわからんが」
「いえ、さすがにそこまで熟練してませんから。
さて。そこで賭けの話に戻りますが、これから私が中級魔法を使ったある技を使います。それをあなたが受け、僅かでもダメージを受ければ私の勝ち。もし全くダメージを受けなければあなたの勝ち、というものです」
おいおい、なんて滅茶苦茶なこと言ってんだ、めぐみのやつ!
「あ、わかったわ。実際は上級魔法使って大ダメージ与えるつもりなんでしょ!」
「馬鹿か、この駄女神! そんなの、ここで言ったら意味ねーだろっ!!」
コイツはホント、どーしようもねえ事しか言わねえしっ!
「……本当に、和真さんの言うとおりですよ? まあ、元々そんなつもりはないですけど。私が提示した条件に、嘘偽りは一切ありません」
アクアに向かって呆れながら言った後、ベルディアに向き直って宣言する。
「……一つ聞こう。何が目的なのだ? まさか、俺が負けたら撤退しろとでも言うのではあるまいな?」
「まさか。さすがにそこまで図々しくはありませんよ。ただ、駆け出し冒険者を侮っていたことを撤回してください」
……なんだろう。めぐみの言動に違和感を感じるのだが。そう、ダクネスが譲ってもいいと思うほど真剣だったはずなのに、その目的が、冒険者達へかけた侮辱の言動の撤回だ。決意と目的が釣り合ってないだろ。
……まさかまだ、何か考えでもあるのか?
「……乗ってやってもいいが、こちらにメリットがないな。……そうだな。お前が負けたときは、その命を対価としろ。魔王軍の幹部が賭けに乗ってやるのだ。それくらいのリスクは負うべきではないか?」
な!? ……いや確かに、乗る必要の無い賭けに乗ってくれるのだ。それ相応のリスクは必要だろう。しかし、だからって…。
「…………わかりました」
「おい、めぐみ!?」
「メグミ! 考え直してください!」
「そうだ! 今からでも私と代わるんだ!」
俺とめぐみん、ダクネスは止めようと声をかけるが。
「心配してくれてありがとうございます。さすがに、この様な形になるとは思いませんでしたが…。ですが、私の意思は変わりません」
そうしっかりと答えた。
「まあ、見ていてください。ベルディアにダメージを与えられたら、きっと他の魔法使いの方達にも役立つはずですから」
「え?」
「それはどういうことですか?」
しかしそれには答えず、ニッコリ笑みを浮かべるだけだった。
「それではいきます。避けたり、痩せ我慢して嘘を吐いたりしないでくださいよ?」
「魔王の幹部が、そして元騎士である俺が、そんな情けない事するものか!」
めぐみの煽りにやや声を荒げるベルディア。それを満足げな表情で頷くめぐみ。めぐみは握った右拳の手のひら側をベルディアに向けて突き出し、人差し指を一本立てる。
……なんか、どこかで見たような、そんな既視感が湧いてくる。
「ファ…」
その一言と共に、指先に火が
「なんだ、ファイアーボールか。言っておくがその程度では…!?」
余裕を持ったベルディアの言葉が止まる。
「イ…」
次に立てた中指にも、火が点ったからだ。
「アー…」
「ボー…」
「ル!」
薬指、小指、親指と開いた手の指先、全てに火が点る。間違いない、あの技は!!
「喰らえ!
『
ようやく、めぐみが特訓していた技を披露できました。予想通りだった方も多いとは思いますが。