風邪をひきました。
いきなり何を、という感じだが、それが今の私の現状である。
雪精討伐の後、ギルドへ戻った私達は(因みにお腹は、マントの切れ端で縛って隠した)、ギルドの食堂で夕食を食べてから別れたのだが、今考えるとあの時から何となく調子が悪かった。血液不足で抵抗力が下がり感染しやすかったものの、同じく血液不足で体が怠かった為に気づくのが遅れたのだろう。
そして数日が経った今日、簡単な仕事が出来るくらいに回復した和真さんとアクア様が様子を見に来たのだが。
「まさか風邪をひいてるとは」
「まだ熱もあるみたいだし、クエストは無理そうね。……気休め程度だけど、回復魔法かけておく?」
気が弱くなってるのか、この程度の優しい言葉でも凄く嬉しく感じている。
「いえ。熱も下がり始めてますし、二、三日もすれば完全回復します。症状も幸い、熱と怠さ、後は軽い咳だけですので、お心遣いだけ頂いておきます」
心情はそれとして、アクア様の手を煩わせるほどの症状でないのは本当のことである。逆を言えば、喉の痛みや吐き気、酷い咳などがあったら素直に縋っていただろう。
「そう?」
「しかしそうなると、クエストはどうするか…」
「私の事は気にしないでください。和真さんは色々と物入りなんですから」
和真さんが背負った借金は、まだまだ残されているのだから。
「そ、そうか? すまないな」
和真さんは右手で拝むポーズをとり謝った。別に気にすることなどないのに。
「それじゃあ、俺達は行くから」
「治りかけが大事なんだから、大人しくしてるのよ?」
「はい。お二人も気をつけて」
そう声をかけ、二人を見送るのだった。
暇だ。回復傾向にあるので、寝ていることにすっかり飽きてしまった。こんな事なら本の二、三冊でも買っておけばよかった。何だか日本人転生者が書いた様な、ラノベっぽい本があったので気にはかかってたのだが…。
そんな事を考えていると。
コンコン
と扉を叩く音が聞こえた。
「……ええと、どちら様でしょうか?」
「……御剣響夜だよ」
…………は?
「な、何故あなたが!?」
「サトウ君から聞いて、お見舞いに来たんだ」
な、何だか、予想だにしない展開なのだが。とはいえ、いくら嫌っている相手だろうと、わざわざお見舞いに来てくれたのを追い返すほど腐ってはいない。
「鍵はかかっていないのでどうぞ」
「失礼するよ」
そう断って入ってきた彼は、手に数冊の本を携えていた。
「これはお見舞いだよ」
そう言って手渡してきた本は、私が気にしていたあの本である。
「どうしてこれを…?」
「サトウ君にお見舞いは何がいいか聞いたら、この本を気にしてたって教えてくれてね」
和真さん、気づいてたのか。それにしても、和真さんが文句を言いながらも教えてる場面が目に浮かび、自然笑いが込み上げてくる。
「……めぐみちゃん?」
「何でもありません。後、十二月には私は十四歳です。こちらでは結婚できる年になります。なので出来れば、子供扱いはやめて欲しいのですが」
「あ、すまな…ん?」
「? どうかしましたか?」
「いや…、君の友人が告白したのって、一年半くらい前だよね?」
は? この男は何を言っているのだろう。
「ロゼがあなたに告白したのは、半年ほど前ですよ? ついでに言えば、あなたが死んだと聞いたのは四カ月近く前、私が死ぬ直前で数えると、ひと月ちょっと前です」
「それは…。僕がこちらに来てから一年以上経ってるんだけど…」
なん、だと!?
「……もしかして、向こうとこちらとでは時間の流れが違うとか?」
「そんな事、あり得るのか?」
「判りませんが…。今度アクア様に聞いておきます」
「ああ、頼むよ」
ううむ。御剣のお見舞いから、この様な話になるとは。
「……と、僕の用事はお見舞いだけじゃなかった」
「なんですか。まだ何かあるのですか?」
この男、この期に及んで変なことを言い出すのでは?
「ええと…。めぐみ、すまなかった!」
「……え?」
「君に言うのは筋違いなのは判ってる。でも、君の友達に謝ることは出来ないから、せめて君にだけでもと思って…!」
この男は…。
「やれやれです」
「え、何か気に障ることでも言ったかい?」
「いえ…、あなたに対して失礼なことを考えてしまった、私自身にです」
そうだ。この男は、基本的には善人なのだ。ナルシストで人の話を聞かない自己中なところがあるけど、それでも、である。
「そう、ですね。私は、簡単にあなたを許せるほど心が広い人間ではありません。ですが、悪い人間じゃないのもわかってます。それに反省しているのも、この間ダクネスさんから、すでに聞いて知っています。
なので今後の動向を見てからになりますが、私はあなたを許せる様に努力する。……これでは駄目ですか?」
「……いや、構わないよ。それだけあの子のことを大事に思ってたんだね」
う。まさかこの男に見透かされるとは。いや、いけない。どうしても御剣を軽く見てしまう様だ。それに、私も言わなければいけないことがあった。
「……ええと、それとは別に、先日はいきなり叩いてしまい、すみませんでした」
「え?」
「あなたに言った言葉を覆す気はありませんが、叩いたことはまた別の問題ですから」
風邪で寝込んでた数日の間は、反省会に充ててたのだ。当然冬将軍とのやり取りだけではなく、こちらに来てからの色々なやらかしを、である。それで、まあ、御剣に謝罪していないことに気づいたというわけだ。
「いや、こちらも悪かったから…」
「言ったでしょう。それとは別の問題です。あれは、私が感情のままに行ったものです。そんなのは、ただの暴力と変わりませんから」
……普段ビシバシ叩いてるのも暴力だが、意味合いはだいぶ違うと思う。やられる側からすれば、どちらも同じかも知れませんが。
「……わかったよ。それじゃあ、君の謝罪を素直に受け入れればいいんだね?」
「はい。それでお願いします」
ふう…。ようやく胸の
その後すぐに、御剣は部屋を後にした。どうやら彼も、それくらいは空気を読めた様だ。
その日一日は小説を読んで過ごしていた。食事は理由を話し、部屋に持ってきて貰える様宿の方に頼んであるので、部屋を出ずに過ごしていた。気分は引きニートだ。
しかしこの小説、内容がまた…。
── ある少女が記憶を失って、部屋の一室で目を覚ます。扉を開けると、そこは科学文明が発達した世界だった。
少女はクリーチャーに襲われている女の子に出会う。彼女を助けようとすると、少女はパイロキネシスを発動させてクリーチャーを倒してしまった。
うん。ここまで読んで、やはりこれは転生者が書いたものだと理解した。この内容、【MAZE爆熱時空】のパクリである。現代日本とファンタジー世界を入れ替えてるだけだ。いや、日本?の描写はもう少し未来のSF調ではあるが。
とはいえ、この手のものに飢え始めていた私は、日が暮れても読み続け…。いつの間にか寝落ちしていた。
「…………みん」
……ううん?
「めぐみん、授業終わったよ」
「あ、ロゼ…って、授業終わった!?」
目を覚ました私は驚いて周りを見ると、既にクラスメイトの人数は減り、残っている者もお喋りをしているか、帰り支度をしている者達ばかりである。
「これは、やってしまいました…」
自分で言うのもなんだが、これでも授業態度はいいのに…。
「ほんと、めぐみんにしては珍しいよね?」
「昨日は、頼まれていた応援コスプレの精度を上げるために色々と準備をしていて、寝るのが遅くなったのです」
私のオタクで中二病な事がクラスメイトにばれ、友人のひとりが、所属しているバレー部の先輩に話してしまった事が原因である。とはいえ断る理由も無く、やるからには徹底的に、だ。
「……もしかして、わざわざ冬服で登校したのも、それと関係があるの?」
衣更えが終わりしばらく経った今日、私は冬服で登校した。そしてその理由は、まさにロゼの推測通り。
「はい。うちの冬服は、某ラノベに出てきた制服によく似てるので、そのまま流用できます。なので後ほど、ウィッグを付けたコスプレ姿の出来を確認して貰おうと思ったのですよ」
「でも、わざわざ着てこなくても…」
「何言ってるのですか。荷物はなるべく少ない方がいいに決まってるでしょう?」
私のこの意見に、ロゼは呆れてため息を吐いた。納得いかない。
「ともかく。今日は剣道部が休みなので、バレー部の用事が済んだら先に帰らせてもらいます」
「あ、そうなんだ…。うん、わかった」
少し寂しそうに頷くロゼ。全く、慕ってくれるのは嬉しいですが、ちょっと私への依存度が高いですね。この子の将来が少し心配ですよ。
バレー部での評判は微妙であった。オタクな部員は称賛しつつも、マニアックでわかりにくいと言っていた。ううむ、確かにアニメには未登場のキャラだが、ここまで浸透してないとは思わなかった。
という訳で、ヒロインの方に軌道修正することになったのだが。やはりヒロインは、あちらの制服のイメージなのだ。こちらの制服は、劇場版かスピンオフ作品の印象が強い。
そんな事を考えながら帰路についていると。
どばぁん!
水に何かが落ちた様な音が聞こえ。
「子供が川に落ちたぞ!」
という声が…って!
状況を把握した私は、川に向かって走り出す。到着すると中年の男性がオロオロとし、小学校中学年くらいの男の子がわめき散らしている。視線を移した先の川面では、男の子と同い年くらいの女の子がパニックになって暴れていた。
私はオロオロしてるだけの中年男性に食ってかかる。
「あなたは、何をしているのですか!?」
「オ、オレ、泳げなくて…」
……く。周りには
私は鞄を放り出し、川へと飛び込んだ。少しだけ遠回りをし、女の子の背後から左腕を通して抱え込む。急に体が安定して安心したのか、はたまた驚きのあまりか、女の子は暴れるのをやめ、ぐったりとしている。
私はそのまま岸まで泳いでゆき、呆然としていた中年男性に声をかけて女の子を託す。男性は四苦八苦しながらも、何とか岸に上げることに成功した。
安心した私は岸に手をかけようとし。突然右足に痛みが奔り、引き痙って動かすことが儘ならなくなる。
「あ…」
小さく声をあげたところで体は沈み…。
「うわあああっ!」
自分があげた悲鳴で目が覚める。
「うひゃあっ!?」
それに驚いたのか、別の悲鳴が…って。
「え、リーンさん?」
そう。そこには、両手で掛け布団の
「どうしてここに。それにまだ、夜中ですよ?」
窓の外は暗く、まだ持続時間が残っている「
「あ、カズマからメグミの事聞いて、様子を見に来たの。起こす気は無かったんだけど、布団がずれてたから直そうとして…」
「そういう事でしたか。……というか、和真さんの事は知っていたのですか?」
パーティーメンバーの話をしたことはあるが、私の知る限りでは顔合わせしたことはなかったはず。
「ああ、うん。今日、……もう昨日か。ダストがカズマに難癖つけたのが発端で、カズマがあたし達のパーティーと、ダストがアクアさん達とクエスト承けることになったのよ」
「全く、あのクズは…」
そう呟くと、リーンさんが苦笑いを浮かべる。まあ、あのメンバー相手では
「それよりメグミ、イヤな夢でも見たの? うなされてはなかったけど、随分と大きな悲鳴だったよ?」
「あ、いえ…」
少し言い淀むものの、私は口を開く。
「昔の夢を見たのですよ。ここに来る前なのですが、川で溺れている女の子を助けまして。他の方の手を借り、無事に岸へ上げることが出来たのですが、直後に足が痙り、私が溺れる羽目になったのです。幸い、今はこうしていますが…」
おそらく御剣に会って話をしたことと、ラノベもどきを読んだせいで、向こうでの記憶が呼び起こされてしまったんだろう。
「それは、そんなの夢でも見たら悲鳴上げちゃうよね」
私は軽く頷く。あの、溺れたときの息苦しさや恐怖まで蘇ってくる。
「……ま、少しの間なら話し相手になってあげるよ? そんな夢を見た後って、すぐには寝付けないもんね」
「……ありがとうございます、リーンさん」
私はこのお人好しな先輩魔法使いに、深く感謝をした。
忘れてる方もいるかも知れませんが、親友が呼んでいためぐみの愛称はめぐみんです。
パーティー取っ替えは、リーンにめぐみの事を話した以外は原作と全く同じなので、バッサリとカットです。
……なんだがリーンが、めぐみの癒やし枠になってる気がする。