この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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第1章最終話です。


エピローグ

魔王軍の幹部を討伐してから一晩が経ち。私はギルドに向かいながら考えていた。

私はこの世界へ転生するおり、アクア様から魔王討伐を頼まれた。……まあ、私以外にも多くの転生者に頼み込んでいるみたいだが。

それはともかく、もちろん私は、それを織り込み済みで転生を受け入れたわけである。

だが、魔王軍の幹部ベルディアは強かった。私はファイアーボール版の五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)くらいしかまともに当てていないが、これが極大呪文や上級魔法だったとしても、数発程度では倒せはしないだろう。いや、もしかしたら現段階でのめぐみんの爆裂魔法ですら倒せないかも知れない。

このままでは魔王討伐は程遠いだろう。もっとレベルを上げて、もちろん魔法の練度も上げ、更に戦闘経験も上げていかなければならない。

……ただ、それこそが問題なのだ。

まずひとつ目に、私はレベルが上がりにくい体質だということ。こんな事ならベルディアのアンデッドナイトを少しでも倒して、経験値稼ぎをしておけば良かったと今更ながらに思う。

ふたつ目は私の性格だ。昨日も反省したばかりだが、私は沸点が低い。もっと言えば喧嘩っ早い。今でこそ自制しているが、昔はすぐに手が出ていたものだ。いや、我慢できるラインが上がっただけで、そこを超えたら自制できる自信がない。この性格を矯正できなければ、魔王討伐も儘ならないだろう。何よりクールとは程遠い。

そしてみっつ目。それは和真さんである。前にも思ったが、和真さんには怠け癖があり、そもそも魔王討伐を諦めている節がある。それが昨日のような戦闘を経験すれば、それこそ魔王討伐なんて辞めてしまう可能性があるだろう。そうなった場合、状況によっては最悪、パーティーを抜けることも考えなくてはならない。……ならないのだが、和真さんのパーティーは居心地がいい。ハッキリ言って、抜けたくないというのが正直なところである。かといって、和真さんに戦闘を強要するのも違うと思う。世の中儘ならないものだ。

そんな事をああだこうだ考えているうちに、私はギルドの前に到着していた。

……やれやれ。詮無いことを考えていても、埒はあきませんね。

私はひとつため息を吐いてから、ギルドの扉を開けた。

 

 

 

 

 

ギルドの中は大変に盛り上がっていた。それはそうだろう。魔王軍の幹部を倒したのだから、参加した冒険者には報奨金も出ただろうし、何より安心感も手伝って、飲み食いにお金を使い込んでしまうのも頷ける話だ。

そして私の目の前にも、そんな人物がひとり。

 

「あら、来たわねメグミ。これで後は、カズマだけね」

 

上機嫌で語りかけてきたアクア様だ。アルコールに弱い私は挨拶もそこそこに、めぐみんとダクネスさんの元に駆け寄る。まあ、ダクネスさんもお酒は飲んでいるが、アクア様とは違い節度を守っているので、それほど気にはならない。……少しはお酒臭いけど。

 

「来たな、メグミ」

「メグミ、聞いてください! ダクネスが、私にはお酒は早いと…」

「いえ、私も早いと思います」

 

即座にツッコむ私。というか、アクア様からこっそり聞いた話によれば、私とめぐみんは異世界の同位存在ではないかと言う。異世界でも低確率ながら、自分に相当する人物がいるのだとか。

もしもそれが本当ならば、めぐみんの体質も私と同じ可能性が高いので、当然アルコールに弱いはず。そんな人物に「はいどうぞ」等と、言えるわけがないのだ。

 

「むうう、メグミまで! 仕方がありません。こうなったらカズマに…」

「それも難しいと思いますよ? 私や和真さんが住んでいた国では、お酒は二十歳(ハタチ)を過ぎるまで飲んではいけないことになってますから。二十歳とは言わないまでも、もう少し生長してから、とは感じますね」

 

まあ、破る人もいますが、と私は心の中で呟いた。

因みに、私の場合は小学生の頃、チョイ悪の叔父にお酒を飲まされて発覚したのだが、どうやらすぐに酔いが回る上に酒癖が悪く、気に入ったものに抱きついて離れないのだとか。私は覚えていないが、家族ぐるみでの付き合いのあったロゼが被害に遭っていたそうだ。

 

「くうう…。で、ですが、一縷の望みに私は賭けます!」

 

まあ、私と同じことを言うか、無視されるのがオチだと思いますが。

そんな話をしていると、(くだん)の和真さんがやって来た。最初にアクア様と軽く話をし、こちらに近づいてくる。

 

「待ってましたよ、カズマ。聞いてください! ダクネスとメグミが、私にはお酒は早いと、ドケチなことを言うのですよ!」

 

いや、私はケチで言ったわけではないのだけど? ダクネスさんもめぐみんの言い様に、さすがに物言いを申したてている。

そんな様子を横目に見ながら、和真さんは受付のお姉さん…、ルナさんの前に向かっていく。どうやら無視する方に決めた様だ。

私も和真さんの横に並ぶと、めぐみんとダクネスさんも慌ててこちらに来た。

 

「……サトウカズマさん、ですね? その…、お待ちしておりました…」

 

……? どうしたのだろう。何だか歯切れが悪いですね?

 

「あの…、まずはそちらのお三方に報酬です」

 

そう言って私とめぐみん、ダクネスさんにそれぞれ、報奨金の入った小袋を手渡す。……和真さんの分は?

 

「それで、ですね。カズマさんのパーティーには、特別報酬が出ています」

 

……なん、だと?

 

「え? なんで俺達だけが?」

「おいおいMVP! お前らのお陰でデュラハンを倒せたんだからな!」

 

和真さんの疑問に、冒険者のひとりが囃し立てるように言った。その言葉に和真さんは、感動しているようだ。斯く言う私も、凄く嬉しくてこそばゆいくらいである。

 

「えー、サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを倒した功績を称えて、(きん)三億エリスを与えます」

「「「「「さっ!?」」」」」

 

私達は絶句してしまった。いや、魔王軍の幹部ですし、懸けられていた報酬額が高いのはわかりますが、まさか三億とは…。

衝撃が収まり、冒険者達から奢れコールが響く中。

 

「おい、お前らに言っておくことがある。俺は今後、冒険の回数が著しく減ると思う。大金が手に入ったからには、のんびりと安全に暮らしたいからな」

 

ああ、やっぱり! ……いや、むしろ、冒険者を辞めると言わないだけマシだろうか?

ダクネスさんとめぐみんが文句を言う中、私はどうしようかと思案に暮れながらルナさんをちらりと見て。

……なんだろうか。物凄く申し訳なさそうな表情を浮かべているのだけど?

 

「あの、これを…」

 

そう言いながら和真さんに手渡す、一枚の紙切れ。小切手、……にしては、ルナさんの表情が大変気になる。

 

「ええと、ですね? 今回アクアさんが召喚した大量の水により、街の入り口付近の家々が大変な洪水被害に遭われまして…。魔王軍幹部を討伐した功績もあるので全額とは言わないが、一部だけでもいいから弁償してくれ、と……」

 

それだけ伝えた後、ルナさんは視線を逸らすと、逃げる様にカウンターの奥へと姿を消した。……いや、訂正しよう。明らかに逃げた!

私と一緒に和真さんが手にした紙を覗き込んだめぐみんが逃げようとして、私がマントを引っ掴み。

次に逃げようとしたアクア様の襟首を、和真さんが引っ掴む。

 

「報酬三億…。そして弁償の額が三億四千万か。カズマ。明日は金になる、強敵相手のクエストを受けよう」

 

ダクネスさんは、それはそれは素晴らしい笑顔を浮かべ言った。そして私も。

 

「和真さん。どうやらこの世界は、優しくはないみたいですよ?」

「……リアルはクソゲーだっ!」

 

和真さんは、昨日の私と同じセリフを叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

……しかし、どうにも腑に落ちない。

この世界の冒険者は、モンスターを狩り生計を立てているが、収入は明らかに不安定である。ただし国のために一役買っていることもあってか、税金の一部を免除されてもいた。

そんな国が、私達に借金を背負わせるだろうか? もちろん、こちらに全責任があるのならわかる。また、復興資金が多額故に高額報酬全てを差し押さえるのも、まあ、わからないではない。だが、()()()()()()がわからないのだ。

財政のひっ迫した国ならば別としても、この街を内包するベルゼルグ王国にそうした噂は聞かないし、それならば四千万は、威信を保つためにも自腹を切るはずである。

そもそも。街の修繕ならば、その地域を治める領主の仕事であるわけだが、それならそれで今回の場合、国から費用の一部が出ないかを打診するものである。

しかし今回の通達、昨日の今日の話だ。いくらなんでも、国からの返答を聞いてからにしては早過ぎる。王や財政を仕切る官僚が余程無能でも無い限り、現地での情報を集め、状況を精査して返答するはずだからだ。

果たしてこの街では、きちんと国の政策が機能しているのだろうか。

いや、そもそも。ここの領主は、まともな人物なのだろうか。

……何だかイヤな予感がする。私は一抹の不安を感じるのだった。




最後が少し不穏な感じですが、第1章終了です。
第2章開始までは、しばらく休ませてもらいます(いい加減他の作品も進めないといけないので)。
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