「喰らえ!
『『
「何ィ!?」
私が放った全ての火球が、ベルディアに襲いかかる。
そして何より、私が尊敬するポップ兄さんが一時期模倣していた技でもある。だから、どうしても再現したかったのだ。
今はまだ中級魔法のファイアーボールだが、自身の熟練度が上がればいずれ、メラゾーマで再現しようと思っている。
「ク…、ハハハハ! どうやら大口を叩くだけのことはあるようだな! ああ、確かにダメージは入った。駆け出し冒険者を侮ったことは詫びよう。すまぬな。
しかしまさか、ファイアーボールを五発同時に放つとは思わなかったぞ」
ベルディアは愉快そうに言う。それは即ちダメージを与えることは出来たものの、蚊に刺された程度、……かはわからないが、少なくとも、アクア様が放ったターンアンデッド程のダメージは無かったということだろう。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」
名前を聞いてなかったな、と言われたら! 答えてあげるが世の情け!
……とは、さすがに口に出さない。いくらなんでも、ギャグ度が高過ぎだ。
というわけで、以前の様に右手を振りかざし、高らかに口上を述べる!
「我が名は高橋めぐみ! 異邦の魔法使いにして、あらゆる魔法を探求する者! やがて大魔道士となる者!!」
「……やはりお前、紅魔族じゃないか?」
「ち、違わい!」
確かに感性は紅魔族に近いが、私はあんな頭の悪い行動はしない。……いや、サンプルが一般寄りのゆんゆんを除いためぐみんのみなので、紅魔族みんながああいう行動をとるのかは知らないけどっ!
「まあいい。しかしお前のために、俺はここに居る冒険者全てと侮る事なく戦うことになったのだ。俺が侮っていれば、まだ勝ち目があったかも知れんのにな」
そう言って私に、ひいては冒険者達に揺さぶりをかける。しかし私とて、それくらいの事は予想済みだ。それに。
「どうやら、わかってないようですね? 私が使った技は、ファイアーボールを五発同時に放ったものです。そして五発同時に放つ、という条件を満たせば、何も一人で魔法を放つ必要はないということです!」
そう言い放つと同時に、遠巻きに見ていた魔法使い達が呪文を唱え始めた。
私は慌ててベルディアから距離をとり。
「「「「「『ファイアーボール』!!」」」」」
「「「「「『ライトニング』!!」」」」」
「「「「「『ブレード・オブ・ウインド』!!」」」」」
五人ずつまとまった、それぞれの同じ呪文がベルディアに向かって放たれる。
「ク…」
さすがに直撃はまずいと思ったのか、それらを辛うじて避けるベルディア。しかし魔法使い達は、更に次の魔法を唱え始め。
「ええい、鬱陶しい! お前ら全員、一週間後に死にさらせっ!!」
ベルディアは、呪文を詠唱していた魔法使い達全員に死の宣告を放つ。呪いを受けた魔法使い達は動揺し、詠唱を途切れさせてしまうが。
「ベルディアを倒せば、死の宣告は解除されるはずです! もしもの時は、アクア様が呪いを解いてくれるので安心してください!」
私のフォローを聞いて、再び詠唱を始めた。やはりダクネスさんの呪いを解いた実績が、みんなに安心感を与えたのだろう。
「ぬうっ…。その機転の良さは、なかなかに厄介だな。ならばまずはお前から…」
そう言って再び私に向き直るベルディア。
「させるものかっ!」
そこへダクネスさんが飛びつき、ベルディアの動きを抑えようとする。しかしその為に、魔法使い達の間に躊躇いが生じてしまう。その空気を感じ取ったのか、ダクネスさんは声を張り上げ言った。
「構わん! 私ごと攻撃しろ! 大丈夫だ、私は防御力には自信がある! 私を信じてくれ!」
確かに以前、めぐみんの爆裂魔法にも耐えてましたが…。
「貴様、本気か!?」
「ああ。どちらが耐えられるか、根比べといこうではないか」
ダクネスさんのこの発言に、魔法使い達は頷き合い。
「「「「「『フリーズ・ガスト』!」」」」」
「「「「「『ファイアーボール』!」」」」」
「「「「「『ライトニング』!」」」」」
再び魔法を放ち始めた。しかしフリーズ・ガストはファイアーボールと相殺して、直撃したのはライトニングだけだったが。
「ダクネスさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない。むしろこれは、新感覚だぞ!」
……は?
「身を挺して仲間を守り、あまつさえ敵の隙を作り、味方からの攻撃を甘んじて受けるこのシチュエーション!
攻撃のダメージも相まって、想像以上に興奮するぞっ!! 」
「きちぃ…」
ダクネスさんの発言に、ベルディアが引き気味に言葉を洩らした。ホントに聞かなきゃよかった。
私がそんな後悔をしていると。
「めぐみ、大丈夫か!?」
そう言って駆け寄ってくる和真さん。背負っていためぐみんがいないので辺りを見渡したら、少し離れたところで、上半身裸に肩パットで何故かサスペンダーでズボンを止めている、モヒカン頭の厳つい男性に背負われていた。よくギルドの酒場で見かける、一見怖そうだけど意外と人の良い方だ。
確認を終えた私は和真さんに向き直り、彼の問いに答える。
「いえ、今心配なのはダクネスさんでは? 本人はむしろ、嬉々としてますが」
「そうじゃなくてだな!
……あ。命を削る心配が無いと判明してからは、この呪文を使いこなすための特訓ばかりしていたので、すっかり忘れていた。確かにこれでは、事情を知らない和真さんが心配するのも無理はない。
「大丈夫ですよ。この世界では、ファイアーボールの五発同時発射で命を縮める様なことはないみたいです。メラゾーマではわかりませんが、実験して危険だと思った術は諦める様にしてますから」
まあ、今の所そんな術は無いのだが。
「ですが私を心配してくれたのは、正直嬉しいですよ。ありがとうございます」
「そ、そうか。問題ないならいいんだが…、って、メラゾーマも完成させてんのかよ!?」
安堵した途端、私のメラゾーマ発言に食いついた。
「デイン系を除いたメインの攻撃呪文は、極大呪文を含めて一通りは」
「これだからチート持ちは…」
いや、確かにアクア様から、「あらゆる魔法を使いこなすために必要な、全ての資質」を特典に貰いましたが、再現魔法の構築やプリーストの魔法の解析は、私自身の努力故である。いくら能力を貰っても、それを生かす努力をしなければ意味は無いのだ。
……まあ、和真さんが拗ねる気持ちは汲むことが出来るので、口には出さないでおくが。
さて、それよりも今は。
「せっかくダクネスさんが頑張っているのに、それでも躱してますね、ベルディア」
そう。一応幾つかは当たっているが、腕や胴を掠る程度で、さすがに直撃とはいかない。
すると和真さんは、ふむと考えてから右手を突き出し。
「『クリエイト・ウォーター』!」
水の初級魔法を放つ。その途端ベルディアは、強引にダクネスさんを引き離し、大きく後ろに飛び退いた。
……? 今の行動、何か違和感がするのだけど?
「……不意討ちでこんな仕打ちとは。嫌いじゃないが、時と場合を考えてくれ」
水を盛大に被ったダクネスさんが何か言っているが、私はその内容を理解したくない。
「ば、馬鹿! そんなんじゃねえ! これは、こうするんだ! 『フリーズ』!!」
和真さんが放った冷気の魔法は、ベルディアの足元を凍りつかせる。
なるほど、足止めを狙ったのですね。和真さんのこういう発想は、私も見習いたいところです。
『『ファイアーボール』!!』
和真さんの攻撃を見計らっていたわけではないのだろうが、奇しくも三組の魔法使い達が、ファイアーボールを同時に放つ。
さすがに今回の攻撃は躱すことも出来ずに、ベルディアに直撃した。しかし、私が与えたダメージから考えても、これで倒れてくれるはずがない。
同じことを考えたのか、和真さんはまだ爆煙に包まれたベルディアに向かって、再び右手を突き出して。
「『スティール』ッ!!」
窃盗スキルを発動させた。しかしその手には、剣どころか何一つ納まっていない。
……煙はまだ、ベルディアの周りに立ち込めている。なら!
「和真さん、お借りします!」
「えっ!?」
言って私は、和真さんの腰に差してある片手剣を引き抜き、ベルディアに向かって駆け出す。剣は少し重いが、両手持ちなら問題ない。
「まさかスティールが本命とは、悪くはない手だったな。それなりに自信はあったのだろうが、レベル差というやつだ」
煙が薄く晴れて行く中、和真さんを讃えるベルディア。そんな彼に既に肉薄している私は、未完成ながら術を発動させる。
「『
魔力を纏い切れ味を増した剣で、ベルディアの胴を薙ぐ!
ジャッ! という、切っ先が何かを引っ掻く感触。そして次の瞬間、背中に強い衝撃を受け、私は派手に吹き飛ばされた。
「めぐみっ!!」
「お前も悪くない手だったぞ。俺がアンデッドでなければな。アンデッドは生者の生命力を感知できる。つまりはそういう事だ」
……どうやら全てお見通しで、直前まで喋っていたのも、私に気づかれてないと思い込ませるためだったようだ。とはいえ、視認が出来ていなかったためか、返す刀で切り裂くことは出来なかった様だが。
私は起きあがろうとするが、途端に強烈な痛みが背中を奔る。
「……『ヒール』」
絞り出すような声で、私は術を発動させる。
「ほう、プリーストの魔法を使うか。あらゆる魔法を探求する者、というのも、ただの大口ではないようだ」
私の前に佇み、感心するように言う。
「……しかし、魔王様から戴いたこの鎧に、僅かとはいえ傷を付けるとは。やはり、お前をこのままにしておくのは厄介だな」
ベルディアが、大剣を振り上げる。
まずい。私が近くにいるために、魔法使い達は魔法を放てないでいる。私も無理すれば体は動かせるものの、大技使うほどの集中力もないし、並の術では耐えられてお終いだろう。剣に纏わせた魔皇霊斬も、まだ魔力を長時間留められない不完全版。既に魔力は散っている。
「やめろっ!」
腰にしがみついてきたダクネスさんを鬱陶しそうにはしているが、それで止まるベルディアではないだろう。
……落ち着け。クールになれ。どうすれば切り抜けられる?
……そういえばあの時、ベルディアは!?
「「『クリエイト・ウォーター』ッ!!」」
私と和真さんの声が重なった。
「!?」
先程を再現するかの様に、ダクネスさんを強引に引き離し、大きく距離を取るベルディア。同じくダクネスさんは、盛大に水を被ることになる。……近くにいた私もだが。
「……カズマ、メグミ。今は結構、真面目な場面だと思うのだが」
いえ、気持ちはわかりますが。
「違います! ベルディアの弱点は…!」
「「水
「『クリエイト・ウォーター』!」「『クリエイト・ウォーター』!」「『クリエイト・ウォーター』!」…
魔法使い達がベルディアに向かって、水の魔法を放っている。人数が減っているのは、初級魔法を習得するポイントが足りないか、振るのを渋った者達もいたためだ。ポイントが足りないのは仕方がないが、こんな時に渋るな、とは言いたい。時間の無駄なのでやめたけど。
斯く言う私も、ヒールで怪我を治してから和真さんと共に参加しているのだが、ちょこまかと器用に避けて全く当たらずにいる。よく首を抱えた状態で、あれだけ上手く避けられるものだと、半ば感心してしまう。有難くはないが。
「ねえ。カズマもメグミも、なんで魔王軍の幹部と水遊びしてるの?」
「「水遊びちゃうわあああっ!!」」
私と和真さんのツッコミが綺麗に被った。
「水ですよ、アクア様! ベルディアの弱点は水なんです!」
「お前、仮にも一応は水の女神なんだろ!? それともやっぱりお前、なんちゃって女神なの? 水のひとつも出せないのかよ!?」
……あ。和真さんがまた、アクア様を煽っている。何だかイヤな予感がするのだが。
「あんた、そろそろ罰のひとつも与えるわよ? 仮でも一応でもなんちゃってでもなく、正真正銘の女神ですから! 水だって、あんたが出す貧弱ものじゃなく、洪水クラスの水だって出せますから!」
案の定アクア様は、和真さんに食ってかかってきた。
「出せるならとっとと出せよ! この駄女神がっ!!」
「わああああーっ! 今、駄女神って言った!
見てなさいよ! 女神の本気を見せてやるから!」
あああっ! めちゃくちゃイヤな予感しかしないのですがっ!!
「この世に在る、我が眷族よ。水の女神、アクアが命ず…」
うわああ! この詠唱、思いっきり
ええい! 悩んでる場合じゃない!
私は走り出して、モヒカンおじさんに背負われためぐみんの手を掴む。
「え? メグミ?」
めぐみんは驚いているが、説明している暇はない。とにかく、動けない彼女だけでも…!
「『
私が呪文を発動させて浮上し始めたその時。
「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』ッ!!」
予想通りアクア様が、大量の水を召喚したのだった。
何となくアニメのオリキャラ(荒くれ者)、出してみました。
……え? タイトル詐欺? いえいえ、ちゃんと“?”を付けてあるので大丈夫です(某スポーツ新聞の様な言い訳)。