この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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今回は短めです。


このデュラハンと決着を!

ザアアアア…と、一帯を押し流す大量の水。その勢いは激しく、街の門を破壊し、入り口付近の家々にも被害が及んでいた。

 

「これは、酷い状況ですね」

 

私に吊り下げられためぐみんが言う。

あとほんの僅かでも遅かったら、私達もあの水に飲み込まれていた事だろう。私はまだ飛翔呪文を上手に操れず、スピードが出ない中で、何とか空へ逃げ延びることが出来ただけなのだ。

しかしこの惨状も、僅かな間の事。本当の洪水とは違い水が供給され続けている訳ではないので、水はあっさりと引けていった。……まあ、人々がぐったりと横たわる、別の惨状が現れていたりもするが。

私は術を制御して、身を起こす和真さんの横へと降り立つ。

 

「「和真さん(カズマ)、大丈夫ですか?」」

 

私とめぐみんが問いかけると、和真さんはこちらを睨みつけ言った。

 

「お前らだけ上空に逃げて、ズルいぞっ!」

 

……まあ、和真さんの言い分はもっともである。だが、こちらにだって言い分はあるのだ。

 

「もちろん、和真さんを連れて逃げる事は出来ましたよ? ですが今の私の飛翔呪文(トベルーラ)では、自分を入れて二人が限度ですし、何よりご覧の通り、まだ体を動かすことも侭ならないめぐみんを、そのままにする訳にもいかなかったもので」

 

着地と共に、再び地面に横たわるめぐみんを指差しながら、私は言う。

五指爆炎弾の練習中に動けなくなっていた私としては、今のめぐみんを放ってはおけなかったのだ。

 

「……因みに今の私は、立ち上がるほどの力が無いだけで体を動かすことは出来ますが、下手をしたら溺れるくらいにはきつい状態ですね」

「……まあ、俺も鬼じゃないし、今回の事は水に流してやるよ」

 

この男、あっさりと手のひら返ししましたよ!? 何気に上手いこと言ってるし!

 

「ねえねえカズマ、それで上手いこと言ったつもりなの? 大水の後に水に流すなんて、全然笑えないんですけど。プークスクス」

「「お前(アクア様)はもう少し、反省しろっ(してください)!!」」

 

しかも、笑えないと言いつつ笑っているしっ!

そんなやり取りをしていると。

 

「……な、何を考えている。馬鹿なのか? 大馬鹿なのか、貴様は!?」

 

そう言いながらベルディアは、ヨロヨロと立ち上がる。どうやらかなり弱体化しているみたいだ。

……ってしまった! 倒れている間に攻撃すればよかった! いや、今は嘆いてる場合ではない。とにかく、弱体化した今のうちに…。

 

「カズマ、メグミ、今がチャンスよ! 」

 

って、アクア様ああああああっ!! 余計なことは言わないでええええっ!!

 

「……魔王軍幹部ベルディア!今度こそお前の武器を奪ってやるよ!」

 

……あ。和真さんがアクア様を無視した。

 

「やってみろ! 弱体化したとはいえ、駆け出し冒険者のスティール如きで、俺の武器は盗らせはせぬわ」

 

ベルディアもやはり無視する。まあ、それが賢明だろう。

和真さんは右手を突き出し。

 

「『スティール』ッッ!!」

 

スキル発動の後の、しばしの沈黙。ベルディアの右手には大剣が握られたまま。辺りから漏れる失意の声。

そして。

 

「……あの、首、返してもらえませんかね?」

 

隣の和真さんの手元から聞こえる声。両手で持つそれは、ベルディアの頭だった。……ってキモッ!?

そして和真さんは、ベルディアの頭に向かって悪い笑顔を浮かべ。

 

「おーいみんなー、サッカーしようぜー! サッカーってのはなー、手を使わず、足だけでボールを扱うあそびだよぉー!」

 

そう言って、冒険者達の元にベルディアの頭を蹴り込む和真さん。……うわぁ、まさに鬼畜のカズマだぁ。さすがにこれは、擁護できません。

そして蹴り込まれたベルディアの頭を、まさにボールの如く蹴り飛ばしあっている冒険者達も、やはり鬼畜である。それだけ鬱憤が溜まっていたのだろうが、冷静に見ればただの集団リンチだ。良い子は絶対にマネしてはいけないテロップが流れるやつだ。いや、下手したらコンプラに引っかかるかも。

 

「おっと、なかなか難しいな」

「ひゃははは! でも、すげーおもしれえじゃんか!」

「おーい、こっちこっち! こっちにもパスくれ、パス!」

「やめ、ちょ、あいだだだっ! や、やめえっ…!」

 

……魔王軍の幹部で、私の目の前で複数の冒険者を斬殺した憎むべき相手ですが、その…、何だか憐れに思えてきましたね。

ま、まあ、それはともかく。一方のベルディア本体の方は、頭があちこちに蹴飛ばされて視界が定まらないのか、オタオタとうろたえているだけである。

そんな中、和真さんは落ちていた大剣を拾い、近づいてきたダクネスさんに手渡しながら言った。

 

「おい、ダクネス。ひと太刀喰らわせたいんだろ?」

 

その問いに、無言のまま剣を受け取ることで答え、ダクネスさんはベルディアの体へと近づいてゆく。そして剣を大上段に振り上げ。

 

「これはお前に殺された、私が世話になったあいつらの分だ!」

 

そのセリフと共に、思い切り振り下ろす。

 

「ぐはぁっ!?」

 

鎧ごと胸を切り裂かれ、ベルディアの頭が呻き声を上げた。

 

「アクア、後を頼む」

「任されたわ」

 

和真さんに言われ、アクア様が返す。

……本当は私も攻撃に参加したいところだが、アクア様の魔法を見て勉強タイムだ。先ほど見たセイクリッド・ターンアンデッドは、突発的できちんと学習できなかったから、このチャンスは逃したくはないのだ。

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

「ぎゃあああああ!!」

 

ベルディアの頭が叫び声をあげた。アクア様が放った魔法がベルディアの体を包み、光と共にその体は透き通ってゆき、やがて消え失せる。それと共にベルディアの頭も消えたのだろう、サッカーで遊んでいた冒険者達からざわめきが起きていた。

こうして魔王軍の幹部ベルディアは、私の魔法研究の礎となって、アクア様の魔法によって消えていったのだった。……私のこの考え方も、充分鬼畜かも知れない。

 

 

 

 

 

魔王軍幹部討伐に冒険者達が沸き上がる中、ダクネスさんは片膝をつき、祈りのポーズをとる。

 

「ダクネス、何をしているのですか?」

「……祈りを捧げている」

 

めぐみんの問いに、静かに答えるダクネスさん。さらにその理由を語りだした。

 

「デュラハンは不条理な理由で絞首刑にになった騎士が、恨みによってアンデッドとなったモンスターだ。だから、せめて祈ってやるくらいはな」

 

……私は、先ほどの鬼畜な発想を懺悔します。

ダクネスさんは更に話を続けた。

 

「腕相撲で私に負けた腹いせに、鎧の中はガチムキの筋肉だと大嘘を流したセドル。

暑いからその剣で扇いでくれ。なんなら当ててもいいぞ、当たるんならな、とバカ笑いしてからかったヘインズ。

そして、一日だけパーティーに入れて貰ったときに、なんでモンスターの群れに突っ込んでいくんだ、と泣き叫んでいたガリル。

皆、ベルディアに斬られた連中だ。今思えば、私は彼らを嫌ってはいなかったらしい」

「……あ、ええと、ダクネスさん?」

「そ、そうですか。では、続きは後で伺いますから、とりあえずはギルドへ戻りましょうか」

 

言いあぐねる私に、話を切り上げようとするめぐみん。和真さんとアクア様はただ、傍観を決め込んでいる。

しかしダクネスさんは、私とめぐみんの気遣いに気付く様子もなく、独白を続けた。

 

「あいつらにもう一度会えるなら…、一度くらい、酒を酌み交わしたかったな…」

「「「お、おう…」」」

 

ダクネスさんの後ろから返事を返す、三人の冒険者。その声を聞いた途端、祈りを捧げていた彼女の肩がぴくりと跳ね上がる。

そう。その三人は、先ほどベルディアに斬り殺されたはずの三人だった。

 

「その…、色々と悪かったな。お前さんが俺達を、そんな風に…」

「……ああ、悪かったよ。腕相撲に負けたくらいで、変な噂立てちまって。お詫びに今度、奢るからよ」

「剣が当たらない事、気にしてたんだな。ええと、その、悪かった…」

 

三人の謝罪に、祈りのポーズを崩さないダクネスさんはしかし、みるみる顔を赤くして、プルプルと体を震わせていた。

 

「ダクネス、任せて頂戴! 私くらいになればあんな死にたての死体なんて、ちょちょいのちょいで蘇生出来るわ。良かったわね、ダクネス。これで一緒にお酒が飲めるじゃない!」

 

アクア様に悪気は無いのだろう。それはわかる。しかし、これではむしろ、追い撃ちをかけている様なものだ。まあ、ダクネスさんには良いご褒美みたいなものかも知れないが。

……などと思っていたが、当のダクネスさんは目に涙を浮かべた後、顔を両手で覆い、ぺたりと座り込んでしまった。何だかいつもと違い、妙に可愛らしく見える。

そんなダクネスさんに、更に追い撃ちをかけるように和真さんは言った。

 

「良かったじゃないか。またみんなと会えて。ほら、一緒に飲みに行ってこいよ」

「…………死にたい」

 

それはもう、朗らかに言う和真さんに、ダクネスさんは小さな声で、ぽつりと返した。

 

「お前、いつも責められたがってただろう? 安心しろよ。三日くらいこの話を続けてやるからさ」

「こ、この責めは、私が望んだタイプの羞恥責めとは違うから…ッ!!」

 

ダクネスさんは顔を覆ったまま、イヤイヤしながら呟くように言った。……うむ。やはりダクネスさんの羞恥の基準がわからぬ。

それはともかく、こうして駆け出し冒険者の街に魔王軍の幹部が襲来するという、通常の小説やゲームでは考えられない状況は、私達の勝利という形で幕を閉じたのだった。

…………とりあえず、今回の闘いを通じて私が言えることは。

 

「所詮リアルはクソゲーだな」

「お前はどこのギャルゲーマーだよっ!?」

 

かけてもいない眼鏡の、ブリッジ部分に指を当てて直する様な仕草をしながら言った私に、ちゃんとツッコんでくれる和真さん。その切り返しが、私には心地よかった。




次回、第1章のエピローグです。
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