この中二病少女に祝福を!   作:猿野ただすみ

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この中二病少女と何でもない一日を!

「完・全・復・活! です!」

 

ギルドの酒場で、いにしえのレスラーの様に両拳をそれぞれの脇腹に添えて、ポーズをとる私。

 

「おう、おめでとう…ってそれ、学校の制服じゃねえか!」

 

テーブルに座っていた和真さんが、振り向きながら応え、そして突っ込みを入れる。

 

「ええ。冒険用の服は先日の破れた物と、まだ洗っていない一着だけなので、とりあえずこちらへ来た時の服を着てきました。後ほど杖と一緒に新調します」

 

実は使っていたワンドは、冬将軍の斬擊を受け止めた際に(ひしゃ)げてしまい、泣く泣く廃棄したのだ。まあ、魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)をかけていたとはいえ、あれを防げたのだから御の字だろう。……その後やられたけど。

 

「……なんかその制服、見たことあるデザインなんだが?」

「ああ、気がつきましたか。私が通っていた学校の、女子の制服は、光陽園学院の制服によく似ているのですよ」

 

光陽園学院。ラノベ【涼宮ハルヒの消失】で登場した学校である。その時のハルヒは、何故か北高には居らず、光陽園学院に通っていたわけだが。

 

「……何だかめぐみの事だから、光陽園ハルヒのコスプレしてそうだな」

「……私が中二病なのは認めますが、コスプレイヤーではありませんよ。まあ、頼まれてやりましたけど」

「やったのかよ!」

 

素早く突っ込む和真さん。私もツッコミ要員だが、さすがに和真さんには一歩劣る。……手は早いが。

 

「ただし、ハルヒではなく周防九曜の方ですが」

「そりゃまたマニアックだな。だが、確かにそっちの方が似合いそうだ」

「おお、わかってくれますか! みんなからは微妙な評価しか得られなかったので、溜飲が下がる思いですよ!」

「お、おう、そうか…」

 

……いけない。また熱が入ってしまった様だ。

 

「何やら騒がしくしてますね。……って、メグミのその衣装、久しぶりですね」

「ほう。変わった衣装だな」

 

遅れてやって来ためぐみんとダクネスさんに声をかけられる。そういえば初めてめぐみん、そしてゆんゆんと会ったときもこの衣装でした。

 

「着てくる服が無かったので、昔の衣装で来たのです。この後衣装と杖も新調するのですが…」

 

そこまで言ってから和真さんへと向き。

 

「今日はクエストに行くのですか?」

 

そう訊ねると、向かいの席に座っていたアクア様が代わりに答えた。

 

「本格的なクエストは、後一日か二日は様子見た方がいいかしらね。……というか、怪我の具合はメグミの方が酷かったのよ? その上で風邪をひいてたんだから、せめて後一日は待ちなさい」

 

おっと、自分の方が釘を刺されてしまった。

 

「……それでは、魔法の実験は?」

「そうね。無茶しない程度ならいいわよ。その代わり調子を崩したときのために、必ず誰かについて来てもらいなさいよ?」

 

……何だかアクア様が、物凄く真っ当なことを言っておられる。

 

「お前、まともなことも言えるんだな」

「私の事なんだと思ってるのよ!」

「駄女神」

「駄女神言うなーっ!!」

 

また始まった。

 

「夫婦漫才を始めた二人は置いておくとして…」

「「夫婦漫才じゃないからっ!!」」

 

息の合った鋭い突っ込み、ありがとうございます。

 

「買い物が終わったその足で魔法の実験に行こうと思うのですが、お二人にもついてきて貰いたいのです。めぐみんには帰りに、爆裂散歩を兼ねて貰うということで」

 

めぐみん、ダクネスさんへ向き直り誘ってみる。

 

「私は構いませんが…」

「私も構わんが、何故カズマとアクアを誘わないのだ?」

 

ダクネスさんの疑問ももっともである。

 

「私と和真さんは大立ち回りが禁止されてますから、そんなのが二人いても負担が増えるだけです。なので和真さんは、アクア様に面倒を見てもらうことにします」

「いや、こんなのに面倒見てもらっても…」

「こんなのとは何よっ!」

 

またもや騒がしいお二人には無視を決め込む。

 

「なるほど。しかし、もしメグミが調子を崩したら、私ひとりでメグミとめぐみんを世話するのは、さすがにキツいものがあるぞ」

 

ふむ。確かにそれはいえた。

 

「わかりました。それではもうひとり誘ってみて、都合がついたら、という事にしましょう」

 

そう言うと私は、テイラーさんのパーティーへと向かってゆく。

 

「リーンさん。すみませんが、パーティーの用事が無ければ、いつものお願いできますか?」

「あ、メグミ。よかった。風邪、治ったんだね。うん、いつものね? あたしは別に構わないわよ」

 

幸いにもリーンさんには用事は無かったようだ。これで…。

 

「おい。金払ってくれるなら、俺も護衛に着いてってやるぜ?」

「ちょっと、ダスト…」

 

……やれやれ。ホントにこの男は。

 

「……めぐみんとダクネスさんが一緒でも構わないのでしたら」

「おっと、よく考えたら、この後用事があったんだ! いやー、すまねえな!」

 

……自分で振っといてなんですが、めぐみん達、何をやらかしたのだろうか。

 

 

 

 

 

冒険者向けの服屋にて。

 

「ねー、メグミにはホットパンツを合わせたこんなのが似合うんじゃない?」

「いや、この可愛らしい衣装の方がよく合うと思うぞ」

「いえ、こちらの黒を基調としたカッコイイ服が似合いますよ!」

「私を着せ替え人形にするのは止めてください! もう止め、や、やめろおおおおっ!!」

 

……つ、疲れた。で、結局いつもの服を買いました。

 

 

 

 

 

服を着替え、着ていた服は手提げ袋へ入れ、続いて武器屋へ直行。ここでは打って変わって。

 

「メグミにはこれね」

「……だな」

「……ですね」

 

三人一致で渡されたのは、長さ1メートルほどの、飾り気の少ない軽量の金属製ロッド。先端に小さめの魔石が嵌められている以外は、ほぼ同じ太さの棒である。軽いのは木材を芯にして、周りを金属で覆った構造なのだろう。

 

「……三人は、どうしてこれを?」

 

私が疑問に思い訊ねると。

 

「だって」

「叩くのに便利だろう?」

「メグミはいつも、誰かを叩いてますから」

 

……そうか。私はそういう風に思われていたのか。

 

「……そうですね。それではこの場で、試し斬りならぬ試し打ちでもしてみる事にしましょうか」

「「「はっ!?」」」

 

即座に二人の顔色が青くなり、ひとりが紅潮させた。

 

「……冗談ですよ。さすがに意味もなく他人(ひと)を叩いたりはしません」

 

そう言葉を続けると、二人は安堵し、ひとりはさも残念そうな表情を作る。

 

「とはいえ、確かに便利そうではありますね。……よし、決めました。このロッドにします!」

 

こうして私の杖は、ワンドからロッドに昇格(?)したのだった。

 

 

 

 

 

「さて、到着です」

 

初めて来ためぐみんとダクネスさんに、説明の意味を兼ねて言った。小さな森の開けた所、的に丁度良い大きな岩がある。

 

「メグミはいつも、ここで魔法の特訓や実験をしてるのか」

「この岩なんて、まさにおあつらえ向きの的…って、ちょっと待ってください!」

 

ん? どうかしたのだろうか。

 

「この岩、微量ですが、アダマンタイトと天然のマナタイトが含まれてますよ!?」

「えっ、そうなの!?」

 

めぐみんの説明に驚くリーンさん。ええと、確かアダマンタイトは極めて硬度の高い鉱物で、マナタイトは魔力を蓄えた鉱物結晶だったはず。なるほど。

 

「どうりで、いろんな魔法をぶち込んでもヒビひとつ入らなかったわけです」

「いや、気づいてくださいよ!」

「そうは言われても…。魔法の勉強はリーンさんから借りたノートだけなので、魔法物質の実物なんてわかりませんよ。マナタイトも、めぐみんの杖に混ぜ込まれたものくらいしか触れる機会はありませんでしたから」

 

こればかりは、詰め込み知識では如何ともし難いことである。

 

「魔法学校出てるのに気づかなかった、あたしの立場って…」

 

あ、リーンさんが落ち込んでいる。ううむ、それは…、もっと頑張りましょうって事で。

 

「……さて、それでは実験を始めましょう。まずは…」

 

私が呪文を唱えると、雷雲が発生する。ラナリオン…ではなく、コントロール・オブ・ウェザーという呪文である。もちろんこんな事をするという事は。

私は、人差し指を立てた状態で腕を突き上げ。

 

「『雷撃呪文(ライデイン)』ッ!」

 

目標を指差す様に振り下ろし、呪文を唱えると、一条の雷が岩に直撃する。

 

「……要はライトニング・ストライクではないですか」

 

……まあ、その通りではある。だが本番はこれからだ。

 

「みんな、私の傍に集まってください」

 

そう言って私の傍に寄せる。一応コントロールは出来るはずだが、念のためだ。

 

「いきますよ。『雷撃呪文(ギガデイン)』ッ!」

 

同じ動作で呪文を発動させると、ライトニング・ストライクと同レベルの雷が複数降り注ぐ。これは【ダイ大】ではなく、ゲーム版のギガデインである。さすがにこれにはめぐみんも、二の句が継げない様だ。

 

「更に『雷撃呪文(ギガデイン)』ッ!」

 

次に放ったのはアレンジで、数条分の雷撃をひとつにまとめたもの。そう。【ダイ大】で龍騎将バランが、ギガブレイク発動の為に自身の剣に落としていた、あのバージョンである。

 

「フフフ…。マトリフ師匠やポップ兄さんでも為し得ない、勇者専用呪文を再現しました」

「勇者専用…。もしかしてメグミは、勇者候補のひとりなのか?」

「勇者候補?」

 

それは一体…?

 

「こことは違う地からやって来た、特殊な武器や能力を持っている者達だ。その多くは黒い髪に黒い瞳で、変わった名前だということだが…」

 

つまり転生者達のことか。

 

「そうですね。そういう意味では、私も勇者候補なのでしょうね。そんな自覚はありませんが」

 

そもそも私の場合、憧れているのは勇者ダイではなく、大魔道士のポップ兄さんなのだ。確かに、アクア様から頼まれた魔王討伐は視野に入れてはいるが、だからといって、勇者である事にこだわる気などない。

 

「……待ってください。という事は、メグミと同郷であるカズマも勇者候補なのですか?」

「言われてみれば…。いやしかし、名前はともかく、カズマに特殊な武器や能力など無い様に思うのだが」

 

めぐみんもダクネスさんも、なかなか鋭いところがある。

 

「……確かに和真さんも勇者候補と言えますが、あの人はある種特殊な方ですから。和真さん個人に、そういった武器や能力はありませんよ。

あと、彼を勇者候補として扱うのは、やめた方がいいと思いますよ。よくアクア様の事をどうこう言ってますが、彼自身も結構つけ上がるタイプだと思いますから」

「ああ…」

「その通りですね」

 

私の説明に激しく同意をする二人。一方。

 

「……メグミが勇者候補だったなんて」

「よしてください、リーンさん。私は勇者と呼ばれるほど立派な人物ではありませんから。それに私が目指す大魔道士は、勇者と共にある者。私自身が勇者になりたいわけではありません」

 

……と、気が引けた感じのリーンさんに、つい本音をぶちまけてしまった。

確かに私は、魔王討伐を目指してはいる。しかし魔王を倒す役目は、私でなくてもいいとも思っているのだ。それこそ、勇者である誰かのサポートが出来れば充分なのである。

まあ、アクア様が言っていた討伐の褒美には心引かれるが、今はそれほどこだわっていない。それだけ、この世界で充実した生活を送っている証拠だ。

 

「私はリーンさんの後輩の魔法使い、高橋めぐみ。それ以上でも以下でもありません」

「……うん、わかった。そうだよね。メグミはメグミだもんね」

 

よかった。私だって褒められれば嬉しいが、フィルター越しに見られるのは、やっぱり嬉しくはないのだ。

 

「……さて、少し脱線しましたが、実験の続きをしましょうか」

 

 

 

 

 

その後幾つかの再現魔法を試した後、念のため少し休憩を挟んでから、めぐみんの爆裂ポイントへと移動する。

当然ながら、特訓場所での爆裂魔法はご遠慮いただいた。たとえアダマンタイトとマナタイトが含まれた岩だろうとも、さすがに爆裂魔法には耐えられないだろうし、そもそも地形が変わって私の特訓に支障が出る。というか、私が疑われる。

 

「今日は久しぶりに、あの古城がターゲットです」

 

そう言ってめぐみんが指し示す先には、遠く離れた丘の上に、かなり崩壊している城があった。

 

「あれが一時期、ベルディアが占拠していた古城ですか」

「はい。その後の爆裂散歩でかなり瓦解したので、最近ではたまにしか撃ち込んでませんが」

 

そう言ってから、めぐみんは魔力を練り始め。

 

「闇より生まれし赤き焔よ

我が意に応え顕現し

我が意に従い力を示せ

我が名はめぐみん

その力を従える者なり

汝、爆焔となりて敵を討て!」

 

例によってアレンジした呪文を唱えるめぐみん。そして。

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!」

 

彼女が放った魔法が見事、城を中心として爆炎をあげた。

 

「……ふう。気持ちいい…です」

 

そう言って倒れ込むめぐみん。

 

「あたし、直接見るのは初めてだけど、ホントに凄い魔法だね」

「どうですか。リーンも爆裂道を目指してみては」

「いや、ウィザード程度じゃさすがに無理よ。クラスアップ出来たとしても、あたしじゃ爆裂魔法放てるほどの魔力上昇は見込めないし」

 

うむ。残念ながらリーンさんは、普通レベルの魔法使いである。というか、かなりの資質があるか魔力補助でも無い限り、爆裂魔法を撃つ事なんてまず出来ない。

 

「……まあ、将来スキルポイントとお金に余裕が出来たら、覚えることもあるかもね」

 

なるほど。マナタイト頼りという事か。だがしかし。

 

「ダストさんと縁を切らなければ、無理な気がします」

「う…、そうなんだけど、なんかほっとけないのよ」

 

……? どうしてあのクズの事になると、優柔不断な態度になるのだろう。……まさか、ね?

 

「さあ、めぐみんの用事も済んだし、帰るとしようか」

 

そう言ってダクネスさんは屈み、めぐみんを抱き起こして背中に負う。

 

「……感謝はしてますが、ダクネスの背中は硬くて据わりが悪いです」

「こ、こら、めぐみん! それでは私の体が硬いみたいではないか! ちゃんと、身に纏った鎧が硬いと言ってくれ!」

 

いや、本当に硬い気がするのだが。とはいえ、こういう所にこだわる辺りはやっぱり女性だと思う。

 

「では行きましょうか」

「メグミも無視しないでくれ! いや、でもこの疎外感もなかなか…」

 

変態は無視するとして。

こうして私の、何でもない一日は過ぎていくのだった。

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